-07
『来たか。すまんなこんな日に』
いや、いいんだ。これが俺の仕事だしな。
『あぁ。今日の荷はアレだ。いつもの事だが中は見るなよ。それがクライアントの意向だ』
分かっている。これで7回目だ。事情があるのは分かっているさ。
俺は荷が積まれた車両に乗り込む。
今回の足も前回より遥かに優れた物になっている。
当たり前か。命が掛かっている。
それじゃあ、行ってくる。
『ああ。気を付けろよ。最近大人しいとはいえ、腐森熊の領域を通るんだ。群れに襲われないようにしろよ』
それも、分かっている。
********
腐森熊の森に走る白い道をひた走る。
この道は絹の道と呼ばれ、数十年前に米国の部隊が命懸けで敷いた道だという。
この道は中ツ国から英州連合までという人界外の膨大な距離を繋いでいる。
道にはエルフ避けの魔法が掛けられているらしく、エルフ共は余りこの道には来ないという。
しかし、最近は魔法に綻びが出てきているのか時々にだがエルフ共が出没するようになったらしい。
俺も気を付けねばなるまい。
地上から人類が放逐されて長い時が経つ。
その間に人為らざる異形達が地球を跳梁跋扈するようになった。
もう地上は人類の物ではないのだ。
海は海で半魚人と呼ばれる怪物が幅を利かせているという。
地上に住めなくなった我々は地下に引き籠らざるを得なくなった。
何とも住みにくい世界になった物だ。
等と取り留めの無い事に思いを馳せていると、腐森熊の森を抜け砂漠地帯に入っていた。
ここは、目撃数は少ないが人面獅子と呼ばれる怪物が現れるらしい。
俺は見た事はないが。…と言っても、エルフとは違いこのスフィンクスとやらは遭遇したら最後助かる事は不可能らしい…
…うん?アレは?
身 体 が ■ い 。
窓から何かが覗いている。
俺は窓を…見るな。本能が叫ぶ。
俺はソレを認識する事が出来ない。
否、視てはいけないのだ。アレは。
身体が軋む。意識が解けていく。
アレは何なのか。好奇心が頭をもたげる。
見たい。いや見たくない。視たい。いや見たら死ぬ。
それでも、訳の判らぬまま死ぬよりかは。
窓の外には何も居なかった。
見える範囲には。
しかし、何かが居る気配はする。
俺は思わず車を停止させていた。
ぞわりと、世界が軋む音がした。
俺は後悔した。今この場に居る事を。今日は、今日はこの仕事を受けるべきではなかった。
何かが……いや、■■■■■■■■■■が私を視ている。
私の意識は蒸発した。
私が俺ではなくなっていく感覚。
いやだ。まだ私は俺のままでいたい。
いやだ。助けて。助けて。神様。
人はどうにもならない時、何かにすがるように何かに祈るという。
しかし、この場合は祈るべきではなかった。
奴に思考を誘導されていたのか、私は思わず神に祈っていた。
耳障りな軋んだ声が聞こえた。
『■■■■■■■■■』




