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談話室の中へ重たい沈黙が落ちた。
壁際の蝋燭の火が揺らめき、それに合わせるように2人の影が僅かに揺れ、先ほどまで感じていた夜会会場から漏れ聞こえてくる音楽が遠くなった気がした。
「……それにしても、なぜオフィーリア様だと気づかれたのですか?仮面舞踏会という事は顔が隠れていたはずですが」
「まぁ、朝に素顔を見たからね。それに、彼女の深紅の髪は珍しいし、声も知っているから近づいてきた瞬間、すぐに気づいたよ」
「そうだったのですね。あと一つ聞きたいことがあるのですが……」
「あぁ、何でも答えるよ」
「ありがとうございます。では、記憶が朦朧とした時はどんな感覚だったのですか?」
「そうだね。まるで夢の中にいるみたいに、頭だけが酷くぼやけていたんだ」
アシュレイはここまで言うと忌々しげに顔を歪めた。
「……何より気味が悪いのは、“彼女の香り”だけが妙にはっきり覚えていることだ。あの日、彼女が何を話したのかも、どんな顔をしていたのかも曖昧なのにね」
「なるほど……。そして、その日を境にオフィーリア様からの執着がひどくなったのですね」
「……あぁ、そこからだよ」
「アシュレイ様の事情はわかりました。……それで、貴方の望みは何でしょうか?」
ヴィオレッタのその一言に、談話室の空気が鋭く張り詰めた。そんな中、アシュレイは瞳に光を宿し、力強く宣言した。
「僕の願いはオフィーリア・レイヴン公爵令嬢との関わりを切り、社交界にもたらしうる不穏の種を事前に摘むこと。ただ、それだけだ」
ヴィオレッタはアシュレイの宣言に目を細めると、口元を扇子で隠し不敵に笑った。
「――その願い、おいくらで?」
「前金として金貨を3枚出す。依頼料は結果次第だが、最低でも白金貨1枚は出そう。もちろん、僕に出来ることなら何でも手伝うよ」
「……随分と高い報酬ですね」
「今回のことはそれだけの価値があるだろう?」
「えぇ、違いありませんわ」
二人して優雅に微笑みながら言うと、ヴィオレッタはソファから腰を上げ、カーテシーをした。それはとても美しく、アシュレイは一瞬言葉を失った。
「――ご依頼、承りました」
ヴィオレッタが顔を下げながらそう言うと、アシュレイはピリピリとした空気を肌で感じた。それでも、談話室の空気が軽くなった気がした。いつの間にか、華やかな音楽が耳に響くようになっていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
事件提示編はこれにて終了です。
次回より、調査編が始まります。




