幕間:その頃のルミナ
「グラン。次は霧裂脚を百回」
「……百回、でありますか。承知いたしました……ッ!」
人型で修行をしているグランは真面目に構え、蹴りを繰り返すたびに地面が震える。
その横でルミナは腕を組み、涼しい顔で見守っていた。
だが──
(……リンデ、今頃どうしているのかしら)
内心は完全に別方向を向いていた。
「白輝竜様。あの……今、遠くを見ておられませんでしたか?」
「見てないわよ。ほら、続けなさい」
「は、はい……!」
グランは必死に蹴り続ける。
「白輝竜様……その……“恋する乙女”のような表情をされていたように……」
「はぁ? 誰がよ。私はただ……その……」
(リンデの成長を見守りたいだけよ……!)
ルミナは頬を指でトントンと叩き、無理やり気持ちを切り替える。
「いい? グラン。あなたが一人前の門番にならないと、私は塔を離れられないのよ」
「そ、それはつまり……私の未熟さが全ての原因ということでしょうか……?」
「そうよ」
「即答……!」
「だから頑張りなさい。あなたが強くなれば、私は──」
(リンデの元に行ける……!)
ルミナの目がギラリと光る。
「白輝竜様!?い、今……目が“獲物を見つけた魔獣”のように……!」
「黙って修行しなさい」
「は、はいッ!」
---
グランが必死に蹴りを繰り返す横で、
ルミナはそっと空を見上げた。
(リンデ……ちゃんと食べてるかしら……無茶してないかしら……変な女に絡まれてないかしら……)
心配の方向が完全に“母親”である。
「白輝竜様……! ま、また遠くを見ておられます! 私の修行、見ておられませんよね……!?」
「見てるわよ。ほら、次は“魔力循環法”を三百回」
「ふ、増えている……!? なぜ……!」
「あなたが弱いからよ」
「理……! 理不尽……!」
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(……早く行きたい)
(リンデの成長を、この目で見たい)
(あの子の隣に立ちたい)
(でも……門番としての責務がある)
(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんで私はこんな真面目なのよ!!)
ルミナは頭を抱えた。
「白輝竜様!? な、なぜ頭を抱えて……!? 私の修行が……そんなにストレスなのでしょうか……!?」
「違うわよ!! あなたが弱いのが悪いのよ!!」
「理不尽……!!」
---
ルミナは深呼吸し、グランの前に立つ。
「グラン。あなたは門番になるのよ。私の代わりに、この塔を守る存在に」
「……白輝竜様」
「だから、強くなりなさい。あなたならできるわ」
その言葉は、いつもの軽口ではなく、“本物の門番”の声だった。
「……はいッ! 必ず……必ず強くなってみせます! 白輝竜様が……その……“行きたい場所”へ行けるように……!」
「…………ちょっと待ちなさい。なんで私が“行きたい場所”を知ってるのよ」
「白輝竜様……寝言で……」
「…………」
「“リンデ……リンデ……”と……」
「…………」
「“今日も可愛いわ……”と……」
「言ってないわよ!!!!!!」
「言っておられました!!!!!!」
---
(……絶対に行く)
(グランを育てて、責務を果たして、胸を張ってリンデのところへ行く)
(待ってなさい、リンデ)
(あなたの成長、全部見届けてあげるから)
ルミナは拳を握りしめた。
「グラン。次は“魔力循環法”五百回」
「さ、さらに増えている……!?!?!?」
「あなたのためよ」
「絶対違う……!」
グランの修行はまだまだ終わらない。
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