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7-2

「先陣、殿(しんがり)……前衛に後衛と……うわーん! ワケ分からないよ!」


「そこは大した難易度じゃねえだろ! (つまず)くの早くねえ?!」


「ハフマールのガキ、お前はまだユートと言うやつを知らんな? そいつは筋金入りの馬鹿だ」


 それは知っていると、コウとサナが声を揃えた。ユートは喚く声を大きくする。そんなユートにとって地獄のような時間が続いた。


「結論、ユートは前衛として、そこの嬢ちゃんやユーナ様を守る意識が足りない! ということで、そこを重視しながら鍛え直すぞ!」


「それだけ言えばいいよね?! 今までの長い話はなんだったのさ!」


「さて、飯食ったら各々鍛えに行けー」


「ねぇ! 無視しないでハルキ!! 見捨てないでぇ!」


 三人のために用意された講義室で、ユートの悲鳴が虚しく響く。


 そんな長い講義を終え、三人が兵士団拠点の食堂で飯を食らうと、次は外に駆り出された。訓練場として使われている外庭である。


 ユートはルトの元へ駆けていくと、一本の長い棒を渡された。それは無造作に重りが付けられている。


「ユート、素振り百回ね」


「……げぇ、いつもの?」


「そのあとはそれを構えたままスクワット百回、腰を落として素振り百回……」


 ルトから課されたいつもの鍛錬に、ユートは目を回した。最後にはルト自身と稽古だと言う。


「しんじゃうよ!」


「できるよ」


 ルトの無表情なままでの言葉は何も考えていないのか、無自覚なスパルタなのか。はたまたユートを信じているだけなのだろう。ユートは急かされるまま、怒涛(どとう)のトレーニングメニューを始めた。


 一方、サナはカストルという兵士と顔を合わせる。


「カストルだ。好きに呼んでくれていい」


「あたしはサナ。コルアンには銃がないって聞いていたけど、あたしのこと教えられるの?」


「確かにコルアンで銃は珍しい。その上、ユートには見せたことも話したこともない。そう思うのも仕方がないな」


 カストルは淡々とした調子で会話をすると、布で覆われていたライフル銃をサナに見せた。サナが持つものよりも銃身が長く、よく手入れされた輝きを持っている。


 予想外の得物(えもの)の登場に、サナは目を見開いたと思えば、ニヤリと笑った。


「君の銃、よく手入れされている」


「あんたのもね。実力がある人は道具(あいぼう)を大事にする」


 二人はお互いに褒め合うと、しばらく黙る。しかし、何か通じるものがあったのか、はたまた言葉は不要とでも思ったのか。握手を交わして挨拶を終わらせた。


 他の二人が順調に特訓を始めようとしている中、コウは手に汗を握りしめている。


「双剣……さらにはサーベルを扱えるやつは、うちには俺以外いねぇからな。お前の面倒は俺が見てやる」


 ハルキは先程よりもずっと落としたテンションでコウへと語りかけた。何も言わずに睨みつけてくるだけのコウに、ハルキは溜息をつく。そして、訓練用の木剣を二本、コウの胸元へと投げつけた。


「んなビビってんじゃねぇよ。ユートがああいうんだ。丁重に扱ってやる」


 コウと同じく二本の木剣をハルキも握ると、まるで芸のように軽く剣舞を見せる。暇潰しに行われたそれは、コウも思わず感嘆の声を漏らすほどだった。


「おら、構えろ」


「っえ、特訓内容は?」


「実力知らずに内容組むほど、適当な訓練する気はねぇ」


 ハルキは軽やかな舞いを止め、重く姿勢を下げて構える。その目には、一切の隙も与えない気迫があった。コウは思わず後退りしそうになるも、踏み止まって前傾姿勢で構える。


 そうして、一週間という予定を元に、特訓という名の戦闘訓練が始まった。


「……疲れたぁ、毎日筋トレとルトとの打ち合い稽古はきついってぇ」


「馬鹿力と馬鹿体力だけがユートの取り柄なのに、そんなこと言うなんてね」


「サナはオレのこと、もう少しくらい褒めてもいいと思うよ?」


 休憩が重なったユートとサナは、よく晴れた空の下、ベンチに座る。息を整えてから、皮水筒を口に運んだ。ごくりと喉を通る水の音と、木剣を打ち合う音が耳に響く。


「カストルと二人の時は、どんなことしてるの?」


「銃の調整と色んな想定をした射撃訓練、体術も教えて貰ってる」


「わぁ、大変そう」


 だらけた返答をするユートに、サナは平気そうな顔でカストルの話を続けた。


「あの人、実力は確かで教えてくれることはすごく参考になる。でも、兵士らしくないよね」


「……そう? 一番真面目でらしいと思うんだけど」


 ユートは自分が見てきたカストルを思い出しながら、そう評価した。しかし、サナはどこか思うことがあるようで、慎重に考えながらユートに語る。


「兵士って、人を助けたり守ったりする仕事だよね。あの人、他のことに執着してて、その気持ちが弱いように見える」


「……そうなんだ? オレにはよく分からないや」


「ばかユートじゃそうだろうね」


 まるで渾名(あだな)のようにいうその単語にユートは怒りを示すと、木剣の音が止んだ。と思えば、少しあとにまた音が響いてくる。ユートとサナはその音に耳を傾け、しばらく黙っていた。


「……一番大変なの、やっぱりコウなのかな」


「本当に泊まり込みだしね。ハルキって人、あの人は兵士らし過ぎて逆に怖いよ。善悪正誤の切り分けを徹底しすぎ」


 サナの指摘はユートの興味を引く。しかし、サナがそれ以上話すことはなかった。二人が休んでいる数分間、木剣が折れんばかりの音は鳴り続ける。


「ッぐ……!」


「今の、本物だったら致命傷な。脇が空きがちなんだよ、お前は。何度も言っているだろう」


「すませんッ! もう一回お願いします!」


 この数日間、コウが受けていたのは実戦形式の稽古だった。使用武器を二人で揃えて、命のやり取りをする。


 武器が同じだと動きも読みやすいはずなのだが、コウは今だにハルキへ一撃も与えられていなかった。ハルキにも兵士の仕事があるため、限られた時間での稽古だったが、コウは毎度のように全身から汗を流して打ち込んでいる。


「……にしても、俺が手空いてる時は体当たりの地稽古。一人になれば休む間もなく自己鍛錬か」


 叩き打たれた脇を冷やしながら水を飲むコウを見て、ハルキは小さく零した。コウは何か聞き逃したのかと見上げれば、ハルキは座り込む彼に目線を合わせる。


「正直に言おう。見直したぜ」


「……まだ足りないっすよ。昨日と同じ展開だった……もっと相手の動きをよく見て、先読みしないと」


 先程の反省を始めるコウに、そうじゃねぇと頭を掴みながらハルキは歯を見せて笑った。


「覚悟の話だ。ここまで真剣にやれるやつだとは思わなかった……コウだったな?」


「……え。あ、はい」


 初めて会った時に、罵ってきた人物と同じとは思えない。それほど、コウに向けられたハルキの瞳には温かさが宿っていた。コウは何が起きているのか理解しきれず、頭を掴まれたまま首を傾ける。


 それを優しく微笑んで見ていたハルキだったが、スンと真剣な顔になった。冷たい顔ではなく、コウを案じているが故の堅い表情だ。


「コウに求められる役割は楽じゃねぇ。前衛であるユートを補佐し、仲間全体の動きを見ながら、確実に(・・・)目の前の敵を倒さなきゃならん」


「取りこぼしが後ろまで行くと、ヒメさんやサナが危ないから。俺は中核なんだって、もう分かってます」


 コウの素直な返事に頷きながらも、ハルキは視線を逸らした。掛けようとする言葉が、コウにとって縛り縄にならないかと、躊躇っている顔である。しかし、コウはハルキから目を離さなかった。その熱い視線に、ハルキは細く息を吐く。


「俺がお前に教えたかったのは、お前の責任の重さだ。お前が一瞬でも判断を間違えれば、形勢は大きく崩れる」


「……ハルキさん、俺はあいつらを……仲間を守り抜く。必ず、あんたが教えてくれた剣で」


 ハルキが何を言おうとしているのか察したコウは宣誓した。真っ直ぐにハルキを見つめる緑玉の瞳は、一寸の曇りもない。


 痛いほどに伝わったコウの覚悟に、ハルキは安心したように笑い零す。


「ああ。お前になら、命を預けられる。それくらい頑張っているぞ、コウ……ユートたちを頼んだ」


「はいっ!」


 そうして、来る悪魔との戦いに備えた冒険者たちはユーナの帰還を迎え、再出発した。

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