↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
105/167

第105話 見えない翼




 深夜、ホテルの一室。


 薄暗い明かりの中、彼女は、沢田の胸元に頬を寄せながら、囁くように切り出した。


「ねえ、沢田先生……ちょっと、お願いがあるの」


「……何だ、こんな時に」


「経産省の方で、何か新しい資源の話が動いてるって、小耳に挟んだの。詳しいこと、知りたいなって」


 沢田は、気だるげに、彼女の髪を撫でた。


「そんなこと、俺に聞かれてもな……」


「先生なら、調べられるでしょう? ちょっとだけ、探りを入れてくれるだけでいいの」


 彼女の声は、甘く、それでいて、こちらの意志を試すような響きを含んでいた。


「……分かった。今度、様子を見てくる」


 沢田は、深く考えないまま、そう答えていた。彼女は、満足げに微笑み、その表情の奥に何を隠しているかは、誰にも気づかれることはなかった。


―――


 数日後、経済産業省の一室に、沢田をはじめとする数名の議員が姿を見せた。


「いや、視察と言うほどのことでもないんだが。最近、話題の新資源のことが気になってね」


 沢田は、笑みを浮かべながら、担当者に切り出した。同行した議員たちも、興味深げに、室内を見回している。


 応対に出た経産省の職員は、表向きは丁寧に対応しながらも、内心では、強い警戒を隠せずにいた。


 ——なぜ、今になって、この議員が。


 用件は、あくまで世間話の延長のように装われていた。だが、その裏に、どこまでの意図が潜んでいるのか——それを見極める術は、まだ、誰の手にもなかった。


―――


 緒方は、魔石の電気化技術が成功したという報告を、拓也を通じて伝えられていた。その流れの中で、ふと、一つの案が頭に浮かんだ。


「そういえば、こっちの魔石事業——結構な量の廃材が出てるんですよね」


「廃材?」


「魔石を加工する過程で、使い物にならない欠片が、大量に捨てられてるんです」


 拓也が、それを室内へ伝えると、神崎たちの間に、小さなざわめきが起きた。


「その廃材、買い取れないか、話を持ちかけてみようと思います」


「当ては、あるのか」


「はい。魔鉱石の鉱山は、もともとオーレス侯爵様の既得権益ですから」


 神崎が、資料から顔を上げた。


「魔鉱石の鉱山を、一手に握っている……向こうで言えば、中東の石油王のような立場、ということか」


「まあ、そんな感じですね。あちらでは、それだけの資源を持ってる人ですから」


 神崎は、小さく息を吐いた。侯爵という肩書きの重さが、改めて実感を伴って伝わってきたようだった。


―――


 後日、緒方は、オーレス侯爵の元を訪ねた。


「珍しいな、お前から、面会を求めてくるとは」


「実は、侯爵様の魔鉱石鉱山について、一つご相談がございまして」


「鉱山が、どうした」


「魔石を加工する際に出る廃材——使い物にならない欠片を、こちらで買い取らせていただけないかと」


 オーレス侯爵は、片眉を上げた。


「あんな屑を、買い取るというのか。何に使う」


「詳細は申し上げられませんが、地球側で、砕いて別の用途に使えないか、検討している段階です。侯爵様にとっても、廃棄の手間が減り、多少なりとも利益になるかと」


「……つまり、ゴミの処分を肩代わりした上に、金まで払う、と」


「はい」


 オーレス侯爵は、しばらく緒方を見据えたまま、黙っていた。


「面白い。悪い話ではないな」


「ありがとうございます」


「値は、こちらの言い値で構わないな?」


「もちろんです」


 オーレス侯爵は、満足げに頷いた。廃材の買い取りという、これまで誰も見向きもしなかった話に、緒方は、また一つ、静かな足がかりを作った。


―――


「こちらとしては——安価に、魔石の欠片を大量に確保できる、ということか」


「はい。日本側で、それを砕いて、製品化できないか、検討してもらえればと」


 緒方の提案は、その日のうちに、関係者へ共有されることになった。


―――


 それから、しばらくが経った。


 エテリム、クラニウム、金、ネオジム、そして赤い石——これまで少しずつ送られていたそれらの資源が、いよいよ本格的に、緒方の邸宅へと運び込まれるようになっていた。日に、数トン規模の量が、静かに転送されていく。


 その成果の一つが、この時期、ようやく形になった。


 これまで、構造上、ステルス化が難しいとされていた戦闘機。その機体に、エテリムを使った新素材が採用され、ついに、ステルス機として完成したのだ。


 関係者の限られた場に、その機体が披露される。実物を目にした者たちの間に、静かな驚きが広がった。


 表立って報じられることはなかったが、専門家やマニアの間では、いつしか、その存在が小さな話題として囁かれ始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。