14:透過。無敵。透過。無敵
「私の快適な労働環境を二度も荒らした罪、そのアバターを物理的に消去して、全額賠償金として毟り取ってやるわよ、時給泥棒おおおおお!!」
【V-ARC】を高周波ブレードへと変形させ、小春はTポーズを解除してVへと突撃した。
しかし、空中を悠然と浮遊する悪質チーターは、ノイズ交じりの合成音声で鼻で笑うだけだった。
『フハハ、愚かな一般ユーザーが。外部ツールに頼らぬ原始的なバグ利用など、私の最適化されたコードの前には無力だ』
Vが指をパチンと鳴らす。
直後、彼の周囲に緑色のデジタルマトリクスで構成された『常時オートガード』の障壁が展開された。
あらゆる物理判定を検知した瞬間、コンマ零秒で完全に対象の攻撃を受け流す、ルールそのものを無視したハッキングによる絶対防御だ。
「師匠! あいつ無敵チート使ってます! 格ゲーの全自動ブロッキングマクロと同じです!!」
後方からシオンが涙目で警告の射撃を放つが、銃弾はVの障壁に触れた瞬間、パパパンッと小気味よい音を立てて火花となり、すべて軌道を逸らされた。
『無駄だ。この盾は一分間に数万回の判定をすべて自動で弾く。お前たちがいくらブレードを振ろうと、一発たりとも私の肌に触れることすら――』
「付き合ってらんないわよ、そんなクソ仕様」
小春は直進しながら、視界のインターフェースを恐ろしい手際でスパム入力し始めた。
彼女が狙うのは、先ほどボスを倒すために上空へと駆け上がった際、運営のクソパッチのせいで重複実行され続けた『空中ジャンプバグの累積慣性』だった。
小春は地表に激突する直前、超高速で『しゃがみキャンセル』を複数回入力する。
本来なら地面に叩きつけられて相殺されるはずだった「下方向への膨大な位置エネルギー」が、システム側の物理演算バグによって行き場を失い、あろうことか横方向へのベクトルへと強引に変換された。
ズズズズズズズッ!!!
「なっ……なんだあの、地を這うような水平ワープは!?」
大刀を構えたまま呆然としていた夏目が、素っ頓狂な悲鳴を上げる 。
歩行モーションなど一切存在しない。
小春のアバターは、ただ『直進する座標の暴力』と化して、江戸の石畳を凄まじい衝撃波とともに削りながらVへと突進していた。
『突っ込んでくるだけなら、弾きマクロの自動処理で――』
「ラグを舐めるな」
小春の瞳が、完全に冷酷なクソゲーマーのそれに変わる 。
超高速で肉薄しながら、彼女はわざと通信パケットを詰まらせる『装備の高速切り替え』と『ドッジロール』を、一フレームの隙間に狂ったように交互に詰め込み始めた。
ガシャガシャガシャピピピピビターンッ!!
アバターが激しい残像を伴って痙攣し、ラバーバンド現象による『同期ズレ(透過)』と、前転回避の『無敵フレーム』が、超高頻度のスパムとなって交互に判定を上書きし合う。
――透過。無敵。透過。無敵。
Vの弾きマクロが、小春の「存在しているかどうかも怪しい超高速の痙攣攻撃判定」を正しく処理しきれず、完全にログの過負荷を起こした。
チートツールが『一フレームあたりの検知限界』を超えてフリーズする。
『な……っ、マクロのガード処理が追いつかない……!? 判定が、同期が混濁して――』
「はい、ガードクラッシュ。時給泥棒は一発退場よ!!」
バリィィィィンッ!!!
ガラスが粉々に砕け散るような音と共に、Vの無敵障壁が文字通りへし折れた。
その隙間に、小春はブレードの形をしたアンチウイルス・データの塊を、Vの胸のポリゴンへと強引にめり込ませた 。




