第44話 隣の魔女っ子先輩
案内された宿舎の部屋は、あっさりした個室だった。
ベッドと机と椅子、そしてシンプルなクローゼットと本棚。
窓のカーテンが二重になっていて、おおちょっと豪華、と思う。
エレーナさんがまとめてくれた荷物を解いて、衣類や書物を仕舞う。
試験勉強に使っていた上等なペンやインク、それからノート類もまとめて入っていた。
それらを机の引き出しに整えて入れた。
まだ余裕がある。
これから書類やら魔道具やらも増えていくのかもしれない。
荷物を整えるとふっと、師匠の顔が浮かんだ。
ああ、もう師匠じゃないのか。団長って呼ぶことになるのかな。
呼び方、間違えないように心の中でも団長って呼ぶようにしなくちゃ。
そうするのが正しいってわかってるけど、やっぱり寂しい感じがする。
クローゼットにかけたのはまだ全部私服で、制服の支給は採寸してから仕立てになる。
一ヶ月ほどかかるらしい。
その間は古着の制服の中からサイズの合うものを探して着ることになる。
魔法士宿舎は南北に伸びる木造の建物の真ん中に入り口と管理室がある。
そこから北側が女子棟、南側が男子棟になっている。
だから同期の二人、セシルとトーマスは男子棟に部屋があって遠い。
女性魔法士もそこそこいるらしいけれど、結婚すると宿舎を出るのでここにいるのは半数くらいだとか。
管理人に案内された時もいくつか空室っぽい部屋があった。
ふっとため息をついたその時。
ココンコン、がちゃっ!
「入ったのね!新人!」
飛び込んできたのはかなり小柄な女性魔法士。
淡い色の巻き毛がふわふわしてて可愛い。
大きな目がキリッと吊り上がって強気な感じだ。
新人と呼ばれたからにはこちらは先輩。
反射的に立ち上がって礼をする。
体育会系で鍛えられた反射神経だ。
「あ、はい!今来たところです。クレシアといいます、よろしくお願いします!」
「いいわね!挨拶は大事よ。私はミア。部屋が隣なの。それで、あなたの指導役を仰せつかったわ!よろしくね」
小柄でクリクリで強気で、ふわっとした巻き毛に声も鈴の音のように可愛らしい。
これは……あれだ、魔女っ子タイプ!
かわいい。先輩だけど。
「はい、よろしくお願いします!」
「ここでの生活の仕方とか、王宮魔法士の組織や制度のこととか、まあ色々な話、私が教えてあげるから、わからないことや気になることはなんでも聞いてね!私も知りたいことは聞くし!」
……この押しの強い感じはやはり王都の人のスタンダードなのだろうか。
「それで早速なんだけど、あなた、ヴァレリウス団長の弟子だってほんと?」
やっぱりそこからか。
何か定番の返事の仕方を考えておかないとかも。
「はい、森で助けていただきまして、そのご縁で」
なんか日本人っぽい返しをしてしまった。
「え~すっご~い!団長がお弟子さん取るなんてめちゃくちゃ意外!じゃあさ、あれもほんとなの?無詠唱魔法陣できるって噂!」
やっぱり次はそれだよね。
セシルの時と同じパターンだ。
「えっと……あの、私、詠唱が苦手でできないもので、苦肉の策と言いますか……」
「つまり無詠唱できるのね?!」
「……はい」
「うっわああああ~~~羨ましい!あれ激ムズなのよ!ヴァレリウス様にしかできないってみんな言ってたのに、もう一人、しかも弟子が!胸熱展開ね!」
この人、激しいなあ。
「あとさ、リリアナ様と仲良しとかって聞いたんだけど……ほんとなの?」
「あ、仲良しっていうか、一度買い物に付き合っていただいて」
「マージーでえええ??それが一番羨ましいかも。私ね、リリアナ様、憧れなの!美しくって優しくて、攻撃魔法も治癒魔法も使えて、もう理想!最高!」
「あ、わかります。リリアナ様、本当にお綺麗ですよね」
「でっしょ~~!で、買い物って何買ったの?」
そこからしばらくミア先輩には根掘り葉掘り王都での買い物デートのことを聞かれた。
リリアナ、流石に大人気なんだな。
「リリアナ様は軍属の部門長になられたでしょ?私も軍属になりたくてさぁ~~日々頑張ってるのよ」
「軍属?」
「あれ?知らないの?」
「あの、し……団長もリリアナ様もあまりそういう話はされなくて」
「そうなんだ、じゃあ先輩が丁寧に教えてあげるわね!」
ミア先輩は組織のことや生活のことを細かく教えてくれた。
王宮魔法士団は3つの部門からできていて、一番人数が多いのが行政部門。
建築や災害復興、橋の架け替えや行政の仕事の補助をするらしい。
新人は基本行政部門に配属されて、そこから能力に応じて異動になることもあるとか。
それから少数精鋭の研究部門。
こちらは変わった適性を持つ魔法士や研究好きの魔法士が配属されて、より効率的な術式や複合魔法などの研究をしているらしい。
あまり人気はないが時々志願者が出るとか。
オタク気質の人が行くんだな、きっと。
そして花形の軍属部門。
こちらはいわゆる戦闘魔法をメインとした戦う魔法士。
この世界は基本的に魔物はいないが、土壌汚染などで動植物が魔物化することがあり、そういう時に戦いに出たり……場合によっては対人戦もあるとのこと。
師匠が言ってたやつだ。
あとは、治癒魔法の適性がある人も大体軍属になるらしい。
戦いにいけば怪我するものだから、それは当然だなと思う。
私が知ってる本編だと、リリアナは軍属の期待の新人、って感じだったけど、もうトップなんだ。
私の情報がもう古くなってしまっている。
それはそうか。
ヴァレリウス様が城へ呼び戻される展開まで読んでなかったんだもんね。
「まあ、大体は行政よ。クレシアも行政からコツコツ頑張っていきましょうね」
「はい!」
私は別に軍属になれなくてもいいんだけど。
研究はちょっと興味あるかな。
師匠から上位属性魔法を教わる前に魔法士になってしまったし。
「先輩も行政ですか?」
「そうよ。だから仕事で困った時も私を頼ってくれていいからね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、そろそろいきましょうか!」
「え、どこへ」
「食堂よ!遅くなったらスープの具がなくなるんだから」
ミア先輩に連れられて、食堂で初めての夕食を楽しんだ。
師匠の屋敷のような豪華さはないが、ワイワイ喋りながらの食事は楽しかったし、味も悪くなかった。
これなら問題なく暮らしていけそうだ。
先輩と同期と、これから上司も。
森で師匠と二人で暮らしていたところから一気に人間関係が増えて目が回りそうだけど、だんだん広がっていく世界にワクワクもしていた。




