バルヘントの『聖女様』? 5
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シスネたちが戻ってきたのは夜遅くになってからだったので、その日はそのまま隊舎に泊まり、翌朝にあらためてバルヘントへ向かい出発することになった。
「姫様。やはり、私共もついて行くのがよろしいかと存じますが」
シスネが連れて来た小隊の人たちはそう提案してきたが、ルミナリエは首を縦には振らなかった。
「ダメです。その場合、この場所の守りはどうなるのですか。警戒が甘かっただろうと、ここの方達にも落ち度はあったのかもしれませんが、それでもこの場を占拠するだけの能力を有した人たちがいたのですよ。再びこの場から侵攻される可能性は低いかもしれませんが、疎かにすることはできません」
この場に俺たちが来た、そして交戦、奪還したという知らせは、あの逃げ出した奴から相手本隊に伝えられたことだろう。
ならば、当然、次に俺たちが大元へと向かって来るだろうことは十分予測できるだろうし、その場合、この場所からは離れなくてはならなくなるということも。
相手の人数は不明だけど、こっちは人数が少ないんだから、再びここに乗り込んでくるような奴らにまで注意を払っていることはできない。
「あなた達、もしかして、シスネとルシオンのこと信じられないの? お姉様やお父様に選ばれたふたりじゃ心配だとでも言いたいのかしら?」
「姉上の言う通り、バルヘントに敵の侵攻が始まっているとして、大人数で向かえば相手を警戒させることにもなるし、相手にも増援を呼ばれる可能性もある。しかし、私達だけという少人数ならば、動きも軽く、真相の検証もスムーズに進むだろう」
ルミナリエだけではなく、マリエッタ姫やレアード王子にも言われてしまえば、ここへ来た人数だけでは反論などできようはずもない。
「しかし、あなた達の言い分も理解はできます。ここで、私たちだけで行かせたなどと知られれば――確実に知られることになるでしょうが――上の方から色々と言われるだろうことは確実です」
ルミナリエの言葉に隊士の顔色が変わる。
「では――」
「ですから、書面で残すことにしましょう。もちろん、私だけではなく、連名でレアード、それからマリエッタの署名も入れます」
さっと書面を作成したルミナリエは、最初に自分でサインを入れると、次にレアード王子、そしてマリエッタ姫にもサインをさせて、偽造防止、破壊防止、その他の魔法で対策を施した。相変わらず、魔法ってのは便利もんだな。
「何か言われた場合、これを見せてください。大抵のことは問題にならないで済むはずです。それでも、もし、ダメだった場合――そうはならないと思いますが――その書面を持って城へと訪ねてきてください。直接、私たちが話します。あるいは、お父様かお母様ならば理解してくださるはずですから」
メンデル国王とフェリータ王妃の名前まで出されて、ようやく納得――してくれたかどうかは微妙なところだが、話し合いに一応の決着はついた。
さすがに、国王と王妃が許可するとまで言われては、それ以上の反論はできなかったようだ。
「任せてください。姫様方は必ず、賊には指一本触れさせません」
シスネがそう言い切り、俺もそれに追従して頷いた。
しばらく睨み合いが続いたが、結局、相手が折れる形で決着はついた。
「……わかりました。御身の御判断に従います」
小隊の人たちはそう言って膝をついたけど、しかし、ただでは引き下がられず。
「しかし、その逃げられた賊が、奇襲を仕掛けてこないとも限りません。御身も十分ご注意ください。それから――」
「あらためて確認されるまでもありません。それよりも――すでに遅きに失していると言えなくもありませんが――今回の件、可能な限り急いで向かう必要があります。理由は、言うまでもなく、相手の侵攻をこれ以上進ませないためです。ですから、これ以上の問答は無用です」
ルミナリエがそう言い切ったことで、俺たちには、それ以上に特別、注意なんかはされなかった。
それだけではなく、城に、ルミナリエたちの傍に仕えるのだから、そのくらいは言われるまでもないことだと思われて――信頼されているのだろう。俺たちを、ではなく、採用した城の判断の方を、だとは思うけど。
それから、発見した書類なんかもついでに渡し、受け取った小隊の人たちは、数人を残して、自分たちの元の持ち場へと戻っていった。
「では、私たちも急ぎ出発しましょう。事態はより深刻化しているかもしれません」
とはいえ、腹が空いていては、力が出せず、頭も回らなくなるというのは事実。なにより、これから向かう先は、相手に占拠、もしくはそれに近い状況に陥っている可能性が極めて高い。まともに食事ができるとは限らないだろう。
隊舎にあった食材でシスネがさっと調理して朝食を済ませてから、俺たちも出発する。
もちろん、さっきの小隊の人たちとは向かう場所が違って、バルヘントの方へと向かうわけだけど。
「ここからはバルヘントの中心街まで数時間もかからない距離です。すでに相手方の勢力圏内と考えるべきでしょう。マリエッタも、レアードも、くれぐれも注意してくださいね」
「わかっているわ、お姉様」
「姉上も十分お気を付けください」
とはいえ、これだけ静かに――だから気を抜くなんてことは絶対にありえないわけだけど――侵攻してきたんだから、こんな道中で奇襲するようなことはないだろうと予想していた。
狙うなら、もっと自分たちの懐に、おそらくはルミナリエの言う通り、バルヘントの中心街に俺たちが入ってからのことにはなるだろう。




