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幕間2話-1 距離

 オレたちの自分探しの旅に、コウが加わった。


 コウはオレよりも色んなことを知っているし、器用で明るい。仲間になってくれて、オレは旅の不安が少し軽くなった。


 コウから聞いた話だと、歳はオレたちの三つ上で、家族はお爺さん一人。


「ムダに厳しいジジイだったよ。遊びに行くこともなかったから、娯楽の港であるここでは楽しみたいぜ」


 羽を伸ばすように両手を広げたコウが言う、娯楽の港というのは、エリュトロン王国の事だ。オレもこの場所に寄るなら色々と見てくるようにと、みんなに言われたから楽しみだった。


 それに、ユーナだけじゃなくてコウと回れるのも嬉しい。今までオレには、歳が近い男友達が居なかったから、その分のワクワクも大きかった。


「エリュトロン王国と言えば、劇場でしょうか。それとも市場(いちば)を見て回りますか?」


「おいおい……あんまり金持ってないんだろ? まずは稼がなきゃだ」


 選択肢を並べるユーナに対して、指で丸を作りながらコウが提案する。ユーナは確かに……と頷いていた。やっぱり、コウはしっかりしてて頼りになる。


「しかし、コウ様。貴方はまともな金銭を得る方法をご存知なのですか?」


「言い方が厳しいぜヒメさん……あと、()はやめて。くすぐったい」


「では、コウと」


 ユーナにしては珍しく、コウを呼び捨てにし始めた。それにしてもユーナ……さっきからコウへの距離のとり方が変だな。警戒してる感じ。もう仲間になったんだから、そんなに固くならなくていいと思う。天使だったオレたちのことだって、大丈夫だって言ってくれたのに。


「ヒメさんの言うまともな稼ぎ方は、冒険者ギルドに行くことだ。エリュトロンは比較的平和だけど、依頼は尽きないだろ」


「冒険者ギルド、ですか……?」


「そういえば、路銀が無くなったらギルドに行けって、ハルキに言われた」


 オレがハルキの顔を思い出しながら呟くと、さすがハルキ様と、ユーナが手を叩いた。何回も言ってるけど、ユーナが想像してるハルキって人、オレが思ってるのと違う人だよ、きっと。でも、ハルキが言うんだから間違いはないと思う。物知りだったし。


「じゃ、依頼を拾いに行きますか! 魔物退治とかねえかなー!」


 依頼を受けるってことは、仕事をすることだったはずだけど、コウは嫌がる素振りも見せずにノリノリだ。多分、依頼を受けたことあるんだろう。慣れた足つきのコウをオレはユーナと一緒に追いかけた。


 国境沿いにあった祠から、深い森をぬけて人里に出る。そこはコルアンの(おごそ)かさや、テナートの豊かさとはまた違う輝きがあった。


「家の屋根がカラフル! 壁にはキラキラとした飾りがあるんだね!」


「眩しいくらい綺麗……! あっ、触らないでねユート」


 ユーナと並んで町を駆ける。山で育ったオレにとっては色とりどりの世界が新鮮だ。そんなことを考えていると、襟を後ろからグイッと引かれて、彩やかだった視界が一瞬白くなる。


「こらこらユート! 迷子になるぞ! あと、ギルドはこっちだ」


 コウの声が後ろからして、振り返る間もなく引き摺られた。コウってば、はしゃぎたいって言ってた割にマジメすぎ。ユーナも苦笑いはやめて。


「よし、ここがギルドだ。エリュトロンはギルドの外装が流石に豪華だなぁ」


「着いたなら襟を放してよぉ、伸びちゃう!」


 バタバタと動きながら訴えると、パッと首が楽になってそのまま後ろへ倒れた。コウってば酷いや。離す合図くらいくれてもいいのに。


「テナートのギルドも見たことがあるのですか?」


「おう! 何回か依頼を受けたことがあるんだ。テナートはもっと……柔らかい外装だったな」


「壁が柔らかいの?」


 コウのふわっとした返事にオレが質問をすると、印象に決まってるだろと拳骨を落とされた。殴らなくてもいいのにぃ。


「よぉし、入って二人の冒険者登録済ませて、依頼を見てみようぜ」


 そう言いながらコウはさっさと入っていく。ボウケンシャトウロクってなんだろう。ユーナも分からないみたいで首を傾げている。とにかく、ついて行ってみるしかないみたい。


「はぁ、つまんねえ」


「冒険者登録、すんなりでしたね。依頼は……おばあ様の荷物運びの手伝い、雑貨屋の店番……そして、迷い猫探しですか」


「平和すぎるだろぉ! このヒメさんには勿体ない依頼だぞぉ」


 コウは依頼書が貼られている大きな板に(ひたい)をぶつけた。それに見向きもしないで、ユーナはまじまじと紙を見比べている。


「報酬は店番が一番多いのですね」


「でもさぁ、一時間も店で突っ立ってなきゃならんのよ。荷物運びは額が小さいけど、すぐ終わりそうだな。猫探しは論外ね」


 二人は受ける依頼を選んでいるみたいだ。でも、オレはそれを変だなと思う。


「依頼って、みんなが困っていて、助けて欲しいって時に出すんだよね?」


「まあ、そういうものだな」


「みんな困ってるなら、みんな助けようよ!」


 オレが思っていることを言うと、コウは時間が止まったみたいに固まって、しばらくしてから変な顔をした。なんというか、ぐにゃっとした顔だ。


「アホかぁ! 荷物運びに店番はともかく、猫探しなんて割に合わねえし! 思考がお人好し過ぎんだろぉ!」


 耳が痛くなるような大声でコウはオレを叱ってきた。間違ったことは言っていないはずなのに。ほら、ユーナも確かにって頷いている。


「ユートに私も同意します。全て受けましょう」


「ヒメさんまで、馬鹿なこと言わないでくれよぉ」


「コウが嫌なら、猫探しはしなくていいです。お人好しではないですものね」


 賛成してくれたユーナがすかさずオレの隣に並んで、コウを責めるように言う。ユーナがこんなに人に冷たく接することも、なかなか無いはず。オレが知らない間に強くなったんだね。そう思うことにした。


 コウはそんなユーナが怖かったのか、わかったわかったと言い捨てながら依頼が書いてある紙を乱暴に剥がした。その勢いのまま、受付に叩きつける。


「依頼の受諾ありがとうございます! こちら、各依頼の情報となりますので、一読お願いします。皆様に神々の祝福が溢れますように」


 受付の女の人は少しの声のブレやニュアンスの違和感もなく、何度も言い慣れたようにそんなことを言った。振り返ったコウが見せてくれたのは三枚の紙。


 一枚目には、荷物運びを依頼していたおばあさんの家の住所と運ぶ場所、運ぶもののことも簡単に書いてある。


 二枚目は店番を依頼した人の店の場所と店番の具体的な仕事内容。


 三枚目は猫の絵と猫の名前、いくつかの特徴が書いてある。


「ユート、文字読めんのか?」


「馬鹿にしてるの? 読めるよ!」


「へえ、いいとこで育ったんだな。もしくは俺と同じ穴のムジナ……」


「有り得ません」


 コウのよく分からない一言を遮るように、ユーナが反論した。馬鹿にされたのかと思ったけど、コウは真剣な顔している。文字読めるのって、すごいことなのか。そういえば、ルトやハルキにも、読み書きして見せたら驚かれた覚えがある。


「天使は教育が行き届いてるんだろうなぁ、人間じゃ商人か兵士か……貴族くらいだろ、読めるの」


「だから、この依頼書は全て同じ人が書いているのですね」


 ユーナが紙を見比べながら言うと、コウがゴメイサツ! と人差し指を立てた。ゴメイサツ……コウはたまに聞き慣れない言葉で話す。


「ギルドにある依頼書は受付嬢が話を聞いて書きまとめたものなんだ」


「へぇ、コウは物知りだね」


「まあねえ。世の中をうまく渡り歩くには、ある程度の知識が必要だからな」


 へへっと鼻の下を擦りながら照れるコウ。ユーナは悪用しなければいいことです、なんて言っている。厳しい……コウへの態度がなんだか厳しいよユーナ。


「はいはい、ぺちゃくちゃ話してないで仕事を片付けようぜ! まずは荷物運びから行こう。すぐ終わりそうだ」


 そんな厳しいユーナに慣れてきたコウもなんだか怖い。


 パンと手拍子して切り替えたコウは、紙をヒラヒラさせながら歩いていった。そうやってすぐに動きを決めてくれるのも頼りになる。オレはユーナと目線を合わせてから、コウについて行った。


「ありがとうねぇ。こんなに若い子たちが手伝ってくれるとは思わなかったよ。はい、お駄賃ね。ギルドには私から報告しておくわ」


 荷物運びを終えると、依頼主のおばあさんから報酬、そしておまけの甘いお菓子を貰った。オレよりもずっと小さいおばあさんは、今やっている菓子屋を引越ししたかったけど、仕事道具が運べなくて困っていたみたいだ。


「楽勝だったな、次は店番いくぞー」


「おばあさん、喜んでたね!」


「助けられてよかったね」


 ユーナとおばあさんのことを話しながら、店番をする店に向かった。コウも乗り気じゃなかった割には、満足そうに歩いている。


「ありがとなガキども! 特に、派手なバンダナつのあんちゃんと、かわい子ちゃん。まさか数字のことまでできるとは思わなかったぜ」


 店番が終わったあと、依頼主の店主さんが大きな声で褒めながら報酬をくれた。


「ちょいちょいオヤジさん! こんなに貰っていのかよ」


「いい働きしてくれたからおまけだ。いやぁ、ずっと後回しだった新商品の仕入れ交渉、おかげで終わらせられたよ。助かった!」


 店主さんはそう言うと、今度は客として来てくれって、大きく手を振りながら見送ってくれた。なんだか、おばあさんの笑顔も店主さんの笑い声も、すごく胸が温かくなる。


「いいことしたね!」


「お、おう……人助けって、気分いいな」


 コウは少し顔を赤くしながら頭を掻く。もうオレたちのことを何度も助けているのに、今更な反応だ。


  ふと、ユーナの顔を見ると、コウの反応を嬉しそうに見ていた。でもオレと目が合うと、咳払いをして厳しい顔に戻る。そんなに警戒しなくても、コウはいい人なのに。


 少なくともオレはそう信じている。ここまでの依頼だって、真面目にこなしていた。

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