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最後への道

 死教は今着ているパワーアーマーを着れば、誰でも私のような力を手にできるようなことを言っていたが、開始早々裏切られた。


「おい!腕からガトリングなんて聞いてないぞ!」


 私は手の甲からガトリングなんて出ないし、ましてやあの武器を使ったことがない。映画で初めて見て以来、土方君に所持の許可を申請したが流石にロケットランチャーはよくてもガトリングもしくはミニガンは日本で持つには過剰火力と言われて泣く泣く諦めた。


 その威力をただ今直に味わっているが、瓦礫が盾として碌に機能しない。こういう時は弾切れを待つのだが、そろそろ動かなければ弾丸を防ぐものがなくなる、辛抱強く耐えれたとしても恐らくもう片方の腕にも何かある。詰みの一歩手前であるが一か八かの策がある。


 刀を抜き、コートを脱いで丸めた。それを別の瓦礫に向けて投げた。するとガトリングの掃射が別の瓦礫の方を向いて私の方ががら空きになった。囮が上手くいったようだ。私はすかさず駆け出し、パワーアーマーの右手を刀で下から上に切り上げた。堅牢さがいかほどのものか不明瞭だったので思い切り切り上げてみたが。


「想像以上だな」


 刀は半分のところで止まった。私の動きが止まり、死教も見逃さず私を左手で殴り飛ばした。いつもの防御の姿勢が間に合わずもろに食らって十メートルくらい飛ばされて壁に叩きつけられた。


 意識が朦朧とするなか見えたのは死教はパワーアーマーに刺さった刀を抜くといともたやすくへし折り、右腕をパージした。一矢報いたつもりだったが、すぐに死教の後ろから新しい右腕が現れてそれを装着した。もし、あれにガトリングが付いていたら私はまさに蜂の巣となるだろう。だが、頭を打ったのか思考が回らない。動きたくても動けない。


「さて、オリジナルを殺すには惜しいが今後の参考になりそうなデータは十分に手に入った。これを基にオリジナルを超えるアーマーを作るとしようか」


 死教が右手の手のひらを私に向かって構える。ガトリングではないようだが中心が光って見える。ビームかレーザー光線か何か発射するつもりだろうか。私は何年振りかの死を覚悟した。


 いつか


 バスでどこかを移動している。見覚えのあるような無いような不明瞭だが、少なくとも日本で見たことない荒野だった。両隣には死んだはずの父と母がいた。ということは私の幼い頃だ。何故ここにいるのか疑問だ。


「太陽、お前は大きくなったら何になりたいんだ?」


 父のその問いかけに私は自分の意思で口を開けない。すると自然と口が開いた。


「ヒーローになりたい。皆を守ったり、笑顔になれるヒーローに」


「ヒーローか。それは良いな。お前の名前にぴったりだ!」


 父が誇らしげに言う。母も続いて。


「お父さんがその名前を付けたのは、あなたが太陽のように皆を明るく照らす人になってほしいからなのよ。あなたが産まれる前からそう決めていたのよ」


「太陽、そうと決めたからにはお父さんは全力で応援するからな!」


 何故今になってこれを思い出したのだろう。いや、それよりもどうして忘れていたのだろう。私がなりたかったもの。この頃から私の意思は決まっていたのだ。もし天国があるなら父と母は間違いなくそこにいるだろう。そして天国があるなら父と母はなんと思うだろうか。


 現在


「情け無いよな……こんなところで……お前なんかにやられるようじゃ……太陽の名前が聞いて呆れる……!」


 先ほどの昔の夢を見た後、意識が徐々に回復きた。直後右手から光弾が放たれた。


「終わったな。なんとも惜しい。実に惜しい」


「そんなに名残惜しいのか。なら、もう少し付き合ってやるよ」


 光弾が私に直撃する前に、死教の後ろにまわっていた。すると左手の甲が裏拳の如くこちらに振られた。私はそれを避けることなく、ただ、埃やゴミをはたき落とす要領で当然と言わんばかりの所作で左手を払うと当たった瞬間死教の左手が粉々に吹き飛んだ。


「なっ!?」


 大きな隙が生まれたところで私はパワーアーマーの死教がいるであろう胸部に蹴りを入れた。すると死教はパワーアーマーごと先ほど私が叩きつけられた壁に吹き飛ばされた。


「な、なんだ……このパワーは……!どこにこんな力が……!」


 私はマテバを取り出して死教に近づいた。壁から落ちた死教もすかさず反撃しようとする。私にはその動きがゆっくり見えたため冷静に振り下ろされようとしてきた右手、次に左手をマテバで吹き飛ばした。そして今度は凹んだ胸部に撃ち込むと隙間が出来上がりそれを剥がした。


 そこには恐怖に歪んだ顔の死教が開けた途端銃を撃って来た。左肩に被弾したが私は気に留めることなくパワーアーマーから死教を引き摺り出した。部屋の中央に跪く死教に私はマテバを突き付けた。


「俺が最初に起こした爆発とお前がやたら無闇にガトリングを撃ったのと二回も壁にバカみたいな衝撃が走ったせいかここも崩れ始めそうだ。お前に今一度チャンスをやる。大人しくお縄につくか、俺に肉片も残らず吹き飛ばされるか」


「私の……負けだ……」


 そう言って死教は脱力したようだった。しかし私はマテバをしまうのを辞めた。


「悪いが、後顧の憂いを絶たせてもらう」


 私は二重の意味で謝罪した。一つはこの死教が命乞いしたにもかかわらず私が始末するのに変わりなかったこと。もう一つは榎本君にとって重要な証拠を持っているであろう容疑者を始末してしまうことだった。そして私は何のためらいもなく大口径のマテバを死教の頭に撃ち込んで、ピンクの霧を見届けた。


 数日後


 私はこの日、地元最強の駒宇良ガーデンにやってきた。そうデートだ。と言ってもやることは瀬奈の服を見立てたりする買い物だが、互いに時間を示し合わせているのだから世間一般ではデートと呼ぶのだろう。


「太陽さん!お待たせいたしました」


「いや、俺もさっき来た。というか、一緒に住んでるんだからなんで別々で行こうなんて言ったんだ?」


 そう、冷静に考えれば私と瀬奈は同居。プラス小神子もだが。なので一緒に出た方が一緒にいられる時間が増えるというものだ。


「こういうの如何にもデートっぽくって良いじゃないですか。それに、太陽さんの事なので何十分か前に来ても、さっき来た。って言うのはわかっていました」


 どうやらこのデート、瀬奈に主導権を握られそうだ。


「それで、どこから行く?」


「服を買いに行きましょう」


 とある服屋


「相変わらず高いな……」


「これでもお手頃な値段です。高いものはもっと高いですし。私はあまり汚したくないので手を出しませんが。太陽さんの服もメンズ基準で考えればこのくらいだと思いますよ?」


 私もあまり高価な服を着ない。というかこの駒宇良ガーデンは高価で派手な服は取り揃えていない。かといって露骨に上品ではなく、あくまでどこかにお出かけするのにちょうどいい服を揃えている店が多い。


 瀬奈が色々見ている中、私も適当にデザインや値札を検分してみる。以前外出が出来なくて衣服の類を通販で買っていた時にも思ったのだが、相変わらずレディースの服は高いと思った。おしゃれに敏感な思春期の女性が金に執着する理由もわからなくはない。


「瀬奈って昔からよくこういう店に来るのか?」


 好奇心で聞いてみる。


「たまにですが来ますね。友人と来ることもありましたし、一人で来ることも。ただ、今日みたいな日は初めてです」


 私は以前に小神子と一度だけある。とは言えない。よくわからないが言ってはいけないような気がする。いくつか服をかごに入れて瀬奈と私は試着室に向かった。


「じゃあ着替えますから、感想聞かせてください」


「ああ」


 そう言ってカーテンが閉まると中から布がこすれる音と、瀬奈の鼻歌が聞こえてきた。瀬奈にとって今という時間が楽しいものだと考えると私の心持も大変愉快になった。


「太陽さん、良いですか?」


「ああ」


 準備ができたようなので返答するとカーテンが開かれた。白のワンピースが輝いていた。実際ワンピースにラメとかは無いのだが、私にはそう見えた。


「ど、どうですか?」


「良い」


 たった二文字。私にはそう言い表すことしかできなかった。


「すまん、それしか言う言葉が見つからない。もう一文字足しても、キレイだ。それしか出てこない」


「ふぇ……!?えっと、じゃ、じゃあ次です……」


 久しぶりに瀬奈の情け無い声を耳にできたが、私としたことがこんなことしか言えないなんて。そもそも女性の服をあれやこれや言うこと自体皆無だ。以前小神子が私の気を引くためかミニスカートで下着を履かなかったときは流石に苦言を呈したくらいだし、小神子より前の関係のある女性でもエミリアはずっと修道服だったし、理子はファッションセンスが最悪なため参考にならない。


「た、太陽さん……これはどうですか?」


 今度は普段私が着ているような革ジャンを着ていた。下も皮っぽいミニスカでさっきとは打って変わってクールだった。


「やっぱり瀬奈ってなんでも似合うよなぁ」


「そ、そうですか?」


 そう言ってまた別の服に着替え始めた。確かあと二着ほどだったか。何が来ようとも瀬奈のことだから似合うに決まっている。そう思っていた。


「こ、これなんかどうですか?」


 ノースリーブで瀬奈の双丘がはっきりと見えて、尚且つ下はショートパンツという肌色が多く見えている服装のあまり私は


「エロ」


「エッ……!?」


 そして目にも止まらぬ速さでカーテンが閉められた。私は思わず失言をしたことを謝罪する。


「せ、瀬奈。不快に思ったならすまない。けど、はっきり言うとそのスタイルは瀬奈には合わないと思うんだが……」


「い、いえ……私もそう思ってましたので……」


 さて、これが今後にどう響くのだろうか。落ち着こうにも落ち着かなかった。


 カーテンが開けられると瀬奈は元の服装に戻っていた。瀬奈の顔は赤い。


「き、決まったのか?」


「は、はい。全部買います……」


「全部?良いのか?」


「はい、あの服は天道さんの前だけで着ようと思ってます」


 それで良いのかと思った。それに加えて私はもう一つ疑問を持っていた。


「そういえば、もう一着あったような。あれは着なくていいのか?」


「はい。太陽さんの選んでくれた服は、着なくても素敵だと分かりますので」


 選んだ自分からすると着て欲しいのが本音なのだが、瀬奈の感覚を信じて言わないことにした。


 会計を終えてやって来た瀬奈の手には買った服の袋を二つ持っていた。


「なあ瀬奈。どっちか持たせろ」


 そう言って半ば無理矢理一個持った。


「た、太陽さんって時々大胆になりますよね……」


「……今のは俺が手ぶらなのに瀬奈ばかりが荷物を持ってると男が廃ると思ったからだ。瀬奈にとっては大した荷物じゃないかもしれないが」


 実際瀬奈は米俵を楽々と運んだり、少し大きな棚や冷蔵庫とかも汗一つかかずに運べるのを見て身体能力は私をも凌駕しているのではないかと思う時がある。なので瀬奈の荷物を持つ必要は無いのだが、そうしなければと思ったのだった。


「で、次はどこに行くんだ?」


「次は眼鏡を見に行ってもいいですか?」


 とある眼鏡屋。


「瀬奈って眼鏡してたっけか」


「いつも講義の時にかけてます。そういえばシークや太陽さんの前ではかけたことありませんでしたね。特別目が悪いというわけではないのですが」


 私もメガネをかける時がある。主に細かい字を見たりする時に使うのだが。


「太陽さん、どちらが良いと思いますか?」


 瀬奈が見せて来たのは二つのメガネ。一つは黒で縁が少し大きい。もう一つは銀色でフレームが細いものだ。


「俺は普段黒い方を付けてるから、銀色の方がいい」


 私は銀色のを手に取って瀬奈にかけた。黒い方はどちらかというと顔の大きめの人間にかけた方がよく似合う。銀色のは知的に見えて瀬奈の印象が良くなる。


「よく似合ってる」


「そ、そうですか?」


 他に瀬奈に似合いそうなメガネがないか検分した。


「にしても色々あるな。おまけに安い」


「そういえば太陽さんもメガネをお持ちでしたね。あれはいくらくらいしたのですか?」


「確か二万ほどだったかな」


「に、二万!?」


 私のメガネは特に何か特殊な機能もないなんの変哲もないメガネだ。メガネ一つにそんな金をかけるなんて普通はしないのだろうが、私としては普段使いするものなら少し金をかけたって良いと思っている。


「メガネ如きでそんなかけるのはおかしいのだろうが、どういうわけかどうもそうなってしまった。お、それにするのか」


 瀬奈は何度か黒と銀を試着して、銀を選んだ。店を出たところで時間はあっという間に過ぎていたのがわかった。もう昼時だった。


「そろそろ昼にするか」


「はい、どこに行きますか?」


「実は昼は作って来たんだ。今日は天気が良い、屋上に行こう」


 屋上


 駒宇良ガーデンの屋上はその名に恥じず、芝生や花が多く植えられている広々とした空間だった。祭日にはよくアーティストがライブを開いたりしているが、今日は平日なので、人は多くなかった。ベンチに弁当を広げて隣の瀬奈に手渡した。


「いただきます。……あ、たこさんウィンナー」


「好きだな、それ」


「はい、大好きです!」


 大学に行く瀬奈にたまにだが弁当を作る時がある。その際必ず入れるのがだし巻き卵とたこさんウインナー。


「いつもと変わり映えしない弁当なのに、美味しく食べるな」


「太陽さんのお弁当は美味しいですから。美味しいものはいくら食べても飽きません」


 その気持ちはめちゃくちゃわかる。私が自炊に目覚める前はジャンクフードばかり食べていた。手軽に食べれるからというのもあったが何より美味しかったからというのもあった。


「太陽さん、聞いても良いですか?」


「なんだ?」


「こうしてデートができるということは、仕事がひと段落したってことですか?」


 デートの前に私は約束した。今やっている仕事がひと段落したら必ずデートをすると。その仕事というのが打倒死教だった。そして死教がいなくなった今、あとのことは榎本君や理子に任せてあるので私はこうしてデートに興じることができた。


「まあな。当面これといった依頼もないから久しぶりにゆっくりできる」


 少し前までマゼンタだの紅研だの死教だの考えていたのが嘘みたいに今は何も考えていない。強いて言うなら瀬奈との将来設計くらいか。


 昼食も終えて、再びガーデン散策が始まった。


「そういえば、太陽さんは何か買わないのですか?」


「俺?今日は瀬奈のことしか考えてなかったから、予定にないな」


「じゃあ、一緒に本を買いに行きませんか?太陽さんも本好きでしょ?」


「本か。良いな、行こう」


 とある本屋


 私と瀬奈は主に文庫本の棚を見て回った。瀬奈は現代小説、私は時代小説。


「太陽さん、これ面白いですよ」


 瀬奈はいくつか私におすすめの本を紹介して来た。私も負けじと時代小説を勧めた。特に、個人的に時代考証が良くできた作品を。その方が瀬奈が将来作るであろう卒業論文にも役立つだろう。まあ何を書くかは瀬奈の自由だが。


 一通り買う本を持って、ついでにいろんな本棚を見て回った。すると哲学とかエッセイの本棚にやって来て瀬奈が聞いて来た。


「そういえば太陽さんの蔵書を見て思ったのですが、太陽さんってこういった、人生こうすべきとか、自己啓発本ってありませんよね」


「俺はこういった本が苦手でな。だいたい言ってることは同じだし、ほとんどの教えがすでに俺の知ってるものだからな。それにこういったものは読むより、自分の目聞きで感じたことが一番だ。最も、作者はみんなそれのおかげでこういったものを書いたのだろうが」


 私の子供は本を読むだろうか。もしそうならこういった自己啓発本に耽らず、自分をよく理解して育ってほしい。


 時間を見ると夕方になっていた。


「帰る前に少し寄りたいところがある。車で行こう」


 そう言って私は車に瀬奈と荷物を乗せてある場所に向かった。先に断っておくが、いつも私が行っているお気に入りの公園ではない。逆の方向だった。


 ある場所


「夕日が綺麗ですね」


 駒宇良浜にやってきた。それも夕日がよく見える場所に。


「ああ。良い眺めだ」


 瀬奈を見るとその目は輝いていた。ここで私はある告白をした。


「瀬奈、俺がこの前終えた仕事っていうのは例の死教関係のことだ。といっても俺が八割くらいやって、今は榎本君や理子に託した。遅かれ早かれ紅研もそれに関係した人間も審判がくだるだろう。だから、これからは一緒にいられる時間が増える。だから今すぐは難しいがそのうち……」


 すると私の膝から上にかけて力が急に抜け始めた。


「太陽さん?」


 次に意識が遠のいていった。私を心配する瀬奈の声も遠のいていった。


「太陽さ……ん……!……陽さん……!!」

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