003.決意
俺がこの世界に来てからすでに3ヶ月が経過した。最初の1ヶ月こそ拠点作りに重点を置いていたが、ある程度揃ってからは森の探索に移行した。
マップ機能があるおかげで一度歩いたところは行かなくてもいいため、かなり効率的に探索することができている。それを考慮してもかなりの広さがあるため、2ヶ月かけてまだ3割ほどしか探索が終わっていないのが現状だ。
「やはり足がないとキツイな」
『ぷぎ?』
隣で水遊びしていた牡丹がこちらを向いて首を傾げている。こいつはもう完全に俺に飼い慣らされているただの家畜だ。ちょっとあざと可愛すぎる節を除けば。
近場から円を広げるように探索してみたが、森は驚くほど何もない。魔物はいるし薬草やキノコ類もたくさんあるのだが、それだけなのだ。
遺跡やダンジョン、そのほか人が住んでいたであろう痕跡などが見つけられない。川沿いも歩いてみたが、人の痕跡が見つけられなかった。いたのは少し強い魔物くらいか。
「海に向かってもいいけど、うーん…」
海には強い魔物が多くいるのはゲームをしている時から知っている。レベルもすぐに上がるだろうが、いざという時のバッファが取れるかが怪しい。
牡丹がもう少し大きければ乗ることができたかもしれないが、こいつはリトルボア。普通に俺の方が大きい。家畜にしかならん。
当分はまだ我慢か。急いで探索する必要もない。目標も決まっているし、急がずに楽しめばいい。だめだな、なんでも楽したり急ごうとするのは日本人の悪い癖だ。
そうと決まれば遠征だ。木柵もできてある程度の拠点はできている。小さいコテージも作ってみたが、生憎と俺に建築のセンスはなかったようで、ただの豆腐建築になってしまった。無念。
海に行くか、山に行くか。
悩みどころだが、海に行って大量に塩でも手に入れるか。俺はアルケミーのスキルもあるし、抽出すればかなり綺麗な塩が手に入る。なんなら魚介類も手に入れたい。レベル上げももしかしたらできるかもしれない。よし。
「牡丹、魚は好きか?」
『ぷぎっ‼︎』
大好きなようだ。心なしか目がキラキラしている。よし、俺も新鮮な魚が食いたいから行くか。
海から麓に行くのに4日前後かかったが、探索もせず普通に突っ切るだけなら2日もあれば着くだろう。本気で走れば1日だ。
「まっ、のんびり歩いていこうかね」
急ぐ旅でもない。早く色々と実験したい気持ちもあるが、時間だけはたっぷりあるのだ。一歩ずつ着実に進んでいくとしよう。
歩くこと2日。
「広いな」
『ぷぎ』
やっと海へと辿り着いた。周囲に他の島などは見えそうにない。ただただ水平線だけが広がっている。こちらに着いた時はあまり周囲を探索しなかったし、浜辺を少し散策してみようか。
牡丹と一緒に浜辺を散策してみたものの、落ちているはずのものが見当たらない。
「流木すら見当たらないということは、島はここだけということか……?」
本来あるはずの流木がなかった。つまり木が自生している陸地が他にないということを意味している。これはまた香ばしい場所に転生してしまったか?
他にも探すこと1時間。何かないかと探してはみたものの、落ちているのは魔物の骨や牙と思しきものくらい。数本の自然木の流木はみつけられたが、ほとんど誤差の程度だろう。きっとこの島の木だろうし。
「海底ならなんか見つけられるかな?」
装備を収納し、海用装備へと換装する。ゲームでは海ステージもあったから海用装備は必須だった。武器を三叉槍に持ち替え、海でも一定時間呼吸ができる水中ボンベを咥えた。目元がクリアになるようエアドームと呼ばれるアイテムも装着する。
「この装備も久しぶりだ」
このボンベとエアドームはプレイヤーによる作品である。俺のストレージに大量に格納されているが、ゲーム内の親友の1人が作った逸品で、買おうと思うと簡素な家が一軒建つ程度には高価なものである。こんなものを遠慮するなとポンポンくれた親友には感謝しかない。
牡丹を陸に残して海へと潜る。水は綺麗で遠くまで見通すことができた。三叉槍を構えながら海を泳いでいるが、驚くほど魚がわんさかいる。
それに魚類系の魔物もたくさんだ。岩場を見ると甲殻系の魔物も見える。蟹や海老の魔物は身が美味いから、帰りにいくつか取って帰るとしよう。
「人の手が入っていたら、もう少し荒れてるよなぁ」
人工物っぽいものは一切見当たらないし、海藻や珊瑚なんかは綺麗なものである。まさに自然がそのまま放置されたと言わんばかりの様相だった。
魔物は散発的に襲ってきているが三叉槍の敵ではないので、撃退してストレージに格納していく。放っておいても魚は近くを通るし、人間への警戒心が薄い。人に慣れていない証左だ。
魚をたらふく確保した後は貝やら蟹やら海老を確保していく。
その時。なんとなく海の沖合の方に嫌な予感がした。すぅっと目を細めて遠くを見ると、巨大な影が見える。
「あいつは無理だな……」
なんの魔物かはわからないが、めちゃくちゃ嫌な予感がする。こっちに向かってきているっぽいし、そろそろ潮時だ。あんなのとやり合うつもりはない。今はまだ、な。
「次来る時は相手してやる」
そそくさと海を後にした。
陸に上がった後はタオルで体を拭き、いつもの服装へと着替える。そしてステータスの確認だ。
●●―――――○○
名前:リンドグラール Lv.28
職業:アルケミー
体力:151 持久力:151 筋力:151 知力:207 精神力:207 魅力:80 幸運:80
総合戦闘力:210
スキル:――
職業スキル:分解、抽出、再構成、乾燥
称号:巨人殺し、一騎当千
SP:156
●●―――――○○
「アルケミーがだいぶ育ってきてるな。あと22レベル上げればカンストだ」
スキルポイントも溜まってきているし、いい調子だ。スキルポイントについて、この2ヶ月でわかったこともある。
まず、おそらくだがスキルはポイントを消費しないと習得することができない。ただし、スキルがなくても同じことは行えることがわかった。
スキルを使うと動きの補助や一部過程の省略など、行為自体の効率化やサポートなどをしてくれるのがスキルの本質だ。確かに便利といえよう。
ただ、これに頼りきりになるのは知識や経験の欠如にもつながりかねない。それら全てを知った上でスキルを使わねば、スキルの真の効果は得られない可能性すらある。
「……もう少し検証が必要かな」
スキルというのは所謂チートだ。何を持ってスキルを習得しているのか。スキルポイントとはいったいなんなのか。わからないことが多すぎる。それなのにスキルに頼り切りになるのはいささかーーいや、かなり抵抗がある。
スキルについての検証はもう少しかかるだろうが、それを抜きにしても俺自身の強化は必須だ。ただでさえ創造士というジョブを目指しているのだ。レベルを上げて基礎ステータスくらいは上げる必要がある。
それに、いざとなればステータス増強の装備を創造するという手もある。むしろ創造士の本領というか本分と言ってもいい。ゲーム時代の創造士だったプレイヤーがホムンクルスに傾倒しすぎて忘れられがちだが、普通に装備製作においても一線級なのである。
「俺も機巧魔技師だったときはものづくりが楽しかったな」
あれ、待てよ。ゲーム時代は職業選択は3つまでが標準で、組合わせ次第で4つ目が解放された。しかし、この世界ではどうだろうか。
もしこの世界で職業選択の制限がないとしたら。俺は創造士のほかにも固有職業を取得することが出来るのではないだろうか。まだ確証はない。それでもこの世界はゲームと似て非なるもの。なんでもあり得る可能性だってあり得る。
「ちょっとした楽しみもできた」
職業が全てではないが、それでも運命を左右するのに十分な一因ではある。機巧魔技師だって取得することが可能かもしれないのだ。生きていく上で夢は大きく持つべきだろう。
「さて、確認も終わったし帰るか」
海での用事は終わった。アルケミーのスキルで海から塩も確保したし、魚介類もそこそこ確保した。探索がてら森を歩きながら拠点に戻るとしよう。
牡丹を呼び戻し森へと戻る。拠点があると思うだけで心のありようは全く違うのがわかる。この世界で俺のことを知っている存在はいないが、それでも帰るべき家があるのと無いのでは、な。
帰り際にも山菜やら薬草類、香草を採取した。ビッグラビットがいたので牡丹のご飯用に確保しておいた。
「……お前、少し大きくなってきたか?」
『ぷぎ?』
「このまま美味そうに育てよ〜」
『ぷぎっ⁉︎』
心なしか大きくなった気もする。いや、変わらんか? いつもみてるからわからんな。牡丹を揶揄いながら拠点へと戻ると、そこには信じ難い光景が広がっていた。
『グギャギャギャギャ!』
『グヒャー』
『ギャギャギャギャ』
すぐには数え切れないほどの豚人……つまりオーク系の魔物が拠点に居座っていたのだ。木柵は一部壊され、頑張って作った豆腐建築の家の中にもオークがいた。
牡丹のためにと作っておいた犬小屋……豚小屋……猪小屋までも全損していた。
『ぷぎーーーー!!!!』
「行くな牡丹!」
自分の小屋が壊されたことに腹が立ったのか、勝てないと分かっていながらオーク達へと突撃していった牡丹。助けようと追いかけたが、本気で走った牡丹は思いの外早く、オーク達へと到着してーー斬られた。
オーク達は思いの外鋭利な斧を持っていたらしく、すっぱりと首を落とした。確かにオークからすれば牡丹はただの餌だろう。リトルボアはこの森ではビッグラビットに次ぐ食物連鎖の最下位だから、そうなるのも必然である。
「俺の非常食を勝手に殺した罪、償ってもらおう」
そこからは虐殺だった。龍髭鞭を用いてズタズタに引き裂いて殺した。オークは美味いというが、食う気にすらならない。ただただ惨ったらしく殺めた。
オーク達は途中で仲間を呼んだが、それさえも全て虐殺した。我を忘れたと言ってもいいほどだろう。それほどに、牡丹は俺の仲間という認識になっていたのだ。
【1日に500体のオークを虐殺しました】
【称号「オーク虐殺者」を獲得しました】
称号を得るほどオークを殺してしまったらしい。俺としては500体も殺した気はしなかったのだが、オークがオークを呼んでおり、辺り一帯のオークがほとんど絶滅したようだ。
落ち着いた俺はオークを回収しつつ、拠点の清掃を始めた。
あらかた片付け終わると、牡丹を捌いて焼いて塩を振って食べた。不思議と涙は出なかったが、今まで食べた肉の中で1番美味しく感じた気がする。
「……牡丹、ごちそうさま」
骨を土に埋めて墓を作ってやった。いつか、牡丹がまた輪廻転生することを信じて。
「ステータス」
●●―――――○○
名前:リンドグラール Lv.38
職業:アルケミー
体力:171 持久力:171 筋力:171 知力:247 精神力:247 魅力:80 幸運:80
総合戦闘力:245
スキル:――
職業スキル:分解、抽出、再構成、乾燥
称号:巨人殺し、一騎当千、オーク虐殺者
SP:186
●●―――――○○
●●―――――○○
称号「オーク虐殺者」
1日にオークを500体以上討伐すると与えられる。オークとの戦闘時に限り、総合戦闘力が50%上昇する。
●●―――――○○
オークを500体討伐して10レベル上がった。戦っていてかなり強かったと思う。一騎当千のおかげで戦闘力は倍になっていたので、想像以上によく戦えた。武器が良かったのもあるだろう。
「また、1人になっちまったな」
早くレベルを上げて、創造士になろうと改めて決めた瞬間だった。
オーク達をインベントリに収納しつつ、掃除をしていく。数時間で拠点内をあらかた清掃し、友人の職人プレイヤーが作った清掃アイテム「ルンルンルンバ君」を使って血や肉片の掃除を任せた。
余っていた木材で木柵を修理し、ぐちゃぐちゃになったツリーハウスを撤去した。
「よし、こんなもんか」
1日かけて片付けた甲斐があって、やっと小ざっぱりした。牡丹はもういないので、餌をやる必要もない。やはり、1人は寂しいものだ。
遠征に行こう。レベルを上げるために。ここの魔物は強い上に経験値率もかなり良い。一次職になったのにかなりの速度でレベルが上がっている。1人で経験値を独占しているとはいえ、ここまで早いと思わなかった。
「次にここに戻ってくるのは、いつになるのかね……」
俺はワイバーン・エリートを倒したあの山へと進み始めた。
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