第49話 軍部会議と禁術魔法
俺を冤罪に嵌めたエンデが率いる第三王子勢力は、もはや風前の灯だった。
森の奥にある古い城に立て籠もり、周囲に結界を張り巡らせて森の生命力を奪いながら生きながらえている。
報告を読む限り、抱え込んでいる魔法士たちにそれほど力のあるものはいないようだ。魔力が足りないから森を蝕んで大地を枯らしてその力を使っているんだろう。
リリアナが心を痛めているのはわかっていた。
リリアナだけではない。
治癒魔法力を持つものは動物や植物と感性が共鳴しやすい。
森が悲鳴を上げているのが伝わってくるのだろう。
エリック王子はタイミングを見ていた。
効率よく、確実に敵を殲滅するために。
まずは俺を城に呼び戻し組織を安定させる。
戦力が揃うのを待ちながら、敵の動きを観察していた。
実力のない魔法士でも禁術魔法を使えば相手に大きな打撃を与えることができる。
エンデはそれを躊躇しない男だ。
後始末する方の身にもなってみろと言いたい。
全く胸糞悪い話だ。
軍議が始まった。
総大将はエリック王子だ。
「近々、敵勢力の殲滅作戦を実行しようと思う」
ついに来た。
「北西の森の奥の廃墟、古城に結界を張って立てこもっているが、周囲の森にかなり影響が出ている。結界が強力な分、土地の魔力を使いすぎてバランスが崩れている」
おそらく、結界だけの影響ではない。
もっと色々仕込んでいるはずだ。
「まずは王宮魔法士団で結界の解除をしてもらうことになる。戦力的にはどうか、リリアナ」
「はい、通常の結界であれば今の戦力で三重程度は突破できるかと。ただ、他にも罠がある場合は解除に人手が取られるので、時間がかかるかと」
「そうか。ヴァレリウス、どう思う?」
「はい、結界と地雷魔法陣だけならばまだ良いのですが、敵が禁術を使ってくることが一番の懸念点です」
「禁術…………」
王子は考え込む。
かつて城内で禁術が発動しそうになった。
大事になる前に止めることができたが、その危険の大きさは通常攻撃魔法の比ではない。
止めたのに、俺が失脚させられる事態になった。
「その、禁術魔法とはどういうものか。想定される被害は?」
禁術魔法の全てを知るわけではないが、ざっくりとわかる範囲で説明する。
「魔力を反転させる機能を持つ術全般をさしています。魔力は生命力と近いもの。それを反転させることで死の力として放出されるのです。同等の魔力や生命力で中和することで止まります」
王子が続きを促す視線をよこす。
「例えば、一人の人間に禁術魔法を施す。そうすると一人分の生命力が反転しているので、そこに触れた人間一人分の生命力が中和に使われて、二人の人間が死ぬことになる。そういう魔法です」
魔法士たちはわかっている。
が、国軍兵や重臣たちは言葉を失う。
「これを土地に対して強力に使われると厄介です。大地の生命力は無尽蔵と言っていい。魔法の効力が切れるまで、死のエネルギーが放出され続けてしまいます。それだけはさせたくない」
「それは……恐ろしいな。使ってくる可能性があるのか?」
「窮鼠猫を噛むと言います。追い詰められれば何をしてくかはわかりません」
議場に沈黙が落ちる。
「ですから」
リリアナが明るく声を上げる。
「そう言った万一の場合も考えて、軍属魔法士の増員を考えています。もちろん実力の足りない者は連れて行けませんが、有力な人材を何人か目星をつけています。殿下、増員の許可はいただけますか」
「そうだな……この戦に限っての臨時軍属ということであれば、行政との折り合いもつけられるか。ヴァレリウス、どうだ」
リリアナは、クレシアを狙っているのだろう。
無理もない。あの魔力と制御力があればほしいと思うだろう。
王子を守りたいリリアナの気持ちが伝わってくる。
「軍属としての訓練が行き届かない場合がありますが、配置を慎重に組めば戦力になる……とは思います」
「ならば、臨時軍属の人員配置は魔法士団で話し合って決めてくれ。結界と地雷の排除が済んでから国軍兵が突入する。その際も前線での戦闘魔法士数名は必ず残すように」
「かしこまりました」
王子の采配は正しい。
リリアナの危惧も提案も正しい。
だが。
クレシアを本当に戦場に出すのか。
軍議が進む間も、俺は戦場で困惑して傷つくクレシアの姿が脳裏に浮かんでは消えていた。




