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未来への有望

 瀬奈と恋仲になった。告白したのは私の方からだ。ちょっとしたいざこざがあったがすべて収まった。かぐやは笑っていた。理子の報告はいつか会って、恋愛云々の話題になってからということになった。そして今私は総理公邸で土方君と会っていた。


「そうかそうか!とうとう君も男になったわけだ天道君」


「大袈裟だな土方君。俺は後悔しないようにやらなければならないことをやっただけだ。いつも通りだよ。そういう君も順調そうじゃないか」


 土方君も先日結婚したと聞いたが、順風満帆といった具合だ。もっとも、状況は私より進んでおり彼らはすでに夫婦だ。


「最初は気乗りしなかったんだが、彼女も案外私と馬が合ってね」


 今回私が赴いたのも私の近況報告と彼の様子を見るためでもあった。この様子なら大丈夫だろう。


「君がアメリカの大臣と初めてゴルフに行くと言い出した時を思い出すなぁ。OBやバンカーが嫌だからと嫌々打ちに行ったのに、二番ホールから急に楽しみ始めた。よく覚えているよ」


「だが、今でもホールを周ろうなんて誰かに言われたら正直気が滅入るよ。あの時は仕方なくだ。でもまぁ、何事もやってみなければわからないよな。君の告白然り」


 件の話。私も同道していたのだが、午前はぼちぼち、午後から休憩を挟んでコンディションが整ったのか活き活きとしていたのを覚えている。


「かもな。じゃあ、俺ら二人の新たな出会いを祝って」


 土方君がグラスを私に差し出してきたので私もジンジャーエールの入ったグラスを出した。


「「乾杯」」


 カチンと軽くグラスを打つ音を鳴らした。


「天道君、理子も言っていたんだが本当に政治家にはならないのか?」


「なりたくないな。俺は今の方が性に合ってる」


「そいつは残念だ。もし、私が総理で君が補佐官か秘書にでもなったら最強のコンビにでもなれたのに」


 土方君と私の最強コンビ。正直そういう生き方も悪くないと思った。が、今の生き方に染まってしまった私には少々遅かったようだ。


「いつかは忘れたが理子にも同じような事を言われた気がするな。その時も断ったが」


「じゃあ、もしかしたらだが君の息子か娘かが政治家になるな」


 私は将来子供を持つかわからない。が、面白そうな話ではあった。


「ほう、根拠は?」


「こうも政治家の知り合いが多いと少なからず影響を受けそうな気がしてな。無論、俺の子供も政治家になる確率の方が高いが。が、こうは言うが子には子の生き方がある。親がどうこう言う資格はないのだが。けど、そうなってほしい気もするなぁ」


「じゃあもしかしたら、俺たちの子供が最強コンビになるかもしれないな」


 そんなまだ産まれもしていない自分の子供への淡い願望を抱きながら飲んだ。


 翌日


 どうしてこうなったのかよくわからないが、気づいたら私は瀬奈の膝の上で寝ていた。昨晩書斎ではなくここで寝たのかもしれない。


「昨日は土方さんと何を話していたのですか?」


「もし俺と土方君に子供ができたら、今の俺たちと同じような関係で支え合ってほしいって話をしてたな。もしかしたらどちらかが総理大臣になるかもと」


「太陽さんは……その……子供を持ちたいとは思いますか?」


 瀬奈が歯切れの悪そうに聞いてきた。


「昔はあれやこれやと言ってはぐらかしただろうな。俺は罪のない人も殺してそんな俺が子供を持つのはとか、ろくに父親を知らないから子供ができても父親としてできるか自信がないとか。でも今は違う。瀬奈達がいたから俺も人並みの幸せを持って良いんだって思ったんだ。だからそうだな、ゆくゆくは出来るだろうな。子供」


 父親としてどうすればいいかの不安はあるが、それは将来母親になるであろう人間も同じだ。それ以前に全ての子を持つ人間共通の問題だろう。そう考えれば少しは気が楽になるというものだ。


「まあどう生きるかは生まれてくる子次第だ。俺は道を踏み外さないよう導くだけさ」


 私にとって父親とはそういう物だと思う。正直今の具合だと子供を甘やかしてしまいそうな気がしてならないのだが。


「そういえば瀬奈。一つ聞きたいんだが」


「何ですか?」


「いつか聞いたかもしれないが、どうして敬語なんだ?」


 確か瀬奈と初めて会って間もない頃、最初に食事をした時にそことなく聞いた気がする。


「どうしてと言われましても、これが私にとって気持ちのいい話し方だからですね。小中高現在に至るまで」


 意外でもないと思った。瀬奈は一度決めたら曲げずにまっすぐになる性分だ。昔からそうだったのならありえない話ではない。


「けど、年下にもそんな口調なのは少し違和感があってだな。現に俺にはそうだし」


「太陽さんの場合はお慕いしているからです。私が小さな子どもに敬語なしで話しているの見たことありませんか?」


 あったようななかったような。よく覚えていない。けど、新鮮だと思う分見てみたい気もする。


「そうそう、私も前から聞きたいと思ってたことがあります。太陽さんって誰に対しても君って呼びますよね?どうしてですか?」


 これこそ誰かに言ったことなかったっけか。自他共に変わっている認識しているのでよく人に聞かれるのだが。まあそのせいで誰に言ったのか覚えていない。


「これは俺が読んでる文学の影響なんだが、幕末の頃の日本は同じ目標を目指す同志に対しては年上年下関係なく君を付けて呼ぶ傾向があったらしいんだ。それに少し憧れに似たものを感じてな」


 流石の私も誰彼構わず君付けで呼びはしない。初めて会った時の沖田君のように目上で初対面の人間には敬称で呼んでいる。


「あれ?でも、小神子さんやかぐやさん達は私があった時から下の名前で呼んでましたよね?」


「あいつらは君付けで呼ぶ必要が無いくらいの関係だからだよ」


 と言っても、彼女らをいつから下の名前で呼ぶようになったのかはよく覚えていない。深く思い返したり、本人達から聞けば思い出すだろうが。


「にしても静かですね」


「二人だけだからな。中沢君は小神子とかぐやと出かけているそうだし」


 彼女を監視する目が気になってしばらくシーク内で匿っていたのだがシークと彼女の自宅周辺でそのような動きはなかったため試しに小神子とかぐやというちょっとした護衛をつけて外に出した。彼女にとっても気分転換になるだろう。


「世の中の恋人達もこうして過ごしているのですかね」


「どうだろうな。身近に恋仲の人間がいないから何とも言えないな。土方君は早々に結婚したし。でも、これが俺たちの過ごし方と思えばいいんじゃないか?」


「そうですね。太陽さんは青春を犠牲にして生きてきました。今その時間を取り戻す為にこうしてのんびり過ごす。それが一番ですね」


「あぁ。正確に言えばこの駒宇良に潜む悪を一掃してから俺の青春を取り戻すさ。それからでも遅くはないだろう」


 そう私にはやるべきことがある。それが終えるまで私に本当の意味で平穏が訪れたとは言えない。


 しばらくしているとシークのドアが開いた。


「ただいまー!」


 かぐやの元気な声が響く。


「おかえりなさいかぐやさん」


「ただいまバカップル。何とも微笑ましいなぁ」


 開口一番失礼な奴だ。


「アイス買ってきたんだが、皆で食べよう」


 そうしてなんだかんだ皆集まった。


 三階 プレイルーム


「こうして甘いもの食べてると昔の小神子を思い出すな」


 チョコレートのカップアイスを食べながらその時の情景が鮮明に見えてきた。


「ちょ、ちょっと太陽!」


 小神子の反応が面白いのでイタズラ心で続ける。


「今こうしてアイスを買ってるが、元々小神子は甘いものが得意じゃなかったんだ」


「へぇー。意外です」


「頭の回転を早める為とちょっとした気分転換で食べてたくらいよ。別に嫌いではなかったけど特別好きでもなかったわ」


「でも、俺がある夏祭りに一緒に出向いた際美味そうなかき氷を見つけたから三人分買ったんだ」


 ある夏祭りの日


 駒宇良に点在する大中小様々な神社で夏祭りが開かれた。私と小神子とかぐやはシークの近所の必勝祈願で有名な神社の夏祭りに来ていた。ひとしきり屋台を楽しんだ後私は二人を待たせてあるかき氷を買いに行った。


「待たせた」


「おかえり天道……って何だそれは!?」


 かぐやは私が持っていた普通のサイズより一回り大きいかき氷に仰天していた。


「何ってかき氷に決まっているだろ」


「さも当然の如く言うな!かき氷にしても限度というものがあるだろう!」


「ねえ天道、三つ分あるってことはもしかして……」


「あぁ、皆で食べよう」


 見た目は何もかかっていないかき氷。周りにはカットされた果物が添えられていた。一口食べた瞬間理解した。意外と多いが全部食べられそうだと。何故なら。


「これバニラアイスみたいだな。見た目何もかかってないと思ったが美味いな」


 隣でかぐやが豪快に頬張っていた。その先に起きることは私と小神子にとっては容易に想像できた。


「ぐ、ぐあああああああ……あ、頭が……」


「一気に食べるからよ」


 かぐやが頭を抑えて悶絶している中、私と小神子は程よい大きさを掬って食べた。


「意外と美味しいわね」


 普段甘いものを食べない小神子も舌鼓を打っていた。よほど美味しかったのか食べるスピードが早くなっていった。


「おいおい、そんなに食べてると……」


 予想通り小神子が頭を抑え出した。かぐやと違って普段なら絶対に聞かない言葉にならないような声を出しながら。それを見ながら私は笑った。


 現代


「懐かしいな」


「は、恥ずかしいわよ……」


 小神子の反応を見て私は愉快になる。その気持ちを察したのか小神子が私の頬を引っ張る。


「あなた、本当は楽しんでたでしょう?顔をみればわかるわよ」


「痛い」


 すると何故か瀬奈まで私の頬を引っ張り始めた。


「瀬奈まで何すんだよ」


「小神子さんを困らせてはメッ!ですよ」


 出ました。瀬奈のメッ!攻撃。瀬奈にとっては叱っているつもりでも私にとっては大変メンタルが癒されるので助かる。


「これだとどっちが彼女かわからないわね」


「瀬奈はむしろお母さんみたいな感じだよな」


 傍観していた中沢君とかぐやが何か言っている。お母さん?瀬奈が?お母さんではなくむしろ聖母だろう。


「お、お母さんは言い過ぎです!まだそんな年ではないですし……」


 そういう問題か。


「なはほひほ。ほろほろひいんひゃないか?」


 なあ小神子。そろそろ良いんじゃないか?と言おうとしたが相変わらず頬を引っ張られていた。


「あら失礼」


 今日もシークは平和である。

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