9話-1 天使の魔法
ユートとユーナは全ての記憶を取り戻した。それによって、自分たちの記憶は悪魔の魔法によって封じられていたことを知る。
しかし、自分たちとシャーロットはその封印を解く方法が違うようで、それを探り出してシャーロットを助けるために、天界へ行くことにした。
そして、天界に到着したユートは街を駆け抜け、先を歩いていたユーナの姿を王城の門で見つける。
「ユーナ! お待たせー!」
「やっと起きたのユート! いつも目覚めが良いのに、こんな時に限って……!」
門番の騎士と話を弾ませながら待っていたユーナは、ユートの声がすると腰に手を当てて叱りつけた。ユートはそれにペコペコと頭を下げる。それを見守る騎士たちは二人が揃った光景に感動し、泣きそうにまでなっていた。
「本当にお戻りになられたんですね……! ゲートが動く兆しが見えた時にはドキドキしましたが」
「えーと、久しぶりー! 名前忘れちゃった」
「話したこともありませんので仕方ありません……ユート様、ユーナ様、おかえりなさいませ。大きくなられましたね……うぅ」
啜り泣く門番にルネが小突く。二人は上司と部下の関係のようだった。
「案内いたします、お二人共。陛下たちに会う前に、身なりを整えた方が良いでしょう」
テキパキとしたルネは二人を案内する。その先で、各々の部屋へと向かった。
部屋に着くと、従者が頭を下げる。そして、どうやって用意したのかも分からない新品の服を二人に着せた。不思議なことに、二人ともサイズはピッタリ。
気になることがあるとすれば、従者たちの様子だった。誰もが涙ぐみながら二人に接している。王城の者たち全員が二人の安否に心を乱し、帰りを待ち続けていた証拠だった。
「泣くほど心配かけてたってこと?」
「いいえ、心配で毎夜眠れない程だったのは、居なくなられて少しの間だけです。ルネが調査をし、お二人の無事を報告してくれました」
「調査……ということは、やっぱり」
ユートの頭に浮かんだのはハルキの顔だ。ま、言わんでもいいと思ったからなと、にやけ顔でとぼける様が容易に思い起こされた。
おそらく五年前の時点で、調査に訪れたルネと接触し、ユートたちの正体や記憶を取り戻す方法を知っていたのだろう。
「ムカつくぅ」
「気分を害されたのですか!? すぐにユート様がお好きなお菓子を──」
「いやいや、違うよ! そんな子供扱いしないで!」
涙ながらの再会は思ったよりも賑やかで楽しいものになった。そうして着々と煌びやかな衣装で、ユートは身動きが取りづらくなる。
「……こういう服、あんまり好きじゃない」
「何度も申しておりますが、王子として最低限の身だしなみです。我慢してください」
慣れた会話をしていると、五年もの間があったとは思えなかった。それだけ従者たちはユートとユーナのことを、常に欠かさず考えていたのだろう。ユートはそれに胸が熱くなるのを感じた。
着替えを終えた二人は両親に会うために王室の前で再会する。目が合って早々、ユーナがくすりと笑った。ユートは口を尖らせて、そんなユーナをじっとりと睨む。
「前よりは様になってるね」
「はっきり似合わないって言いなよぉ、いじわる」
二人で笑い合うも、扉に視線を移すと緊張が戻ってきた。
目の前にしているのは両親の待つ部屋と言えど、アン王国の頂点に立つ者だ。長いこと離れていた二人にとって、扉からは威圧が漏れ出ているようだった。特にユートは少し落ち込みを見せている。
「……怒られるよね」
「どうして?」
「だって、オレのせ──」
「それ、言わないって約束」
ユートが不安を口にすると、ユーナは人差し指をその唇に当てた。そして、にこりとユートに笑いかける。
「大丈夫。ユートのこと、すごく心配していたと思います」
「……うん」
心を固めた二人は扉守に声をかけ、重い扉が開いていくのを見守った。隙間から黄金と白銀で飾られた広い部屋と、懐かしい顔が覗き見える。
扉が開き切りその全貌が見えると、二人は思わず涙が込み上げてきた。
玉座に座っていたのは国王である父とその妃である母。二人とも、目を丸くして固まっていたかと思えば、母がゆっくりと立ち上がりこちらに歩いてくる。ユートとユーナは迎えるように距離を詰めた。手を伸ばせば届く距離まで来たところで、身体が抱き寄せられる。
「……よくぞ、よくぞ無事で……!」
震えたその声は弱々しかった。抱き返す身体も随分と細い。双子は母親の温もりを感じながら、五年間という短いようで長い時に実感を覚えた。
「お母様、ユート共々戻りました」
「ええ、よく顔を見せて。二人とも立派になって……悔しいのはその成長を、傍で見守ることができなかったことです」
母との再会を果たすと、促されるまま父の元へと双子は歩み寄る。父の顔も五年前よりやつれた様子だった。しかし、その目には強い力と、僅かに潤んだ膜が張っている。
「よく戻った。国の様子は見れたかね」
「静かでした。やはり、あの時の被害が……?」
国王としての質問にユーナが返した。その返しに、国王は静かに頷く。
「しかし、お前たちが戻ったのだ。どうにでもなる。ユート、見違えたな」
「えっ、はい!」
父に優しく微笑まれ、ユートは恐れていた姿との違いに拍子抜けしてしまった。
そのユートの心情を汲み取ったのか父は目を伏せると、一言謝罪を述べる。
「ユートにはきつく当たり過ぎた。それを反省している最中での別れだった故、悔いても悔い切れぬ毎日だった」
「お父様、それは今日にでも断ち切れます。無事に戻っただけではなく、ユートは本当に強くなりました」
低い声で自責の念を告白する父に、ユーナは嬉しそうに言葉をかけた。それに父が力強く期待と共に同意を示すと、話題はシャーロットのことに移る。
「シャーロットのことは、少しの調査ではあるが把握している。二人とも出会ったそうだな」
「オレたち、助けたいんだ。どうすればいいか教えて欲しい」
悩ましげに語り始めた父に、ユートが強い意志を込めて助言を求めた。父は算段がある様子だったが、それを言うのを躊躇うように黙り込む。
迷うように二人を見ると、その目には決意を決めた勇ましい顔が映った。それで父も心を決めたのか、ゆっくりと口を開く。
「時に、お前たちについて話をしよう」
突然の思ってもいなかった話題転換に双子は首を傾げた。それを大事な話だと父は続ける。
「お前たちは双子として生まれたが故に、他の天使には無い欠陥がある。それは光の精霊の力……我々だけが扱う魔法に深く影響する」
天使だけが使える魔法。それは二人が先程までいた大地でいうところの、精霊の加護を受ける魔法に似た特異な魔法であった。
光魔法と呼ばれるそれは、天使が有する上質で保有量が多いという魔力の特長により操ることができる。
「ユートは魔法の才がないと思っているかもしれないが、それは違う。むしろ、ユーナのように魔力の保有量は多く、加護も受けやすい」
ユートの能力に対して、冷めた態度をとっていたはずの父は、ユートを認めるようなことを言った。それよりは、力があるのに諦めたユートに対して、厳しく当たっていた過去があった、という方が正しいだろうか。ユートは自分の思い違いに、ここでようやく気づいた。
「ユートは魔法を具現化する力は弱いが、この魔法に必須の魔法を維持する力がある。ユーナは反対に、維持や調整は不得手だ」
光魔法を扱うには条件が複数ある。そもそもこの魔法は、光を物質化し武器を始めとした物質を生成できるものだ。それには形を作り出す想像力と魔力、維持するための力が必要である。
ユートには前者、ユーナには後者が不足していた。
「双子として生まれたから、力を分け合うことになってしまったのだろう。しかし、補い合えばこの魔法はお前たちのものになる」
「それで……その魔法でシャーロットを助けられるの?」
ユートが結論に持ち込むと、父はゆっくりと頷く。シャーロットを助けるための一筋の光が見え喜ぶ二人だったが、父はまだ厳格な表情を緩ませなかった。
「二人で補うのも簡単なことではない。修行に修行を重ね、実現できるかどうかそれでも保証は無いのだ。苦しい日々になるぞ」
厳しくも心配そうに父は告げる。しかし、二人は迷いなく大丈夫だと頷いた。双子の瞳には、シャーロットを必ず助けたいという想いが強く宿っている。
「修行はもう慣れてるよ! それに、ユーナとならきっと大丈夫!」
「私たちは共に生まれ、共に育ったのです。必ず物にしてみせます」
自信に満ち溢れている二人に、父はようやく頬を緩ませた。




