祝立日 1
建国より15日目の良き日。
前日まで沸死病で生死を彷徨ったとは見えぬ王は、微笑みを携えて玉座に腰掛けていた。各国各地より続々と到着する使者の対応に追われる官吏達、それと共に挨拶を受ける必要があった。
フラワ国の宰相により劇的に回復した身体は、医師サーキュレのお墨付きである。そんな医師と弟子は、何やらそそくさと帰ろうとするのを引き留めて置いた。
ちゃんとお礼をしないとね!…あと、あわよくば宮廷医師を手に入れられるかも。
そんな打算もあるが、今日が終わるまではのんびりは出来ない。過保護な面々は祝立日を延期出来ないかと言ってくれたが、元ケープラナの面々はかなり苦しい様子で「挨拶だけでも受けて欲しい」と無言で訴えて来た。
祝立日の重要さは、今一つ紗季にとって理解出来てはいない。だが、大国の官吏だった彼らの言は今後重要となる。
背後にピッタリと着いてくれているのはキリスとレビュート。2人とも最後まで紗季が寝所から出るのを渋っていたが、何かあれば戻ると約束して表に出て来たのだ。
玉座の間に並ぶ上級役人達。使者から見て東側に宰相アルバンドを筆頭とした文官、西側にはネルビアを筆頭とした武官。仮に新国の15日目だとしたら、多すぎる程の人数だろう。
「ヨッツア国より、貴国への祝立日をお祝い申し上げます。」
「ウォーター国より、お気持ち感謝致します。」
ヨッツアから来た使者と、アルバンドが会話を交わす。紗季の対応は、何か直接声を掛けられれば返せば良いと言われた。ふと途切れた挨拶後、終わるだろうと気を抜いた直後に使者の側付きが使者へ何かを渡す。
受け取った見事な塗りの桐箱は両手いっぱいの大きさだろうか…などと眺めていたら玉座の近くへ進み片膝を着いた。
「…此方は、我が国国王陛下並び王妃よりのお気持ちでございます。」
国からの贈り物は祝立日より後に贈られるらしいので、本当に個人的な物だろう。背後のレビュートに目配せして受け取って貰う。ヨッツア国の使者からは、獣人への嫌悪や蔑みは見られず安堵する。
受け取った桐箱を開くと、一枚ずつが滑らかな青石で作られた小さな花。
「ヨッツアでは『永遠』を意味する国花でございます。貴国の繁栄を心からお祈り申し上げます。もう一つ陛下より…」
長々と始めたヨッツア王よりの言葉だが、たぶん要約するとこう…
『ケープラナへの尽力感謝しています。民への心温かい支援聞き及びました。貴国で何か必要なものがありましたら何でも言って下さい。お手伝いします』だと思う。
これはかなり嬉しい。これからの国づくり、他国からの支援は切り離せないのだから。
視線を交わすアルバンドが口を開こうとするのに気付き、軽く頭を振ってそれを制した。何か気の利いた事を言うべきだよね。
「まず、贈り物感謝します。」
「…っは。」
王自らの声掛けに恐縮する使者。この世界での王の立場を思えば当たり前である。
「ヨッツア国でもケープラナの民の受け入れを行ったと聞いています。貴国もこれから忙しくなりましょう、お互いに民の安寧へ尽くして参りましょう…そう伝えて下さる?」
「畏まりましてございます。しかと、尊き御言葉お伝え致します。」
言葉遣いは間違っているか正しいか分からない。他国の官吏に丁寧過ぎただろうか。玉座の間の官吏達の表情は変わらず見えた。
下がろうとする使者に対し、微笑みを崩して最後に言い掛ける。
「ねえ。」
「?はっ。」
「貴方も遠い所をご苦労様。こうやってヨッツア国の人と会えて嬉しかったわ、来てくれてありがとう。」
かなり近しい距離感の言葉掛けとなったが、今後会えるかもしれぬ相手なのだ。自分の言い方で伝えたかった。
少し驚いた風の使者だったが、代表として来ているだけはあり直ぐ様深々と礼を取って去って行った。
これでヨッツア国からの贈り物が少なくなっても、絶対後悔しない。
レビュートとネルビアは微笑んでくれた。キリスは笑みを深め、ルピア、サイラも何だか嬉し気で。ローマネも瞳を蕩かせる。
元ケープラナの面々の様子を伺う。
ユーチェロはパッと笑顔を浮かべ、ナントとエリリィアは常と変わらず、メーリングは無表情、シュラは深く頷いている。
よしよし、悪く無いって事だよね?
ん?何でアルバンドは渋い顔なの?
喧嘩売ってる?買うけど。




