16話 駆け出し5
「さて、お待たせしました。道中の護衛頼みます」
薬師が背負うタイプのカゴと幾つかの袋を持ち、奥から出てきた。先ほどまでの軽装と違って肌の露出は少なく、肘や膝等要所要所が革防具が付けられている。
「任せておけ。弱い魔物には劣らん」
「頼もしい限りです。ではついてきてください。…アリア!留守を頼んだよ!」
薬師の後に続き、街を出て北の方角へと進む。街の近くは草原と言った光景で魔物もおとなしい、人を見たら逃げていくような弱い魔物しか居ない。そんな草原の街道を歩いている時であった。
「皆さん、ここら辺から警戒してください。あの森が見えるでしょうか?あそこの近くにはよく森百足や毒蛇が現れますので」
「む、了解した」
「…何か動いてますわよ」
森が近くなってくると何か細長いモノがうねうねとしているのが見えた。濃い緑色のてらてらとした甲殻を持つ生き物、森百足であった。百足は頭をウサギの死体に突っ込んで体液を啜っているのに夢中のようで、ここまで近寄っても反応を示さない。
「まだ若い個体ですね…やれますか?」
「妾がやる。見ておれ」
鬼姫は肩を回しながら聖炎を顕現させる。当然ながら薬師は突然顕れた白い炎に目を剥く。薬師は取り乱しながら小声で。
「な、なんですかソレ。…白い炎の、魔法?」
「妾の武器だ。…一応、秘密にしてある。黙っていてくれるか?」
「何故秘密に…。いえ、このことは他言しません」
「まあ絶対に話すな、って訳ではないから。さすがに命の危機であったりしたなら盛大に話しても大丈夫だからな」
鬼姫の聖炎に対するスタンスはこんなものであった。今後も他人が居る場面で聖炎を顕現させることはあるだろう。この口止めはそれが協会関係者に漏れるのを可能な限り遅らせる為のもの。最悪バレても構わないとすら鬼姫は思っていた。
食事中の森百足に向かって忍び寄る。手を出せる距離まで三メートル、少しずつ進んでいく。小枝を踏んで音を立てないように気を付けながら後一メートルほどに迫った時、百足が急に体を起こした。
「キシィ?キィ?…キシャァァン!」
「おっと」
奇妙な鳴き声を上げながら百足が飛び掛かってくる。かなり素早いが鬼姫の目には動きを捕らえることが出来ている。そのまま両腕を伸ばし百足の胴体と頭を同時に握る。
「ギュリィ!?キシュゥゥ…」
「けっこう素早いな…」
「鬼姫さん!毒は牙にあります!お気をつけて!」
「…このまま砕けば良いか」
拳へ更に力を込め、百足の頭を握り締めた。バキベキと百足の硬い甲殻を砕く音が響き、百足の胴体がウネウネとのたうち回る。そんな百足であるが頭を潰してしばらく経てば動かなくなり、だらんと体を投げ出すだけになった。
「薬師よ。これは金になるか?」
「…ハッ!えぇとですね…森百足の毒腺は解毒薬の材料になりまして重宝されます。が…」
「が?」
「毒腺があるのは頭部ですので、その…」
「ダメにしてしまったか。ならよい」
鬼姫は百足の大きな死体をぺいっと放り投げ、薬師に先を急ぐよう促す。森百足は動きが素早く毒もあるので、冒険者であっても対応は難しい。それを不意討ちとはいえ下級の冒険者がいとも簡単に屠ってしまったのだ。その華奢な体からは想像出来ない力を秘めているのを感じさせる。
そこから更に移動し、まばらに草の植生が違う場所に到達した。薬師の足が止まったのでどうやらここが目的地のようだ。
「こちらは落陽草が群生してます。…あちらは輝薬草。もう少し遠くに行けばつゆ草があります」
「…これが落陽草」
薬師が摘んだ草を見ると葉と茎がオレンジに近い色で確かに他の雑草とは違う。薬師は三人の目の前で再び落陽草を摘んだ。
「…このように、なるべく下の方に近く傷の少ない葉を摘んでください。一株に一枚程度摘めば大丈夫です。あまり採りすぎてひまっても株が弱ってしまいますからね」
「オレンジなら分かりやすいわね」
「色だけで判断する場合は良く似た別の植物があるので気を付けてくださいね」
「…それは毒草であったりするのじゃろうか?」
「いえいえ、毒も益もないただの雑草です。葉の形が露骨に違うので見分けるのは簡単ですが、そちらを持ってこられても一銭にもなりませんから」
薬師は少し移動しててらてらとした葉を持つ草と柔らかそうな葉を持つ草を摘み、説明を始めた。どうやらこれが輝薬草とつゆ草のようである。
「つゆ草は食用にも出来ますよ。灰汁が出なくて美味いのです」
三人と薬師はこれら薬の材料となる薬草を、持ってきた袋とカゴ一杯になるまで採取する。後は街へ帰るだけであるが道中何も遭遇せずに帰還出来た。
これからしばらくはこの採取が日常となるのだろう。




