15話 駆け出し4
「審査の結果、皆さんは下級冒険者に昇格いたしました。おめでとうございます」
受付嬢が木札と引き換えに銅色の札を差し出した。大きさは木札と変わらないが、よりドックタグ感が増した形となる。札には名前が彫られているのが分かる。しかし、明らかに不必要な空白部分が存在しているのが気になった。
「なあ、名前の下が空いてるが何か入るのか?」
「こちらですか?そこは特に、何も書かれません。なので自由にしていただいても。…冒険者の方々は遺言等を彫られる事が多いです」
「遺言…」
「なにぶん死に近い職業ですので。遺体は無理でも、認識票は確実に持ち帰ってくれますから」
身分証となる認識票。それは風化しにくく加工してあり、大抵の場合冒険者が死んで白骨化しても残っている。故に組合は冒険者の生死を判別する為に認識票の収集を呼び掛け、認識票を買い取っているのだ。とはいえ基本的に買い取り値は安く、小遣い稼ぎにしかならない。ただ例外として遺族が依頼を通して謝礼金を出している場合もあるので、冒険者は拾っても軽くてかさ張らない、大金に化ける可能性がある、遺族からは感謝される、ということでとりあえず拾う習慣が根付いているのだ。
「加工でしたら是非当組合をご利用ください」
「…いや、まだいい。…どうする?」
「わたしも遠慮しますわ…」
「わしもじゃよ」
「そうですか…残念です」
下級冒険者に昇格したので三人は受付を後にし、さっそく初級では受けられなかった依頼を物色する。実は初級のほとんどは年端もいかぬ子供達で構成されている。初級と下級は依頼の危険度が大きく異なるのだ。
「大鼠の駆除…。ネズミと何が違うのか」
「魔物なんじゃないかしら?」
「…害獣駆除の時に異様に大きい奴がいたのぅ…。もしや…」
依頼は薬の材料となる薬草の採取や魔物の駆除が多く並んでいる。そんな中で三人は採取に関する依頼を受けるのは気が進まなかった。理由は。
「落陽草。緑鳥石。タルタン草。……分からん」
「魔物の知識ならあるんじゃが、なぁ…」
「知識もけっこう怪しいわよ」
知識が圧倒的に足りない。それに尽きた。この世界に来て三人は日が浅いので、ゲーム内の知識が本当に合っているのかすら分からない状態なのだ。
「…お、コレなんてどうだ?」
「どれじゃ」
「右上のほらッ…。…臨時薬師募集、住み込み可、てやつ」
鬼姫が見つけた依頼は街の薬師が怪我を負ってしまい、代わりに薬を作って欲しいという内容であった。一口に薬を作ると言っても、素材の採取から調合まで全て行わなければいけない。当然ずぶの素人に出来ることではないが、依頼主の護衛さえすれば薬草の目利きも調合の仕方も教えてくれるそうだ。報酬は住み込みということもあり、日雇いの依頼と比べて安い。だが言うなれば薬師の知識も報酬と言える。
「…いいんじゃない?」
「うむ。薬学は重要じゃ。学べる機会があるなら乗るべきじゃのぅ」
こうして三人は依頼を手に受付まで行く。依頼を受けたことを表す木札を受け取り、さっそく薬師の元へ行くことにした。ちなみにこの依頼が下級以上対象なのは採取地へ向かう際に魔物が現れるからだ。それさえなければすぐに初級の者が持っていってしまうだろう。
三人の姿は街の一角、薬師の自宅前に居た。店先に掲げられた小さな看板には"薬師リースマン"とある。依頼主の名前と一致したのを確認し、扉を叩く。しばらくすると扉が開いて中年の細身の男性が現れた。
「何用ですか?」
「依頼で来た冒険者だ」
「そうか!入ってくれ。中で詳細を詰めよう」
三人は家に招き入れられ、お互いに簡単な自己紹介をした。薬師の男はアール・リースマンと名乗り、この街で長年薬を商会に卸して生活しているということを語った。話の流れはそのまま怪我の話となり。
「採取地はそんなに遠くないんだが、いやぁ運が悪かった。手負いの森百足にばったり出くわしてしまって。怪我自体は大したこと無かったが毒の対処が遅れてこうだ」
薬師は右手を見せる。右手の平には丸い痣が出来ており、そこが毒に侵された部位だろう。
「それ以来右手が痛むのだよ。普通にしていれば何ともないが動かそうとすると途端に痛む。そのせいで何も握れない。もう治っても良い頃なんだが中々治らなくてな。それで依頼を出したんだ」
「その依頼だが…。人数が一人で、増える場合は要相談と書かれていたが、妾達三人を雇ってはくれないだろうか?」
「ああ、それなら問題ないよ。ただ空き部屋が一室しか無いんだ。相部屋に三人で大丈夫なら良いんだけど」
「それくらいなら問題ない。…どうだ?」
「かなりの好条件ね。全然問題ないわ」
「………………一部屋くらい空きは無いかの?」
「そうですね…、片付けていない倉庫があるので片付ければどうにか…。いや、それには数日は掛かるか」
「爺、何故だ?別に良いだろう?」
「…わたし達と居るのが…イヤに、なったのかしら?正直に言ってちょうだい」
「違う!違うぞ!決して二人が嫌いになった訳ではない!ただ」
「…ただ?」
「……なんでもない。それより依頼じゃよ依頼」
「…違う、ならいいのだけれど…」
「悩んでいるなら相談に乗るぞ。仲間だからな」
(仲間だからダメなんじゃよ…。こんな相談出来る訳ないじゃろ…)
マッドはアバターがアバターであった為、老人の姿こそしているが中身は健全な日本男児だ。体は健康そのもので老いを感じる部位もない。そして鬼姫とキャメロットのアバターは、タイプが違うがどちらも美人である。…ここ最近は一人部屋であったので何とかなっていた。だが相部屋。これは早急にどうにかしなくてはならない、とマッドは頭を抱えた。
「ふむ、契約成立、ということで良いのかな?」
「問題ない。こちらこそ頼む」
「よし、なら木札をこちらに。人数の部分を書き換えなくてはな」
契約をし終わった鬼姫は薬師と話している最中、視界の端に何かちらつくのが見えた。気になってその辺りをじっと見詰めていると、ひょっこりと茶色い何かが飛び出しているのに気がついた。
「ん?どうされました?後ろに何か…?…む。あれは私の娘アリアです。少々人見知り気味でして…」
薬師の娘は鬼姫と目があった瞬間に隠れてしまった。
「可愛らしいではないか」
「ええ、ですが初対面には全員あの反応です。困ったものですよ…」
依頼を受けた三人は特に荷物も無い。さっそく薬の材料となる薬草を採取する為の準備を始めた。




