第108話 唯一の光
防衛省での一件は、その日のうちに、官邸へも伝えられていた。
倉持が、鷲尾に、沢田の動きについて改めて報告する。
「先日、沢田先生が、防衛省に対して、ステルス機の見学を求めてきました。総理案件であることを理由に、お断りしております」
「……そうか。奴が、そこまで首を突っ込んでくるとはな」
鷲尾は、報告書に目を落としたまま、しばらく黙り込んだ。
「今後、別の形で、接触してくる可能性はあるか」
「十分に、考えられます。今回、正面から断られた以上、次は、もっと搦め手で来るかもしれません」
鷲尾は、小さく頷き、警戒を緩めないよう、改めて指示を出した。
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魔石発電機の小型試作器は、グレーカレコ王国での運用を見据え、目立たない暗色系の仕上げに変更された数台が、試験運用に回されることになった。
それと並行して、桐生が手がけていた、魔石のエネルギー量を測る計測器も、ついに完成した。見た目だけでは判別できない魔石のエネルギー量を、正確に数値化できるこの装置は、緒方の元にも届けられた。
これにより、魔石の充填量に応じて選別する——充填事業の準備が、ようやく整った形になる。規定量を正確に充填できた分だけ、対価を支払うという、単純明快な仕事だった。
実は、この計測器については、事前に、オーレス侯爵からも興味を示されていた。
「魔力計測器が完成したら、見せに来い」
その約束通り、緒方は、いくつかの魔石と、計測器を携えて、侯爵の元を訪れた。
「ほう……これは、良いな」
侯爵は、実際に、魔石を計測器にかざしながら、感嘆の声を上げた。
「充填量の基準が、これで統一できる、ということか」
「はい。目分量ではなく、数値で判断できますので、信頼性も、格段に上がるかと」
「面白い。……これを、数個、用意できるか」
「承知しました。後日、お届けいたします」
オーレス侯爵の要求を受け、緒方は、その場を後にした。魔石の充填事業は、これから、確かな一歩を踏み出そうとしていた。
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その数日後、鷲尾は、超党派の議員連盟会長でもある、政敵の沢田と、面会の場を持った。
「総理、防衛省の件では、少々、失礼をしたようですね」
「……あれは、正式な手続きを踏んでいただければ、それで済む話です」
沢田は、笑みを崩さないまま、探るような視線を向けてくる。
「次の選挙、なかなか、厳しい戦いになりそうですな。総理の政策にも、色々と、風当たりが強いようで」
その物言いには、明らかな含みがあった。表向きは、世間話の体を取りながら、裏では、これまでも幾度となく、政策や選挙戦を通じて、足を引っ張ってきた相手だった。
「……ご忠告、ありがたく承っておきます」
鷲尾は、それだけ返し、それ以上の深入りは避けた。政敵としての沢田の存在は、某国側の影とはまた別に、確かな脅威として、これからも付きまとうことになりそうだった。
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神崎隼人は、パーティーの交渉ごとを、ほとんど結城に任せきりだった。異世界好きを公言してはばからない結城とは対照的に、隼人自身は、口数の少ない性格だった。
実のところ、彼は、父親譲りの気質からか、異世界物のノベルやマンガを、人知れず楽しんでいるタイプだった。
その流れが変わったのは、ケインの登場がきっかけだった。
ガラニア国の勇者パーティーを目にした瞬間、隼人の意識は、一気に跳ね上がった。
「……エルフだよ」
夢にまで見た、エルフの姿。異世界に来て良かった——隼人は、心の底から、そう思っていた。
数日後、クロエが、からかうような口調で、話しかけてきた。
「分かりやすい奴だね、お前は」
「え、何が」
「今、シルヴィア呼んでくるから」
クロエは、そう言うが早いか、シルヴィアを連れてきた。
「隼人、言いたいことは、今すぐ言え!」
シルヴィアの前に、隼人が、勢いよく押し出される。
「クソッ……よりによって、こんな場所で言うつもりじゃなかったんだけどな」
隼人は、それでも、覚悟を決めたように、口を開いた。
「だけど、これだけは、言わせてくれ。あんたは、俺にとって、この暗闇の中の、唯一の光だ。理想の女性なんだよ」
「……俺は、初めて、自分の命に代えても守りたいと思える女性に、出会ったんだ」
シルヴィアは、少し驚いたような表情を浮かべた後、静かに答えた。
「私の方が、何倍も年上なのよ。……でも、嬉しい」
「年の差なんて、どうでもいいよ。俺は、ただ、ずっとそばにいたいだけなんだ」
二人の間には、周囲の目など気にならないほどの、二人だけの空気が流れていた。




