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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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108/163

第108話 唯一の光





 防衛省での一件は、その日のうちに、官邸へも伝えられていた。


 倉持が、鷲尾に、沢田の動きについて改めて報告する。


「先日、沢田先生が、防衛省に対して、ステルス機の見学を求めてきました。総理案件であることを理由に、お断りしております」


「……そうか。奴が、そこまで首を突っ込んでくるとはな」


 鷲尾は、報告書に目を落としたまま、しばらく黙り込んだ。


「今後、別の形で、接触してくる可能性はあるか」


「十分に、考えられます。今回、正面から断られた以上、次は、もっと搦め手で来るかもしれません」


 鷲尾は、小さく頷き、警戒を緩めないよう、改めて指示を出した。


―――


 魔石発電機の小型試作器は、グレーカレコ王国での運用を見据え、目立たない暗色系の仕上げに変更された数台が、試験運用に回されることになった。


 それと並行して、桐生が手がけていた、魔石のエネルギー量を測る計測器も、ついに完成した。見た目だけでは判別できない魔石のエネルギー量を、正確に数値化できるこの装置は、緒方の元にも届けられた。


 これにより、魔石の充填量に応じて選別する——充填事業の準備が、ようやく整った形になる。規定量を正確に充填できた分だけ、対価を支払うという、単純明快な仕事だった。


 実は、この計測器については、事前に、オーレス侯爵からも興味を示されていた。


「魔力計測器が完成したら、見せに来い」


 その約束通り、緒方は、いくつかの魔石と、計測器を携えて、侯爵の元を訪れた。


「ほう……これは、良いな」


 侯爵は、実際に、魔石を計測器にかざしながら、感嘆の声を上げた。


「充填量の基準が、これで統一できる、ということか」


「はい。目分量ではなく、数値で判断できますので、信頼性も、格段に上がるかと」


「面白い。……これを、数個、用意できるか」


「承知しました。後日、お届けいたします」


 オーレス侯爵の要求を受け、緒方は、その場を後にした。魔石の充填事業は、これから、確かな一歩を踏み出そうとしていた。


―――


 その数日後、鷲尾は、超党派の議員連盟会長でもある、政敵の沢田と、面会の場を持った。


「総理、防衛省の件では、少々、失礼をしたようですね」


「……あれは、正式な手続きを踏んでいただければ、それで済む話です」


 沢田は、笑みを崩さないまま、探るような視線を向けてくる。


「次の選挙、なかなか、厳しい戦いになりそうですな。総理の政策にも、色々と、風当たりが強いようで」


 その物言いには、明らかな含みがあった。表向きは、世間話の体を取りながら、裏では、これまでも幾度となく、政策や選挙戦を通じて、足を引っ張ってきた相手だった。


「……ご忠告、ありがたく承っておきます」


 鷲尾は、それだけ返し、それ以上の深入りは避けた。政敵としての沢田の存在は、某国側の影とはまた別に、確かな脅威として、これからも付きまとうことになりそうだった。


―――


 神崎隼人は、パーティーの交渉ごとを、ほとんど結城に任せきりだった。異世界好きを公言してはばからない結城とは対照的に、隼人自身は、口数の少ない性格だった。


 実のところ、彼は、父親譲りの気質からか、異世界物のノベルやマンガを、人知れず楽しんでいるタイプだった。


 その流れが変わったのは、ケインの登場がきっかけだった。


 ガラニア国の勇者パーティーを目にした瞬間、隼人の意識は、一気に跳ね上がった。


「……エルフだよ」


 夢にまで見た、エルフの姿。異世界に来て良かった——隼人は、心の底から、そう思っていた。


 数日後、クロエが、からかうような口調で、話しかけてきた。


「分かりやすい奴だね、お前は」


「え、何が」


「今、シルヴィア呼んでくるから」


 クロエは、そう言うが早いか、シルヴィアを連れてきた。


「隼人、言いたいことは、今すぐ言え!」


 シルヴィアの前に、隼人が、勢いよく押し出される。


「クソッ……よりによって、こんな場所で言うつもりじゃなかったんだけどな」


 隼人は、それでも、覚悟を決めたように、口を開いた。


「だけど、これだけは、言わせてくれ。あんたは、俺にとって、この暗闇の中の、唯一の光だ。理想の女性なんだよ」


「……俺は、初めて、自分の命に代えても守りたいと思える女性に、出会ったんだ」


 シルヴィアは、少し驚いたような表情を浮かべた後、静かに答えた。


「私の方が、何倍も年上なのよ。……でも、嬉しい」


「年の差なんて、どうでもいいよ。俺は、ただ、ずっとそばにいたいだけなんだ」


 二人の間には、周囲の目など気にならないほどの、二人だけの空気が流れていた。


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