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ユートとユーナの覚悟をもって、三人は作戦会議を始める。
「シャーロットの居場所は特定できている。しかし、我らも国の立ち直しがまだ完全ではなく、今は戦力をそちらに割けない。許せ」
「国は大切だよ。オレたちで何とかするから気にしないで」
ユートの返しに父は目を見開いたまま少し静止して、ありがとうと力強く伝えてから話を続けた。
「シャーロットはお前たちより強固な悪魔の魔法……通称、闇魔法によって記憶を封じられ、魔力を侵されて悪魔に近づけられている」
「それが、瞳が赤い理由……それを光の精霊様の力でどうにかできるんですね?」
ユーナが自分なりに解釈しながら話を促すと、流石と父はその質問に答える。
淡々と進んでいく話し合いは、二人が成長したからこそできるもの。そのことに、傍から見守っていた母も静かに感動していた。
「闇は光で打ち払う。祠や遺跡には光の精霊の加護があり、お前たちはそれの浄化の力によって記憶を取り戻せた」
父はユートとユーナが記憶を取り戻したメゾットを語る。光の中で生きる天使たちにとって、光は癒しであった。祠は天使たちの休憩所として、その癒しである光の加護で作られている。
「シャーロットの場合はそれでは足りないが、更に強い光の魔法で浄化すれば、その摂理は崩れぬものではない」
「シャーロットにまた会って、光の魔法を撃ち込んで浄化する……ってことだね。ユーナ、頑張ろう!」
「うん! 今度は私たちがシャーロット姉様を助けるんだね!」
改めて覚悟を決めた二人は修行の日々に入った。嬉々とした様子の二人であったが、天使のみが扱う光の魔法の修得……それは想像を絶するほど高い壁となる。
「光の魔法を使う感覚はなんとなく掴めたのですが……」
「オレに渡すところで上手くいかないよぉ!」
修行してから一ヶ月が経ったが、二人はまだ光の魔法を会得できていなかった。
やっぱり自分が足を引っ張っているのかと、ユートは嘆きながら床に寝転がる。二人の能力に関係なく、そもそも魔法という曖昧な概念を、一から会得するというのは難しいことだった。
「騎士たちに習って、光の筋を作り出してそれをユートの手にと考えているんだけど、それが根本的に難しいのかな?」
「光は掴めるものじゃないって、オレの中で思い込んじゃってるからダメなんだ。とにかく繰り返そう」
立ち上がったユートに引っかかるものを覚えつつも、ユーナも着いていく。しかし、魔法は感覚的な部分もあれど、理屈が伴わなければ上手くいかないもの。繰り返したところで、二人は目標から遠のくだけであった。
二人は掴めない希望に挫けそうになる。高い天井を一緒に寝転んで眺めて、途方に暮れた。
「……こんな時、シャロは叱ってくれるよね」
「姉様は厳しさも優しさもあったからね。ユートが努力家なことを誰よりも認めて、誰よりも辛抱強く一緒にいてくれてた」
二人は自然と、剣術をユートに教えていたシャーロットの姿を思い出す。ユートが魔法や王族としての勉学から逃げていた中、シャーロットは剣術という道を与えた。それが唯一、ユートの才覚を引き出したものだったのだ。
「ユートはがむしゃらにやる力はある。それが魔法や勉強だと通用しなかっただけ。やり方が合わなかっただけよ」
思い出すのは、昔のこの場所。シャーロットに一本取られて倒れたユートを、覗き込みながら言うシャーロットだった。
「剣術だって、天才的とは言えないわ。でも、剣は打ち込めば打ち込むほどに、掴めるものがある。だからユートに向いているの」
「でも、いまシャーロットにまけた……」
「あんた私を舐めてるの? あんたよりも何百、何千も打ち込んだし、打ち込まれてきたのよ。簡単に勝たれても困るわ」
そう怒りつつも、シャーロットはユートに手を伸ばす。ユートの腕を引き身体を起こさせるのは、所々にタコができている暖かい手だった。
「ユートは無能でもなければ恥なんかでもないの。諦めない心は誰にも負けない」
二人はシャーロットのことを思い出すと、自然と頬が緩む。まるでその思い出の温もりで、疲れが溶けるようだった。
「父さんには怒られたけどね、うつつを抜かすなーって」
「うん。でも、剣を一生懸命に振るユートの姿、私は好き」
ユーナはそう言うと、ユートの顔を見る。幼い時も今も、ユートの剣を握る姿にユーナは励まされていた。期待に応えようと励んでいたユーナも、ユートの勇姿に力を貰っていたのだ。
「ユートが原因ではないと思うの。ユートは昔から私よりも強くて、頑張っていたから……あまり自分を責めたらダメ」
「……わかった。でもどうすればいいの? 光なんて掴めないよ、オレは」
過去を振り返り、二人は再び今の壁に向き直った。
光なんて掴めない──ユートが放った言葉にユーナは何かを見出す。そして、勢いよく起き上がった。唐突なその動きに、ユートは身体を跳ねさせる。
「ど、どうしたの」
「私いままで何をしてたんだろう……! 光の魔法は光を集めて物質にすることができるんでしょ? 剣の形だって、作れるじゃない!」
そういうと、ユーナは立ち上がりロッドを構えた。ユーナは目を瞑り、感覚を自分の身体のみへと向ける。
先程まで空間を反響していた音も光も消え、手先に覚える木の感触と自分の身体に流れる魔力の流れだけを視た。真っ暗で何も無い世界、そこに光が集まり剣が現れる様を想像する。
「光よ。光よ。集いて形を成せ。汝は無形にして無限。誰にも囚われず、何処とも行ける。しかして我が為に集え、我に従え──」
ユーナは文献にまとめられた光の魔法の詠唱をした。一句一節述べていく毎に、ユーナの目の前に光が集まる。やがてそれは形を作り、剣となった。
「光よ。我が為に武器となれ。万物を貫く剣となれ……出てよ、光の剣!」
詠唱の最終句と共に、集まっていた光は目を焼くほどにその明度を弾けさせる。
真白に染まる視界が元に戻ったかと思えば、そこには純白の剣が浮かんでいた。ユートは今までの一筋の光ではなく、豪奢な装飾と大きな刃を持つ剣に手を伸ばす。
その柄を握ると、初めて触るはずなのに手に馴染んだ。
「……成功した……!」
二人は遂に、シャーロットを救出するための術を手にしたのだ。




