第一話:どうやら人と会えたようだ
「あのぉ……、だいじょ……ぶ?ですか?」
頭上からかけられた声に、意識がぼんやりと戻ってくる。
「ぅん、」と声を漏らしながら俺は体を起こす。
ポカポカの陽気が刺さる、フカフカの芝生の上に俺は伏していたらしく、頬がチクチクした。
「わ!おきた!……大丈夫?」
慌てて起きて声を掛けてくれた彼女の顔を見る
深い赤色の二本の三つ編みをお下げにした10代後半の女性…中高生くらいだろうか。
大きな丸眼鏡と頬のそばかすから大人しそうな雰囲気で、腕や足に包帯やガーゼを貼っている。
「あっす、すみません!だ、大丈夫で……、す」
とは言ったものの、ここがどこでなぜ自分がそうしていたのか全く思い出せず、辺りを見渡しながら語尾を弱める。
ここはどうやら林か森の中のようで辺りには木が生い茂り、座っている場所は前述した通り芝生が生え、見たこともない花が咲いている。
まず間違いなく東京都の駅内ではなさそうだ。
「本当に大丈夫?
おにーさん見たことないかっこしてるケド……何処から来たの?」
大きな黒い目をぱちくりさせる彼女の言葉に俺は口ごもる。
「わ、私は橘伊織と申します、出身は……、東京の」
芝生に正座をし、しゃがんでいる彼女を前にして、胸ポケットに反射的に手を突っ込んで名刺を取り出す動作をして、その抜けない癖に虚しさを感じる。
「ハハッ!なぁにぃ?かしこまっちゃって〜!それに、男の子なのに私って言うんだ?なんだかリンちゃんみた〜い!あ!私はねイチゴって言うんだ〜よろしくね〜いおりん!
で、とーきょーって……どこ?」
東京をしらないなんて、とは思ったものの。聞かれては説明しない訳にいかない
しかし……なんと説明したものか……
というか、俺の最後の記憶は休日出勤の朝に、ホームで……
ずきり、と頭が痛む。
働き過ぎておかしくなったのか、今の状況はどう考えても非現実的だ。
いや、現実逃避であのクソ上司が消えるわけがない。
「えぇ……っと、東京は地図でいう所の東ですね、えっと……。
あ、そ、そうだここは?」
「ここ?神様が治める神権国家、ヴァルディスだよ」
「……へ、」
そういいながら、イチゴさんは俺との間に指で超簡易的な世界地図を書いて見せてくれた
イチゴさん曰く世界はここ、世界樹のある聖冠国ヴァルディスを中心に土地が広がり、国は帝国に王国、果てには魔法連邦などあり、まだまだ国がありそうだったが彼女はこれしか思い出せないようで頭を捻っていた。
「で~、いおりんは何処?東のってことはアストリア辺り?」
当然、見たことも聞いたこともない世界地図だ。
にわかには信じがたい話だが、彼女の向こう側に雲を突き抜けてるデッカイ樹が生えてるのが見えてるんだよなぁ……。
「あ、あの、後ろの木は……?」
「ん?あぁ、世界樹」
「せかいじゅ。」
「そう!世界樹~」
世界樹を背に手をひらひらと振り、称えるように俺に見せてくる
なんとなくそんな気はしていたが、おそらくこれは異世界転移というものだ。
ネット小説で恐ろしく有名な、あれ。
……時間がなくて読んだことは無いが。
「わ、私は……、八百万の神々の国、日本から来ました……」
無理だ、異世界人に伝わるわけない。
地図にない国なんだからここということもできない。
ほぼ諦めながらしょもくれながらそういうと、イチゴさんは多分理解も納得もしてないが「そっか!」といって立ち上がる。
「とりあえず、うちのキャンプにおいでよ!私たち旅人でね、お友達のリンちゃんが頭のいい子だから、いおりんの言ってるトーキョー?とか、二ホンのことわかるかも!」
イチゴさんは俺に手を差し出し、俺はその小さくて華奢な手を取る。
立ち上がってみるとイチゴさんの背は俺よりも頭1つ以上小さく、少女というにはもう少し大人だが女性というにはもう少し幼い気がした。
小脇に小枝を持ち、取った手をそのまま引いて先をスタスタと歩く姿はなんとなく、日本に置いてきた妹を思い出させた。
手を引かれ開けた広場へと案内された、そこには2、3人用のテントらしきものが張られ、近くには焚き火の用意といわんばかりの石で囲った囲炉裏があった。
「りーんちゃーん!」
イチゴさんはパッと手を離して囲炉裏近くに小枝を放るとそんな風に呼びかけながらテントの方へと歩みを進める
「はぁい?枝は集まったのかしら?……あら?」
テントから出てきたのは短い金髪の青年だった。
背丈はイチゴさんと変わらない位で若く見えるが声からして声変わりは済んでいるっぽい、年はおそらくイチゴさんと同じくらいなのだろう。
ノースリーブのシャツと半ズボンの姿が非常に若さを感じさせる。
「イチゴちゃん、この方は?」
手のひらをこちらへ向け丁寧にイチゴさんに俺の事を聞く
「この人はね!いおりんだよ!森で眠ってたの!」
「あらあら、いおりんさん?は、迷子なのかしら?」
「あ、いや」と口ごもる、迷子といえば迷子なのだがそれは世界ごと迷子であって、しかしそれを一体どう説明したものかと狼狽する。
「なんかね、トーキョーから来たんだって!けどトーキョーが何処なのか私には分かんなくってね、リンちゃんわかる?」
あぁ、非常に簡潔でよろし。
「トーキョー?さぁ、聞いたこともない地名ね、外国かしら?お洋服もこの辺じゃ見ないモノの様だし……
いおりんさんは……」
「あ、橘 伊織です」
「あら、失礼。アタシはリンよ。
それで、伊織さんはそこからどうやって来たのか覚えてるかしら?」
「そ、その、それが……なんというか、気が付いたらここに居たというか。」
「それは困ったわね……、」
「うーん、」と、リンさんは顎に手を当てて悩み出す。
帰れないと困る……果たしてそうだろうか?
俺が居なくても会社はいつも通り営業するだろうし
社会だって俺の亡骸があればそれを処理してまた同じ線路を電車が通る。
残してきた家族だけが心残りだが、入社してからは忙し過ぎてろくに連絡を取ってないんだ。なんとも思われていないかもしれない。
そうか、俺はあの世界ではもうとっくに、生きながらにして死んでたんだな。
「分からないことは考えても仕方がないわ、ひとまずはお食事にして、明日町に出て詳しい方がいたら、その方に聞くのがきっといいと思うの」
「ご飯!?」
「ふふ、そうよご飯にしましょう」
ぴょこっとイチゴさんが跳ねるのをリンさんがなだめるように優しく話しかける
本当に男性か?と思うほど母性に溢れた人だと感心していると、リンさんとイチゴさんはてきぱきと料理の準備を始めた。
その光景をただ眺めているだけなのがむず痒く思わず
「あ、あの、私に出来ることはなにかありますでしょうか?」
と二人にきくと、リンさんが作業の手を止めて「そうねぇ、」と辺りを見渡す
「じゃあ……火をつけてもらえるかしら?」
と、簡易囲炉裏に視線を落とす
「火、火ですね!承知しました!」
「んふふ、そう固くなくていいわ。リラックス」
「はっはい!リンさん」
「リンちゃんはリンちゃんだよ!」
「リンちゃん……さん」
「あらやだ、もう!」
てし、てし、と肩を軽く叩かれながら俺は火をつけるべくポケットをまさぐり
メビウスの箱を開けて中から100円ライターを取り出すと、名刺を火種に焚き火に火をつける
「いおりんのそれ、なに?」
「え、ライターです」
「へぇえ!マナを使わないでカチッカチッで火がつくなんて便利だねー!」
あーなるほどね、ファンタジー系か。
「こ、故郷の品です、私は魔法が得意でないので」
「あら、そうなの?」
「え、えぇ」
ライターを手のひらに乗せて二人の間に置くようにして見せる
「私の故郷では魔法はあまり馴染み無くて、それでこんな風にマナを使わない誰でも扱える品が開発されたんです」
「えーすっごいね!ねぇ見せて見せて!」
両手を重ねて差し出されたその手にライターを「はい」と乗せてあげると、イチゴさんは新しいおもちゃを貰った子供のように無邪気にはしゃいでライターを触っている。
言動は少々子供っぽいが子供というわけではないし、まぁ任せても大丈夫だろう。
「あまり魔法学が発展していないみたいだし、アストレアの人ではないのかしら。
仕立てのいいお洋服を着ているし、ノルヴェルとか交易が盛んなベルガかしら?」
「東って言ってたよ!」
「東?ならアストレア……よね?う~ん。」
二人の間で横文字の国名が飛び交い、俺は完全な置いてきぼりをくらう。
沢山考えてもらっているところ大変申し訳ないが、この世界に俺の故郷は存在しないんだよな。
なんと伝えたものか。と、考えを巡らせようと袖を捲って腕組をしようとしたとき、右手首に不思議な形のタトゥーのようなものを見つける。
それは手のひらを上に向けた表側、大きな血管の通る部分を隠すよう横長に広がった……、いや蝶の形をした大きめの痣だった。
いつこんなところを怪我して、どうしてこんな形をしているのだろう?
……もしかしたらこの世界に来た時になにかスキル的なモノを知らずに受け取っていたとか?
「あの、イチゴさん。」
食事の準備をしているリンさんに話しかけるのはなんとなく憚られたため、ライターを光にかざして遊んでいたイチゴさんに声をかける。
彼女は近くの切り株に腰かけており、話しかけると人懐っこい笑顔で「なーに?」と答えてくれる。
「実は身に覚えのない痣がありまして、これなんですが」
と、右の手首を見せる
「おぉ!いおりん、神紋持ちなの!?すっごいね!」
「し、神紋……ですか?」
「マジ!?いおりん何処で生まれ育ったワケ?神紋はね魔法とは違うすっごいことが出来るヤツ!
ねぇねぇ!いおりんは何ができるの?見せて!見せて!」
切り株から勢いよく立ち上がり、その勢いのまま俺の手を握ってキラキラと期待した目で俺を見てくる
「そういわれても、こんな痕がある事すら今気づいたのに、何ができるかなんてわかりませんよ。」
「そっかぁ」とイチゴさんはわかりやすくしょぼくれてまたライターをカチカチと鳴らして遊んでいる。
「んねぇ、いおりん、これ壊れたかも。つかない……。」
と、さらにしょぼくれてライターを差し出す。
受け取り見てみるがオイルはまだある
「さっきから、いおりんみたいに火つけようとしてるんだけどカチカチなるだけでつかないよ。」
その言葉を受け、俺はいつも通りライターを付ける。
うん、子供用のストッパーが発動してただけだね
「うそ!すごーい!どうやったの!!」
「あはは、ちょっとコツがいるんですよ。教えます」
そういってかつて父親に教わったやり方でイチゴさんの後ろにまわって、手をとり何度か教える。
カチ、となっては小さな火花が散り。
それでも、カチ、となっても火はつかない
何度か教えてようやく、ライターに火が灯るとぱぁっと彼女の顔に笑顔が咲き
「ついた!」
その誇らしげに笑う顔をライターが照らした。
あの頃は何気なく覚えたことだったのに、人に教えるとなると案外難しい。
気づけば西日に照らされた森は、夕暮れの色へ変わり始めていた。
「ご飯できたわよ~。」
朗らかな青年の声に振り返る
簡易的に用意された焚火には小ぶりの鍋が掛けられて、そこにはぐつぐつとスープが煮えている。
その近くにはカバンから紙で包装された硬めのパンを取り、ナイフで切り取っているリンさんの姿があった。
「わーい!ごはぁん!」
その声に駆けこんでいくイチゴさんは小さく無邪気な子供のように見えて、自然と笑みがこぼれる。
「伊織さんも、ほら。」
リンさんの手招きに「はい」と寄っていく。
注がれたスープ、切り分けられたパンを受け取ってありがたく食卓に混ぜてもらう。
「いただきます」とそれぞれが声にして、食事を始める。
イチゴさんは一口ずつ美味しい美味しいと言わんばかりの顔をして、リンさんはお行儀よく食事を取る。
俺は渡されたスープに口をつけた、トマトの甘い酸味が温かさとともに体にじんわりと染みていく。
いつから、こうして暖かい食事をしなくなったんだろう?
ここにはビールも、煙草の煙もない、下品に笑う動画の音声もない。
それまで至福と思っていた時間がホロホロと、ぽろぽろと、崩れる。
「え!?ちょ、どうしたのよ!?」
リンさんの驚きの声にハッとする
イチゴさんも、リンさんも驚いた顔をして俺を見ていた
「どーしたの、いおりん?なんで泣いてるの?」
そういわれて人差し指で目元を拭う、確かに泣いていた。
「なにかあったかしら、やだわ、どうしましょう」
おろおろとしているリンさんと、心配そうに見つめるイチゴさん
「ふっ、へへ、ははは……」
それを見て泣きながら何故か笑う俺
おろおろするリンさん、「笑ったー」と笑うイチゴさん、依然謎の笑いが止まらない俺で、混ぜてもらった食卓は静かなカオスと化す。
頭の中にいろんな感情が溢れてくる
いい年した大人が、大変恥ずかしい事だが感情の波に情緒をぶっ壊されて、涙がなんでか止まらなくなってしまった。
「ごめんなさい、なんか安心しちゃって。俺、少し疲れてたみたいで、ホント恥ずかしい」
「すみません、すみません」と言いながら止めどない涙を拭うと、目の前にハンカチが差し出される。
ウサギの刺繍が施された可愛いハンカチだ。
「なにがあったかアタシ達にはわかんないけど、お疲れ様。伊織くん」
リンさんの差し出したハンカチを受け取ると、また涙がぐっとこみ上げてくる。
「いやぁ……びっくりした、急に泣いちゃうんだもの」
「泣いたり、笑ったり、忙しい人だねぇ、いおりん!」
「お恥ずかしい、すみません良い年した大人が」
カオスな食事会が終わり、テントの中で3人は川の字になって横になる。
いつもこの1つのテントに2人で寝ているらしく、食事の時同様、俺はそこにお邪魔する形で居させてもらっている。
2枚しかない掛布団をリンさんとイチゴさんの2人で分け合い、俺は身体が大きいからという理由で1枚貸してもらった。
「すみません、お邪魔してしまって」
「いいのよ〜野営は人が多ければ多い程楽しいんだから」
「けど、女の子だけ(?)の中に男って嫌じゃありませんか?」
リンさんとイチゴさんが顔を見合わせて、同時に俺の方をゆっくりと見る
「リンちゃん男の子だよ?」
「えっと……あまりに女性らしいというか、なんというか」
再び顔を見合わせる2人
イチゴさんは「うーん?」と首を傾げ、リンさんは困ったように笑った。
「よくわからないけど、アタシは普通に男の子よ?」
「お、オネェさんという訳ではなく?」
「あっはは!ちーがーうーよーいおりん!」
テント内が笑いでどっと明るくなる
「中身はフツーの男の子よ」
「そーそ、だから今更男女が1つ屋根の下でどーのーっていうのは気にしないでいいよ!私はぜーんぜん気にしてないし!」
「ていうか、気になってたらアタシに着いてきてないでしょ?」
「……そういえば、2人はどういう関係なんですか?」
俺のその問いにまた考える時間の間があく、そして語り出したのはイチゴさんだった
「リンちゃんはね、旅芸人さんでさ。昔私が住んでた所に来てくれたんだよね!
初めて、大道芸?っていうの見てさ!すごいなぁって!私もそんな風にキラキラ!楽しく!生きたいなぁって!
それで勝手に着いてきたの!」
「懐かしいわね、2年くらい経つかしら」
「そんなに?じゃあリンさんも、イチゴさんも、なにか芸があるんですか?」
「ぅん〜私のは芸って程じゃないけど、似顔絵を描いてお金もらってるんだー!」
絵心のえの字もない自分からしたらそれで稼げているのは十分に芸に感じるが、謙遜かな?
「アタシはいろんなことをするわ、ジャグリングとか、マジックとかバランス芸とか!
お母さんがサーカスの団長でね、一人前の芸人になるために大道芸をしながら旅してるの。」
「2人とも若いのに親元を離れて旅をしながら生計を立てて、すごいですね」
「あらお上手ね、言ってもアタシ16歳だから成人してるのよ」
「私18-!」
若いなぁ……。
「いおりんは40歳くらい?」
「ちょ、失礼よ?34歳とかその辺りでしょ」
「2…25です、自分。」
温まった空気が完全に冷え切るのを肌で感じる
確かに激務で老けたのかもしれないな……。
「そ、そろそろ寝ましょうか。明日は町まで行くし」
「そうだね、そうしよう。おやすみ!!」
がばっと布団を頭にかぶって、イチゴさんは俺とは反対方向に寝がえりをうち。
「おやすみなさい」とリンさんもそれ以降話すことはなく、俺もその言葉にあいさつを返して目をつむる。
翌朝は一瞬でやってくる。
寝心地は決していいものでは無かったはずなのに体は今までで一番軽く、疲れが癒えているのがよくわかった。
眠っている間、イチゴさんの寝相の悪さでお腹を殴られたらしいがそれでも起きないくらい爆睡だった。
なんで爆睡だったのにイチゴさんに殴られたのを知っているのかというと、起きたとき腕が腹の上にあがっていたからだ。
俺が起きたときにはリンさんは既に起きて外にいて、ストレッチをしていた。
「おはようございます、リンさん。」
「おはよう、伊織くん。昨日はしっかり眠れたかしら?」
「はい、快眠でした。」
「そう?ならよかった。」
そう朗らかに微笑むと、リンさんはカバンから林檎を取り出す
すると恐ろしく鮮やかな手つきでナイフを扱い、ただの林檎をかわいらしいうさぎさんへと変えていく。
「昨日も今日も大したものを食べさせてあげれなくてごめんなさいね、町へ行ったらいいモノ食べれると思うからもう少し辛抱してね。」
差し出された器には種まで使って目を作ったうさぎ林檎だ、おそらくこれが朝ご飯なのだろう。
「いえ、急にきて混ぜていただけでも十分なのに、食事も寝床も分けて頂けて、ありがとうございます」
「んふふ、いいのよそのくらい。」
昨日と同じところに腰を掛けると、リンさんはその隣に腰を掛ける
「ねぇ、伊織くん。昨日ごはんを準備してる時に聞いちゃったんだけど、神紋持ってるんだって?」
「どうやらそうみたいです」
「見せてもらってもいい?」
改まった雰囲気に疑問を抱きつつも、右手を差し出して手首を見せる
「あら、形が……。」
「形?」
「えぇ、私が知ってるモノと少し違って……。
ねぇ伊織くん、脅かすつもりじゃないんだけどね?」
手を見ていた顔をあげて俺の事を見つめてぽつぽつ話し出す
「実はここ1年くらい神紋狩りっていう言葉が流行りだしたの、神紋を持ってる人が行方不明になったり亡くなってたり、すごく酷いことをされていたりして。そういった背景から最近では隠す人が多くてね、伊織くんの神紋は見えやすいところにあるじゃない?だから身を守るためにも隠しておいた方がいいんじゃないかなって思ったの」
「なんというか、詳しいですね」
「旅をしてるとね、いろんな話が耳に入ってくるのよ。
これ、もし隠したいなら包帯巻いてあげるわ」
華奢な指先が青黒い痣の上を滑る
「ありがとうございます、それじゃあお言葉に甘えて。」
「わかったわ、任せて」
カバンから綺麗な包帯を取り出して、それを丁寧に手首に巻くリンさんを横目に、俺は切られた林檎を食べる。
久々に食べた林檎はしゃくしゃくとしていて、甘くておいしいものだった。
やがて包帯を巻き終えるとイチゴさんが起きてきて、リンさんはイチゴさんにナイフと林檎を渡してテントをしまいにいく
「おはようございます、イチゴさん」
「ん~、おはにょ、いおりん。
ねーリンリンうさぎさんしてー」
「忙しいからまた今度ねー」
「ちぇー。」
イチゴさんは受け取ったナイフを右手に持ったまま左手の林檎にそのまま噛り付く。
「ワイルドだな……。
あ、リンさん私なにか手伝います」
「ありがとう。けど大丈夫よ、一人で慣れてるから、座ってて」
と言われ邪魔にならないよう大人しく座っているとイチゴさんが俺の手を見て声を漏らす
「あれ?怪我したの?かわいそう」
「あぁいえ、……大した事ありませんよ」
「そう?あ、じゃあね魔法してあげる、手かして」
ここにきて初魔法だ、と内心ワクワクしながら「ありがとうございます」と右手を差し出す。
「うぅ〜!痛いの!痛いの!リンリンに飛んでけ~!!」
「いやぁあ!いたー……って!なにやらせるのよ!」
あはは、えへへ、と朝の暖かな光に笑いが混ざっていく
痛みなど元からなかったが、イチゴさんの行動に自然と微笑みが顔に浮かび、心が癒える。
朝から笑いあいながらテキパキと荷物をまとめて、俺も手持ちの物をお手伝いとして持たせてもらい、時間はおよそ9時くらいだろうか、俺たちは町に向けてキャンプ地を後にする。
初めての町探索だ、まずはこの世界の事をもう少し詳しく知ろう。




