3話-1 仲間
表情を沈ませる二人に、俺は何を言えばいいのか戸惑った。
俺は別に、気を遣えるほど頭がいいわけじゃないし、そもそもこういう時に気が利くことを言うように教育を受けてない。
だからこそ、正直に言うべきなのかもな。
嘘をつくことが俺の家では正義だったけど、今は嘘なんかついちゃダメだ。
俺は大きく息を吸って、二人の肩に手を乗せた。
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神々の繕う物語 第一章
勇者と姫は自分探しの旅に出た
第三話 仲間
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「はぁっ、はぁっ……!」
息が切れて、胸が破れそうになるほど走った。走って、走って、走って。俺は足がもつれかけた所でようやく止まった。立ち止まると途端に汗が吹き出して背中を伝う。
「ここまで来りゃ、あのジジイも追って来ないよな」
振り返ると、そこはもう知らない場所だった。鬱蒼と茂る木々は俺を隠してくれている。そのことに、俺はニヤリと笑った。
「……やっとだ、やっと……!」
解放感に空を見上げる。木々から漏れ出るように垣間見える青空は、俺の心を表しているみたいだった。
「俺はここから、始めるんだ!」
盗賊の息子として生まれ、盗賊になるべくして育てられた俺が、ここから始めるんだ。あの日見た、あの兵士の背中を追って。
「俺は人を助けられるような人間に……なるんだ」
そう決意してから小一時間後。俺には早速試練が与えられた。
木の上から見下ろしたところには、金髪が目立つ子どもが二人と……同業。そんな言い方したくないけど、さっきまでの俺と同じ盗賊が居る。
これは、うん。巻き上げられそうになってんな、子どもの方が。
あーあ、子どもの……男の方が多分馬鹿だ。盗賊の常套句を信じ込んでやがる。お人好しだなこれは。女の子の方は……怪しんではいるみたいだが、口には出さないと。人を信じやすいのか、勇気がないのか。
放っておいたら子ども二人は身ぐるみ剥がされる。さっきまでの俺と同じクソどもに。さっきまでの俺なら、馬鹿な奴らって背中を向けるだろうな。
だがしかし! 今の俺は正義の味方になると決めた男。助けて、みるか。
「困ってるなら手を貸すよ! どうすればいい?」
「あの、ユート……」
「そうか! なら、とりあえず着いてきてく──」
「はーい、そこまで」
やり取りが進む前に、俺は子どもと盗賊の間に入り込んだ。全く、そんなに分かりやすい詐欺で引っ掛けようなんざ、恥だぞ元同業。引っかかるやつも恥ずかしいけどな!
「なんだてめぇは」
元同業は気が短かったらしく、俺の胸倉を掴んできた。ま、そういう扱いにビビる様な育ち方はしてないんだわ。
「ハフマールだ。下がっとけ三下。くだらない手口で子どもを嵌めようとしやがって」
「は、ハフマールだと……?!」
距離を詰めてきたので、小声でそう囁いてやった。こんな時に家名を名乗る俺も恥ずかしいけど、初めての人助けなんだからハンデはご容赦くださいってな。
おかげで相手はすっかり怯んで逃げてくれた。逆に巻き上げられるとでも思ったのか?
「ちょっと、ねぇキミ!」
俺が逃げていく元同業に手を振っていると、後ろから子どもの男の方が話しかけてきた。当然、助けてやったんだから、礼とか弾んでもらわないとだよな!
「なんてことしたの! 困っている人を怯えさせて追い払うなんて!」
なんて思った俺もだが……そういやこいつ、馬鹿だった。騙されている自覚が無いんだったわ。
それによく見ると、たったの二人か? 子ども二人で旅なんて、ご苦労な……って。
「えっ……ヒメ、サマ……?」
「……はい。テナートの姫の位を冠しております……?」
俺が馬鹿を無視して顎を落としたまま聞くと、なんと想像通りだった。
この国の姫といえば、常人には使いこなせない大魔法で軍を蘇らせ、今の安寧を作り出したとまで言われる存在だ。その手に握った本人と同じくらいの大きさのロッドは、その証拠とも言える。
こりゃ、大物助けちまった。恩売って損がないどころか、億万長者になれるじゃん。
人助け、してみるものだな……!
「……というわけで、あんたらは騙されそうになっていたというわけだ。理解できた?」
「そうだったんだ……助けてくれてありがとう! えっと」
この国の姫様を助けることになった俺は恩を売るために、それはそれは丁寧に、助けたことを主張した。
そのまま話を続けるとわかったのは、二人は旅をしているらしいということ。それにしては、さっきのやり取り危ういけどな……今後大丈夫かよと。そこで俺は閃いた。
「俺か? コウってんだ! なぁ、あんたら旅に不慣れだろ。助けてやろうか?」
ここで同行して、助けるついでに恩を売りまくって、王族に謝礼なんてもらおうもんなら人生安泰だ。
俺はなんて運がいいんだろうな! 俺の提案に男の方は目を輝かせている。
「オレはユート! 仲間は多い方が楽しいし、頼もしいよ、ぜひお願い!」
ユートはガシッと俺の手を握って、ブンブン振ってきた。こいつは簡単に懐柔できそうだな。問題は……
「ユート、私は反対です」
ヒメサマは俺への疑念を隠しもしないで断言した。ほう、慎重なんだな。さっきも易々と騙されたユートを止めようとしていただけある。
さて、そんな時に俺が必要なのは実績だ。信頼できると証明して見せればいい。
「そりゃ、そうだ。なら、とりあえず次の目的地まで同行する……ってのはどうよ? その先も着いていって良いか、そこで判断してくれ」
俺もこの二人から騙して何かを盗ろうって考えでは無い。そしたら着実に信頼を得ていくのが一番だ。
信頼を得て、王様にでも進言してもらって……旅の終わりには貴族の仲間入りだ。うん、完璧な計画。旅の目的、聞いて無いけど。
しかし、俺の提案にヒメサマはまだ頷かない。最初の一歩が踏み出せないならこの計画は意味が無いんだ。
そしたら、少し会話を楽しもう。情報を吐かせて後戻りできないようになれば上出来。
「そもそもどうして旅なんかしてんだ? ヒメサマには似合わないぞ、ユートはともかく」
「ともかくって何さ……オレたちは記憶を取り戻すために旅をしてるの。次の目的地はここから国境を越えた先だよ」
ユートは矢継ぎ早に俺の知りたいことを語ってくれた。ヒメサマは途中で止めようとしていたが、勢いで押し切っちまった。ヒメサマがはあ、とため息までついてる。それにしても、また珍しい旅だな。
「自分探し、みたいな感じだな」
「わあ! それいいね! 自分探しの旅ってこれからは言おう!」
「違う意味にとられそうですね……」
無邪気なユートの反応にヒメサマは頭を抱えてみせた。ユートは飛んだおバカさんのようだが、楽しい旅になりそうだ。何がなんでも信用してもらおう。上っ面だけでも信じ込ませるのは得意だ。
「国境も超えるなら苦労は多いだろ。だから手伝わせてくれよ、な?」
このとおり! と、頭も下げてみせる。それでもヒメサマは頑固なもので、意味がわからないと首を傾げた。
「どうしてそこまで……苦労も多いと分かっているなら、頭を下げてまで着いてくるものでもありませんよね?」
そりゃ報酬のため……なんて言う訳にもいかないので、そうだな……あの人ならなんて言うのかな。まともに話もしたことないから、想像でしかないけど。
「あんたらさっき危ないところだったじゃねえの。ここで、んじゃさよなら! なんて言ったら、あとで心配になって寝れなくなりそうだ」
あからさまに恩着せがましいのは無しだろう。あくまでも、己がやりたいことを成すため……エゴだって言った方がかっこいい。
まあ、心配で寝れなくなりそうってのは大嘘だけど。この後、こいつらがどうなったって俺には関係ないわ。代わりに、惜しい魚を逃したかもって後悔は夜通しするかもしれない。
「ユーナ、ここまで言ってくれてるならお願いしようよ。次の祠までだから、ね?」
ユートのひと押しに唸りながら考えるヒメサマだったが、観念したのかようやく俺の目を真っ直ぐに見た。晴れた日の空みたいな青い瞳だ。こんな青眼、見たこともない。
「次の目的地まで、よろしくお願いします」
ヒメサマは、次の目的地まで、という前置きに強く力を込めた。そして、スカートをつまんで頭を下げる。よし、最難関であろう一歩目は無事に踏み出せた。ここからは俺の実力次第というわけだ。




