第101話 死のグループ
国民スポーツ大会、少年男子団体。栃木県剣道連盟と栃木県高体連剣道専門部、双方の期待を背負った試合が、ついに始まった。
組み合わせ表を見た瞬間、俺たちの間に、ざわめきが広がった。
「……これ、死のグループじゃないか」
誰かが、そう呟いた。初戦の相手は、インターハイ優勝校の主力を擁する熊本選抜。次の相手は、兵庫選抜。県代表の先生は、グループ表を睨みつけたまま、能面のような表情で固まっていた。
佐野の代表選手が、俺の方を見て、静かに口を開いた。
「四人の中で、二人が勝てば、問題ない」
その視線には、多くを語らせない圧があった。俺は、らしくもなく、低い声で答えた。
「任せてくれ」
その一言で、ベンチの空気が、わずかに引き締まった。
―――
初戦、熊本選抜戦。
先鋒は、必死に食い下がり、何とか引き分けに持ち込んだ。次鋒も食い下がったが、一本を先取され、そのまま押し切られる形で敗れた。
中堅が、最後の局面で技を決め、一本勝ちを収める。ここで、相手の副将に焦りが見え始めた。何としても決めなければならないという重圧からか、決め手を欠いたまま、時間だけが過ぎていく。結果は、引き分け。
残るは、大将戦。俺は、時間をかけるつもりはなかった。
最大の難関と言われた初戦を、勝利で終える。
続く兵庫選抜戦も、簡単な相手ではなかったが、勝ちを拾う。グループを勝ち上がり、次に控えていたのは、これもまた強豪と名高い福岡選抜。ここも、何とか勝ち進んだ。
あとは、順調だった。決勝の第六試合を迎え、俺たちは、優勝を手にした。
―――
試合後、県代表の先生が、報道陣のインタビューに応じていた。
「初戦の勝利が、選手たちの自信に繋がり、勢いに乗れたのだと思います」
「中野選手がいるからこそ、有利な試合展開だったのでは」
記者の一人が、そう切り込む。先生は、少しだけ間を置いてから、答えた。
「……それも、あります」
それ以上、深くは踏み込まれなかった。栃木県剣道連盟と栃木県高体連剣道専門部には、国から、俺への直接インタビューを控えるようにという通達が届いている。その事実を知っている俺は、内心、少しだけ安堵しながら、送迎のバスへと乗り込んだ。
―――
フリーランス記者は、拓也たちの背後にいる国の職員の正体を突き止めようと、独自の調査を続けていた。だが、辿り着けるのは、省庁レベルの大枠までだった。それより先——具体的な部署や、担当者の名前までは、どうしても掴めない。
ここ最近は、宿舎の近辺で張り込むことすら、難しくなっていた。
その日も、車を路肩に停め、少し離れた場所から様子を窺っていると、警備員が、すぐに駆け寄ってきた。
「ここは、駐車できません。移動してください」
有無を言わせない、しかし丁寧な口調だった。記者は、舌打ちを堪えながら、車を発進させる。
少し離れた場所で、スマートフォンが震えた。例の、訛りの薄い日本語を話す男からだった。
「……進捗は」
「省庁までは、分かっています。だが、それ以上は——」
「払った分の、働きを」
男の声には、感情の起伏がなかった。だからこそ、余計に重かった。記者は、電話を切った後、しばらく、ハンドルを握ったまま動けずにいた。
―――
その頃、国家情報局のデスクには、一通の報告書が、静かに置かれていた。
表紙には、こう記されている。
『魔石とエネルギーの研究について』
まだ、誰も、詳しくは目を通していない。だが、この一冊が、これから先の展開に、小さくない影響を及ぼすことになる——それだけは、確かだった。




