第46話 遠くの元弟子
城の三階の窓から訓練場を見下ろすと、その先の食堂の前に兵たちが賑やかに集まっている様子が見えた。
その輪の中心にいるのはクレシアだった。
兵や魔法士たちに囲まれて、楽しそうに談笑している。
朗らかな笑い声が、ここまでかすかに届く。
クレシアは素直で人懐こい。見た目も悪くない。
新人の女性魔法士に人が集まるのは自然なことだ。
それに、魔力が強すぎて敬遠されるのではと心配していたが、どうやら杞憂だったらしい。
輪の中でクレシアも楽しげに笑っている。
歳の近い友人ができたのだろう。
いいことだ。
王宮魔法士として、これから仲間と支え合いながら成長していく。
それが本来あるべき姿だ。
そこまで考えて、室内へ視線を戻そうとしたとき――胸の奥に、ぽっかりと空洞ができたような感覚があった。
なんだろう、これは。
「弟子が独り立ちして、寂しくなられましたか?」
背後から、リリアナの穏やかな声がした。
振り返ると、意味ありげに微笑んでいる。
寂しい?
……なるほど。
これは寂しいという感覚なのかもしれない。
森では、ずっと二人で過ごしていた。
今は同じ城の中にいるとはいえ、話すこともほとんどない。
近い。けれど、遠い。
「そう、かもしれないな」
「クレシアは気さくで明るくて人気者ですよ。美人ですしね」
「美人?」
「え?ええ。凛々しい感じの美人ですよね。背も高くて。城の中は独身女性が少ないですから、これからモテると思いますよ」
「モテる……」
「大丈夫ですか?」
「は?何が」
「顔色がちょっと、悪いです」
ヴァレリウスは咳払いを一つして姿勢を正した。
「平気だ。問題ない」
「そうですか? あまり無理しないでくださいね」
無理などしていない。
そう思うのに、どこか息苦しいような、焦りのような、よくわからない違和感が残る。
そうか、モテるのか。
ならばそのうち良い相手と出会い、幸せな結婚をするかもしれない。
——そうなった時には、祝ってやらねばな。
そこまで考えて、なぜだか気持ちが重たくなった。
喜ばしい変化のはずなのに。
視線はもう窓の外には向けなかった。




