表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2話 隆史の場合

隆史の場合


「デブ。」

「近づくなよ!」

 中学生の頃の隆史はひたすら、いじめの対象になっていた。その日もあれこれ、言われて、隆史は落ち込んでいた。海のように深いため息をついた。

「はぁー。」

 学校の屋上からの夕日がきれいだった。金網の向こう側がやけに広く感じられた、そのときに、チャイムが鳴った。

「そろそろ、ここも閉まるよ。」

 急に声がして振り返ると、同じ制服を着た男の子が立っていた。どうやら、本を読んでいたようだ。隆史は、ドアを開けて、そのまままっすぐ進んでいったために、彼の存在に気がつかなかったようだ。彼はそれだけ言うと、出て行った。しばらく夢でも見ていたのかとぼんやりしていると、制服をきたガードマンがやってきた。

「閉めますよ?」

 隆史は慌てて、屋上から出て行った。


 次の日。その男の子がクラスメイトにいた。

「やぁ、ども。」

「どうも。」

「俺、黒田。坂本君だよね。」

「そうだけど、何か?」

「え、えっと。」

 隆史がもごもごしている間に、誰かが隆史の肩を叩いた。

「おいおい、デブが秀才になんのようだー?」

「え、えっと。」

「なにか、用があったとしても、君には関係ないだろう。」

 普段は大人しい玲が言ったせいだろうか、からかった生徒も、面食らったようで大人しく離れた。

「あ、あの。」

「チャイムだよ。」

 玲がそう言うと、きっかりに鳴った。

「あ。」

 隆史は慌てて、席に戻った。下に落ちて、ちらばっている教科書も拾い集めた。ぶつかったと言って、ついでに机の中の教科書をばら撒いていくのだ。机の上にも、文字がたくさん書かれている。ひどいものは、油性ペンでかかれていた。


 昼休み。

「玲。めしー。」

「ああ。」

 隣のクラスから進がやってきた。

「君も来る?」

 玲は隆史に声をかけた。

「い、いいの?」

 隆史は進のほうを見つめた。

「俺は別にいいけど。」

「うん。」

 隆史は嬉しそうにパンを取りにロッカーに行った。こっそりと、聞いてみた。

「なんかあったのか?他の人を誘うなんて珍しい。」

「いや、この間、ここで本を読んでいたら、深いため息をついていてね。ちょっと心配になった。死んだら、困る。」

 玲も小声で答えた。

「よし、広場で食うぞ。」

 そこは、広い空間があって、昔あった教室の椅子や机がそこに置かれていて、誰でも勝手に利用してもいいように置かれている場所だった。

「ど、どうも。俺、黒田 隆史。よろしく。」

「俺、林田 進。玲とは小学校からの付き合いだ。それにしても、そんなに食うのか?」

進は目を丸くした。

「う、うん。太っているせいか、お腹がすくんだ。それに、お腹が鳴ると……。」

 隆史は言葉を濁した。どうやら、クラスメイトにからかわれるようだ。パンがつぶれているのが印象的だった。おそらく、誰かにつぶされたのだろう。しかし、味に問題はないようだ。隆史はパンを開けて食べ始めると、急に玲の持っている弁当を見つめて言った。

「あ、うちの弁当!」

「うちの弁当?」

「彼のうちは弁当屋だ。ほら、学校の近くにあるだろう?「あおぞら弁当」って、店だ。」

 玲が言った。

「知っているの?」

「俺は毎朝、あそこで弁当を買っている。うまいんだ。親が働いているんで、弁当を作る暇はないし、学校の弁当はいまいちだからな。」

自分の家の弁当を誉められたせいか、やけにうれしそうだが、隆史は続けていった。

「で、でも、それ、「青弁当」じゃないか!先着五人までしか買えないんだよ?」

「そうなのか?」

 進は初耳だったようだ。

「さぁ。」

 玲も知らなかったようだ。

「え、それ、いつ買ったの?」

「今日の朝。」

「朝……。俺が起きてくる時には売り切れてるんだよ、それ。」

「ああ、新聞配達の帰りに買うんだ。」

「新聞配達……。」

「で、なんで弁当屋なのに、パンなんだ?」

 進が聞いた。

「え、あ、ああ。その、家で弁当のおかずを食べてくるから、昼はパンと思って。」

「へぇ。夜は?」

「夜も、おかずなんだ。次の日まで弁当を残しておけないし。」

「やっぱり、そうなんだ。」

「う、うん。そのせいか、ちょっと油っぽい匂いがするんだけど。ごめんね。」

「ん?気にするな。から揚げとか、コロッケのせいだろう?」

 そのコロッケを食べながら、玲が言った。

「うん。男性をターゲットにしているから、つい、がっちりしたメニューになりがちになるんだ。」

「おい、早く食べないと、そろそろ鳴るぞ。」

「やばい、こいつが言う時は本当に鳴るんだ。早く食え!」

「う、うん。」

 三人は黙々と食べた。

「あと、三分で鳴るな。教室に戻るぞ。」

「あー、じゃ、またな。」

 進は慌てて走っていった。

「ああ。」

「そういえば、林田君はクラスどこ?」

「七組だけど、次、生物室に行かなきゃいけないみたいだから。」

「ああ、それで、急いでるんだね。」

 隆史は納得したようにいった。教室に戻りながら、二人は歩いていた。急に後ろから声がかかった。

「あれ、デブ、どこにいたんだよ。」

「え、えっと……。」

「俺と一緒に飯に。なにか?」

 代わりに玲が返事をした。

「い、いや。」

 声をかけたクラスメイトは、そのまま素通りしていった。


 翌日。昼休みに、祈祷と同じ広場で進と玲の二人が仲良く、弁当を食べていた。

「休み?」

「ああ。急にな。」

「店は?」

「通常どおり、やっていた。」

 玲は弁当をちょっと持ち上げて見せた。

「さぼりか?」

「かもな。いままでさぼってるのを、一度も見たことないけどな。」

「……なんか、嫌な感じがすんだけど?」

「俺もだ。彼のことを一番からかっていたやつが、殴られたような頬をしていたんだ。」

「ケンカかなぁ。」

「かもな。帰りに弁当屋によって見る。」

「俺も行く。」

「いいのか?」

「別に家に帰ってもなにかあるわけじゃないからな。」

 進は肩をすくめてみせた。


 外見はとても隆史に似ていて、恰幅のいい感じのおばさんがそこにいた。店のおばさん、つまり、隆史の母親は玲のことを覚えていたようだ。

「ああ、毎朝、買っていってくれるお客さん。息子と同じ学校の子だったのかい。」

「あの、隆史君は?」

「……入院してね。」

「入院?!」

 自然に二人の声が大きくなった。

「ど、どうして?」

「ケンカをしたらしいんだけど、相手の人数が多くてね。たいした怪我じゃないみたいでね。ちょっと内蔵を調べるための入院だから、すぐに学校に出て行くよ。」

「どこの病院ですか?いまから見舞いがてら、行きます。」

「あら、行ってくれるの?」

「はい。」

「あ、じゃ、これお願いしても良いかしら?ちょっと店が忙しくてね。」

 おばさんは荷物を渡した。ついでに病院と病室も聞いた。

「これ、渡せばいいんですね?」

「頼むね。」

「はい。」

 二人はそのまま病院へと向かった。病室を覗いてみたが、いなかった。カバンを置く。

「いないな。」

「トイレか?」

「ん?ここのでっかい男の子かい?」

 急に入り口から入ってきたおじさんが言った。

「はい。」

「あの子なら、上に行ったよ。」

「上?」

「ああ、エレベーターで上がっていったぞ。誰か知り合いでもいるのかもな。」

 進は無意識に例のほうを見ていた。どうやら、二人して同じことが頭に浮かんだようだ。

「急げ!」

どたばたと二人は走った。

「病院の中は走らないでください。」

 後ろから看護士の声が聞こえたが、気にせずに、二人は屋上に向かっていった。すると、隆史はドアの前で座り込んでいた。

「く、黒田君。」

 隆史は顔を上げた。息を切らしている二人を見て、目を丸くした。

「ど、どうしたの?」

「それはこっちの台詞だ。入院なんかして。大丈夫か?」

「う、うん。平気。明日には出られるって。」

 ほっとしたように、玲はいった。

「そうか。で、ここでなにしてるんだ?」

「え、えっと、屋上に行こうとしたら、閉まってるんだ。安全のために。」

「じゃ、病室に戻るぞ。お母さんからの荷物を持ってきたからな。」

「う、うん。」

 隆史は素直に、歩き出した。病室に行くと、母親がいた。

「どこ行っていたのよ?」

「あれ?どうして?」

「おじさんが手伝いに来てくれたのよ。で、あんたが心配できたの。どう?体は。」

「うん、ちょっと足を捻挫したみたいだけど、それだけ。」

「じゃ、明日から学校にこられるな?」

 玲が言った。

「捻挫じゃ、入院はできないよなぁ。」

 進も言った。

「じゃ、また明日な。」

 肩に手を置いた。

「う、うん。」

「よし。」

 進と玲はちょっと手を上げて、病院から出て行った。

「ドア、開いてなくてよかったよな。」

 ポツリと進が言った。

「ああ。飛び降りていたかもしれないよな。」

「明日、くるかな?」

「よし、明日、朝弁当買いがてら、起こして一緒に学校に行ってもいいな。」

「お。いいかも。」

 二人は夕日の中を歩いていた。


 一方、隆史は夕方には退院できた。

「いい友達がいるのねぇ。」

 母親がぽつりと言った。

「うん。明日、一緒に弁当を食べるんだ。」

「怪我は平気なの?」

「うん。ほら、俺、おじさんに柔道、習っているから、結構頑丈だし。」

「そうね。」

 母親はちょっと笑った。

 隆史もちょっと笑って見せた。


 怪我のことは、誰もなにも聞かなかったし、隆史も言うことはなかった。しかし、それ以来、隆史をからかう人は誰もいなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ