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脳心儀  作者: 八島秦
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第二十六話 大洋の狩影、百司の龍を窺う眼、千年封魔の真実

【前書き】

 海の彼方に暗い潮流が渦巻き、陸の玄界に異変が突如訪れる。

 海外の科技狩人が海を渡り潜行し、中土の百司は陰陽を鎮めると偽り、龍の秘宝を密かに狙う。

 千年古寺の封印が揺れ動くその時、二つの王朝に埋もれた血塗られた魔の過去が、ついに地表に姿を現す。


 地球の裏側、米国本土最深部に造られた極秘情報本部。

 地下百メートル余りの閉鎖空間は、電波を完全に遮断、盗聴を防ぎ、外部からの一切の信号を遮断している。広大な会議室には一つの窓もなく、四方を囲む巨大スクリーンが蒼白い冷光を放ち、軍高官・特殊機関長・超常現象分析官らの顔を血色なく照らす。室内には拭い去れぬ重苦しい圧力が澱んでいた。


 正面のメインスクリーンには香港全域の高精細衛星地図が投影され、長年緑色に輝き続けた二つの定位マーカーが、今や完全に灰黒く沈黙し、一切のデータを送信しなくなっていた。この二つの座標は、香港に潜伏し長期任務を遂行する二人のエース諜報員を示している。


 数ヶ月前、二人は極秘上層部の指令を受け市井に身を隠し、現代科学で解明不可能な徐福勢力の調査に専念していた。過去の日々、彼らは安定して異能気流の記録、謎の人物の足取り、地下密会の手がかりを送り届け、その情報は本部に徐福千年組織の輪郭を築き上げていた。だがエジプト四同盟が大量の人員を西環埠頭に停泊させ、路地で血の惨事が起こる前日、二人が携行する全ての通信機器・定位チップ・予備暗号発信器が一瞬にして断絶した。


 本部技術班は三日三晩交代で調査を続け、信号伝達軌跡を遡り、現場周辺に残る電磁波をスキャンし、空中熱感知偵察機器を繰り返し派遣して測定を行った。その末に全員の心を沈ませる結論に至った。単なる信号妨害や人為的な機器破壊ではなく、二人の諜報員は所持する全装備と共に、認知を超えた何らかの力に存在ごと消し去られ、一筋の痕跡も残されていない。


 人々は精密な科技であらゆる未知を掌握できると信じてきたが、陰陽異力が混在する香港という都市は、彼らの情報システムの支配圏を完全に脱してしまった。長い沈黙が会議室全体を包み、誰もこの抑圧された空気を遮る言葉を発する勇気がない。


 やがて上座に座る最高指揮官がゆっくりと頭を上げ、重く低い声が静寂を突き、一切の譲歩の余地を残さない。

「精鋭を選び、直ちに香港へ向かわせろ。」


 本部は全国特殊作戦部隊から、隠密潜行と超常現象痕跡の探査に長けた二十名の諜報員を厳選した。彼らは正面での殺し合いは不得手だが、尾行・偵察・機密情報の盗み取りに精通し、各人に国家最高機密クラスの装備が支給される。不可視霊力波動捕捉装置、陰煞気層を透過する暗域スキャナー、邪気に干渉されない独立暗号通信端末、各種小型探査機器は衣類やリュックの隠し仕切りに隠し込まれている。


 大勢が同時に入国して香港の暗勢力に警戒されるのを避けるため、二十名は単独・二人一組の小隊に分割され、日付や航空会社を分けたフライトを予約し、数日間に分けて順次港に到着する。全員が軍事・情報機関の標識の付いた物品を全て廃棄し、カジュアルな私服に着替え、表向きは香港を観光に訪れた普通の旅行者と偽装する。


 彼らに課せられた二つの核心任務は明確で冷徹だ。一つ目は、二人の前線諜報員が不可解に行方不明となった真相を深く調査し、二人の残した手がかりを探し出すこと。二つ目は、複雑に絡み合う香港の暗界混乱に潜入し、徐福勢力の素性・拠点・全体の布陣を徹底的に掘り下げ追跡すること。


 平凡な旅行者の外見の裏に、現代文明が持つ最も鋭い科技の牙が隠されている。大洋の彼方から飛来した二十の狩りの影は、音もなく海を渡り、嵐が迫る香港へと潜り込んだ。


 米国の会議と同時刻、中土の鎮邪権威・守霊司の地下万古大殿には、また別の底知れぬ陰鬱な空気が充満していた。


 殿内には鎮煞霊紋の刻まれた古銅の燈が立ち並び、淡い青い灯火が半空に漂い、重い陰霊の圧力が地面の隅々まで覆っている。世間の人々は守霊司を陰陽の均衡を保ち妖を斬る正道の巨擘と崇めているが、総壇の上層部だけは知っている。千年にわたりこの機関を動かしてきた原動力は、生き物を守る道義ではなく、二つの至宝への長年の貪欲な執着であることを——秦陌の体内に完全に覚醒した逆龍血脈、そして彼の魂の奥深くに潜み無上の力を秘めた脳心儀だ。


 秦陌が初めて脳心儀の気息を漏らし、掌に逆龍印の完全な紋様が浮かんだあの時より、守霊司は彼を最優先の監視対象と定めていた。


 秦陌が初めて脳心儀の気息を漏らし、掌に逆龍印の完全な紋様が浮かんだあの時より、守霊司は彼を最優先の監視対象と定めていた。彼らは自ら進んで助力することもなく、安易に姿を現して干渉することもせず、遠くから冷ややかに傍観し、絶好の出撃機会を待ち続けている。


 近年香港から届いた密報は幾重にも重なり玄壇の長机に敷き詰められていた。西環での異族による殺戮、九十余名のエジプト舌狩りが各地に潜伏、徐福の魂操使徒が国境を越え追跡、桂林万年イチョウの古木の封印が揺れ動き、多勢の勢力が互いに牽制し殺し合う。守霊司大当家の目に映るこの街全体の混乱は、鎮圧すべき災厄ではなく、至宝を奪う絶好の契機に他ならない。


 次々と迫り来る敵の圧迫、陰陽気息の激しい衝突は、脳心儀の完全な覚醒を早めるだけだ。秦陌が力を消耗し神器の力が全て剥き出しになった時こそ、彼らが漁夫の利を得る瞬間となる。


 大当家は最上位の玄位に座り、冷徹な瞳を瞬きもさせず、ゆっくりと手を上げ世界中の分壇に届く調令を下した。

「全域のトップ執事を召集し、全員香港へ赴け。」


 一枚の調令が守霊司各地の分壇を震撼させ、鎮邪任務を幾多も経験し門の最高峰秘術と鎮霊法器を操る百二十名の核心執事が、全員召集の指令を受け取った。この集団は守霊司が千年かけて蓄えた最強の戦力で、平時は各地の凶穴古煞を鎮めるため駐留し、一斉に動員されることは稀だ。


 表向き、彼らが香港へ赴く目的は国外異族を追放し、崩壊寸前の陰陽界壁を安定させることと宣言され、まるで世界の秩序を守る正道の姿を演じている。だが百二十名に課せられた真の任務は一つだけ——港に到着後、島内各地に分散潜伏し、隙のない監視網を張り巡らせ、秦陌の一挙一動を常に固く見張ること。


 彼らは徐福と秦陌の対立に介入することも、入港したエジプト四同盟を追い払うことも、米国諜報員の探査行動を邪魔することもない。全ての衝突を冷ややかに傍観し、各勢力に互いに消耗させ殺し合わせる。


 秦陌の体内の脳心儀の力が一切隠れることなく花開き、逆龍血脈が頂点に達した瞬間、百二十名の鎮霊執事は一斉に網を閉じ、圧倒的な人数と門の秘術で秦陌を強制的に拘束し、曠世の神器・脳心儀を奪い取る。


 正道の鎮邪機関という仮面の下に隠されているのは、龍脈と神器を狩り待つ巨大な狩人の群れだ。百二十の隠れた視線が香港全体を覆い、この混乱にさらに見えない致命的な危機が加わった。


 千里離れた桂林の深山に、濃く晴れない山霧が一登寺全体を包み込み、古寺回廊の銅鈴が山風に揺れ、切なく長い低い音を響かせている。


 秦陌、秦正霆、紀慕雲、紀慕雪の四人は禅房の前に佇んだまま、淡い金色の靄の中に一登大師の半透明の残影が静かに浮かんでいる。寺門の遠方、徐福配下の魂操使徒特有の青白い邪気がゆっくりと迫り、突き刺すような陰煞の気息が幾重もの山霧を突き抜け、四人の霊気の流れを澱ませていた。危機はすぐそこまで迫っている。


 過去、秦陌が中庭中央に聳える万年イチョウの古木に近づくたび、掌の逆龍印は制御不能に激しく灼熱し明暗を繰り返し、体内で渦巻く龍脈の気息と古木に千年蓄積された霊韻が頻繁に共鳴し、細やかなしびれが血脈を伝って四肢に広がっていた。四人はこの得体の知れない引き寄せの謎をずっと解けずにいたが、今、迫り来る徐福の手先を前に、一登大師は二千年の重い真実を隠し続けることをやめた。


 歳月に磨かれた重厚な声が残影からゆっくりと漂い、四人の耳に鮮明に届く。

「吾は秦氏分家の血脈を持つ者なり。」


 たった一言が四人の心を震わせ、無数の玄秘な過去を見てきた秦正霆さえ驚きの表情を浮かべた。その後、一登大師はイチョウの封印の下に埋もれた、血に染まる千年の暗い過去を語り始めた。


 世間の人々が代々伝え崇める「離隠大師」は、山林に隠れ慈悲に満ちた修行聖者では決してない。

 彼の本来の真名は離志遠という。


 千年前、離志遠は天下を横暴に駆け巡り悪事の限りを尽くした絶世の魔頭で、性情は残忍で殺生を好み、各地を放浪し姦淫略奪を繰り返し、無実の生き物を虐殺し、滔天の悪跡を中原各地に残し、当時誰も彼を制することができなかった。後に彼は天地の構図を揺るがす一大秘辛を偶然見破る——秦始皇帝陵の深部に張られた究極の禁制は、世間で純粋な秦氏龍脈の血を引く者だけが解く資格を持つということ。


 皇陵の奥深くに眠る太古の神力を奪い、その力で天に逆らい尊き存在となるため、離志遠はそれ以来秦氏の後裔を執拗に追い殺し、世の中の龍脈血統を皆殺しにして皇陵を開く資格を独り占めしようと企んだ。


 秦氏分家の強者である一登大師は、宗族の血脈が絶えかけ、天下の生き物も魔頭の権力奪取で大惨禍に陥るのを見て、独り追凶の道を進み、単身で離志遠を桂林の深山まで追跡した。


 二人はイチョウの古木の下で幾晩もの死闘を繰り広げ、風雲は翻り山々は震動し、双方が全ての修練を使い果たした末、玉石共に砕ける同帰尽の結末に至った。


 臨終の際、一登大師は自身の残魂を全て鎖として捨て、万年イチョウの幹で永遠の牢獄を築き、離志遠の凶煞に満ちた主魂を無理やり樹の体内に永久封印した。これ以降、この血に飢えた魔頭は後世に世捨てて清修する「離隠大師」と誤って伝えられ、樹の中で二千年も眠り続けた。


 秦陌の体内を流れる純粋な逆龍血脈こそ、千年前に離志遠が一生をかけ、宗族全員を虐殺してでも奪おうと渇望した至宝なのだ。これこそ、古イチョウに近づくたび逆龍印が狂ったように騒ぎ共鳴する本当の理由だ。同じ血脈の気息が引き合うのではなく、千年消えることのない貪欲と執念が長き時空を越え、開陵の力を秘めたこの肉体を執拗に追い求めているのである。


 全ての真実が白日の下に曝され、人々の心中に積もった謎は一掃され、その代わりに一層深い寒気が広がる。月化娘が先に桂林から持ち出し香港の龍隠山荘に大切に保管していたあのイチョウの枯れ枝こそ、魔頭・離志遠の残魂が宿る器に他ならない。つまり、陰陽を覆し秦皇陵を再び開く力を持つ千年の凶煞を、千年間鎮圧してきた禁域の外へ連れ出してしまったのだ。


 本章の伏線


 大洋の彼方から二十名の科技精鋭が市井に潜伏し、徐福と行方不明の同僚の真相を密かに追跡する。

 中土百二十名の守霊司トップ執事は混乱を鎮めると偽り、街中に網を張り巡らせ、時を待って脳心儀と秦陌の龍脈を奪おうと虎視眈々と狙う。

 桂林の古寺で二千年の誤った伝承が明かされ、隠れた高僧という名は偽り、世を乱す血に飢えた魔頭こそ真の姿である。


 凶魂を宿した一本のイチョウの枝が香港に落ち、秦皇陵の秘密、脳心儀の力、各勢力の貪欲が全てこの港湾都市に織り交ざる。

 二千年の陰陽禍乱に関わる壮大な盤上戦に、本格的な嵐がついに幕を開ける。


 ――第二十六話 了

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