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廃ゲーマーは異世界で第二の人生を謳歌する  作者: 咲く桜


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011.魔功

 北の森の調査を終えた俺とイブは、急ぎ足でギルドへ戻っていた。


 森で見た“召喚陣の残骸”。

 あれは明らかに異常だった。


「リンデ様。あの魔力……やはり異界由来のものです」

「ああ。魔物が逃げるのも納得だ」


 だが、問題はそこではない。


「……誰が、何のために召喚したんだ?」

「分かりません。ですが、あれを個人でできるのはリンデ様くらいです」

「となると。やっぱり組織的な何か、だよな」

「はい。しかし、私たちはそのような勢力を知りません」


 イブの言う通りだ。

 俺たちはまだ第四層に来たばかり。

 裏社会の事情など何も知らない。


 ギルドに入ると、受付嬢がすぐにこちらへ駆け寄ってきた。


「おかえりなさい! どうでした? 魔物の異変は……」

「……ただの魔物の問題じゃなかった」


 俺は静かに言った。


「森の中心に“召喚陣の残骸”があった」

「……召喚陣?」


 受付嬢の顔色が変わる。


「まさか……異界召喚……?」

「知ってるのか?」

「……詳しくは、ギルドマスターに話してもらった方がいいわね」


 受付嬢は緊張した面持ちで、奥の部屋へ案内した。


 ギルドマスターは、壮年の男で、鋭い目をしていた。感じるオーラから察するに、その辺の冒険者と比べて明らかに強い。


「君たちが調査に行ってくれた新人……本当に新人か? ひとまずまぁいい、報告を聞かせてくれ」


 俺は森で見たことをすべて話した。


• 魔物が逃げていたこと

• 空間の歪み

• 召喚陣の残骸

• 異界魔力の残滓

• 人影の気配


 ギルドマスターは黙って聞き、深く息を吐いた。


「……やはり、また動き出したか」

「動き出した……?」


 俺は眉をひそめた。


「どういう意味ですか?」


 ギルドマスターは、俺とイブを真っ直ぐに見た。


「君たちは知らないだろうが──この塔には“塔破壊派”と呼ばれる秘密組織がある」


「塔破壊……派?」


 初めて聞く名前だった。


「塔を呪いの牢獄と考え、塔そのものを破壊しようとする連中だ」

「塔を……破壊?」


「そうだ。そして奴らは、異界の悪魔を召喚し塔の構造を壊すための“力”を得ようとしている」


 イブが静かに言う。


「……では、森の召喚陣は」

「おそらく、塔破壊派の仕業だろう」


 ギルドマスターは断言した。


「……そんな組織があるなんて、知らなかった」

「当然だ。一般の冒険者には情報を伏せている。混乱を避けるためにな。……まぁ、噂は流れ始めているようだが」


 イブはわずかに目を細めた。


「リンデ様。塔を破壊しようとする勢力……非常に危険です」


「ああ……」


 俺は息を呑んだ。


 塔を破壊する──

 そんな発想があるとは思わなかった。


「君たちを強者と見込んで頼みたいことがある」


 ギルドマスターが身を乗り出す。


「4層にある塔破壊派のアジトを探し、召喚陣の“本体”を突き止めてほしい」

「本体……ですか?」

「おそらく森の召喚陣は“実験用”だ。本命は別にある」


 イブが静かに言う。


「……リンデ様。これは重大な任務です」

「分かってる」


 ギルドマスターは続けた。


「この依頼を達成すれば──君たちを第五層へ推薦しよう」

「第五層への推薦……!」


 それは、俺たちが求めていた“次の階層への鍵”だった。


 ギルドマスターからの追加依頼を受けた翌朝。

 俺とイブは街の裏通りを歩いていた。


「リンデ様。ギルドマスターが言っていた“情報屋”とは、どのような存在なのでしょうか?」


「……正直、俺もよく知らない。ただ、普通の商人じゃないことは確かだ」


 街の中心から離れるほど、石畳は汚れ、建物の影が濃くなる。人の気配はあるが、視線はどこか冷たい。


---


 指定された場所は、古びた酒場の地下だった。


 階段を降りると、薄暗い空間に香草と煙草の匂いが混ざっている。


「……ここか」


 カウンターの奥に、黒いローブを纏った男が座っていた。


「……ギルドマスターの紹介か?」

「そうだ。塔破壊派について、何か知ってるか?」


 男は煙管をくゆらせながら、俺たちをじっと見た。


「……新人か。よくこんな話に首を突っ込むな」

「指名依頼だからな。報酬はギルドが出す」

「報酬より命の心配をした方がいい」


 男は笑い、机の上に一枚の紙を置いた。

 紙には、森の地図と赤い印がいくつか記されていた。


「これは……?」


「召喚陣の残骸が見つかった場所だ。お前たちが見た森の中心もその一つだろう」


「つまり、他にもあるのか」


「そうだ。奴らは“複数の陣”を使って、塔の基盤を崩そうとしている」


 イブが静かに言う。


「塔の基盤……? それは、階層構造そのものを壊すということですか?」


「そうだ。塔破壊派は“塔の外”に通じる道を開こうとしている。異界の悪魔を使ってな」


 俺は息を呑んだ。


「……本気でそんなことができるのか?」

「できるかどうかは知らん。だが、奴らは本気だ。そして、金も人も集めている。お前たちが動くなら、まず“廃教会”を調べろ」

「廃教会?」


「北の森の奥だ。塔破壊派の連中がよく出入りしている。ただし──」


 男は煙を吐きながら言った。


「……行くなら覚悟しろ。すでにあそこは“人間の理”が通じない場所だ」


 イブが静かに頷く。


「リンデ様。行く価値はあります」

「……ああ。行こう」


 男は最後に一言だけ付け加えた。


「塔破壊派は、“信仰”を名乗っているが、その実、悪魔に魂を売った連中だ。気をつけろよ」


---


 地上へ戻ると、昼の光がやけに眩しく感じた。


「リンデ様。人間の世界は……複雑ですね」

「そうだな。俺たちが知らない“闇”がある」


 イブは少しだけ空を見上げた。


「ですが、リンデ様がいる限り私は迷いません」

「俺が迷わないように頑張らないとな」


 俺たちは再び歩き出した。

 次の目的地──北の森の廃教会へ。



 北の森のさらに奥。

 木々が途切れ、石造りの建物が姿を現した。


 それは、崩れかけた古い教会だった。

 屋根は半分落ち、壁には黒い焦げ跡が残っている。


「……ここが、情報屋が言っていた廃教会か」

「はい。異界の魔力の残滓を感じます。かなり濃いです」


 イブの声は低く、空気の重さを正確に測っているようだった。


 扉を押し開けると、内部は静まり返っていた。


 床には崩れた石像、壁には意味不明な文字が刻まれている。


 中央には──

 黒い円形の陣が描かれていた。


「……召喚陣だな」

「はい。ですが、これは森のものよりも複雑です」


 イブが膝をつき、指先で線をなぞる。

 その瞬間、背後の闇が動いた。


「リンデ様!」


 イブが即座に反応し、白狼籠手を展開する。


 闇の中から飛び出したのは、黒い毛皮に覆われた通常よりも体躯の大きいスラッグウルフの群れだった。


「……召喚陣の守護獣とでもいう気か?」

「排除します」


 イブの声が冷たく響く。

 イブの両腕が光を放つ。

 右腕に黒紫の魔気、左腕に白光の天力。


「《天魔神功・双極》」


 右手の籠手が闇を裂き、黒い稲妻がスラッグウルフの群れを貫く。


 左手の籠手が光を放ち、白い閃光がもう一体を氷の粒へと変える。闇と光が交錯し、教会の内部が一瞬で戦場に変わった。


 血と氷が混ざり合い、床に散る。


「……終了しました」


 イブは静かに息を整え、籠手を収めた。戦闘が終わると、教会の中央に残った陣が微かに光っていた。


「リンデ様。この陣の力、まだ完全には消えていません」

「どうすればいいかわかるか?」

「恐らくですが、創造士の力で“逆再構成”すれば魔力の流れを断てます」

「よし、やってみよう」


 俺は手をかざし、《物質再構成》を発動。


  黒い陣が白く反転し、やがて光の粒となって消えた。陣の中心には、焦げた羊皮紙が一枚残っていた。そこには奇妙な紋章と文字が記されている。


「……“塔の外”?」


 イブが読み上げる。


「はい。“塔の外に通じる門を開け”──そう書かれています」

「塔破壊派の目的が、“塔の外”にあるってことか?」

「彼らは塔を壊すことで、外界へ通じる道を作ろうとしているようですね」


 俺は羊皮紙を握りしめた。


「……なら、止めるしかないな」


 塔の外がルミナの守護していた領域ならば、余計に止める必要がある。


 廃教会の調査を終えた俺とイブは、森の出口へ向かって歩いていた。


 だが──その途中で、空気が変わった。


「リンデ様。……気配があります」

「魔物か?」

「いえ。“人間”です」


 イブの声が低くなる。


---


 木々の影から、黒いローブを纏った三人の男が現れた。胸元には廃教会で見た逆三角の紋章──塔破壊派の印。


「……お前たちか。廃教会を荒らしたのは」


 中央の男が、こちらを睨みつける。


「廃教会ってんだから、最初から荒れてたぞ?」

「貴様、何者だ? 冒険者にしては……妙な気配を纏っているな」


 イブが一歩前に出る。


「リンデ様に近づかないでください」

「……その女は何者だ? そいつは人間ではないな」


 男は存外に勘がいいらしい。イブが人間ではないと気づくとは。


「まさか……魔族か?」

「違います」


 イブは淡々と答える。


「私はリンデ様の従者です」

「従者……? そんな化け物じみた気配の従者がいるか!」


 男たちは明らかに混乱していた。彼らは“ホムンクルス”という概念を知らない。当然だ。この世界で知っているのは俺だけなのだから。

 それでも人間ではないと勘付いたのは賞賛に値する。


「ちょっと塔破壊派とやらに用があってな。なんでこんなことしているんだ?」


「……塔は牢獄だ。人は塔に閉じ込められ、外界の真実から遠ざけられている!」

「だから塔を壊す……ってわけか?」

「そうだ! 外の神が我らに道を示してくれたのだ!」


 男の目は狂気に染まっていた。


「お前たちのような“異質な存在”は計画の妨げになる。外の神の計画を乱すな!」


 イブが小さく首を振る。


「リンデ様。彼らは完全に錯乱しています。話は通じません」

「だろうな」


---


「排除する!」


 信徒たちが一斉に呪文を唱え始めた。


「《外界の門よ──》」

「イブ」

「はい」


 イブが白狼籠手を収納から直接腕に展開し、地を蹴った。信徒の一人が黒い短剣を振りかざす。


「化け物め!」

「化け物ではありません」


 イブの右腕が黒紫に輝き、拳が男の胸を貫いた。天魔神功特有の天魔気というやつだろう。ここのところ、天魔神功に慣れてきたのか、応用できるようになってきたらしい。

 完璧に習得するスキル書だったとはいえ、習得することと使いこなすことは別物だからな。

 結局はこういった戦闘経験による技術の錬磨が必要なのだ。


「がっ……!」


 別の信徒が背後から呪文を放つ準備を始めていた。


「《闇の槍──》」

「遅い」


 だが──

 イブの左手が白光を放ち、闇の槍を霧散させる。白狼籠手の爪が閃き、男のローブを裂いた。


「ぎゃあああっ!」


 残った信徒は震えながら後ずさる。


「な、何なんだお前ら……! 特級信徒をこうも易々と!」

「聞く必要はありません」


 イブは無表情のまま、男を見下ろした。


「リンデ様の敵は、すべからく排除対象です」

「ひっ……!」


 男は逃げようと背を向けた。


「イブ、逃がすな」

「了解しました」


 白光が走り、男は地面に倒れ、森に静寂が戻る。


「リンデ様。怪我はありませんか?」

「ああ。イブのおかげで助かった」


 イブはわずかに目を伏せる。


「彼らは、私の存在を“魔族”と誤認していました」

「まあ、イブの強さに気づいたことは褒めるべきだな」


 俺は苦笑する。


「創造士もホムンクルスも、この世界には元々存在しない概念だ。知らなくて当然なんだよ」

「はい。ですが──」


 イブは静かに言った。


「彼らは“異質なもの”を恐れ、排除しようとしていました。人間は、自分が知らない物を恐れ、排除しようとする生き物なのですね」

「そうだ。人間は弱く醜い。だからこそ、人間が紡ぐ歴史や感情というものは時に美しいのだと、俺は思う」

「む……。難しいです」


「はは、これから分かっていけばいいさ。俺たちは進み続けるしかないんだから」

「はい。私はいつまでもリンデ様と共に」




 廃教会の儀式が破壊されてから数時間後。

 森のさらに奥、誰も知らない地下空洞。


 黒いローブの男が、膝をついて震えていた。


「……申し訳ありません……。廃教会の陣が……消滅しました……!」


 その前に立つのは、塔破壊派の幹部と思しき人物。

 顔は仮面で覆われ、声は低く、冷たい。


「陣が“自然消滅”したとは考えにくい」

「は、はい……何者かが干渉したとしか……」

「何者か、ねぇ」


 仮面の男はゆっくりと歩き、破壊された羊皮紙を拾い上げる。


「魔術の痕跡ではない。物理的破壊でもない。……これは“再構成”による事象の書き換えに近い現象だ」

「再構成……? そんな魔術、聞いたことが……」


「我々の知る体系ではない技術、ということだ」


 仮面の男は静かに呟く。


「……異質だな。塔の住人ではない“外来の力”かもしれん。面白くなって来たじゃないか」


 震える部下が恐る恐る問う。


「ど、どうなさいますか……?」

「決まっている」


 仮面の男は手を掲げ、黒い霧を呼び寄せた。


「次の儀式を始める。教会が潰されたなら、今度は街の地下で行う」

「し、しかし……街の地下はギルドの監視が……!」

「構わん。外の神は言っている。早く“塔を揺らせ”とな」


 仮面の奥の瞳が細められる。


「……それにしても、儀式を破壊した者とやら……」

「は、はい……!」

「早く会ってみたいものだ」


---


 俺とイブは、ギルドマスターに廃教会での出来事を報告していた。


「……塔破壊派の信徒と遭遇した、か」


「ああ。召喚陣の残滓もあった」


 ギルドマスターは深刻な表情で頷く。


「完全に奴らが動き出したということか。第四層の均衡が崩れるかもしれんな」


「均衡?」

「この階層は、複数の国家と宗教が入り乱れている。塔破壊派はその“隙間”に潜り込み、信徒を増やしているのだ」


 イブが静かに言う。


「では、廃教会は……」

「奴らの“支部”の一つに過ぎん。本拠地は別にある」


 ギルドマスターは地図を広げた。


「そして──最近、街の地下で妙な魔力反応が観測され始めている。詳細な場所はまだ不明だが、情報によれば次は街の地下で儀式を行われる可能性がある」

「街の地下……?」


「そうだ。廃教会を潰されたことで、奴らは次の儀式を“街の内部”で行う可能性が高い。そして、その儀式の生贄となるのが──」


 俺は息を呑んだ。


「……住人、か」

「そうだ。街は壊滅だろうな」


 ギルドマスターは断言した。


---


「……リンデ、イブ。無理を承知で君たちに頼みたい」

「何をだ?」

「街の地下に潜り、塔破壊派の“儀式”を止めてほしい」


 悩む俺をよそに、イブが即答する。


「受けます。リンデ様もよろしいですね?」

「まあ放っておけるわけがないか」

「ただ、依頼の難易度が高いのは分かっていますよね?」


「それは、もちろん」

「成功報酬で構いませんが、いくらにするつもりですか?」


 イブが無機質な顔でギルドマスターをガン詰めし、かなり大量の報酬を約束させていた。

 ギルドマスターも生気が抜けたような顔をしている。うむ、頼りになるな。

 ギルドマスターはイブに実力でも敵わないことを察しているのだろう。そうでなければ威厳をもって接したはずなのに、今では仔猫のような見た目だ。


「気をつけることはありますか?」


 気を取り戻すようにギルドマスターは深く頷いた。


「奴らは“幹部クラス”を動かしているかもしれない」

「幹部クラス?」

「特級信徒とは比べ物にならん。魔術も、戦闘力も、狂気もな。強さの水準はSランク冒険者に匹敵するという噂もある」


 イブは静かに拳を握る。


「問題ありません。リンデ様は私が守ります」

「ああ、頼りにしてる」


「それとギルドマスター、強敵の新情報を報酬に加算していません。調整していただけますよね?」


「は、はひ……」


 ギルドマスターの真の強敵はイブかもしれない。




 今回の対人戦を経て俺は一つの欠点に気づいた。それは、対人経験が圧倒的に少なく、体系的な武術を習得していなかったことだ。


 それをイブに相談したら、一つの答えが見つかった。


 街の外れ。

 人の気配がない静かな林の中。


 イブは俺の前に立ち、いつもの無表情で告げた。


「リンデ様。あなたはせっかく“内功”を持っているのに、まったく使いこなしていません」


「……まあ、そうだな」


「もったいないです。武術における内功は“命”と同義と言っても過言ではありません」


 イブは胸に手を当てる。


「天魔神功特有の天魔気とは違い、一般的な内功は生命力を循環させ、肉体と精神を強化する力になります」

「えっと、つまり?」

「つまり、内功を鍛えれば鍛えた分だけ肉体が強化されます。ですので──地下に乗り込む前に、今から内功と武功の鍛錬を始めましょう」


「おす!」

「リンデ様のことですから、内功を増幅させる秘薬や霊草をお持ちなのでは?」


「ああ、そういえばまだあるな」


 俺が内功を増幅させるには大還丹のような特級の秘薬が必要だ。俺は内功心法を修めていないため、修練によって内功を貯めることはできないし、修める余裕もない。ゆくゆくら修めるつもりだが、今ではない。

 となると、霊草とイブになんとかしてもらうか。


「千年雪参、百年何首烏、蛟竜の内丹なんかはあるな」

「……リンデ様は常識とかないんですか?」


 俺が取り出したのは、確かに貴重な薬草や内丹ではあるが、ゲーム時代であれば普通に貯まる物だ。


「普通だろ?」

「一個くらいならまだわかります。ですが、なんですかこの莫大な量は。流石人間私でも驚きが隠せません」


 取り出したのは各素材が50個ずつ。大還丹とは違い、ただの素材だから、あまり驚きはない。そうか、ランカーとしての普通は、普通ではないよなそりゃ。


「イブも一緒に内功鍛錬をしようぜ」

「〜〜〜……はい。そうします。2人でやるので、手と手を合わせて気を巡らせましょう」

「双修だな」

「……はい」


 それからというもの、何か言いたげなイブだったが特に何も言ってこなかったので淡々と霊草を飲んでは2人で気を巡らせた。


 走火入魔になりかけてもイブが真引気導をしてくれたため、ことなきを得た。馬鹿げた量の霊草と内丹を吸収し、俺の内功は5000、イブは今までの10倍に天魔気が増えたと言っていた。


 内功鍛錬に1週間を要した。地下の動きはまだ特にないと報告はうけていたので、焦ることもなかった。

 



「内功が増えたから、あとは武功か」


(そういえば……俺はゲーム時代、武功の秘伝書を持っていたっけ)


 ストレージを開くと、黒い巻物が静かに現れた。


「……これだ。ゲームの時に手に入れた“武功の秘伝書”」


 イブが覗き込み、無表情のまま固まる。


「……リンデ様。これはただの武功ではありません。どうやら魔功のようです。その名を『九幽魔剣』。……これ、内容が凄いです」


「凄い?」


「はい。内功を闇属性に変換し、剣に宿しています」


 イブは巻物を閉じる。


「これは……危険で、強力です」


「それなら、使う価値があるな」


---


 俺は白牙剣を構え、巻物に記された“内功の変換法”を思い浮かべる。


 口訣とととに内功を刃へ流し──それを“闇”へと染める。


 すると──


 白牙剣の剣身が黒く染まり、闇が揺らめいた。


「……成功です。リンデ様が自力で魔功を発動しています」


 イブの声に驚きが混じる。


 視界に淡い文字が浮かぶ。


《九幽魔剣》を習得しました。

 全九式を完全に習得するには SP100 を消費します。

 習得しますか?


「……もちろんだ」


 SP100が一気に消費され、体の奥に“九つの闇の流れ”が刻まれたのがわかる。


---


✦ 九幽魔剣──九つの技


 ここからは一気に開眼した九つの技だ。


---

影断えいだん

内功を闇へ変換し、影の斬撃を飛ばす基本技。

• 無音

• 直線的

• 魔物に特効

---

幽歩ゆうほ

影に溶けるように移動する“魔の歩法”。

• 気配遮断

• 一瞬だけ視界から消える

• 回避・奇襲に最適

---

黒牙こくが

剣に“魔の牙”を宿し、斬撃に噛みつくような追撃を発生させる。

• 二段攻撃

• 影が噛みつく

• 防御を貫通

---

幽縛ゆうばく

影を鎖状に伸ばし、敵を拘束する。

• 影の鎖

• 魔物の動きを封じる

• 斬撃との連携が強力

---

魔穿ません

闇の気を一点に収束し、“貫通特化”の突きを放つ。

• 装甲・外殻に強い

• 直線貫通

• 高威力

---

影連えいれん

影の斬撃を連続で放つ乱舞技。

• 中距離殲滅

• 影が軌跡を描く

• 消費は大きい

---

幽返ゆうへん

受けた攻撃の“影”を奪い、反撃として返す技。

• カウンター

• 魔功特有の反射

• タイミングが難しい

---

黒滅こくめつ

剣から闇を噴き上げ、

周囲を薙ぎ払う広範囲技。

• 群れに強い

• 闇の衝撃波

• やや反動あり

---

九幽葬きゅうゆうそう

九幽魔剣の最終奥義。九つの闇を一点に収束し、対象を“深淵”へ葬る。

• 単体最強

• 魔物を存在ごと切り裂く

• 使用後は内功が大きく減る

---


「……行くぞ。《影断》!」


 黒い斬撃が地面を走り、木の幹を闇の線で切り裂いた。


 イブはわずかに目を見開く。


「……リンデ様。もう魔功を使えるのですか……? 私なんかよりよっぽど化け物です」

「だが、これでイブと戦えるだろ?」

「はい……!」


 イブは俺と一緒に戦えるのが嬉しいのか、口元が僅かに綻んでいた。

 

 これで戦う準備は整った。



 ギルドからの依頼を受けた俺とイブは、街の裏路地にある古い井戸の前に立っていた。


「ここが……地下への入口か」


「はい。ギルドの調査隊が見つけた“魔力の流れ”は、この井戸の底から続いています」


 井戸の中は真っ暗で、底が見えない。


 だが──

 確かに“何か”が蠢いている気配があった。


---


 ロープを使って降りると、そこは石造りの古い地下道だった。


 湿った空気。

 壁に刻まれた意味不明な紋様。

 そして──


「……異質な魔力が濃いな」


「はい。廃教会よりも段違いに強いです」


 イブの声が低くなる。


「リンデ様。気をつけてください。どうやらここは“儀式の準備場”のようです」


---


 歩きながら、俺は無意識に白牙剣へ手を伸ばしていた。九幽魔剣を習得してから、剣の奥に“黒い流れ”を感じるようになった。


(……影が、ざわついてる?)


 まるで、この地下の闇に反応しているようだった。


「リンデ様。魔功の気配が漏れています。抑えてください」


「すまん……まだ慣れてなくて」


「魔功は“闇”です。制御しなければ、飲まれます」


 イブの言葉は淡々としているが、その裏に確かな警告があった。


---


 地下道の奥に、広い空間が広がっていた。


 中央には黒い円陣。

 周囲にはローブの男たちが数人、何かを運び込んでいる。


「……儀式の準備中か」


「はい。見たところまだ本番ではありません。今なら止められます」


 だが──

 こちらに気づいた男が叫んだ。かなり勘の鋭いやつがいるようだ。


「侵入者だッ!!」


 ローブの男たちが一斉に振り向き、黒い短剣を構える。


「イブ、行くぞ!」


「はい」


---


 男たちが呪文を唱え始める。


「《闇よ、我らに力を──》」


「させるかよ!」


 俺は白牙剣を抜き、内功を練り上げ武功を発する。


「《九幽魔剣・影断》!」


 黒い斬撃が走り、呪文を唱えていた男の胸を貫いた。


「なっ……!? 斬撃が……飛んだ……!?」


 他の男たちが後ずさる。


「な、なんだその技は……! そんな攻撃、聞いたことが……!」


 敵の隙を見て即座にイブが前に出る。


「リンデ様の力です。覚悟してください」

「《天魔衝》」


 イブの拳から黒紫の衝撃波が放たれ、ローブの男たちを吹き飛ばす。


「リンデ様、右側をお願いします」

「任せろ!」


 俺は影を纏った剣を構え、突撃してくる男へ向けて技を放つ。


「《黒牙》!」


 斬撃が男を切り裂き、さらに影の牙が追撃する。


「ぎゃああああっ!!」


 男たちは恐怖に震えた。


「な、なんだあの剣……! 剣が……生きている……!」


---


 戦闘が終わると、中央の陣が微かに光り始めた。


「……リンデ様、罠だったようです。あいつらを生贄にした儀式が“自動起動”しています」

「止められるか?」

「はい。ですが──」


 イブは陣の中心を指差した。


「“核”があります。あれを破壊しなければ止まりません」


 黒い球体が浮かび、脈動している。


(……確かに嫌な気配だ。あれを壊さなくては)


「リンデ様。九幽魔剣の“貫通技”を使ってください」

「分かった」


 俺は深呼吸し、内功を闇へ変換する。

 刃先に“黒い点”が生まれた。


「……これが第五式……」


「はい。“貫通特化”の魔功です」


 俺は核へ向けて剣を突き出した。


「《九幽魔剣・魔穿》!!」


 黒い光が一直線に走り、核を貫いた。

 陣が崩壊し、黒い霧が霧散したとき、地下空間の空気が、急に重く沈んだ。


「……リンデ様。この空気……“異界の魔力”が濃くなっています」


 イブが眉をひそめる。

 彼女の天魔気が、微かに乱れているのが分かった。


(……イブでも気が乱れるるほどの力場とはな)


 天魔気は極めて純度が高く密度が濃い。

 それでもなお、異質な魔力による力の干渉を受けるということは、それだけの力場を発生させる実力のある者がいるかもしれないということだ。


 その時──

 コツ、コツ、と足音が響いた。

 闇の奥から、仮面の男が現れた。


「……儀式を壊したのは、お前たちか」


 男は俺とイブを見比べる。

 その視線は、まるで“未知の生物”を見るようだった。


「ふぅん、どちらも普通ではないな。気配が歪んでいる」


 気が乱れてもなお、イブが前に出る。


「リンデ様に近づかないでください」

「ふむ……お前は人間ではないようだが……見たことのない気配だ」


 男は首を傾げる。


「魔族でも、魔物でもない。だが……強いな。この地下で、未だこれほどの気配を保つとは」


 イブは無表情のまま答える。


「答える必要はありません」


 仮面の男は周囲の空気を指先でなぞる。


「ここは“異界の魔力”が満ちている。我らの儀式の副産物だ」


 イブが小さく息を吐く。


「……だから天魔気が乱れるのですね」

「イブ、大丈夫か?」

「はい。ただ……この空間では、広範囲技は使えません。リンデ様を巻き込んでしまいますし、気が思うように動きません」


(なるほど……本気を出せないのか)


---


 男の視線が俺の白牙剣に向く。


「その剣……黒い気が揺らいでいるな。魔術でも剣技でもない……何だそれは」

「教える気はない」

「だろうな。だが“未知の力”は実に興味深い」


 男が油断している今が好機。のんびり待ってやる理由もない。


「イブ、行くぞ!」

「はい!」


 俺は《影断》を放ち、イブは《天魔衝》で突撃する。


 だが──

 仮面の男は黒い霧を操り、いとも簡単に攻撃を逸らしてみせたのだ。


「……っ、攻撃が散らされる……?」


「リンデ様。この霧……“異界の魔力”です。天魔気と相性が悪いようです」


 イブの拳が霧に触れるたび、天魔気が微かに乱れる。


(なるほど……イブが押されているんじゃない。環境が最悪なんだ)


 男は楽しげに言う。


「この地下では、我らの術が最も強く働く。逆にお前たちの力は、ここでは鈍るんだよ」



 幸いなことに男は戦いを続ける気はないようで、霧を収めて後退した。


「儀式は壊されたが……まぁ、問題はない」

「どういう意味だ」

「“異質な力”が現れた。それだけで十分さ」


 男は俺たちを見つめる。


「塔の均衡は、もう揺らぎ始めている。……いずれまたどこかで会うだろう」


 そして霧に包まれ、仮面の男は姿を消した。



 地下での戦闘を終え、俺とイブはギルドへ戻った。ギルドマスターはすでに待っており、俺たちの姿を見るなり眉をひそめた。


「……戻ったか。顔色が悪いな。何があった?」

「恐らく塔破壊派の幹部と遭遇した」


 その言葉に、ギルドマスターの表情が一変した。


「幹部だと……?」


 すぐにギルドの会議室へ案内され、

 複数の幹部職員が集められた。


 重苦しい空気の中、

 ギルドマスターが口を開く。


「塔破壊派の幹部が街の地下に現れた。これは第四層全体だけでなく塔に関わる重大事だ」


 職員たちがざわつく。


「幹部が……? 信徒とは格が違うぞ……」


「街を狙っているのか……?」


「いや、儀式の規模からして……もっと大きな目的があるはずだ」


 ギルドマスターは俺たちに視線を向けた。


「リンデ、イブ。起こったことを詳しく話してくれ」


 俺は地下での出来事を説明した。


• 儀式の核を破壊したこと

• 異界魔力の濃度

• 仮面の男の術

• 幹部が撤退したこと



 説明を聞いたギルド幹部たちは、

 深刻な表情で沈黙した。


「……異界の魔力が街の地下に流れ込んでいただと……。そんなことが可能なのか……?」


「塔破壊派は第四層を利用して動いている。街の地下を儀式場にするなど前代未聞だ」


 ギルドマスターは腕を組む。


「そして……その儀式を止めたのが、この二人というわけだ」


---


 ギルド幹部の一人が俺を見た。


「リンデ殿。あなたは一体何者だ? 急に現れたかと思えば、武器製造に料理、それにその武力。並の新人では到底有り得ない」


「……説明は難しい。だが、敵ではないことは確かだ」


「未知の力、か」


 別の幹部が言う。


「塔破壊派の幹部が興味を示したのも、その“異質さ”ゆえだろう」


 ギルドマスターは静かに頷いた。


「リンデ。君たちは第四層にとって“重要人物”になった。これからも塔破壊派に狙われる可能性が高い」


 イブが即座に前に出る。


「リンデ様は私が守ります」


 ギルド幹部たちはその気配に息を呑んだ。


「……この従者もまた、常識外れの強さだな」


 イブは淡々と答える。


「私はリンデ様の従者です。それ以上の説明は不要です」



 ギルド会議が終わり、俺とイブはギルドの外に出た。

 夜風が冷たく、街の灯りが揺れている。


「リンデ様。第四層はしばらく混乱が続きます」

「だろうな。塔破壊派の幹部が動いたんだ。ギルドも、街も、落ち着くまで時間がかかる」


 イブは静かに頷く。


「ですが──リンデ様がここに留まる理由もありません」


「……そうだな」


 第四層でやるべきことは、ほぼ終わった。


• 儀式の阻止

• 幹部との初遭遇

• 九幽魔剣の習得

• ギルドとの関係構築

• イブの天魔気の制御

• 街の地下の浄化


 そして何より──


 塔破壊派の本拠地は、第四層にはないということが今回の調査で判明したのだ。


 ギルドを出る直前、ギルドマスターが俺に言った言葉が頭に残っていた。


『リンデ。塔破壊派の動きは、第四層だけでは収まらん。上層へ進むほど、奴らの影は濃くなるかもしれない』

『君が進むなら……“第五層”が次の焦点になるだろう』


 つまり──

 塔破壊派の本格的な動きは、第五層でも起こるということだ。



「リンデ様。次の階層へ進む準備をしましょう」


「第五層か……」


「はい。第四層は“異界の魔力”が流れ込み、環境が不安定でした。天魔気の制御にも悪影響があったのは誤算でした」


 イブは淡々と続ける。


「ギルドで調べた限り、第五層は、“塔の中層”の入口。魔物も、環境も、第四層とは比べ物になりません」


「……今より強くなる必要があるってことか」


「はい。リンデ様の魔功も、私の天魔神功も」


 イブは俺の白牙剣を見つめる。


「九幽魔剣は九式すべてを覚えましたが、“実戦での完成度”はまだ低い。次の階層で鍛える必要があります。そして私も天魔神功を本当の意味で使えるようになります。もう異界の魔力ごときで乱れることはさせません」


 俺は空を見上げた。


 第四層の空は、どこか淀んで見える。


(……ここに留まっても、俺は強くなれない)


 塔破壊派の幹部は、俺の力を“異質”と認識した。


 ならば──

 もっと強くなって、奴らの計画を根本から止めてやる。


「行こう、イブ。次の階層へ」

「はい!」


 イブは静かに微笑んだように見えた。

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