第115話 志向する権利
アメリカ側の分析チームは、提供されたエテリム鋼材のサンプルについて、大統領への報告をまとめていた。
「大統領。これは、チタン以上の性質を持っています。特に、ステルス機能の面で……日本では、これでフレームを作る計画があると聞いています。チタンと同様、莫大なコストがかかるとは思いますが」
「いずれにしても、チタンより安く手に入るなら、検討する価値は大いにある」
大統領は、資料に目を落としたまま、続けた。
「言い値の半額にするには——もっと材料、つまり機密情報が、必要か」
その一言に、部屋の空気が、わずかに張り詰めた。
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鷲尾は、捜査資料を見つめながら、思考を巡らせていた。
捜査は、着実に進展している。だが、沢田本人までは、まだ、ほど遠い。
野党の、脇の甘い議員であれば、今すぐにでも検挙できる。沢田を後に回しても、逮捕自体は可能だろう。
だが——先に手を出せば、かえって警戒され、証拠隠滅を招きかねない。
容疑が固まるまで、待つ。鷲尾は、その判断を、静かに固めていた。
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大野は、その後、頻繁に拓也の元へ顔を出すようになっていた。
ある日、大野は、エレーナの手書きの「スクリーニング」を、専用のAI翻訳にかけ、その観察眼の的確さに、改めて舌を巻いていた。
「異世界の本、読んでみたいな」
ふと思いついたように、大野は、拓也にそう提案した。
拓也は、早速、緒方に連絡を入れた。
「大野さんから、提案がありまして……」
緒方の元に、王国側で手に入る本が転送され、スキャンして翻訳にかけられることになった。翻訳作業は、単なる直訳にとどまらず、昔の物語を、現代人がより親しみやすいよう、ストーリーに少し手を加える——翻案の作業も、並行して始まっていた。
仕事量は、目に見えて増えていた。それでも、社内が活気づいていく様子を、大野は、嬉しく思っていた。
日本の本が、アメリカに比べて売れなくなっている——それは、社内でも、長らく共有されてきた寂しい現実だった。異世界という、新しい市場の存在は、その閉塞感に、小さな風穴を開けつつあった。
なお、この翻訳精度を支えているAI翻訳は、かねてより拓也の元に出入りしていた言語学者が、監修を務めていた。
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大野からの「スクリーニング」依頼は、コンスタントに続いていた。
それと並行して、グレーカレコ王国側の本を貸し出す作業も、新たに始まっていた。貸し出すリストを作成し、数日後に返却対応を行う——その繰り返しが、日々の業務に組み込まれていく。
仕事量の増加を見越し、エレーナは、作業を手伝う人手を増やすことを決めた。
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大野は、送る本の中に、マンガも大量に含めていた。緒方からの指定もあり、続き物のマンガ、ファッション誌、ドレス関連の雑誌、ゴスロリ系の雑誌なども選ばれている。どうやら、向こうの勇者パーティーからの要望らしかった。
そんな中、大野は、少しばかりのいたずら心を出していた。
異世界のお約束——同人誌、いわゆる薄い本を、こっそり紛れ込ませたのだ。異世界BL、異世界パロディ——選りすぐりの一冊だった。
パロディの中身も、なかなかに徹底していた。勇者が魔王を倒した後、なぜか魔王城でスローライフを始めてしまう話。聖女とお付きの騎士が、任務そっちのけで甘い雰囲気になっていく話。テンプレートを大真面目になぞりながら、随所で笑いを取りにいく、といった構成だった。
果たして、向こうで、どう受け取られるか——大野は、内心、少し不安でもあり、悪戯が成功した時のような、期待も抱いていた。
結果は、合格。
裏面には、簡潔に、こう記されていた。
「少数の嗜好にも、必要なものです」
大野は、その一文を見て、思わず、声を上げて笑った。
「まさか、大真面目に評価してもらえるとはな……」
紛れ込ませた側としては、少々、拍子抜けする結果でもあった。




