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誠の気持ち

「あの……太陽さん。それってどういう意味ですか?」


 私の言葉に瀬奈の目は点になっていた。


「そのままの意味だ。俺と瀬奈、恋人で良いなって思ったんだ」


 私は思っている事をそのまま伝えた。瀬奈は相変わらず表情は変わらない。


「えっと……太陽さん、それって……告白……ですか?」


「まあ、そうだ」


 私のシンプルな返事は変わらない一方、瀬奈は戸惑いを隠さずにいた。


「その、太陽さん……急に言われると心の準備が……えっと……」


 瀬奈の顔はみるみる赤くなっていく。先程まで私を見ていた視線が泳ぎ始めて、私以外を見るようになった。


「その、夕方まで時間をいただいて良いですか?気持ちの整理をつけたいので……」


 すぐその場で返事が来るとは思っていなかったが、一週間は待つ覚悟をしていたので今晩のうちに返事が来ると思うと意外であった。


「わかった。俺はここから離れるが、瀬奈はまだここにいるのか?」


 瀬奈は静かに頷いた。私はその場を離れて携帯を取り出してある人物にメッセージを送った。


 ーーかぐや、お前今どこにいる。


 ーー大学だ。どうした?


 ーー会って話したい。待ってくれるか?


 ーーわかった。


 数分後 大学校内


「珍しいな。お前から私に会いたいなんて。で、話って何だ?」


「実はな……」


 私は数分前に瀬奈に告白したことをかぐやに話した。するとかぐやは感嘆し始めた。


「おぉー!ついに言ったか太陽。にしても、変な告白したもんだな、まあお前にしては不器用ながら頑張った方だが」


「何様のつもりだかぐや。お前だって告白の類無いわけでは無さそうだが多くは無いだろう?」


「黙れ!強いて言うなら私はお姉ちゃんだぞ!それに告白の回数を指摘されるのは耳が痛いが。けどそうか、あの太陽が瀬奈に告ったか。しかし、なぜ今なんだ?」


 恐らく瀬奈も気になっているであろう疑問をかぐやは先に聞いてきた。動機に関しては誰もが気になるだろう。


「前に俺が爆弾に吹っ飛ばされて入院した時、初めて目にしたのが瀬奈だった。その時思ったのが目覚めた時誰かがいるのが良いなって思ったんだ。それ以来瀬奈に小神子にはない感情を感じるようになったんだ」


「なるほど、瀬奈のおっぱい目当てでは無かったと」


 かぐやに相談したのは間違いだったかもしれないと一瞬思ったが、何を言ってもいつも通りのかぐやをやってくれるであろうと踏んだからこそある意味では適任だった。というわけで今のかぐやの発言をスルーすることとする。


「なあかぐや。小神子にはなんて言おうか」


「この前小神子は何て言ってたんだ?」


「俺が認めた相手なら応援すると言っていたが、相手が自分と同じくらい俺と同じ距離にいるのに、小神子ではなく瀬奈に傾いたとなると言葉通りになるかわからないんだ」


 女心のわからない私なりの疑問と懸念だった。最悪これでシークが瓦解なんてことになれば私はこの先禍根を抱えたまま生きていくことになる。それだけは避けたい。


「小神子は繊細だからな。万が一があっては困る。私が行こうか」


「いや、俺が直接言う」


 その後 シーク


 扉を開けた途端中から物が壊れる音がひっきりなしに聞こえてきた。二階からだ。私が急いで二階に上がると小神子と瀬奈が鬼気迫る表情で取っ組み合っていた。隅では中沢が怯えている。これまで小競り合いというかそういったものはたまに見たことがあるが、いつものシークでは、というかこんな光景を見るのは初めてだった。


「お前ら!!何をやってるんだ!!」


 私が思わず敵にしかあげたことがないような大きな声を上げるとそれを聞いた二人の動きが止まってこちらを見た。


「小神子、俺の部屋に来い」


「でも……」


「いいから来い。瀬奈はその後だ」


 私は早足で自室に向かって小神子が部屋に入るのを見て扉を閉めた。


「さっきは大きな声を出してすまなかったな。お前らが暴れたものだからびっくりしたんだ。何があったんだ?」


 互いに椅子に座り、面と向かって話す。小神子は怒られた子供のように居心地が悪そうだった。少し待ってから口を開いた。


「瀬奈から相談があったの。太陽さんに告白されたけど、どう返事を返せば良いのでしょうかって。最初は私もびっくりして、瀬奈の言葉が入ってこなかった。今思うと私よりも瀬奈が選ばれたのだから堂々と変に考えずに受け入れれば良い。そう言えば良いのに、私ったらウジウジしてる瀬奈を見て急に腹が立ってきたの。そして、気づいたらあなたが大声をあげてた」


 そういうことだったかと天井を見上げた。


「理由はわかった。で、小神子はどうしたいんだ?」


「瀬奈は悪くないわ。悪いのは一方的に私よ。だから、瀬奈とちゃんと謝りたい。けど……」


 すると小神子の声が震え出した。そして目からは涙が見えた。


「私が幸せにしてあげたかったなぁ……」


 そう言うと溜まっていたものを吐き出すかのように大きく泣き出した。私は小神子のそばに寄って彼女を抱きしめた。安心させるために背中をさすったりしながら。


「大丈夫、大丈夫」


 私は小神子の頭を撫でながら呟いた。これは私がPTSDにかかっていた頃、私を落ち着かせるためにやっていたものだ。瀬奈という恋人(仮)がいながらこんな事をするのはどうかと思うが、瀬奈もわかってくれるだろう。


 しばらくして


「落ち着いたか?」


「ええ。ありがとう」


 残っていた涙を拭いて小神子は笑顔を見せた。


「じゃあ、一旦外で待っててくれ」


 私は小神子を部屋の外まで見送った。すると小神子が振り返った。


「太陽、多分瀬奈はイエスと言うわ。もし、そうなったらおめでとう。本当よ」


「ああ、ありがとう」


 数分後


 瀬奈の番がやってきた。先程の小神子と同じように面と向かって座った。


「まさか、こんな形で話すことになるなんてな。まあ小神子からある程度事情は聞いた。瀬奈は……」


「私が悪いんです。全部私のせいです」


 瀬奈も同じ感じであった。見たことないし正直見たくなかった暗い瀬奈だった。


「何でそう思うんだ?」


「小神子さんが太陽さんのことを好きなのは知っていました。私より付き合いが長くてずっとその想いを秘めていたのも知っていました。なのに私は小神子さんに相談してしまったんです。始まって間もなく私がその事に気づいてしどろもどろになっていると小神子さんが怒りました。無理も無いです。恋敵がこんな最低で陰気な女性なんですから」


 完全にテンションゼロの初めて見る状態の瀬奈だ。慎重に扱う必要がありそうだ。


「瀬奈、俺はお前が最低で陰気な女性なんて思ってないぞ。小神子を怒らせたのは事実だが、あいつも人間だから怒ることだって泣くことだってある。それにあいつはつい怒った事を後悔して悪いと思ってる。お互いに悪いと思ってるなら、あとはわかるな?」


 一番面倒くさいのは互いに自分が悪いと知らずに時が過ぎることと話が平行線になること。こうならないために私のような仲介役が必要となる。


 瀬奈と共に下に降りて小神子と合流した。二人を引き合わせてから私は離れた場所から見守った。


「小神子さん、先程は申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりに……」


「こちらこそ、ごめんなさい。やり過ぎたわ」


 とりあえず私は一安心して軽く、静かに息を吐いた。


「実は二人とも。今回の件は俺にも責任がある。俺は小神子の気持ちを理解してやれなかった、瀬奈を困惑させるような事をいってしまった。だから、全ての発端は俺にあると考える。その責任をとって……」


「「だめええええ!!」」


 私が言い終わる前に二人はそう叫びながら私に突撃してきた。小神子はともかく、瀬奈は普通の人間より身体能力が強化されているので地味にダメージが大きい。


「あなた、いかにも立派なこと言っておいてここで逃げ出すなんて絶対許さないわよ!」


「そうです!太陽さんは私の返事を聞いてもらわなければならないのですから!」


 何を早とちりしたのだろう。私は逃げるなんて一言も言ってないし、これから言おうとしてることもそんなことではない。


「いや、今日は俺が料理を全部作るって言おうとしたんだが……」


「「え?」」


 今度は二人とも素っ頓狂な声を出した。先程まで喧嘩をしていた人間同士とは思えないほどの息の合い様に私は思わず大きく笑ってしまった。そしてそれにつられて瀬奈と小神子も笑った。とりあえず事態が収束して良かった。


 その夜


 私は書斎で日記を書いていた。その日あったこと、思いついたこと、感じた事を記憶が新鮮なうちに書いている。もちろん今日の瀬奈と小神子の件も書いた。


「太陽さん。少しいいですか?」


 扉のノックと共に瀬奈の声が聞こえた。私は扉を開けて瀬奈を中に入れた。


「どうした?」


「その、まだ返事をしていなかったので」


 実は私はこの時を待ち侘びた。瀬奈に直接指摘することもできたが、私としては急かすような気分だったので気乗りしなかった。なので、こうして瀬奈の方から来るのを待っていたのだ。


「今日は色々あったからな。別に遅れても気にしてない」


 瀬奈は何か言おうとした。しかしやはり言えずにいた。私は小神子ではないのでここでカッとなって瀬奈に手を出すなんて絶対にしない。


「瀬奈、何か考えてきたんだろうが一つ言うぞ。気持ちをそのまま伝えるだけで良いんだ」


 そう言うとしばらく間を置いて瀬奈が深呼吸をした。


「太陽さん。私も太陽さんが大好きです。私でよければ、よろしくお願いします」


 世の中のカップルが成立する瞬間というのはこんな風なのだろうか。あいにく立ち会ったことはまるで無いため何が模範回答なのかよくわからない。が、私と瀬奈という関係であればこれが正解なのだろう。


「あ、そうそう。小神子さんから伝言です。恋人を泣かせたり、浮気したら殺しに行くそうです」


 笑顔で瀬奈が言うあたり瀬奈も同じ気持ちなのだろう。


「でも、太陽さんがそんな事をする人では無いと信じていますから私はあまり心配していません。それに、これは私が言うのもどうかと思うのですが、小神子さんにだったら浮気してもいいですよ」


 付き合って間もないのに早速彼女公認の浮気相手が出来てしまった。彼女が良いと言うのなら良いのだろうが。


「理子になんて伝えようかな」


「直接お伝えするのですか?」


「もちろんだ。そうしたら理子の驚く顔が間近で見れるからな」


「太陽さんはそういう方でしたね。私も賛成です」


 けど、逆に考えて別に言う必要が無いようにも思えてきた。確かに理子の驚く顔が見たいという気持ちはある。ただそれだけで別に報告することでも無いのかもしれないとも思った。結局瀬奈と相談してそういう話題になったら話そうとなった。

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