『聖女様』の務め 4
◇ ◇ ◇
お務めは夜まで続いた。
続いた、といっても、俺たちはルミナリエと一緒に王都の周辺をぐるぐると馬車に揺られて回っていただけだったが、なにせ国中から人が集まってくるため、とにかく時間を必要とする。
ルミナリエ以外にも『聖女』の数が増えればまた違うんだろうが、そういうことはないのかと尋ねたところ。
「『聖女』が複数いたという時期も存在するみたいではりますが、当代では報告されていません。もちろん、報告は義務ではありませんから、確実なことは言えませんが、おそらくは他にも存在していることでしょう。今日集まった人の出身を調べれば、空白の位置から、他に『聖女』が存在している可能性の高い地帯を割り出すことも可能でしょう」
そんなことを何でもないことのように、淡々とした口調で告げられた。
「え? そうなのか? お前、この前、聖女になると城に幽閉――いや、保護されるみたいな形で連れてこられるとか言ってたじゃねえか」
家族やら、生まれた土地やらからも引き離されてって。
「そうですね。たしかにその通りです。この国を守護してゆく責任がある以上、少なくともひとり以上は、城で保護――まあ、ルシオンが言ったようにほとんど幽閉とか監禁に近い状態ですが――してゆく必要があります。そのことは、国の誰もがわかっているはずです。しかし、当代の『聖女』では、他ならない私が城にいますから、少なくともひとりは確保できているわけです」
「お前以外の『聖女』とは交流を持ったりしねえのか?」
ルミナリエが『聖女』として他の人間、家族とすら、接触を制限しているというのは――本当は疑問を呈したいところだが――まだわかる。
しかし、他にも『聖女』の役についている人間がいるってんなら、話は別だ。
これまで聞いた話からだけの判断にはなるが、『聖女』の役目っつうか、力ってのは、その姿を見た人が魔法を使えるようになるって、まあ、大雑把に言えばそんなところだろ?
近すぎる人間が現れると、そいつが力を悪用する可能性があるからってことで、家族とすら、極力近付かないようにしているって話だ。
けど、同じ『聖女』なら。
「ルミナリエ自身は鏡を見なくても魔法は使えていただろう? だったら、他の『聖女』とは直接顔を合わせても問題ねえんじゃねえのか?」
もちろん、ずっとってわけにはいかねえだろうから、ルミナリエの寂しさを完全に埋められるってわけにはいかなさそうだが、それでも、希望にはなるんじゃねえか?
「理屈ではそうですが。しかし、実際のところは難しいと思います。というよりも、問題のその私以外の『聖女』をどうやって探すんですか?」
「え? それは、だって、ひとりは城に連れてくる必要があるってことなら、その居場所とかっていうのは把握しているものじゃねえのか?」
だって、仮に――あくまでも仮にだが、今、この瞬間、ルミナリエに何かがあって、聖女の力が失われた場合、他の聖女をすぐに連れてこなくちゃならねえじゃねえか。
たとえば、ルミナリエが不幸に見舞われたり、まあ、とにかく、具体的には考えたくはねえが、言っちまえば『聖女』が急死しちまった場合、代わりの『聖女』をたてる必要が出てくるだろ?
だったら、まあ『死ぬまで絶対に他の聖女が生まれない』ってんなら話は違うんだが、そうじゃなくて『死んだら絶対に他に聖女が生まれている』っていうのなら。
それに、ルミナリエだって、ついさっき「空白地帯から聖女の位置を割り出せるかもしれない」って言っていたじゃねえか。
「……あなたの言うことにも一理あります、ルシオン」
しばらくの間を置いてからルミナリエは思ったよりも冷静にそう口にした。
他の『聖女』とならば交流が持てるかもしれないってのに、随分と冷静っつうか、そんなに盛り上がらねえんだな。
「ですが、やはり難しいでしょう。他の『聖女』の方に会いたいと、言うことはできるでしょうが、それはつまり、この城までその方をお招きするということになります。しかし、それは結果として、国として『聖女』を囲い始めたと、そうとられる可能性もあります。この国に暮らす人にとって『聖女』というのは信仰やら、保護やらの対象であるのと同時に、恐怖とか、不安とか、そういった対象でもあるのですから」
ルミナリエはなんだかんだと理屈をこねくり回して、そんなことを長々と語っていたが。
そんなことよりも、重要なのはひとつだけだと思うんだよな。
「ルシオン? 聞いているんですか?」
「なあ、ルミナリエ。お前は他の『聖女』に会いたいとは思わねえのか?」
国としての体裁とか、『聖女』が集まることの弊害とか、そりゃ、たしかにいくつかの問題は発生するかもしれねえ。
けど、いくら『聖女』だからっていったって、そのくらいの我儘は許されるんじゃねえのか?
「……『聖女』が一ヶ所に集まり過ぎるのはあまり良い状態とは言えません。仮に、その状態で他国の間者だったり、『聖女』を利用しようとする――」
「それは今日のお披露目のときみたいにしっかり護衛がつくだろうから大丈夫だろ。それとも信用できねえのか?」
ルミナリエが目を伏せがちに黙り込んでしまったので、俺はルミナリエの手を握り、瞳を真っ直ぐにのぞき込む。
「俺が聞いているのは『聖女』の役目がどうとか、役割上の必要性だとか、そんなことじゃねえ。お前が――ルミナリエ自身がどうしたいのか、どうしてみたいのかって聞いてるんだよ」
自分の気持ちを表に出すことに慣れてねえのか、ルミナリエは白い肌を赤く染めて。
「――私も、できることなら、お会いしてみたいです。他の『聖女』の方に」
そう、小さな声で口にした。




