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友の符合

 数日後


 あれから私は久坂の所から持ち帰った資料と、奴が最後に残した駒宇良のグラウンドゼロという言葉を照会して思考に耽っていた。残念ながら資料を見てもグラウンドゼロというキーワードは出てこなかったし、関連する情報も無かった。


 ーーマスター、理子様がお見えです。


 集中力を切らして椅子をぐるぐる回っていた私だったが理子が来てくれたのは好都合だった。ちょっとした気分転換という意味で。


 オフィス


「久しぶり、太陽君」


「しばらくだな、理子。あれから土方君とはどうだ?」


「そう……誠君とはそれなりに……っていうのは嘘。相手が総理って思うとやっぱり気が引けるわ。今だって誠君って言うと寿命が縮むかと思ってしまうし」


 まだまだ彼女らの関係が柔らかくなるには時間がかかりそうだ。


「それで、話ってなんなの?」


「実は頼まれごとをしてもらいたくってな。本当はお前のとこに頼むんじゃなく、外務省の方に頼めばいいのだろうが」


 私は事の詳細を伝えた。


「私の方で打倒大海東を任せる?それ本気なの?」


「本気も本気だ。それにこれはお前にしか頼めない。それに大海東はお前たちにも浅からぬ因縁がある。形としては悪くない」


「だとしても、あなたの方でどうにかできないの?」


 それが出来なくなったから、というのが本音だ。


「そうしたいのは山々なんだが、のっぴきならない事情があってね。それに、大海東のような海外資本が裏で国を脅かす行為をしていたとなると、それこそ国の出番だ。ましてや世界唯一の被爆国がまたもやその脅威に晒されているとなると親日国も黙っていない。明らかにこちらに義がある。いつもみたく俺が本家に乗り込んで血祭りにあげるのは形が良くない」


 私のそれらしい理由を並べて理子に説得を図る。すると理子がため息を吐いた。


「あなたが決めたことなら、良いわ。やってあげる。それになんだか楽しそうだし、国防に関係ない人間が、陰ながら国防に殉ずる。面白そうだし」


 一応自身の生死に関わることなのにこの調子なので私もため息を吐いた。


「まあいい。実は少し前から土方君にも話しているから……」


 私が最後まで言う前に、理子がコーヒーを盛大に私に吹き出した。


「あなた……仮にも総理に……」


「お前が陰ながら仕事の補佐をしてるの知らないとでも思ったか?それに、どっちみちどちらかが知ることになるんだ」


 理子は怪訝そうな顔で私を見ていた。一応私にコーヒーを吹き出したという罪悪感は無いのかと思ってしまう。


 するとまたシークの扉が開いた。


「こんにちわ、天道さん」


「榎本君、おひさ」


 今日は非番の榎本君がやってきた。珍しい組み合わせがこの場に揃ったものだ。


「榎本君、この人は真田理子。俺の……親代わりの人だ」


「初めまして、真田理子です。いつも太陽がお世話になってます」


「榎本遥です。こちらこそお世話になっています」


 私と違って立派な社会人、ましてや公務員同士の名刺交換をしている。榎本君はともかく、理子はオンオフの差が風邪をひきそうなくらい激しい。


「か、官僚!?」「け、刑事さん!?」


 名刺交換をして互いが互いの役職に驚愕していた。


「「い、いつもご苦労様です……」」


 公務員同士シンパシーを感じるのだろうか息ぴったりだった。


「それで、榎本君。話に入って良いかな?」


「あ、失礼しました。どうぞ」


「この前の爆発の件と瀬奈奪還の件。両方紅研の所長が関わっていたんだが、もう一人上の人間がいるんだ」


「ちょっと待って太陽君。瀬奈奪還ってどういうこと!?」


「後で話すよ。こいつだ」


 私は一枚の写真を榎本君に見せた。それは死教がはっきり写っている写真だった。


「こいつが一連の黒幕。久坂の上から指示していた人間だ。本名はわからないが、死教と呼ばれている」


「この人は天道さんと何か関係がある人間なのですか?」


 さすが榎本君といった具合。相変わらずの警察官根性極まれりといったところだ。


「俺が少年兵だった頃の上官みたいなものだ。会った記憶はないが。なんでも、俺のDNAを使った兵士を量産して過去の栄光の軍隊を再興させたいんだと。暇なんだろうな」


「じゃあ因縁の相手というわけですね」


「そうだ。だが、死教一派を取り締まるのは榎本君らに頼みたい」


 それを聞いて榎本君が腕を組んだ。何か考えているようだった。


「天道さん。あなた、死教を殺したいのですか?」


 なるほど、そうきたか。


「奴の出方次第だが、そうだなぁ……うん、殺したい。奴は充分駒宇良の脅威だ。だが、それを止めるためには生かそうが殺そうが変わらない気もする。そう思いつつある。もし、生かそうとなった時、榎本君達が動いていたら何かと都合が良いだろう。それに、駒宇良の脅威をどうにかしたいのは榎本君も同じだろう」


 相変わらず榎本君は腕を組んでいる。すると彼女の電話が鳴り始めた。「失礼」と言って少し離れた場所で対応した。内容は聞こえなかったが驚くような声が聞こえた。電話を終えてとても訝しげな顔をしていた。


「先ほど私の上司から連絡があって、政府からある人物とその組織の捜査をしてほしいと要請されたそうです。話を聞くと、偶然にもこの写真の人物でした。天道さん、あなた何か動きました?」


 実は動いた。先ほど理子に話す以前に土方君にも話していた。それが回り回ってこうなったのだろう。


「榎本君、俺が政府にコネがある人間に見えるか?」


 そう言うと、理子が軽く吹き出し笑いをした。そうして榎本君はジト目になっていた。


「今目の前にいるじゃないですか。わかりました、上司からの命令もありしたので、捜査しましょう。いくつか資料を拝借できますか?」


 私は自分の机に向かい、引き出しから厚くなった封筒を出して、榎本君に渡した。


「俺の知る限りの情報だ」


「私も見せて」


 理子が資料の一部を見た。どちらにせよイエローにも死教が関わっているので見ておいて損はないだろう。


「ありがとう。それにしてもあなたの周りの人物、女性しかいないと思うのは気のせいかしら」


 理子以外の人物からたまに言われる。前にもシークの誰かに言われたような気がする。


「気のせいだろう。現に土方君がいるわけだし」


「土方君だけじゃない。シークにしたって私にしたって、この榎本さんやプロデューサーの沖田さんだって。そうは思わない?」


 言われなければ考えた事ないので私は首を横に振る。


「あなたと瀬奈の関係が心配になってきたわ」


 そう言われると原因がどうあれ私も心配になってくる。私は瀬奈に一途のつもりだが、瀬奈の方はどうだろうか。告白も私が一方的に言ったようなものなので彼女の本心はと聞かれたらその答えを聞くのが恐ろしくなる。


「それは……」


 続きを言おうとすると榎本君が肩を叩いてきた。


「ひとつ聞きたいのですが天道さん。この人の居所はわかっているのですか?」


 一番の問題が私に戻ってきた。


「それが一番の謎なんだ。久坂は最後に駒宇良のグラウンドゼロと言っていたんだが、この前渡した資料を見ても何にもわからなくてな。今の所手詰まりだ」


 ここ最近調子が良かったのにここに来て以前と同じ、進展なしの状態となった。せっかくここまで進めたのだからもう少しほしい。


「グラウンドゼロ……冷静に考えれば爆心地といった意味がありますね」


 すっかり本職モードの榎本君が冷静に言った。


「駒宇良の爆心地?太陽君、もしかしてうちの事じゃないかしら。ほら、この前の」


 理子が言っているのは中央省庁がイエローこと大海東によって核攻撃を受けそうになった事件のことだろう。


「俺も真っ先にそれを考えたんだが、ありえない話ではないと思った。が、もし省庁にいる人間の目を掻い潜って何か活動してるなら土方君が連絡するはずだ」


「あ、確かに」


「天道さん。その土方君っていうのはどのような人物なのですか?」


「俺が誰よりも全幅の信頼置いてる人物だ。あいつなら俺の命を預けれる」


「そうですか。天道さんがそこまで言う人なら何も言いません。けど、また謎になりましたね……」


 私の中で日本でも五本の指に入るほど優秀な公務員二人と一般人が悩む空間。何か出てきそうで出てこない。どうしたものかと悩んでいると。


「天道くーん!」


 噂をすればなんとやらと言うのを初めて経験したかもしれない。私にとっては久しぶりにシークに土方君がやってきた。


「お、土方君」


「「土方君!?」」


 私はさも友達が家にやってきた時の感覚で、二人は何故ここにいるのだという声だった。強いて違いを言うなら理子は何故土方君がと、榎本君は何故総理大臣がと。


「仕事はどうしたんだよ」


「近くまで来たから寄ってみた。あまり長居するつもりはないよ。こちらの方は?」


 そう言って榎本君の方を見た。互いに関わりがないわけではないがこうして会うのは初めてだろう。まあそれが当たり前か。すると榎本君は勢いよく立ち上がり綺麗な姿勢で敬礼をした。


「駒宇良警察署捜査課巡査の榎本遥です!土方総理とこのような場でお会いできて光栄の極みです!」


 私は思わず一笑してしまう。知らないとはいえ土方君にはあまりにも硬すぎる挨拶で彼が困惑してしまうと知っているからだ。


「お手前は初めてではありますが私はよくあなたのことを存じております。スロトでは外務大臣の息子の救出作戦の指揮を取り、最近では違法な人体実験をしていた研究所から何十人と救出したそうな」


 無論、その裏で私が動いていたことを土方君は知っている。私の名前を出さないのは、私が称賛や名誉といったものに興味がないためである。そして土方君はそれを理解しているため、もう一人の後見者に送ることにしたのだ。


「そ、それは私ではなく……」


 私におはちが回ってくる前に私は話題を変えることにした。


「せっかく来てくれて一つ聞きたいんだが土方君。グラウンドゼロという言葉を知ってるか?」


「知っているとも。それがどうかしたのか?」


「悪い奴らのボスにたどり着く鍵が駒宇良のグラウンドゼロっていうキーワードなんだが、どうにも行き詰まってだな。是非土方君の意見を聞きたい」


 土方君の考える姿勢。両手を両脇に挟む姿勢をとった。


「普通に考えるなら、爆心地、直訳するならゼロ地点。しかしもっと別の意味があるなら」


「暗号、もしくは意訳か」


 ここからは私と土方君の流れとなった。


「駒宇良は過去二度目の大戦では空襲を免れ、以前の核攻撃は未然に防がれた」


「となれば、やはり爆心地の意はなし。なら直訳か」


「ゼロ。つまり全ての始まり」


「駒宇良の始まり……」


 すると私の頭の中で全てが符合したような、頭がスッキリするような感覚となった。


「「港か!」」


「「港?」」


「駒宇良は黒船来航以来港を開いて積極的に異国の文化を吸収してきた、駒宇良の名産が酒と洋菓子になったのはそれからだ」


「酒と洋菓子が駒宇良の始まりならその元となった港をグラウンドゼロと言うことも無理な理由ではない」


「「符合した」」


 このやり取りも久々である。


「さて、どうする天道君?」


「すぐにでも突撃したいところだが、榎本君。場所はわかった。あとは奴の周辺を固めて言い逃れも、物理的逃走も出来ないようにしてくれ。理子は土方君と大海東との策を練る。あくまで大事に備えての下準備だ。それまで暴発や突出は厳禁とする。質問は?」


「異議なし」


 は土方君。


「あなたはどうするの?」


 理子が聞いてきた。


「俺は野暮用だ。最後になるかもしれないから少し色々済ませておきたい。最後かもしれない、ここにいる人間、それくらいの気持ちで臨んでほしい」


 榎本君は珍しく質問はなかった。


「良し、じゃあ解散としよう」


 私がキッチンに移動すると理子が付いてきた。


「どうした」


「さっきの瀬奈を奪還したって話。聞かせてくれる?」


 理子の言葉に圧のようなものを感じたせいか私に悪寒が走った。

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