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4話-3

 一難去ってから、あたしたちは道具屋を巡る。騙し取られそうになることもあったが、コウが先制して値切りに成功していた。こいつも訳ありだなとか思ったっけ。それよりも、ユートとユーナの話を聞いて、衝撃を受けてばかりだった。


「オレは命を狙われていたみたいなんだよねぇ。みんなが守ってくれたから、そんな感じはなかったんだけど」


「私は国全体で魔物が多くなって、私のせいだと思っていましたね。みんなのためになりたくて、魔法を勉強しました」


 二人とも、笑顔でそんな話をする。それで今まで自分が思ってきたことが、ただの言い訳だって気がついた。あたしも、こうなりたいな。あの日の後悔を思い出しながら、そんなことを考えた。


「祠、これでしょ?」


「そう! ありがとうサナ!」


 話し込んでいたら、あっという間に目的地に着いた。ユートとユーナは待っていてと言ってから、その怪しい祠に入っていく。


「ちょおっとだけ不安になるよなぁ、この瞬間」


「あんたは二回目なんだもんね?」


 確かに、言われてみると少し得体の知れぬ恐怖を感じる。恐怖、というか不安だ。


「あそこに入ったら、なにか思い出して帰ってくるんでしょ」


「そう、だから怖いんだよな。出てきた二人は、入って行った二人と同じではなくなってる……気がして」


 意外にも繊細なことを言う奴だ。他人なんてどうでもいいと思うような、あたしと同じ世界の人間だと思ったのに。


「あんたはなんであの二人と一緒に居るの? 報酬とかはないんでしょ、盗賊さん」


「さすがにわかる? 最初は助ければ金とか貰えるかなって思っていたよ。今は、それとは違うものをもう貰ったから、ついて行ってる」


 はにかみながら曖昧に濁すコウに、あたしは共感した。二人と出会って、少し話をしただけの関係なのに、あたしも見える世界が少し変わってしまった気がする。責任を取って欲しい。


「純粋でいいヤツらだよな」


「あたしたちには眩しいくらいね」


 そんな雑談をしながら、二人のことを待つ。思っていたよりも二人は早くに出てきて、歩いてきたユートは何故か、あたしたちの前で仁王立ちした。腕を組んで、なんだか偉そう。さっきまでのユートとは雰囲気が違う。


「控えよ!」


 なんてことまで急に言い出す……嘘でしょ、本当に人が変わっちゃった。今までの純粋さはなく、その声と顔からは横暴(おうぼう)さが見える。 ユーナも黙っていて、その目はどこかあたしらを(さげす)むように思えた。


 不安だったことが、現実になってしまった。絶望みたいな感情は今までにも何度か覚えたことはあるけど、これはなんとも……重い。身体が中心から、ドッと重くなるのを感じる。


 あたしとコウは二人の変貌(へんぼう)に絶句した。しばらく何を言えばいいのか困っていると、ユートとユーナが突然クスリと笑う。その顔はさっきまでの無邪気な二人のものだ。


「嘘だよ、ごめんね」


 青空の瞳に輝きが戻ったユートは、黙り込んだあたしたちに申し訳なさそうに言った。どうやら、絶望しなくても良かったらしい。あたしは胸が軽くなるのを感じる。


「……な、なんの演技だったんだよ……」


 コウが安堵のため息を混ぜながら聞くと、ユートは王様だと答えた。どうして急に、そんなおふざけをしたのだか。


「今まで思い出した記憶には、印象に残ることが多かったのです。でも今回はなんというか……当たり障りのない話でした」


「だからね、インパクトがないよねって。二人を驚かせられるようなね」


「驚かせなくていいでしょ……で、どんな話を思い出したの?」


 あたしが聞き返すと、本当に聞くのかと驚きの顔をユーナがした。そこまで言われると、逆に気になってしまう。


「なんというか……宴会だったのですが、私たちがアンという国の王族の子として参加し、色々な方から挨拶をされる……という記憶です」


「あれ、つまらなかったね。でも何回もやったよね、似たようなこと」


 あっさりと、二人は告白した。天使で、王族……あたしら人間の平民からしたら驚愕(きょうがく)の事実だけど?


「……敬語使った方がいいか?」


「え! やめてよ!」


 コウも同じことを思ったのか、緊張の面持ちで問いかけた。ユートもユーナも慌てて手を振り回してやめるように言う。その光景が滑稽(こっけい)であたしは笑ってしまった。つられて三人も笑い出して、みんなで静かな森を賑やかす。


「まあ、ヒメさんは元からヒメさんだから変わりないよな」


「オレも第一王子? って言うものらしいけど、似合わないし忘れて!」


「確かに、さっきの演技も下手クソだったね」


 あたしが茶化すとユートは頬を膨らませた。簡単に拗ねるガキ相手に、一瞬でも恐怖を覚えたのはしっかりと秘密にしておこう。


「でもね、どの記憶にも違和感があるんだよね」


 ユートは唐突に首を傾けて話題を投げてきた。ユーナもそれに共感を示す。


「なにか、大事なことが抜けていると感じるのです。どのシーンでも、誰かが足りていない……という、そんな感覚です」


「それはこれから思い出すんじゃないの? まだ残ってるんでしょ、祠」


「大事なことは後にとっておくもんなんじゃね?」


 あたしとコウで宥めようとしても、ユートとユーナは納得がいかないようだった。


 早く思い出したい、思い出さなければならない。そう言いたげな表情だ。あたしは記憶を失ったこともないし、その焦燥感(しょうそうかん)は拾いきれない。


「とにかく、次を目指そうよ。場所はわかるの?」


「これからも着いて来てくれるの⁉ ありがとうサナ!」


 あたしの質問に大喜びするユート。しまった、ここで離脱すれば自然に別れられたのか。そうすれば面倒な旅を終わらせられた……と。まあ、ここまで来て抜ける気はなかったけど。


「あんたたちを見守りたいと思ったからね、これからも協力してあげる」


「優しいじゃんよお、サナ(ねえ)さん」


「あんたのことも見守ってあげるよ」


「俺はいいんだよ‼」


 コウの絶叫にまたあたしたちは笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだ。うん、つまらない殺し屋生活なんてもう終わりなんだ。戻りたいなんて、思わないよね。



 ──さぁ、主役は揃ったようだ。


 金の勇者、金の巫女として仕立てられていた双子も、少しずつ自分を取り戻している。盗賊の末裔も殺し屋の娘も、裏方の暗い暗い舞台袖から躍り出てきた。


 しかし、冒険は始まったばかり。言うなれば今は、起承転結の“起”に過ぎない。四人が織り成す冒険譚……双子にとって“本当の”取り戻す物語は、まだ始まってもいないのだ。


 この先、どのような困難を乗り越えていくのか。


 どのような出会いや別れ、笑いと涙が待っているのか。


 観劇がてら、語り紡ごう。この物語の、その先まで。



 ──────────────


 神々の繕う物語 第一章


 勇者と姫は自分探しの旅に出た



 四人の冒険者 完


 ──────────────

 

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