第52話 禁術魔法陣の発動
——カツン。
何かのスイッチが入るような、軽い感触。
でも次の瞬間、足が沼に引き摺り込まれるような気持ち悪さと恐怖が走る。
——『禁術魔法陣』!!
焦るな、大きなものじゃない。
教えられた対抗術式を頭に浮かべて即座に展開、しようとした、が——、ミスった。
最後まで描ききれていなかった。
無詠唱発動失敗だ。
溢れた魔力がそのまま反転し、私を飲み込もうとする。
「クレシア!!」
団長の声がする。
すいません、ミスりました!
もう声も出ない。
飲み込まれる。
「結界を張れ!大地から切り離せ!」
声が聞こえる。
ああ、大好きですその低い声。
すいません、また失敗しました。
黒い泥沼に引き摺り込まれる感覚がして、意識が遠のいた瞬間、背中から温かい毛布で抱き込まれるような感じがした。
ああ、あったかい。
きっと…………師匠だ。
死ぬ前に、師匠に守ってもらえるんだ。
身体中の穴に黒い泥が滑り込んでくる感じがする。
息ができない。
息、が。
・・・・
古城の結界は構造はシンプルだったが堅牢だった。
それなりの魔力での解除が必要で、久しぶりに大きな魔法陣を組んだ。
無事に発動して結界は崩壊し、待機していた国軍兵たちが突入した。
結界の再起動がないかを確認しているとき、背後でぐらりと魔力が揺れた。
振り返った時にはクレシアが放とうとした魔法陣から溢れた魔力が反転し、禁術魔法陣を起動させていた。
(こっちが本命だったか——!)
「球体結界を張れ!大地から隔離しろ!」
残っていた魔法士たち、リリアナにも指示を出して、俺はその真ん中に飛び込み、引き摺り込まれそうになっているクレシアを抱き込んだ。
クレシアを結界で守る。
まだ命を失うほどは侵食されていない。
けれど禁術魔法は発動してしまった。
ここから出るにはこの魔法が潰えるまで中和し続けて耐えるしかない。
負の魔力に対して正の魔力を放出し続ける。
魔法士たちが結界をなんとか閉じてくれたようだ。
大地からの流入は止まった。
しかし、それでも一人で対抗するには膨大だ。
俺がこれに呑まれれば、クレシアは死ぬ。
どうか、クレシア、どうか——
気づけなかった、禁術魔法陣の地雷。
おそらく、俺に向けて作られた罠。
それにクレシアがかかってしまった。
絶対に、死なせない。
守り切る。
生きろ。
残っていた魔力を全放出して中和したが、まだ、あと少し。
使えるものはなんでも使う。
耐えろ。
あと少し、あと……少しだ、クレ、シア……。




