↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/188

聖女様以外の『聖女様』 5

 もちろん地面を転がるような真似はしねえ。

 すぐに足元を見て、何が、どこから飛んできたのかを確認する。

 痕跡からして、レンガか? そんな物が直撃したら昏倒、いや、当たり所が悪けりゃ即死も免れねえ。


「ルミナリエ。お前は中に入ってろ」


 『聖女』であるルミナリエを殺すとまでは考えられねえが、このまま外にいるのが危険なことは事実。

 視線と射線を遮ることのできる車内にいる方が得策だ。そっちの方が、相手も無暗な攻撃には出ないだろうからな。


「ルシオン、あなたも中へ」


「いや、それはできねえ。奴らに馬車まで壊されるわけにはいかねえだろ。それに、周囲に被害が出る可能性もある」


 心配してくれるのはありがたかったが、それはまずいだろう。 

 わざわざ仕掛けてきてくれたんだから、ここで正体だけでも確かめておかなけりゃ、今後に支障が出る。いつも狙われているんじゃねえかと気を張り続けてたら、すぐに参っちまうだろうからな。

 それに、今はすぐ傍に俺がいたから良かったものの、ルミナリエ程度の年齢の女を陰からこそこそと狙うってのも許せねえ。

 

「ルミナリエ。魔法ってのは、この馬車くらいはしばらく守っていられるのか?」


「ええ。ですから壊される心配はありません。彼らの狙いが私というのなら、ここに私がいる以上、他のところへ目を向けることもないでしょう。ですから、あなたも――」


 それだけわかれば十分だ。

 お前は自分と馬車を守ることだけに専念してろと、ルミナリエを馬車の中へと押し込んで、外から鍵を閉める。

 相手の目的が『聖女』なら、これで下手に馬車へは手を出してこれないはずだ。

 だとすれば、次は――


「『聖女様』の護衛がこんな丸腰のガキひとりだけだとはな。俺たちも運が回って来たな」


 物陰から5人ほどの男たちが姿を見せる。 

 周囲を見回せば、日中の屋外とは思えないほど、不自然に静まり返っていた。


「『聖女様』がのんきに買い物なんかをしている間に、ちょいと人払いをさせてもらった。こんなチャンスを逃すわけにはいかねえが、他人に邪魔されても面倒だしな」


 相手はそれぞれナイフなんかを持ってるみたいだし、街の奴らがびびっても責められはしねえな。

 警戒するべきなのは、飛び道具を持っている奴か。


「おい、ガキ。お前が何者かは知らねえが、死にたくなけりゃ、そこをどきな」


 身長は俺より少し高い。

 しかし、防具でどこかをカバーしているわけでもなさそうだ。


「お前に用はねえんだ。俺た――」


 言葉通り、俺をガキだと思って侮ったのか、それとも自分に自信があったのかは知らねえが、不用意に近付いてきたそいつに向かって、俺は踏み込んで、間合いを詰めた。

 相手の顔に驚愕が浮かぶ前に、地面を蹴って踏み込み、棒立ちの相手の膝を押さえて間合いを掌握、そのままの勢いで相手のこめかみを抉るように膝蹴りを入れる。

 しばらく意識は失うかもしれねえが、相手はこっちを殺す気だったんだ。武器も持っていたし、正当防衛ってことでひとつ許してもらおう。そういや、この世界って警察とかあんのかな。

 まさか死んでねえよな。

 今蹴りを入れた相手の傍に屈みこみ、脈をとる。

 よし、死んじゃいねえな。


「て、てめえ! いきなり何しやがる!」


 俺がほっとひと息ついていると、仲間らしい、周囲を取り囲んでいる奴らが一斉にいきり立ったような声をあげる。

 うるせえな。いちいち、叫ぶんじゃねえよ。状況なんか、見りゃわかんだろ。


「何って、今のはシャイニング・ウィザードとかって呼ばれる、プロレス技のひとつだろ」


 名前が格好いいんで、中学の頃に道場で仲間と一緒にプロレスごっことかの延長で練習したりしたんだよな。

 まあ、そんなに成功するわけじゃねえけど、今のは上手く決められたな。相手の油断もあったけど。


「こいつ、舐めやがって……」


 別に舐めてねえよ。

 つうか、武器持った大人相手の実戦で、そんな余裕あるわけねえだろ。所詮、今のだって奇襲に過ぎねえよ。

 

「つうか、お前らの目的って何なんだよ。わざわざルミナリエを狙うことに意味があんのか? お前らはこいつを見てれば魔法ってのが使えんだろ?」


 いまだにこっちが圧倒的に不利な形勢であることには変わりねえ。

 まあ、俺も相手をひとりのしちまったが、先に狙われたのは俺たちだし、イーブンってことにしといてもらおう。

 交渉で、つうか、話し合いで済むならそっちの方がお互いのためだろうし。

 

「まあ構わねえか。教えてやるよ。そんなもん、俺たちが魔法を独占するために決まってんだろ」


 どうせ俺のことは始末するんだから問題ねえとでも思っているのか、そいつらは随分と簡単に目的を話した。 

 今どき、三流サスペンスドラマの犯人でもそんなことしねえぞ。

 

「力があれば金になる。そうすりゃ一生遊んで暮らせんだろ」


 しかも、随分と利己的な理由だな。

 まあ、そりゃ、その通りだけどよ。つうか、大抵の犯罪なんて利己的に行われるものだけど。

 自分の本能っつうか、欲望のままに従って、他人を害することを平然とするようじゃ、その辺にいる獣と同じだよ。

 小学校、いや、幼稚園児とか保育園児でも知ってるぞ、そんなこと。


「お前等みたいなやつがいるから、ルミナリエが安心して外を出歩けねえんだよ!」


 俺は別に、こっちの世界の呼ばれたことを恨んじゃいない。

 もちろん、正直に言えば、事前にもっと説明が欲しかったとか、家族にも事情を伝えてからにしてほしかったとか、色々と言いたいことがあるのは事実だが、多分、最初から事情を説明してくれていたら、家族にもそのことを説明したうえで、こっちに来ることを願い出ていたかもしれねえと、今ならそう思える。

 けど、そもそも、俺をこっちに呼び寄せる原因になったのは、こいつらみたいなやつが『聖女』を狙うような事があるからだ。

 だから、『聖女』は城で保護されなくちゃならなくなって、結果、自由を奪われてんだ。

 

「俺はあいつの暇つぶし相手だから、ルミナリエがもっと有意義に、自由に、暇つぶしなんか考える余裕もないくらい、好きにできるように手伝ってやるんだよ!」


 暇つぶし相手なんかじゃ終われねえ。

 それじゃあ、根本的な解決にはなってねえ。ルミナリエの次の聖女も、同じような運命に巻き込まれるようじゃ、そんなこと、あいつも望んじゃいねえだろう。


「さっきから、何を言ってんだお前は」


「ごちゃごちゃとうるせえな。とにかく仲間の仇は討たせて貰う!」


 仇って、仕掛けてきたのはお前らじゃねえか。

 なんて、正論の通じるような相手じゃねえな。

 相手は武器を手に斬りかかったりしてくるが、動きとか、武器の扱い自体は素人に毛が生えた程度のものだった。

 やってることは強盗のそれで、武器を扱う練度自体はそれほどじゃねえ。

 こっちは、物心ついた時から毎日鍛錬してんだよ。


「こっちに来てからはさぼってたからな。リハビリにでも付き合ってもらうとするか」


 城には多分、騎士だか、兵士だかがいるよな?

 子供の俺が混じっていいのかどうか知らねえけど、もし可能なら、鍛練でも、稽古でも、つけて貰いてえな。あとでルミナリエに聞いてみよう。

 残りは4人。

 小さな斧を手で振り回しながら突っ込んできた相手は、リーチをギリギリで見切り、すかした斧を持っている手を弾き飛ばした後に、腹に一撃入れて悶絶させる。

 厄介なのは飛び道具を持っていた奴だが、これだけ近くに寄れば問題ねえ。自分の長所を理解してねえ、間抜けだ。

 しかも、レンガなんて、そんなに持ち歩けるものじゃねえからな。どうせ、服の中にでも隠してるのが限界だろう。

 

「死んどけ!」


 そして、レンガは割と重い。

 つまり、モーションでバレバレで、見えてさえいれば避けるのは容易い。

 案の定、避けた俺の後ろにいた奴にぶつかって倒してくれた。運が良い。


「てめえも寝とけ!」


 やっちまった、みたいな感じに投げたままのポーズで固まっているそいつの腕を取り、一本背負い。

 石畳だが、まあ、死にゃあしないだろ、多分。


「残りはお前だけだな」


 最後のひとり、リーダーらしき男に向かって歩いてゆく。


「な、何だ、お前は!」


 そいつは、今更警戒したように、じりじりと後ずさる。


「俺はこいつの暇つぶし相手だって言ってんだろうが!」


 混乱しているのか、自棄になったのか、拳を振りかざして突っ込んで来る相手にカウンターを入れると、そのまま膝から崩れ落ちた。

 さて。

 警察がないってんなら、この世界って、悪漢はどこに連れてきゃいいんだ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。