14話 駆け出し3
「皆さんの評価ですが、動きは悪くはないですね。…良いわけでもありませんが」
係員の口から出た言葉はいきなりの酷評であった。それを聞いた三人は眉間にシワを寄せるが、まだ話は途中のようなので黙って聞く。
「まずキャメロットさん。貴女は私の動きさえ見切れていなかったですし、剣術もいまひとつです。鎧は中々丈夫な様ですが、それだけでは魔物と渡り合うことが出来ないでしょう」
「ぅ、そうですわね…」
キャメロットは自身が決して強いとは思っていなかった。だがその事実を面と向かって突き付けられるのは案外堪える。この模擬戦では見せていなかったスキルも一応手札にあるが、それは他者を助けるものに他ならない。
「次にマッドさん。貴方は自分の身を蔑ろにし過ぎです。タフなのは良いのですが、攻撃を避けないのは致命的になります。先ほども言いましたが魔物には毒を持つものが少なくありません。それでは直ぐに死んでしまいますよ」
「…むぅ」
マッドは自身のゲーム時代のステータスを考慮して、この捨て身戦法を思い付いていた。自分のスキルは発動しても目立った変化はなく、異常に気付かれにくい。そこで自身に常時発動させながら相手を攻撃する。守りを捨てて攻撃に徹すれば勝てる、という魂胆であった。
「最後に鬼姫さん。貴女はこの中では戦える方でしょう。しかし軽い。重さのない攻撃など脅威にはなり得ません。またリーチのない武器ですから相手の懐に入る必要がある。反射神経は中々のものですが、それに体がついていかない」
鬼姫は体重が軽い。そのことはよく知っていた。隠していた聖炎を纏えば腕力はどうにかなる。それにスキルを使ってはいないのだ。狂化は使い方によっては攻撃スキルにもなるし、最悪自身に掛ければどうにかはなる、と高を括っていた。
「そして何より、皆さんは才能が無い。戦いの才能です」
「何だと?」
「冒険者として大成する者は才能が必要不可欠です。それは丈夫な体であったり、毒に強い耐性をもっていたり等々。…貴女方にはそれがありません」
才能が無い。そんなことは理解していた。三人の体は軍勢オンラインのアバターそのままである。このゲームは軍事シミュレーションに近いシステムであったので、プレイヤー個々の強さは余り求められていなかった。自分を強化しまくって一騎当千プレイ、なんて変わり者のプレイヤーも一応居たが、基本的に数が正義なのが軍勢オンラインである。プレイヤー自体は弱かった。
もっと自己強化に振っていれば、ユニットを召喚出来れば、そもそも別ゲーのアバターで転生出来れば、なんて後悔しても現実は何も変わらない。
「貴女方が冒険者組合に登録したのは身分証を得るため。初級は身分証として満足に使えませんが、下級なら身分証たり得ます」
「…それで、何が言いたいのだ?」
「…冒険者として活動するのではなく、商人や農民として活動しては如何です?冒険者組合に登録されている以上、緊急時には協力して頂きますが下級なら後方支援に留まるでしょう」
冒険者として活動はしない。それすなわち戦いから離れるということだ。そんな生活は確かに安心で安全だ。今後の方針を決める際、何度か話に上がったことだ。
だが彼らは生粋のゲーマーである。それを忘れてはいけない。ゲームのような異世界に転生して冒険者になるという憧れが人並み以上にあった。また、彼らには商売の知識など無く、薬を調合するスキルやアイテムボックス的な能力もない。農業も世界が違えば植物も違うので知識があったとしても役に立たない。そういった背景があった。
「…出過ぎた意見ですが、よく考えてください」
「…そうか」
「審査の結果ですが、明日受付に来て下さい。そこで結果をお教えしますが初級は確実にクリアしてますのでご安心を。…出口までご案内します」
若干迷路っぽい地下の修練場を抜け、見覚えのある組合の受付が見えてきた。受付嬢はすでに交代済みのようで、修練場に行く前の顔ぶれと違う。案内してくれた係員はぺこりと一礼し、受付の更に奥へと消えてしまった。
「アイツうるせぇなって思ってんだろ?悪い奴じゃねぇんだぜ」
背後から声がかかる。振り返れば冒険者組合支部長のガイウスと七三分けの男が立っていた。審査が終わるこの瞬間までキッチリと見物に徹していたらしい。
「…なんだその目は。今一瞬誰だっけ、っつう顔だったろ」
「影が薄いんじゃないですか?顔は濃いのに」
「うっせ。お前そういう所直さねぇと」
「大丈夫です。あなた以外にはしません」
「お、おお…。…いやいやダメだって。俺ギルドマスターだぜ?上司だよ上司」
三人は支部長が見ていることを忘れていた。正確に言えば係員との模擬戦に集中した結果意識から抜け落ちてしまったのだ。七三の男に弄られているが仮にも上司、しかも社長クラスの人間なのだ。気にしていた方が良かったかもしれない。
「おうおう。別に気にしちゃいねーから大丈夫だ。それよりお前達と模擬戦したアイツ。ちょっと厳しーこと言ったけどな。アイツも元冒険者なんだぜ。かなりの早期退職だがな」
「どおりで腕がたつと…」
「他の冒険者を庇って毒もらって。後遺症残っちまって。そんでパーティ離れてって具合でな?おまえらがそんな目に会わないようにっつう優しさよぉ」
確かにあの係員は強かった。組合の職員は最低限あの強さなのかと錯覚したがそうではないようだ。
「まあなんでこんな話したかっつうと、冒険者辞めんなよっつーことが伝えたいワケ」
「こんなオッサンに言われても…って感じですけどね」
「てめぇ…、推薦の話無かったことにすっぞ」
「それは困ります」
「素直なんだかひねくれてんだか…。あっ、俺がアイツの内情話したのここだけの秘密な!怒られちまうからよ!」
漫才をする二人。いつまでも終わる気配が無かったので帰ることにする。明日には審査の結果が分かるが、それは楽しみであり不安でもあった。




