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治癒魔法使いアレスタ(改稿・削除予定)  作者: 一天草莽
第三章 そして取り戻すべき日常
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11 見せしめの血祭り

 南部マフィアの本部は、当然ながらアヴェルレス南部に存在する。

 すっかり寂れて人気のない倉庫街からは少し離れた、一般市民の住宅や商店が群がり建つ区画からほど遠い、狭い路地を進んで奥まった場所に君臨を許されている。

 あくまでもブラッドヴァンの下部組織だが、それでも大多数の市民からすれば、マフィアなんてものは畏怖の象徴だ。当然ながら嫌われている。

 ある種の皮肉をこめて小宮殿とも呼ばれるアジト。

 三階建ての豪奢なつくりをした南部マフィアの巣窟だ。


「明日からの赤い酒にはオドレイヤの血が浮かぶ。美酒だろうね、味はともかく」


 最も安全な三階の中央。

 無駄に広々とした寝室に備え付けられた、天蓋つきの赤いベッド。

 ゆるやかに横たわった南部マフィアの首領ナムールは、横に妙齢の女を抱いて上機嫌にささやいた。

 相手をする女には言葉がいらない。返事を許さずに手にしたグラスを傾けると赤い酒を注ぎこんで、抱いた女の口をふさぐ。

 同じマフィアからさえ低俗王と呼ばれるナムールが夜の女に求めるものは、いかにもメスらしい妖艶な鳴き声だけである。そのためには女を酔わせて邪魔な理性を飛ばすのだ。


「勇敢にもオドレイヤに歯向かったフレッシュマンには期待しているが、いつまでも若造にでかい顔をさせるわけにはいかない。マギルマと手を組む? 配下に下る? バカを言え、ここからの反逆は私が旗印となるのさ」


 幹部クラスともなれば、マフィアの人間は誰もがその身に野心を宿す。

 その立場と許された権限の数々が、さらなる野望と願望を知らず知らずのうちに育ててしまうのだ。

 自尊心と欲望の高まりは、現在の地位の高さに比例するといってもいい。


「そしてオドレイヤを私が殺す。殺したらアヴェルレスの女はすべて私のものだ」


 ただしナムールの場合、野心と呼ぶにはいささか色欲の度合いが強かった。

 ――ひとたび甘い目を見れば、金と女への欲望はとどまることを知らなくなる。だから最初の女には不細工で不器用で最悪の女性を選ぶべきだ。きっと次の女を探す気も失せる。

 とは、暗黒街アヴェルレスに広まるたちの悪い格言だが、それを冗談として言い合っている男達に倫理の点で問題があることだけは疑うべくもないだろう。

 アヴェルレスのマフィアにろくな男はいない。

 関わる人間すべてに「南部マフィアの女たらし」と陰口を叩かれてきた男であり、まるで尊敬と崇拝とは縁遠いナムールは、しかしその罵倒を称賛の言葉として受け取るだけの傲慢さがあった。


「ナムールのクズ野郎がフレッシュマンと秘密の協定を結ぶに至ったのは、オドレイヤの支配するアヴェルレス北部に美人を見つけたからだ。それ以外に理由があるとすれば、実はフレッシュマンが女だったという可能性しかないな」


 などと直近の部下にまで女好きな性格を馬鹿にされるナムールだが、たとえ内なる動機がいかなるものであろうと、保身に走らずオドレイヤに立ち向かう覚悟を決めた点だけは、南部マフィアのドンとして彼が凡百の連中に勝っているところだろう。


「ナムール様! ナムール様はおられますか!」


 草木も眠る深夜だというのに寝室の扉が慌しく叩かれる。

 連絡係がナムールを呼びたてているのだ。


「ええい、今はちょうどよいところだ! どんな急用だろうが、女を相手に中途半端なことはできん! しばし扉の外で待っておれ!」


「それどころではございません! ナムール様、それどころでは!」


「バカを言うな! 美しい女との一夜の触れ合いは、男にとって千日の天下に匹敵するのだぞ! それをそれどころではないなどと、男の風上にも置けぬ奴め!」


「だからそれどころではございません! 外の様子がおかしいのです! 今日という日の異変が何を意味するか、よくお考えください!」


「なに……?」


 ようやく頭の冷えたナムールは、自身の体にまとわりつく冷や汗と脂汗の不協和音に困惑した。

 頭で理解するより早く、彼の本能が恐怖を感じ始めているのだ。

 前触れなく襲ってきた悪い予感は、今の今までベッド上で繰り広げられていた女との触れ合いに高揚していたナムールの心臓を覆い隠さんばかりに巨大さを増していく。


「わかった。すぐに行く。すぐに帰れるといいが……」


 こうなっては女と戯れている場合ではない。

 正体不明の焦燥に駆られて外行きの服を着たナムールは、疲れもあってか、覚束ない足取りで正面出入り口を目指した。

 正面玄関の扉から門までは、しばしの距離がある。

 ナムールが夜の外気に晒されて目を凝らすと、閉ざされた門の前に不気味な人だかりがあった。数人、いや数十人はいるだろうか。なにやら人を呼ぶように鉄の柵や壁を手で叩いており、その雑多な音がアヴェルレスの赤い夜に響き渡る。

 申し訳なさげに首をすくめた衛兵が彼らのボスに駆け寄ってきた。


「彼らには話が通じず、門を開いてよいものかどうか……」


「よい、私が話を聞く」


 不安げな衛兵を背後に下がらせたナムールは、わき目も振らず門まで直行した。

 ささやかな赤黒い空の夜明かりが、顔の識別を至近距離で可能にする。


「誰かと思えば、フリッツェオか。予定よりも早いが、もう魔道具の取り引きは終わったのか? ちゃんと確認したんだろうな? おい、さっきからうるさいぞ。お前の部下を黙らせろ」


 言い知れない苛立ちもあって高圧的に声を掛けると、それが耳に届いたのかフリッツェオらの動きは止まった。しかし返事がない。

 群衆の統制された沈黙は、一種の不気味さをかもし出していた。


「ちゃんと聞いているのか? ええい、要領の悪い奴らめ……!」


 問いかけているというのに返事もなく呆然と立ち尽くすフリッツェオらの姿に、今宵のうちに果たされるべき彼らの仕事を重視している南部マフィアの首領は、さらなる苛立ちを隠せなかった。

 そして部下を相手に隠す必要もないと、彼個人は信じている。


「今、この門を開けてやる! 報告は説教部屋で聞こう!」


 憤怒の表情で怒鳴りつけて、カッとなったナムールは内側から門の鍵を外した。無用心だが、警戒を怠ったわけではないのかもしれない。彼は出来の悪い部下の頬を叩きつける習慣があったので、このときも、しつけてやろうと反射的に動いただけなのだ。

 だが、要領の悪い部下の左頬を叩いた彼は違和感に包まれた。フリッツェオが痛がる様子を見せないのだ。それどころか、ボスの前だというのに反省した様子がない。

 生気を失ったフリッツェオの無表情な顔が、ゆっくりとナムールを捉える。

 ――生気を失った?

 その瞬間、ある一つの可能性に思い至ったナムールの全身に衝撃が走った。


「まさかっ、お前らは――!」


 叫ぶと同時、ようやく視野の広がったナムールはフリッツェオ以外の面々の姿を確認する。

 腕が千切れた者、内臓が飛び出ている者、全身に大火傷を負っている者……など、それは見るからに不穏で危険な集団だった。

 ほとんど死体。動いていることが奇跡。

 この街において、それらが意味することはたった一つ。


「オドレイヤに殺され、魔法で操られている死体なのかっ!」


 肯定する代わりとして、死んだマリオネットたちは驚愕して動きの止まっていたナムールの体にしがみついた。

 そして――爆散。

 最強最悪の魔法使いであるオドレイヤの魔法にかかれば、人間の死体は歩く魔法爆弾にもなる。その威力はオドレイヤの魔力に由来しており、したがって人を一人殺すには十分だ。


「なっはっは、見せしめにはちょうどいい演出だろう?」


 とは、内側から膨張した魔力によって炸裂したフリッツェオの死体がナムールの体を吹き飛ばした瞬間に発せられたオドレイヤの言葉である。

 わざわざ現場に居合わせているのではない。遠く離れた場所にいて、彼は操っている死体の目を通して見る状況を楽しんでいたのだ。

 いうなれば遠視である。


「倉庫街ではたくさん捕まえることが出来たからな、操ることのできる死体はまだたくさん残っている。さて、ここからゆっくり南部マフィアの“同士討ち”を堪能させてもらおうか」


 魔法爆弾だけではない。オドレイヤが操る死体には様々な術式が施されており、その数だけ多彩な攻撃手段を行わせることが出来る。

 さすがに何体も同時に操れば一体当たりに使用させる魔法の威力は弱くなるが、それでも南部マフィアごときには苦戦しないのがオドレイヤだ。

 この夜、かつての部下達の死体人形によって、大多数の構成員を失った南部マフィアは組織を維持させることが不可能なレベルで壊滅した。蹂躙されたといってもいい。

 一組織が壊滅するまでにかかったのは、たった一夜。

 しかも、ほとんどの構成員は敵将オドレイヤと対面することもかなわないうちに命の終焉を迎えていた。

 圧倒的な戦力差。現実の力関係。

 やはりアヴェルレスはオドレイヤの時代なのだ。







 翌日、南部マフィアの凋落を見届けたオドレイヤは残る二つの下部組織、すなわち東部マフィアと西部マフィアの代表者をブラッドヴァン本部に呼びつけた。

 街のやや北に存在する湖の中央に浮かぶ島。そこにアヴェルレスの絶対的支配者が君臨する軍事要塞にも似た屋敷が建っている。

 数百年をかけて増改築が繰り返されてきた通称オドレイヤ邸だ。

 かつては東西南北を下請け的に分割支配していた四つの下部組織。それが一つはフレッシュマンによる裏切り、そして一つはオドレイヤによる破壊によって、今では東西に二つを残すのみとなっていた。

 ちなみにマギルマを率いるフレッシュマンからすれば、南部マフィアを壊滅させたオドレイヤの報復行為は、彼自身の手でブラッドヴァン勢力を弱める行為といっても過言ではない。なにしろオドレイヤの手先として動くであろう下部組織が、労せず二つにまで減ってくれたのだ。

 南部マフィアとは秘密の協力関係を結んでいたとはいえ、いつ手のひらを返されるか知れたものではないので、昨夜から続いていた取り引きの裏側で、実を言えばフレッシュマンは彼らを葬る手段にも懸念を寄せていたものだ。

 このまま際限のない疑心暗鬼の闇に陥って、部下を信用することができなくなったオドレイヤが彼の部下たちを叩き潰してくれれば、マギルマは戦わずして最大の戦果を得ることになる。直接対決を避けて持久戦にもちこめば、反オドレイヤの人海戦術による緩やかな勝利を得られる可能性もあった。

 しかしながら、あくまでもアヴェルレスを支配する本陣はオドレイヤ率いるブラッドヴァンだ。優秀な魔法使いが所属しない下部組織など恐れるに足りず、実際、ブラッドヴァンに対抗して束になったところで正攻法では勝ち目がないだろう。

 最悪、オドレイヤはたった一人でも戦いに勝ち続けるのかもしれない。そうなったとき、果たしてフレッシュマンが率いるマギルマに彼の息の根をとめることが出来るだろうか?

 その結果次第では、未来のアヴェルレス勢力図は一変しかねないのだ。

 こっそりと身の振り方を考える有象無象のマフィア連中とは無関係に、オドレイヤは呼び出した二つの下部組織代表者を前にして、威風堂々たるたたずまいを見せていた。

 すぐに口を開くほど軽い人間ではない。

 たっぷりタメの時間を作って、彼は恐縮する下部組織の幹部達へと言葉のトゲを突きつける。


「諸君らに通告する。部下の失態は組織全体の失態だ。今後、たとえ一人でも我がブラッドヴァンを裏切る人間がいれば、その不届き者が所属する組織ごと死んでもらうつもりだ。よいな?」


 たとえ不満があったとして、それを素直に口に出来る人間は誰もいなかった。

 直接的な操作系魔法を使われるまでもなく、彼らは恐怖によって逆らうことが許されない。

 東部と西部のマフィアといえば、もはや大きな意味での操り人形だ。


「そして、これが最も大事なことだが――」


 仰々しい前置きに緊張を余儀なくされたのか、集まった下部組織の幹部連中は息を呑んで耳を澄ませた。

 オドレイヤの言葉は待ち構える彼らの耳朶に重く意味を持って響く。


「我々ブラッドヴァンはフレッシュマンからの宣戦布告を受け入れる。まさしく今日、この場より、真なる闘争の始まりだ!」


 この闘争宣言は即日中にアヴェルレスに知れ渡り、街を新たな不安と恐怖の渦中に陥れることとなった。無論、この時点での旗色はオドレイヤに優勢を示している。

 アヴェルレスに生まれ、アヴェルレスに育ち、アヴェルレスに死んでいく囚われた異次元世界ユーゲニアの住人達は、その限られた世界構造が変化することを素直に期待できなかったのだ。

 ところで、この宣言がなされる直前のこと。

 これまでマギルマに対する処置を迷っていたオドレイヤがここにきてフレッシュマンとの全面対決に踏み切ったのは、とある女性の後押しがあったからだ。

 その女性の名はフーリー。実質的な序列は第二位と噂される、年齢不詳の美女だ。

 湖の孤島にあるオドレイヤ邸、水晶の間。

 南部マフィアを壊滅させたばかりのオドレイヤは、染み渡った赤紫色の夜が明けぬうち、屋敷へ戻ると真っ先にこの部屋を訪れた。フーリーのために設けられた特別な個室である。

 言い知れぬ興奮が彼の体を火照らせていて、それを鎮めようという思惑もあったかもしれない。

 だが、この部屋の主は気の利いた女ではなかった。


「そんな顔をしてここに来るときは、いつだって泣き言を漏らしていたな。だがオドレイヤ、お前には弱音なんて似合わぬ。もっとふてぶてしく暴虐の限りを尽くせ」


 ――私が望んでいるのは地獄。お前に望むのは無慈悲な地獄の支配者。


 魔力で動く湯沸かし器から淹れたパープルティーを客人であるオドレイヤの前に置いたフーリーは、いたずらに笑って、彼の正面、テーブルを挟んで向かい側に座った。

 静謐さを浮かべる高級な紫色の液体から目をそらし、立ちのぼってくる堅苦しい気品ある香りに鼻を曲げると、露骨に不愉快な顔つきとなったオドレイヤはあごをさすった。


「私は赤い酒か、でなければ甘いものしか飲まない主義だ」


「それは趣味だろう? 好き嫌いを偉そうに語るのはよせ、みっともない」


「どうかな、好き嫌いの感情はバカにできないものだが。付き合う人間も主義より趣味で選ぶべきだ。主義や信念なんてものは人を簡単に裏切るからな。実質的には意味のない言葉ばかりだよ」


「……さすが、ここまで裏切り裏切られてきたブラッドヴァンの男は言うことが違うな」


 ほんの一瞬だけ優しい声色を感じさせたフーリーはオドレイヤのパープルティーにたっぷりの砂糖とミルクを入れてやった。これで幼子にも飲めるくらい甘くやわらかい味になったはずだ。

 本来の奥ゆかしい風味は失われ、高価な茶葉は台無しとなっただろうが。

 ところがオドレイヤは口をつけない。それどころか、すっかり甘くなったパープルティーのことなど気にも留めていない様子だ。

 たわいのないやり取りの中で、わざわざ彼女のもとを訪れた理由を思い出したのだろう。

 彼にとって喉の渇きなど些細な問題だ。


「私は今日、ふと思ったのだ。野心を片手に覚悟を決めて我々に挑んでくる猛者は生きているか? いや生きていないだろう。……弱すぎるのだ。今の街が弱すぎる。これでは何のために支配しているのかわからない」


「お前が強すぎるだけだろうと思うがな」


「うむ、それは残念だが事実だろう。毎日が命がけ、誰もが本気だったころの闘争時代がなつかしいな。今はもうお膳立てが済んでしまってね。決まりきった据え膳を食すだけ、まるで老人扱いだよ」


「くっくっく、さっさと遺書を残して死んでほしいと思われているのだろうさ」


「笑いごとじゃないのだが……」


 真剣な悩み事のつもりだっただけに、まともに相手にされず笑って流されたオドレイヤは不服と不満を感じずにはいられなかった。

 年甲斐もなく拗ねて腹を立ててしまうと、あからさまに口をへの字に曲げてしまいかける。その寸前で彼は目の前のカップを口元へ運ぶと、気を静めるために苦手なパープルティーを一口だけ飲んだ。彼女の前で子供じみた表情や態度は見せたくないと、これでも男としての体裁を保っているつもりなのだ。

 想像以上に甘い味がしたパープルティーを飲んで、ほんのわずかに気を取り直したのはオドレイヤ。むずがる子供を甘いジュースであやしたようなものだが、事実、フーリーからすればほとんどそうであった。

 たとえ五十過ぎの年老いた男であろうと。


「南部マフィアは裏切って一夜か。なぁ、オドレイヤ。フレッシュマンはお前を裏切ってから何日ほど生き延びている?」


「……覚えていないな」


 ブラッドヴァンを離反したフレッシュマンへは「謝罪して降服するまでの猶予期間」を与えていた彼だが、そのマギルマに加担しようとした南部マフィアへは、釈明の余地すら与えずに鉄槌を下した。彼本人は否定したがるだろうが、無意識のうちにフレッシュマンをえこひいきしていたのだ。

 それはなぜなのか。

 自分のことでありながら、実はオドレイヤにもわからなかった。


「お前は支配者として弱くなり始めているのではないか? 年を取って、らしくもなく情が出てきているんだよ。かつて次期ドンの座を譲ってやろうと可愛がっていた一番弟子に裏切られて、それを認められずにいるのだろう?」


「……それはない。それだけはないぞ、フーリー。フレッシュマンに裏切られて以来、悲しむどころか心が昂ぶっているのだ。私に情があるものか」


 むきになって反論するのは子供じみているが、それを彼女は指摘しない。

 わずかな沈黙をたっぷり自分のために使って、平静を取り戻したオドレイヤは甘い味のパープルティーを飲み干して言った。


「私は甘いものが好きだからな、デザートは最後に食べる。食べるといったら皿まで食べる。……ただ、もっとも美味しい食べ方を探しているのだ。甘いものを横取りしようと群がるアリを蹴散らしながら」


 南部マフィアをアリにたとえたのは、実際に一晩で蹴散らしたオドレイヤだからこそ言えることだろう。たとえばこれがフレッシュマンなら、よしんば勝ったとしても南部マフィアとの戦いには相応の苦戦を強いられていたはずで、アリのように蹴散らすわけにはいかないはずだ。

 だがしかし、それでもフレッシュマンは勝つだろう。

 彼が率いるマギルマは、まず間違いなく下部組織に過ぎない東部や西部マフィアなどよりも強く、現状、アヴェルレスで唯一オドレイヤに立ち向かうことの出来る勢力だ。

 だからこそ、闘争に血が踊るオドレイヤはフレッシュマンとの戦いに喜びと迷いを混ぜ合わせたような思いを抱いているのだ。あっけなく殺してしまうのはつまらないから、と。

 デザートは最後に食べる。しかも美味しい方法で。


「ならばフレッシュマンをここに連れてくればいい。生きたままでも、死体でも、お前が勝って、負けを認めたフレッシュマンを捕らえてしまえばいい。そうしたら奴を水晶に閉じ込めて、彫刻にする。それが裏切ったものの顛末。アヴェルレスのやり方。地獄の象徴として、街の中を引きずり回してやればいい」


 この彼女の言葉が、最終的にはオドレイヤを動かしたのだろう。

 突き動かされたオドレイヤは呟く。


「死体が残る殺し方をして、そうか、それを私の魔法で操ってしまってもいいのか」


 それはとても甘く美味しいデザートとなる予感がした。

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