第4話-1 知らないコト
誰も助けてくれないんだと思っていた。
自分の身は自分で守るしかないって。
だって、そんな余裕がある人はいない。
母の時だって、弟の時だって、あたしも父も助けられなかった。助けなかったんじゃない、助けられなかったんだ。
そもそも人に手を差し伸べるのは簡単な事じゃない。自分が傷つくことだってあるし、逆恨みされることだってある。
みんな怖くて助けられない。
そういうものだと思っていたのに、あいつはあたしの世界を、その無鉄砲さで壊した。
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神々の繕う物語 第一章
勇者と姫は自分探しの旅に出た
第四話 知らないコト
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「それじゃ、確かに受け取ったから」
手渡された重い麻袋を閉じて、あたしはその場を後にした。これで一段落。しばらく生活に困らない額が集まった。あたしはそれを理解して、どこか虚ろな気分になる。麻袋も気のせいか、軽く思えた。
殺し屋として生活して、三年が経った。独り立ちしてからは、時の経つ速さが格段に上がった気がする。
なんとも空虚な日々だった。あたしの感想はそんなところ。やりがいもないし、楽しいことなんてひとつも無い。ひたすらに自分の罪を重ねて、将来というものを黒く塗りつぶしていくだけの時間だった。嫌気も刺す。
逃げたいと思ってからは、仕事がただの金稼ぎになった。
さて、何からしようか。小さい時から殺しばかりを学んできて、それ以外のことに興味を持つ余裕もなかった。だから、逃げ出した今も何も思いつかない。
随分と、つまらない人間になったなと、笑えてくるものだ。今もすることがなく、静かな森の中、木の上で眠るだけ。自由って、なんだろうね。
「おいユート! 後ろちゃんと見ろ!」
「そんなこと言ったってぇ!」
そんなあたしの昼寝を邪魔する声が頭に響く。うるさいよ、人が眠ってるのに。糾弾しようと木の上から様子を伺うと、少し遠くに人が三人と、魔物が見えた。そんなに遠くから響いていたのね、声大きいな。魔物も寄ってくるわけだ。
見ていると、五匹のゴブリンに囲まれて、苦戦しているみたいだった。ゴブリンは馬鹿そうに見えて、案外連携をとるのが上手い。素人は数的不利だと殺されることが多いんだ。ま、あの三人……中でも男二人は動きがいいから、素人って訳ではなさそうだけど。
「雷電魔法でどうにか……」
「やめてヒメさん! あんたの火力じゃ俺らまで感電する!」
「うわぁ! 引っ張らないで!」
「そいつらに言葉通じるわけねえだろ! 斬れ斬れ!」
それでも素人に毛が生えた程度。その毛を抜いてしまうくらいの、頭の足りなさが見て取れた。全く、その程度でこの国に立ち入っちゃダメでしょう。
「……退屈しのぎ、にはなるか」
あたしはあまりにも暇だったので、面倒ながらも助太刀することにした。相棒のライフルを構えて、男の片方……見慣れない金髪がよく目立つやつの、すぐ近くに銃口を向ける。今にも噛みつきそうな勢いのゴブリンへ標準を合わせて、引き金を引いた。
「ッ!? …… 狙われてる! ユート、伏せとけ!」
「そんなことしなくていい!」
派手なバンダナを付けた男が騒ぐもんだから、あたしは大きな声で制止した。大きい声は出し慣れてないから、少し喉が痛くなる。これ以上、パニックになられても困るし、すぐ終わらせるか。
あたしは相棒を一撫でしてから、残りのゴブリンを順に撃ち抜く。遠距離の視界外からの攻撃には対応できなかったのか、ゴブリンは大人しく殺られていった。
流れ弾なんてないと思うけど、三人は呆然としている。怖がらせているのなら、助けてあげた身としては不服。声でもかけに行くか。
「急に割入ってすまなかったね、弾当たってない?」
「お、おう。大丈夫だ」
結構な時間をかけて走ってきたのに、声をかけてやっと目を覚ました様子。派手なバンダナの男は緊張気味に返事をした。当たってないならどうでもいいけど。なんの罪もなければ、依頼を受けてのターゲットでもない人間を撃ちたくなかっただけだし。
「他も大丈夫そうだね。じゃ、あたしはここで──」
「ねぇ!! 待って!」
あたしが早々に立ち去ろうとしたのに、金髪の男が思いっきりあたしの腕を引っ張った。痛いっての。
「なに、離しなさいよ」
「それ何?! 背中の黒いやつ!」
金髪の男が目に眩しいくらい光を溢れさせながら聞いてきた。ライフル、初めて見るってことか。どこの国の人間なんだか。
「あっ、ごめん! まずはお礼だよね、助けてくれてありがとう!」
「お礼を言われるようなことしてないよ」
「貴女様がいらっしゃらなければ、危ないところでした。ありがとうございます。ユート、失礼だから手は離そう」
掴んだ腕をぶんぶん振りながら礼を言った男を、その男に顔がソックリな金髪の女が宥める。こんなことに礼を言うなんて律儀だな。
「ね! それ何?」
「ライフル……銃だよ銃」
「ジュウ……? オレ知らないなそれ」
「ま、珍しいよな。俺も本当にあるなんて思わなかったぜ」
そう言いながら三人であたしを囲ってまじまじと見てくる。何こいつら、あたしは初めて人を怖いと思ったよ。
「どこの田舎者か知らないけど、もういい?」
「ねぇ! キミの名前は?」
なんで名乗らなきゃならないのよ。とはいえ、なんだか応じないといつまでも着いてこられそうな雰囲気なので、テキトーに流すことにする。
「サナ」
「サナね! オレはユート! ねぇ、オレたちと一緒に旅しない?」
「……は?」
ユートと名乗ったそいつは意味のわからないことを言ってきた。旅? 一緒に? なんで。
「ちょっとユート、相手の事情も考えずに誘わないの」
「でもすっごくかっこよかったじゃん! どこからか飛んでくる攻撃で、魔物を一瞬で倒しちゃったんだよ?」
「そういうものにテンション上がるのはわかるけどなユート、流石に無遠慮すぎる」
「なに、ブエンリョって」
興奮して周りが見えなくなってるのか、ユートは騒ぎ尽くした。かっこいい、そんなこと言われたこともない。褒められることじゃないし。
いや、でも、私はこの三人を助けたのか。人を助ける……これは褒められることじゃない、とは言えない気がする。
「ただの暇つぶしだったから、じゃ、あたしは行くよ」
「暇なのー?? なら一緒に行けるね! ね!」
「ねぇ、あんた怖いんだけど……」
暇といえば暇。今までの人生で一番暇してる。でも、旅なんていきなり始めていいことじゃないでしょ。色々と支度して、他人と生活するなら気も使うし。それって凄く面倒くさい。
「旅って、どこに行くの? 目的は?」
「記憶を取り戻すために大陸を一周するんだと、俺も途中参加組な」
「あっそ……って、は? 大陸一周? あんたらどこから来たの」
「オレはコルアン!」
「私とコウはテナートです」
ユートは元気に手を挙げて、金髪の女はバンダナの男を指差しながら言う。想像以上に田舎者だ……そっちの方って、銃も普及していないのか。
大陸……というと、このローシネル大陸の事だろう。コルアンはその最西端の国。とにかく領土がでかいイメージだけど、魔法使いが多くて武力もあるらしい。テナートはその隣。コルアンのコバンザメってイメージだ。
「コルアンからテナートに来て、エリュトロンを通過して……いまはハスビリアに向かってるの」
「そう……あんたらみたいなのがハスビリアで生きていけるとは思わないね」
「うん! だから、一緒に来て?」
肯定しないでしょ普通。そして、そういうオチになるのね。
さて、どうしたものか。いや、こんな展開で断る以外の選択肢があるとは思えないのだけど、ここまで頼み込まれて断る余地もない。子犬みたいな目で見上げられると尚更。ほかの二人もユートを止めることを諦めているみたいだし。
「大陸一周なんて面倒くさいことしてるよ、本当に。ま、嫌になるまでは付き合ってもいいよ。暇なのは事実だから」
それに……そんなに都合いい話にはならないと思うけど、この三人と同行して助けになってあげられれば、今までの罪の清算ができるんじゃないかって。そんな浅はかで非現実的な考えもある。




