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9-2

 ユートとユーナの覚悟をもって、三人は作戦会議を始める。


「シャーロットの居場所は特定できている。しかし、我らも国の立ち直しがまだ完全ではなく、今は戦力をそちらに割けない。許せ」


「国は大切だよ。オレたちで何とかするから気にしないで」


 ユートの返しに父は目を見開いたまま少し静止して、ありがとうと力強く伝えてから話を続けた。


「シャーロットはお前たちより強固な悪魔の魔法……通称、闇魔法によって記憶を封じられ、魔力を侵されて悪魔に近づけられている」


「それが、瞳が赤い理由……それを光の精霊様の力でどうにかできるんですね?」


 ユーナが自分なりに解釈しながら話を促すと、流石と父はその質問に答える。


 淡々と進んでいく話し合いは、二人が成長したからこそできるもの。そのことに、傍から見守っていた母も静かに感動していた。


「闇は光で打ち払う。祠や遺跡には光の精霊の加護があり、お前たちはそれの浄化の力によって記憶を取り戻せた」


 父はユートとユーナが記憶を取り戻したメゾットを語る。光の中で生きる天使たちにとって、光は癒しであった。祠は天使たちの休憩所として、その癒しである光の加護で作られている。


「シャーロットの場合はそれでは足りないが、更に強い光の魔法で浄化すれば、その摂理は崩れぬものではない」


「シャーロットにまた会って、光の魔法を撃ち込んで浄化する……ってことだね。ユーナ、頑張ろう!」


「うん! 今度は私たちがシャーロット姉様を助けるんだね!」


 改めて覚悟を決めた二人は修行の日々に入った。嬉々とした様子の二人であったが、天使のみが扱う光の魔法の修得……それは想像を絶するほど高い壁となる。


「光の魔法を使う感覚はなんとなく掴めたのですが……」


「オレに渡すところで上手くいかないよぉ!」


 修行してから一ヶ月が経ったが、二人はまだ光の魔法を会得できていなかった。


 やっぱり自分が足を引っ張っているのかと、ユートは嘆きながら床に寝転がる。二人の能力に関係なく、そもそも魔法という曖昧な概念を、一から会得するというのは難しいことだった。


「騎士たちに習って、光の筋を作り出してそれをユートの手にと考えているんだけど、それが根本的に難しいのかな?」


「光は掴めるものじゃないって、オレの中で思い込んじゃってるからダメなんだ。とにかく繰り返そう」


 立ち上がったユートに引っかかるものを覚えつつも、ユーナも着いていく。しかし、魔法は感覚的な部分もあれど、理屈が伴わなければ上手くいかないもの。繰り返したところで、二人は目標から遠のくだけであった。


 二人は掴めない希望に挫けそうになる。高い天井を一緒に寝転んで眺めて、途方に暮れた。


「……こんな時、シャロは叱ってくれるよね」


「姉様は厳しさも優しさもあったからね。ユートが努力家なことを誰よりも認めて、誰よりも辛抱強く一緒にいてくれてた」


 二人は自然と、剣術をユートに教えていたシャーロットの姿を思い出す。ユートが魔法や王族としての勉学から逃げていた中、シャーロットは剣術という道を与えた。それが唯一、ユートの才覚を引き出したものだったのだ。


「ユートはがむしゃらにやる力はある。それが魔法や勉強だと通用しなかっただけ。やり方が合わなかっただけよ」


 思い出すのは、昔のこの場所。シャーロットに一本取られて倒れたユートを、覗き込みながら言うシャーロットだった。


「剣術だって、天才的とは言えないわ。でも、剣は打ち込めば打ち込むほどに、掴めるものがある。だからユートに向いているの」


「でも、いまシャーロットにまけた……」


「あんた私を舐めてるの? あんたよりも何百、何千も打ち込んだし、打ち込まれてきたのよ。簡単に勝たれても困るわ」


 そう怒りつつも、シャーロットはユートに手を伸ばす。ユートの腕を引き身体を起こさせるのは、所々にタコができている暖かい手だった。


「ユートは無能でもなければ恥なんかでもないの。諦めない心は誰にも負けない」


 二人はシャーロットのことを思い出すと、自然と頬が緩む。まるでその思い出の温もりで、疲れが溶けるようだった。


「父さんには怒られたけどね、うつつを抜かすなーって」


「うん。でも、剣を一生懸命に振るユートの姿、私は好き」


 ユーナはそう言うと、ユートの顔を見る。幼い時も今も、ユートの剣を握る姿にユーナは励まされていた。期待に応えようと励んでいたユーナも、ユートの勇姿に力を貰っていたのだ。


「ユートが原因ではないと思うの。ユートは昔から私よりも強くて、頑張っていたから……あまり自分を責めたらダメ」


「……わかった。でもどうすればいいの? 光なんて掴めないよ、オレは」


 過去を振り返り、二人は再び今の壁に向き直った。


 光なんて掴めない──ユートが放った言葉にユーナは何かを見出す。そして、勢いよく起き上がった。唐突なその動きに、ユートは身体を跳ねさせる。


「ど、どうしたの」


「私いままで何をしてたんだろう……! 光の魔法は光を集めて物質にすることができるんでしょ? 剣の形だって、作れるじゃない!」


 そういうと、ユーナは立ち上がりロッドを構えた。ユーナは目を瞑り、感覚を自分の身体のみへと向ける。


 先程まで空間を反響していた音も光も消え、手先に覚える木の感触と自分の身体に流れる魔力の流れだけを()た。真っ暗で何も無い世界、そこに光が集まり剣が現れる様を想像する。


「光よ。光よ。集いて形を成せ。(なんじ)は無形にして無限。誰にも囚われず、何処とも行ける。しかして我が為に集え、我に従え──」


 ユーナは文献にまとめられた光の魔法の詠唱をした。一句一節述べていく毎に、ユーナの目の前に光が集まる。やがてそれは形を作り、剣となった。


「光よ。我が為に武器となれ。万物を貫く剣となれ……出てよ、光の剣(グラディウス リッチ)!」


 詠唱の最終句と共に、集まっていた光は目を焼くほどにその明度を弾けさせる。


 真白に染まる視界が元に戻ったかと思えば、そこには純白の剣が浮かんでいた。ユートは今までの一筋の光ではなく、豪奢な装飾と大きな刃を持つ剣に手を伸ばす。


 その柄を握ると、初めて触るはずなのに手に馴染んだ。


「……成功した……!」


 二人は遂に、シャーロットを救出するための術を手にしたのだ。

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