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俺が神になるまでの道  作者: 天茶
第一章:どうやら異世界に転移したらしい
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第二話:どうやら魔法が見れるらしい

道すがら向かっている町の事を聞いてみたが、貿易が盛んに行われている大きな街だという。


営業回りでなれているとはいえスーツに革靴で今後も歩き回るのも大変そうだ、街へ行ったら洋服を新調しよう。


「しよう」とか言ったが、俺お金あるのか?てか、カバンがないじゃないか。


カバンの中に財布もスマホもあるというのに、ここへ来るときに元の世界に置いてきてしまったらしい。


「どうしたの?伊織くん、暗い顔をして」


「俺……一文無しだって、気づいてしまって」


「あらら~、それじゃあ街に行っても買い物どころかお宿にも泊まれないね?」


現実から逃げてもまた別の現実に追われている事実に2歳ほど老けそうだ


「仕方ないわね、じゃあ……、


 ……身体で、稼いで貰うわよ」




俺は今、はじめてを体験している。


まず、はじめてメイクというものをした。


顔になにかを塗るという感覚が、なんだか重いような息苦しいようなそんな感覚だ。


メイクで顔を仕立て、リンさんに渡された服に着替えた。


リンさんは小柄で、俺は高身長なのでサイズは合っていなかったが、着ざるを得なかった。


真っ赤なリップを大袈裟に塗り、水色のアイメイク、白塗りの__ピエロの完成だ


「……笑うな、」


「無理ーー!っははは!いおりん似合わなすぎー!」


ピエロの恰好なんてはじめてで、こんな風に大袈裟に笑い飛ばされるのもしばらくぶりだ。


俺は恥ずかしさから顔をしかめるが、その度にリンさんに


「メイクがよれる!」


と注意される。


そんな、理不尽だよぉ。


「伊織くんはその姿で街を練り歩いて宣伝をしてもらうわ!

 この街には中央に大きな噴水の広場があるらしいから、そこへ来てもらえるようにしてちょうだい」


この姿で街中練り歩けとかどんな罰ゲームだよ!


いや、お金ないからやるけどさ!!


「大丈夫、アナタをただ笑い者にするつもりはないわ」


と、続いてカバンから取り出したのは細長い風船だった。


「イチゴちゃん、バルーンアートお願いできるかしら」


「承知!団長!」


ピシッと敬礼をすると、リンさんが程よく膨らませた風船を可愛らしい犬や花、ハートの形に成形して端っこを糸で括る


「飛ばない風船に糸って必要ですか?」


「ちっちっち!いおりん、リンちゃんが風船膨らませてお仕事終わりなんて〜、んな訳無いでしょ?

 ってことで……はい、糸の端っこしっかり持ってね~」


と、ざっくり20個ほどのバルーンアートを繋げた紐を持たされる


「いくわよ」


に、と微笑んでからリンさんは一歩下がり、手を前にかざす



「風船よ、浮かび上がれ!“エンチャント・ザ・フロート”」



その声に反応するようにバルーンアートが一瞬キラリと光を放つと、ヘリウムも入っていない筈のバルーンアート1つ、2つと次々と宙に浮き始める


「いおりん、お口あーんぐりしてるよ?」


「へっ!?あっ、へへ……、すみません、魔法をこんなに間近で見るのが初めてだったので」


興味本位で糸を軽く引く


すると浮いているバルーンアートはほんの少しの抵抗をして下がり


引く手を緩めると上がっていく


これが魔法……。


すごい、綺麗だ。


「今回はうまくいったわ、よかったぁ

 これ、力加減を間違えると全然浮かばなかったり……、」


「逆に飛んでっちゃったりするんだよ!私この前浮いたもん!」


「あ、あの時はごめんなさいって言ったでしょ!」


「怖かったんだもん!」


「ごめんってば!」


やいのやいのと喧嘩をする二人を見て思わず笑いがこみあげてくる


「もお!いおりん!笑い事じゃなかったんだから!!」


ぷんすこ!と怒っていたが、リンさんに「ここでお詫びするから」と言われて顔色がぐんぐん明るくなり「ならいいよ!」とすっかり元の調子に戻ったイチゴさんとリンさんの後を追って町の入り口へと近づく。


魔物がいる世界なのだろうか?街は高い壁に囲まれており関所のようなところを通る


その際関所の人に不審がられないか一抹の不安を抱えていたが、案外「お疲れ様です」と微笑まれこの格好でも不審者扱いされないことに安心する。


関所のトンネルをくぐりぬけ、街に出る


石レンガの地面が続く先には、中世ヨーロッパのような街並み。


「じゃあアタシは先に中央広場に行って設営するわね

 イチゴちゃん、伊織くんと離れちゃダメよ?」


「はーい、じゃあまた後でね!」


手を振ってリンさんは一人スタスタと先を歩いて別行動をとる


「いおりん、この街は初めて?」


「はい!はじめて、です」


「にっしし、私も!ゆっくり歩いて行こう!バルーン渡しながらさ」


そう誘われてトンチキな恰好でバルーンアートを持ってゆっくりと石レンガの道を行く


天気の良い今日みたいな日は絶好の旅日和だ。


薄いオレンジや、白い外壁に赤レンガの屋根、飛び出した煙突のメルヘンなお家は蒼天の空によく映えるし、アンティーク調の街灯はそのコントラストから美しく見えた。


なにより、カラカラと音を立てて当たり前のように走る竜車は初めて見たこともあって、思わず声を漏らした。


露店が常設されているようで、そこに並ぶ野菜やフルーツの品々に、美しい装飾品の店には目が奪われる。イチゴさんも同様に心を奪われたのだろう、時折足を止めては「明日このお店に来よう!」と指をさして笑っていた。


そうして、景観のために意図的に植えられた街路樹の道を俺たちは連れ立ってゆっくりと歩いた


「あ!ピエロだ!」


ふと、元気な声に指を差される


「ねぇねぇ!なに持ってるのー?」「おっきーピエロさん!」


近くで遊んでいたであろう子供たちが一斉に寄って来て元々人との関わりが苦手な俺はその勢いに圧倒されて狼狽してしまう


すると隣にいたイチゴさんがひょこっと出てきて口を開く


「私たちね旅をしながら芸を披露してるんだ!中央の噴水広場でこの後大道芸をするんだよ!」


「だいどーげい?」「なにそれー」


「見に来たらわかるよ!面白いからおいで!」


流石イチゴさん、話し方がうまい。


俺もかつては営業回りをしていたはずなんだがな……


「ほら、いおりん。バルーン、バルーン」


裾を引かれ、小声でそう囁かれてハッと我に返る


「よかったら、パパやママも連れてみんなで見においで。」


と、口から言葉が出てくる。


出てきて悲しくなる。


……あぁ、俺はこんな時まで。


「ありがとう!ピエロさん!ママの事誘ってみる!」「今日ねパパがおうちにいるの!みんなで行くね!」「いーなー俺のとこは誰もいねーや」「一緒にいってあげるよ!」


意外と好感触で呆気にとられる


「いおりん営業上手だね!その調子でどんどん行こう!」


「い、いいんでしょうか、そんな勝手な事言って」


「ん?なんで?」


俺の狼狽とは裏腹にイチゴさんは依然はつらつとして、大きな目をぱちぱちとさせながら首をかしげる


「観客は大人も子供もいっぱいいた方が楽しいよ!」


あまりに純粋な回答に恥ずかしくなるどころか、一周まわって目から鱗だった


大人を連れてこい。


金を払え。


子供だけじゃ話にならん。


契約を取れ。



取れないなら謝罪しろ。


土下座しろ。


……いつの間にか俺は、あのクソ上司を頭の中で飼ってしまっていた。


だから、この世界では営業なんてもうしたくないと思っていた。


だけど違う。


__『家族みんなで見においで。』


俺は金を要求しているわけじゃない。


楽しいものがあるから、見に来てほしい。


その結果、お金を払うかどうかは、相手が決めればいい。


……なんだ。


俺の営業って、こういうことだったじゃないか。



片膝をつき、子供たちと視線を合わせてバルーンを渡す。


「すっごいショーを見せるよ、約束する。だからお友達も家族も、みーんな連れておいで。」


口からでまかせ?


120%盛った売り文句?


上等だろ。


バルーンを受け取った子供は「ありがとう」と笑ってみせてくれた


……あぁ、


俺が欲しかったのは、そうだ……契約書じゃない


この顔が、声が、言葉が、欲しかったんだ。


気が付けば俺はもう緊張したり、トンチキな格好だなんて思わなくなり、この姿は先ほどまで着ていたスーツよりもよっぽど誇らしい姿に感じられる。



そうして俺たちは子供たちにバルーンを配り、声をかけ、時に遊んだりしながら中央の噴水広場へと向う


「困りました、イチゴさん。

 予想以上の大盛況でバルーンが足りません」


「OK!大丈夫、大丈夫!任せて〜いおりん!

 は〜いみんな!見ててね~」


イチゴさんは俺にサムズアップを返すと、片膝をついて子供たちと目線を合わせ


ポケットの中に入れていた長いバルーンに口をつけて半分ほど膨らますと


「くるくるくる、ねじねじねじ~、……ぽん!」


「わぁ!いぬ~!」


「私お花~!」


「次おれー!!」


「剣つくってよ!」


と、その場で見せたバルーンアートの即興ショーでさらに人が増える。


子供に連れられてママさんまでやってきて、小さな会場のような盛り上がりを見せる


「バルーンアートをご覧のみなさん!

 この後、噴水広場で旅芸人リンのショーを開催します!是非!お越しください!」


俺はここぞとばかりに辺りにいる人たちへ向けて宣伝文句を口にする


チラリとイチゴさんを見る。


彼女は目を丸くしてこちらを見上げていた。


「こ、こっちは俺に任せてください!」


俺がサムズアップを返すと


「あっ……!」


と、イチゴさんは意味を理解したように笑った。


ゆっくりとした足取りで中央の噴水広場へ向かいながら宣伝文句を口にし続け


イチゴさんは同じ足取りでバルーンアートを作りながら子供たちを誘導する 。


目の前に目指していた広場が見え始め、俺は後ろを振り返る。


俺の後ろには子供たちがわーきゃーとはしゃぎながら列を作っていて


イチゴさんはいつの間にか小さな子と手を繋いで歩いている。


俺が家族を連れておいでと言ったからか、親子が既に居たり


中央の噴水広場には人だかりができ始めた。


「リンちゃーん!」


「リンさん、戻りました!」


「お疲れ様~二人とも!こんなに大勢集めてくれてありがとう」


満面の笑みを浮かべたリンさんがタオルを差し出しており、俺はお礼を言いながら受け取る。


「旅をしててこんな大勢の人の前で出来るなんて初めて!ドキドキしちゃうわ」


リンさんは自身の頬を両手で包み、ニコニコ顔を押さえ


押さえていた手でパンと一度頬と叩く


「二人が集めてくれたお客さん、絶対笑顔にするから!二人も客席側から見てて」


俺とイチゴさんは客席の一番後ろに立って、リンさんはそれを見届けると大きく息を吸う


「皆さーん!こんにちはー!」

 「こんにちはー!」


「わぁ、元気!ありがとう!」


客席の子供たちに手を振ってアイドル顔負けのファンサービスを繰り出す


「ボクは旅芸人のリンっていいます!今日は少しの間だけ、この広場をサーカスに変えちゃいます!最後まで楽しんでいってね!


 では!はじめにジャグリングをしたいと思いまーす!」


そう話しながら懐にボールを仕込んでゆく


「ジャグリングの世界記録は現在11個なんですって!すごいよねぇ、じゃあここで問題!


ボクは何個ジャグリング出来るでしょうか!」


 「3個!」


「3個からスタートするよ!」


 「6個!」


「6個!いいねぇ」


 「20個!」


「20個?世界記録11個だよ!?

 ボク、今日世界記録更新しちゃうじゃん!」


観客席の子供たちをそんな風に話をしながら準備をしながら回答があらかた出揃うと


「じゃあね、そこのお姉ちゃん!」


と、一番前に座っていた子を指差す


「今からこれをジャグリングするから、何個あるか数えてね!」


リンさんが軽やかにボールを放る。


 「3!」


「さ!スタートです!20個回せるでしょうか!?」


 「4!」


投げ上げるたびに一つ、また一つとボールが増えていく。


 「5!」


「世界記録まであと6個!」


 「6個!」


女の子が目を丸くして叫ぶ。


その声にリンさんはニコッと笑った。


その瞬間。


「あっ!」


突如吹いた風に煽られ、一つのボールが手を滑り、地面へ落ちる。


観客から一斉に、


「あぁーー!」


悲鳴にも似た声が上がった。


地面まであとわずか。


誰もがそう思った、その瞬間――


リンさんのつま先が軽く跳ね上がり、そのボールは再び空へ舞い上がる。


さらに――


「お、おぉーー!!」


「お姉ちゃん!今!今何個!?」


「え、えぇっと……」


1、2、3…4…5……6……、


「あ!7個だ!」


ジャグリングを二、三巡させてリズムを整える。


そして最後の一つを高く放り上げた。



くるり、と一回転。


跪く。


高く舞い上がった最後の一つが落ちてくる。


パシッ。


片手で受け止めた。


リンさんの手の中には、


七つのボールが綺麗に収まっていた。


一瞬の静寂。


そして次の瞬間――


 「おおおおおーーー!!!」

 「うわぁぁぁ!!」

 「すげぇぇ!!」

 「七個だ!七個だ!!」

 「リンちゃーん!!すごーい」

 「あの子まだ若いのにすごいわ」


子供たちの歓声が広場いっぱいに響く。


その輪の外では、大人たちが足を止めて見入っていた。


……すごい。


リンさんはただ芸をしているだけじゃない。


この広場そのものを、自分の舞台(サーカス)に変えてしまっていた。


「はぁ……、はぁ……、ごめんよ僕、7個で許して。」


 「やだー」


「や、やだ!?困ったなぁ。

 あ!じゃあ次はもっとすごい事するから!それで許してね!」


取り出したるは広場に置かれていた大きなバランスボール


それをもってきた段階で客席からは「おぉ?」と声があがる


「飾りだと思った?ちゃんと使うよ~」


赤と黄色が交互に配色された派手なバランスボールの上に「よいしょ」といいながら四つん這いになって登る


そしてグラグラと揺れるボールの上でバランスを取りながらゆっくりと


ゆっくりと


立ち上がった



立ち上がるのと同時に両手を天高く掲げ満面の笑みを浮かべてみせるとそれだけで客席からは歓声が上がり、リンさんは「ありがとう!」と繰り返し言う


「じゃ、これで終わっていいかな?」


 「えー」「もう終わりー?」「やだー」「もっと凄いことしてー!」


「冗談だよ!

 今度はこの、グラグラの足場でジャグリングをしたいと思います!

 足場が悪い分7個は回せないけど……、今度は5個!回したいと思います!」


「それじゃあ、いきまーす!」という掛け声とともに、三つのボールが天高く舞い上がる。


グラグラと揺れるバランスボールの上。


リンさんの視線は、落ちてくるボールだけを追っていた。


足元は一度も見ない。


ボールが落ちるたび、わずかに膝と足首が揺れを吸収していく。


まるで、身体の方が勝手にバランスを取っているようだった。


4つ


いや、足元は見ないんじゃない。


きっと見れないんだ。


ボールから目を離した瞬間、全てが崩れるから。



誰もが手に汗を握り、声も出せずに息を飲む。



真剣な表情を浮かべたままボールを追い続ける


瞬間、口元に笑みが宿る


__5つ。


それまで大人しく座っていた子供たちが思わずその場で立ち上がり、後ろで眺めていた大人でさえも歓声を上げて拍手を送る


「ありがとうございます!」


ボールを見つめたまま全身にその歓声を受け、やがてその歓声も収まる頃ボールをキャッチしてバランスボールから降りると改めて深々と頭を3方向へ下げる。


「では次は最後の演目です。

みなさんここで急に用事を思い出して帰っちゃうんですけど……、端的に言って、お支払いのお時間ですっ♡」


と、話しているリンさんの隣にイチゴさんが歩いていく


「大銅貨1枚分で似顔絵をプレゼントしまーす!

 今日の思い出に、1枚いかがですかー!」


と、大声を出しながら歩いていき、その動きに呑まれるようにして人々は行動をし始める


子供だけできていた子達はそのままリンさんに絡みに行ったり


そのままこっそり帰る大人が居たり。


……ブラック企業に勤めていたせいで、顧客の笑顔なんて忘れてしまっていた。


目の前には、風船を抱えて笑う子ども。


似顔絵を大事そうに胸へ抱く女性。


「こんなにドキドキしたのは久しぶりだわ」と笑って帰っていく男性。


——本来あるべき”お客さんの笑顔”って、こういうものだよな。


その思いに胸の奥が、じんわりと熱くなった。



「お疲れ様です、リンさん。」


子供たちが去って一息ついている彼に話しかけると、リンさんは疲れていた顔からパッと明るい表情に変わる


「ありがと、伊織くん」


「リンさんのパフォーマンス、すごかったです。」


俺はあのショーを見てすっかり彼のファンになっていた


人を笑顔にする事、そのために命懸けの姿を見たから。


「えへへ、伊織くんが見てると思って、だいぶカッコつけちゃった。

 ……あぁえっと、変な意味じゃなくてね?アタシ、ほら、ちゃーんと男の子だから、かっこいい人だって思って欲しいのよ」


「だ、大丈夫、わかってますよ。……リンさん、かっこよかったです。」


「そう?うふふ、よかった~、アタシ、可愛いだけじゃないのよ~!」


遠くの誰かへ向けて叫んだ声はやまびことなって反響する。


「そだ、大事な事聞き忘れてた。


 __伊織くんは今日、楽しかった?」


今日、振り返る。


風船を配って歩いた並木道、イチゴさんの即興バルーンショー、そして


リンさんのジャグリングショー。


そこから得たお客さんの笑顔、歓声、満足感。


こんなに充実した日をこういわずしてなんていうんだ?


「はい!とても、楽しかったです!」


「それなら、大成功だわ」


傾きだした西陽がリンさんの金髪を茜色に染め、パッと咲いた笑顔をキラキラと反射させた。

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