第8話 修行その1=石は友達=
森での生活が始まって一週間ほどが経った。
師匠に色々とお願いして、生活魔法がなくても暮らしていけるだけの設備を作ってもらった。
やっぱり優しい。
基準がお城の設備だからか、やたら立派な井戸になってるけど、使いやすいのは良いことだ。
薪置き場が異様に大きいけど、大は小を兼ねるから大丈夫。
洗濯場はちゃんと水場の横にしてくれたし、干し台も言った通りの高さに調節してくれた。
台所はイメージがないのかだいぶ使いにくい構造になってしまっているが、ないよりはずっとマシ。
なんとか使える。
そうして。
午前は家の仕事。
午後は修行。
夕方は食事の支度。
夜は文字の勉強。
男装でクレスとして振る舞うことにも、この生活のリズムにもだいぶ慣れてきた。
そして――肝心の魔法修行だが。
ずっとこの一週間、同じ訓練しかしていない。
初心者が部活に入って最初に基礎練だけ繰り返させられて、うんざりして嫌になるやつ。
知ってる。
そこで辛くなって逃げる新入生は毎年いた。
だけど、こういう基礎練は本当に大事なんだ。
体育会系の血が騒ぐ。
庭の柔らかい草の上で四つん這いになる。
背中に重石が置かれる。漬物石みたいなやつだ。
普通に結構重い。
これを魔力で支えて、長い時間耐えられるように調整するという、非常に地味な修行。
目の前に立ち、その様子を眺めている師匠。
側から見たら、師匠が下僕を折檻しているようにしか見えない図である。
「浮いた」
ズンッ。
意識が逸れた途端に、石が重さを増す。
魔力で押し上げて支える。
少しだけ重みを感じる位置でキープする。
しかし時間が経つと、師匠は少しずつ重みを減らしていく。
それに合わせられなければ、また石が浮いてしまう。
石が軽くなった分だけ、支える力の出力を下げる。
バランスを取る。
……難しい。
「浮いた」
ズンッ。
また重くなる。
魔力で支える。
この繰り返しだ。
でも、初めての時より明らかに浮く回数は減ってきている。
長い時間、バランスを保てるようになった気がする。
背中の石の重みが、少しだけ分かるようになってきた。
「そこまで」
石が元の重さに戻り、背中から転げ落ちた。
私はその場にへたり込む。
「はあ……」
今日もようやく終わりだ。
毎日背中に乗って私を鍛えてくれる重石を抱き上げる。
平たくて丸い滑らかな石。
こうして毎日付き合っていると、名前でもつけたくなってくる。
そうだな、この丸顔は中学の時に柔道部で厳しかった、岩谷先生のイメージに近い。
「イワヤン」と命名しよう。
まだ途中で何回もイワヤンが浮いてしまう。
この修行の終わりがまだ見えない。
部活だったらみんなで励まし合えるけれど、今は一人で耐えるしかない。
辛い。
でも。
あの美しい推しが一対一で鍛えてくれていると思えば、まだまだ耐えられる範囲だ。
頑張ろう。




