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1話-3

 もう一度振り返ると、そこには新しい騎士が立っている。他の騎士よりも服が豪華でかっこいい。でも年はオレより少し上くらいの男の子だった。表情はびっくりするほど(しわ)が寄っていて怖いけど。


「昨日、私が不在の間に何やら話が進んでいたようですが……私は反対ですユーナ様! こんなどこの者とも知れぬ男と旅をするなど!」


 その騎士はオレを指差して言い放った。いきなり……失礼すぎじゃない?


「無礼ですよカイル! この方は立派な金のゆう──」


「そんな啓示を私は信じておりません」


 ……テナートの騎士が?! いや、正直そこら辺はよく分からないけど、王様やユーナサマの言い方からして、テナートの人達にとっては啓示って大事なものなんでしょ? 信じなくていいの?


「そんな啓示に従う必要ありません。私が同行し、私が貴女(あなた)を守ります。そんなガキに任せるよりも、(はる)かに安心できるはずです」


 それまでの騎士が放った言葉にモヤモヤしていたけど、そこでついにカチンと来た。ユーナサマもオレも弁護(べんご)しようと困っている。ユーナサマを困らせていることにも、オレを馬鹿にしていることにもカチンと来た。


「オレはガキじゃなくて、ユートね。言っておくけど、キミよりオレの方が良い(・・)から、王様もお願いしたんだと思うよ?」


「ふん、自分から名乗ったのは()めてやるぞガキ。私はテナート騎士団所属(きしだんしょぞく)王家守衛部隊(おうけしゅえいぶたい)隊長のカイル・シュビュラ・トロークだ」


 カイルと名乗ったその人は(あご)を上げて、オレを見下(みくだ)すようにしてから言った。


「実力は貴様(きさま)より上だ。(ゆえ)に私の方が良い(・・)のだ」


 えぇ、何この人本当にムカつく。ユーナサマはその態度に怒ってるし、これはどうにかしなきゃいけないね。


「どうすればオレのこと認めてくれるの?」


「それは当然、実力を示せば良い」


 カイルはそう言うと、腰から剣を引き抜いて天に突き立てた。


「ここにカイル・シュビュラ・トロークとユートの決闘(けっとう)を宣言する」


 ……決闘? 何それ?


「そんなこと了承(りょうしょう)しません!」


 ユーナサマの言葉も聞き入れず、カイルは続ける。


「勝者はユーナ様に同行するものとする。勝敗はどちらかが戦闘不能(せんとうふのう)となるか、降参(こうさん)を申し立てた場合に決する」


「オレもリョウショウしないよー?」


 オレもユーナサマに合わせてそう言った。でも、カイルはオレに向かってニヤリと笑ってくる。


敵前逃亡(てきぜんとうぼう)も敗北とみなす。貴様は乗るしかないのだ」


 騎士としてどうなのこの人。オレが知ってる兵士たちの方がもっと性格良い人達だよ。でも、乗るしかないなら乗るよね。


「いいよ。やろう」


「ユート様まで……いいのです! カイルの言うことなど気にせずとも」


 ユーナサマはそう言いながらオレの腕を掴んだ。オレはその手に自分の手を重ねて、ニコリとする。


「大丈夫だよユーナサマ。オレ、あの人より強いから」


 ユーナサマはそれは知ってるけどと呟きながら、仕方ないという顔で手を離した。いつまでもそんな顔をさせていたらいけないね。安心させてあげなくちゃ。


「じゃ、はい。始めよう」


 オレは剣を抜き出してそう言った。その瞬間、目の前に剣先(けんさき)(せま)ってくる。すんでのところでオレは身体を反らせて、その攻撃を()けた。当たってたら、死んでたんじゃない?


「うわっ! 殺す気満々?!」


「勿論、本気でやらせてもらうとも!」


 カイルはそう宣言してから、連続でオレに剣戟(けんげき)を飛ばしてきた。オレはそれをしっかりと見極(みきわ)めてから避ける。


 なんだか、見たことがある剣筋(けんすじ)だ。避けやすい。しばらくそうして避けることに(てっ)していると、カイルは舌打ちしてきた。


「避けてばかりでは面白くもない。貴様も仕掛けてこないか」


「いいの? じゃあ遠慮なく」


 様子見していたら怒られたということで、カイルの剣筋(けんすじ)を乱すように剣で払った。ゴンと重い音が響く。この音が気持ちいいんだよね。カイルはその払いにビックリしたのか、目を見開いて、飛び退()いた。間合いが切れちゃった。じゃあ、一気に近づいて終わらせようかな。


 オレは(あし)に力を入れて、剣を振り上げながらカイルの所にまでひとっ飛び。その勢いのまま振り下ろした。カイルが受け止めようと構えた剣にオレの剣がぶつかる。その途端(とたん)、バリンと割れる音が響いた。


「えっ」


 それはカイルの剣が、割れた音だった。オレは慌てて振り下ろした剣を強く握る。刀身(とうしん)がカイルのおでこに触れるギリギリのところで止まるように。


 あ、危なかった……! さすがに殺す気は無いから、当てる訳にはいかない。それにしても、まさか剣を折ってしまうとは思わなかった。


 オレがどうにか間に合ったことに息をつくと、カイルは呆然(ぼうぜん)としてから崩れるように座り込んだ。


「……貴様……その剣……」


 正気が戻ってきたのか、カイルはオレの剣を指差しながらわなわなと呟く。その目は恐怖というより、困惑を見せた。


「その剣……おかしいだろ!!」


 そう言い放ったカイルの声は城下町(じょうかまち)までこだまするように響いた。


「ユート様、本当に剣は取替えなくてよかったのですか?」


「大丈夫だって言ったよね!!」


 オレはプンスカ怒りながら城下町の門をくぐった。なんだよ、みんなして、なんだよ! オレの剣は何もおかしくないよ! ちょっと重くて、()れ味が悪くて、見た目が地味。ただそれだけの剣なのに、あの後のカイルなんて……


「その剣おかしいだろ! 重すぎる……実戦(じっせん)に使うものじゃない!」


 なんて怒鳴ってきた。


「それ鍛錬専用(たんれんせんよう)の剣だぞ! 旅人が切れもしないトレーニング用の剣を持ってるなんて、馬鹿すぎる! やはり俺が同行するべきだ!」


 なんて、それまでの高慢(こうまん)な騎士キャラを崩しながら馬鹿にしてきた。


「助けていただいた時も魔物から血が出ていませんでしたね……あれ、特殊な剣技なのかと思ったら、斬れていなかっただけでしたか……」


 なんてユーナサマにも言われた……! なんだよ! 斬れなくても戦えるならいいじゃんか! 使い慣れてる剣を持って行った方がいいって、そう思ったんだもん! オレは馬鹿じゃないもん!


「ユート様、分かりました。剣はともかく、ユート様はお強いので大丈夫です。だからもう怒らないでください……」


「……わかった。許してあげるよ」


 ユーナサマがまた沈んだ顔をするものだから、オレはため息ついてから許した。落ち着いてから、オレはふと大切なことを思い出す。


「ねぇ、ユーナサマも記憶が無いんだよね?」


「はい、ありませんよ。五年前に、気付けばこのテナートに居た時以前の記憶が」


 そこまではオレと一緒。もう一つ、確かめてみたいことがある。


「オレさ、記憶が無かった時……手にこんなのを握っていたんだ。何か意味がありそうなんだけど、ユーナサマも持っていたりする?」


 オレは首に掛けたヒモを引っ張り出して、その先に付いている石を見せた。光にかざすと七色に輝く不思議な宝石だ。オレはそれを、記憶が無くなった時に名前と一緒に持っていた。


 みんなからは、きっと大切なものだから肌身(はだみ)離さず持っておけと、たまに胸元にあることを確認しながら五年間過ごしてきた。


 オレが差し出した石をユーナサマはまじまじと眺めて、瞳に宿った空がまた零れそうになるほど目を見開いた。


「……もって、います……私もこれを持っています!」


 声が裏返りそうなほど盛り上がりながら、ユーナサマは首元を探った。引っ張り出されたのは、本当に俺が持っているものと同じ石。


 まさか、そんなことまで同じだとは思わなかった。もしかしたらと思って聞いたけど、本当に全く同じ石だ。


 二人でその石を不思議そうに眺めていると、突然視界が真っ白になる。二つの石が光り出したんだ。


「わっ、何──」


 そのままオレたちは光に包み込まれるようにして、意識が遠のいた。




 ────記憶再生。双子の思い出────



 色鮮やかな花畑で少年は走っていた。向かう先は大切な人がいるところである。小さな身体で、大きく息を乱しながら走っていた。


「ユート!」


 可憐(かれん)な色を持つ声に少年は足を止めた。少年は肩を大きく動かして息をして、その声の元を探す。


「ユート! ここ! ここだよ!」 


「どこ? どこにいるのユーナ!」


 少年がくるくると回りながらその姿を探していると、後ろから抱きついてくる者がいた。 


「ここだよ!」 


「ユーナ! もう……どこいってたの?」


「ずっとここにいたよ?」


 少年の身体を抱きしめながら少女は首を傾げる。


「ここらへんの花は背が高くて、ユーナはかくれちゃうんだよ」


「もう、そんなこというユートだって、お兄ちゃんなのにわたしと同じくらい小さいでしょ」


 少女が膨らませた頬を少年は突きながら微笑んだ。


「同じなのは当然だよ。ぼくたち双子なんだから」


 そう言うと、少年はギュッと少女のことを抱き返す。


「だから、心配もするの。はやく帰ろう」


「うん、ごめんねユート……帰ろうね」


 二人は手を繋ぎ、広大な花畑を歩き出した。



 ────再生終了。復元完了。────




「……え?」


 光に包まれて、意識が遠のいて、オレは夢を見た。現実みたいな夢。双子の妹と過ごした、幼い頃の日々の夢。


「……今の、何……?」


 それが夢じゃなくて、記憶だということを理解するのは難しかった。でも、目の前で同じように驚いている彼女の顔を見ると、明らかにさっきまでとは違う感覚が湧いてくる。


 その顔が、声が、香りが、手の感触が……全部(よみがえ)ってきた。胸が熱く燃えるように高鳴(たかな)る。指先が(しび)れるほどの感動が湧き上がった。


「……ユート様……いえ、いいえ、ユート……!」


「ユーナ……ユーナなんだよね……!」


 お互いの名前を呼び合って、確かめ合って、それでハッキリとわかる。


「オレたち」


(わたし)たち」


「「双子だったんだ」」


 そう。これから始まるのは、勇者と姫の冒険譚(ぼうけんたん)……ではなくて。


 オレたち双子が、失った記憶を取り戻す物語だ。

この度は拙作『勇者と姫は自分探しの旅に出た(以後、ゆうひめ)』の第1話をご高覧いただきありがとうございます。


はじめまして、作者の信桜紡記(しのはるつむぎ)と申します。


今や星の数ほどある小説作品の中から、この作品を見つけてくれたこと、深く感謝いたします。


ここでは、自己紹介と『神々の繕う物語(以後、カミツク)』シリーズについてお話させてください。

割と長くなりますので、自己紹介は読み飛ばしていただいて大丈夫です(笑)


私は幼少から物語を妄想するのが好きでした。妹との人形遊びでは、脚本を書いて遊んでいたのが、ノートに形跡として残っています。

好きだから……というよりは、まるで呼吸のように架空の物語を妄想し、時には紙にイラストや文字として書き起こして遊んでいました。

ゆうひめが生まれたのは、中学生の頃。当時は色々あって、創作は逃げ場所のようになっていました。

私の心の支えとして、ゆうひめは膨らみ、カミツクとして大きく形を成します。脳内で結末を迎えたのは、高校生の時でしたか。

しかし全ては一人遊び。そんなことをしているのは恥ずかしいとまで思っていました。それを突き破ってカミツクを世に曝したのは、大学生時代です。

暇を持て余した結果、趣味だったイラストをネットにあげるようになり、反応があってもなくても楽しい日々でした。そんなある日、カミツクのとあるキャラのイラストを投稿します。

すると、それが当時の過去一番の反応を貰えて、それをきっかけにイラストとしてカミツクを見せるようになりました。


キャラクターに対して好きとまで言って貰えるようになって、夢を見ているかのように幸せだったのを覚えています。

それでも、イラストで描いていたのはキャラクターたちの仮初の姿。私の脳内で完結した物語とはズレたものでした。

それにどこかもどかしさを覚え、小説という形で本当のカミツクを書き起すことを決めます。

そうして苦節一年ほど、8章もあるカミツクを3章まで書き、投稿へと踏み出しました。


ここで、イラストから見守ってくださった方、小説執筆を応援してくださった方に感謝を。



さて、カミツクこと『神々の繕う物語』ですが、この作品は笑いあり、涙あり、鬱ありグロゴアありの、人を選ぶ作品です。

読み進めていくにあたり、無理をしないこと、落ち着いた環境で読むことをお願いいたします。

また、物語は8章編成……とても長いものになっています。書き切りたいのは山々ですが、途中で何が起きるか分かりません。それはご了承ください。

また、小説はまだまだ勉強中の初心者です。

至らぬ所は多いと思います。できれば暖かい目で見守ってください。


色々と言いましたが、第一章であるゆうひめこと『勇者と姫は自分探しの旅に出た』は最も思い入れ深いながらも、挨拶作品です。そこまで鬱々しくはなく、夢ある物語になったと思います。

なので、恐れることなかれ。どうかユートたちの冒険を見守っていただければと思います。


今後も楽しんでいただければ幸いです。長い挨拶をご精読いただき、ありがとうございました。


信桜紡記

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