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月の奪還

 地下二階研究所


 ダクトから抜けてどこかの一室に降りるとそこはまた倉庫のような感じであった。降りてすぐ人の気配をしたので注意深く見ると一般職員のような様相の人物がいたので後ろから首を絞め落として気絶させ身ぐるみを剥いだ。サイズはぴったりだ。その他に社員証、端末を二つ拝借した。


 まずは私の携帯と端末を接続して情報も拝借した。sakiでも見れなかった地下二階からの見取り図、この職員の名前、役職、ここ数日の研究レポート、マニュアルが手に入った。


 所長通信


・検体一七◯一、仮称香蛍瀬奈は最重要被験体として指示あるまで屋内で管理。抵抗されても殺処分等危害を加える行為は控え、気絶に留めよ。


・検体奪取を図る勢力が確認されているため各自リストをチェックすること。


・上記のリストの人物を確認した場合すぐに警報を鳴らし警備員が来るまで可能な限り動きを拘束すること。


 ある程度頭に入れて外に出ると目が眩むくらいの照明と白一色の壁と床が広がっていた。瀬奈が囚われている場所は依然として不明だがもし他に囚われている人間がいるなら放ってはおけない。幸いな点が二つある。一つはこんなこともあろうかと私がマスクを持っていたこと。一つは社員証に顔写真が付いていないこと。一周回って都合が良すぎて怖いくらいだ。


 館内図を見ていると小さい小部屋が並んだ部屋を見つけた。もしかしたらそこに瀬奈がいるかもしれない。ので、私はそこに向かった。


 第三ルーム


 中に入ってみた所感はまるで牢獄とペットショップのケースを足して二で割ったような感じだった。清潔感こそあれど、中に入れられている人間の扱いは動物。それも施設のことを考えると実験用の。一つ一つの部屋に番号と名前があったので一つ一つ検分した。一番奥の部屋に差し掛かったところで瀬奈の名前を見つけたが、そこに本人はいなかった。仕方ないのでマイク越しではあるが隣人に聞いてみよう。


「そこの君。隣にいた人はどこにいったかわかるか?」


「連れて行かれた」


 俯きながら淡白に答えられた。


「どこに?」


「多分、教育室」


 私はすぐさまスマホで場所を確認すると地下三階にその部屋があるのを見つけた。


「ありがとう、もう少しの辛抱だ」


 私はそう言い残して地下三階に向かった。


 地下三階 教育室


 私は入るや否や丸いテーブルに拘束されている瀬奈の姿を確認した。そしてマテバを取り出してその周りにいる同じ白衣の男女を撃った。


「安心しろ。殺しはしないが痛い目を見てもらう」


 そしてそこには久坂の姿も見えた。


「ただし久坂。お前はダメだ」


「た、太陽さん!?」


 久坂が私を視認して薄ら笑いを浮かべるのを見て私の腑が煮えくり返りそうになった。


「よくここがわかったね天道君。素直に敬意を表するよ」


「優秀な部下のお陰だよ。俺からの要求は一つ。無条件で瀬奈を返せ」


 当然そんな約束を通すほどこの男はバカじゃないだろうが。


「それは困るね。彼女は最も優秀な検体なんだ。みすみす手放すわけにはいかないよ。おっと、怒ってるかな」


「当たり前だろ。別に俺は瀬奈が置き手紙を残したからとか、勝手に辞めるとか言ってることに怒ってるんじゃない。労働基準法無視して強いて言うなら、あんなものは到底退職届として受け入れられないし、はなから受理するつもりもない」


 監督署が聞けば黙っていないのだろうが。


「それに俺らしくないことを言うぞ瀬奈。たとえ天と地がひっくり返っても瀬奈、お前は俺のものだ。俺の断りなく俺のもとから離れることは言語道断だ」


 もしこの場で誰か録音していて、後で聞き返したら恥ずかしいと思うセリフだがどうでもいい。何故なら久坂は薄ら笑いからゲラゲラと笑ってまたもや私の逆鱗に触れていたからだ。


「いやあ……熱烈なプロポーズを聞かせてくれてありがとう。君がどうしてもと言うなら……」


 そう言って久坂は指を鳴らすと久坂のいた両端の扉から二体の三メートルはありそうな人物、いや、右手が象の牙の二倍はありそうな爪が三つ付いてる時点で人とは言えないか。


「生体兵器か」


「よくわかったね。死教くんに貸し出したものより戦闘寄りに改造したんだ。君が初めての実地試験になることを光栄に思うと良いよ」


 さて、どうしたものか。今私が持っている装備はマテバとサバイバルナイフしかない。あのカスタムガバメントを持ってくるべきだったと少し後悔する。しかし、そう言っている間に二体がこちらに近づいてくる。


「太陽さん逃げて!!」


 右側から爪が振り下ろされた瞬間、その腕を掴むと見せかけて左手を相手の手首にあたる部位に、右腕を相手の肘に回して精一杯の力で関節を外した。続け様に外れたところを狙って手刀で右腕を切り落とした。それを、相手の首に横一文字に振るうと思いの外あっさりと首が切れた。


「まずは一体目。ついでに……おらぁ!!」


 普段ならあまり出さない声を上げて切り落とした右腕をそのまま久坂に投げ付けると流石の奴も予想外だったのだろう反応できずそのまま腹に突き刺さり、串刺しにされた。


「さて、どうするか」


 そう言って試しにマテバで頭を撃ってみた。一応直撃はしたが頭蓋まで届かなかったのか、全く効果は無かった。残された手段はナイフ等の近接格闘だが、マテバを通さなかった相手かつ三メートルの筋骨隆々の生体兵器には少し分が悪い。


「しのごの言ってられないよな」


 ナイフをしまって私は拳を思い切り握りしめた。いつもより強く。本気で。また、爪が振り下ろされたところを左に避け、その勢いで本気で握り締められた拳をカウンターの要領で心臓があるであろう部位に打ち込んだ。すると怯んだ。効果ありということか。その隙を見逃さず、首、鎖骨、横腹等急所になり得そうな部位をすかさず拳を撃ち込んだ。


「頼むからこれで終わってくれよ」


 そう祈りながら、右手を突きの形にして喉元に目掛けて勢いよく貫いた。グローブも白手も何もしていない状態でこれをやるのは気持ちが悪いため普段なら絶対しないのだが仕方ないと割り切ってやった。すると流石に出血多量なのかその場で倒れた。


「うわ汚ね」


 そう言って右手を払いながら瀬奈の元に向かった。


「大丈夫か、瀬奈?」


「太陽さん……!ごめんなさい……!」


 私の顔を見るなり瀬奈は号泣した。手足の拘束を解いて瀬奈を自由にすると、思い切り抱きしめられた。


「良いんだ。無事で良かった。瀬奈、他に捕えられている人間を見た。お前はそいつらと一緒に先に脱出していてくれ」


「太陽さんは?」


「あいつに用がある」


「……わかりました」


 涙を拭った瀬奈にマテバを渡して、私は串刺しにされた久坂に近づいた。


「何の因果か。お前と同じ名前の歴史上の偉人も最後は腹を切ったそうだ。教えろ、死教はどこだ?」


 出血多量でもう息も絶え絶えの久坂が答えれるとは思えないが一応聞いた。


「駒宇良の……グラウンド……ゼロ……そこに奴はいる……」


 そう言って久坂はぐったりと息を引き取った。別に施設が自爆するわけでもないので、私は久坂のカードを奪い取って周辺を探索した。と言っても見取り図ではこの教育室と小さな部屋しか無いのだが。


 とある一室。


 部屋の両側面には何かのファイルが保管され、部屋の中央には上座と下座。その奥にはPCとデスクというなんともシンプルな部屋であった。逆に何か隠してそうな気がしてならなかった。だいたいこの場合に多いのはと考えながらファイルを触ったり軽く叩いてみたりした。一つだけ音の違うものを見つけて引っ張って見るとビンゴであった。上座と下座が引っ込められて新しいパネルが出てきた。


 一応久坂の社員証は持っているがもし本人の声紋、掌紋、網膜などセキュリティがあれば詰み。というわけでは無いし、見れるならすぐにゆっくり見たいが早く瀬奈と合流したいのでパネルとついでにPCのデータを抜き取ってその場を後にした。


 センターから少し外れた場所


 地上に出てようやく無線が使えるようになってから私は榎本君に連絡した。


「俺だ。やっぱりここがそうだった。ターゲットは無事救出。他にも囚われている人間がいるかもしれない。保護してやってくれ」


 ーーわかりました。天道さん、ご苦労様でした。


「ああ、ありがとう。以上」


 そう言って無線を切るといつのまにか後ろに瀬奈が立っていた。


「太陽さん。私……あいたっ!?」


 私はとりあえず瀬奈の頭に軽くデコピンをした。普段かぐやにやっているのより遥かに弱いが痛いものは痛い。


「二つだけ言いたいことがある。仮にも社長である俺に何の断りも相談もなく、一人で勝手に危険に飛び込んだこと。小神子とかぐやが心配していたぞ。最後に一つ。無事で良かった」


 今度は瀬奈の頭を撫でた。相変わらずサラサラの髪だった。そうこうしていると榎本君の乗った小型、大型車両が駆けつけるなり見知った顔ばかりセンターの中に入って行った。その最後尾から榎本君がやってきた。


「ちょっと多いな。榎本君」


 一応敵の本丸なので全員突入というのもわからないでもないが、過剰戦力のように感じたが敢えて突っ込まないことにした。


「お二人ともご無事で何よりです。あとは私達にお任せください」


「ああ、よしなに」


「榎本さん。少し離れた場所に囚われていた人が隠れていますので迎えに行ってください」


「わかりました。すぐに手配させます」


 榎本君は無線を操作して何かを伝えると、再びセンターの中に向かって歩き出した。すると私達を過ぎてから急遽振り返った。


「そうそう、あの二人も一緒に来たいと言っていたのですが、お邪魔でしたか?」


 あの二人。そう言われて思いつくのはと考える前に小神子とかぐやが榎本君の車の後部座席から飛び出してきた。


「「瀬ー奈ー!!」」


 そう言いながら瀬奈に一直線に突撃してきたので私は反射的にそこから避け、瀬奈は二人に襲われていた。


「す、すみません!もうしませんから!た、太陽さんも笑っていないで何とかしてください!」


 私はその様子を笑いながら見ていた。二、三分くらいしてから二人を瀬奈から引き剥がした。


「そろそろ良いだろう二人とも」


「太陽、お前は良いのか?今なら胸くらい揉ませてもらえそうだぞ」


 一瞬手を出しそうになったが、グッと堪えた。


「まあそれはいつかの機会にとっておくさ」


「「えぇ!?」」


 小神子と瀬奈が驚いた。瀬奈に至っては自分の豊満な双丘を庇うかのような姿勢をとったが、腕で押し付けられたそれからはみ出して見える部分を見てやはり柔らかいのかと思った。実際何度か抱擁を受けた時、その言葉にできない感触には感嘆しかない。


「冗談だよ」


「じょ、冗談でも今はやめてください……」


「ふっ、すまんすまん。それよりもう夕方だし、どこか食べに行こう。瀬奈、どこか行きたいとこはないか?」


「久しぶりに皆さんで焼肉に行きましょう!」


「「「異議なし」」」


 満場一致で夜は焼肉に決まった。

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