第42話 合格発表と独り立ち
魔法士試験が終わった。
結果は翌日の昼発表ということで、私は疲れを取るために二度寝をするつもりでいた。
しかし、やはり結果が気になって緊張して、眠れなかった。
エレーナさんは大丈夫だからゆっくり疲れをとって、とたっぷりの朝食を用意してくれたけど、あまりたくさんは食べられなかった。美味しそうだっただけに勿体無い。
師匠はいつも通り朝から出勤していた。
会議があるからといつもより早く出たようで、ちょとゆっくり眠っていたら会えなかった。
昼近くになり、ソワソワと落ち着かなくなってきた私はついに屋敷を出て城へ向かった。
発表場所はいつもと同じ、試験会場だった講義室の前。
数人が落ち着かずにウロウロしているのが見える。
昨日の受験者だ。セシルもいる。
「セシル、もうきてたんだ。発表まだ?」
「うん、もうそろそろだと思うんだけど、やっぱりちょっと緊張するね」
ちょっとですむセシルが羨ましい。
朝ごはん半分しか食べられないぐらい私は緊張しているんだけど。
「セシルは、確か5番よね?」
「えっ、よく覚えてるね。クレシアは28番でしょ?」
「セシルだって覚えてるじゃない」
「クレシアは目立つから」
ほどなく、ヒゲじいさんではなく若い魔法士がペラ紙を持ってやってきた。
黙って柱に紙を貼り付けると、黙って去っていった。
『以下のものを合格者とする 5 17 28 』
セシルと顔を見合わせて笑った。
「受かった!」
「受かったね!クレシアおめでとう」
「うん、セシルも」
ため息をついたり涙ぐんだりしている人もいる。
あまりあからさまに喜ぶのも憚られる。
でももう一人、合格者がいるはず。
見回してみると安堵したような表情で穏やかに微笑んでいる男性がいた。
あの人かな。
「トーマス、おめでとう!」
セシルが声をかけた。
知り合いなのか。
セシルが手招きしている。
「クレシア、同期になるね、トーマスだよ」
「セシルのお友達なの?」
「試験中に友達になったんだ、ね?」
「ああ、まあ、そうだな」
セシルの社交性ハンパない。
どんどん声かけていくタイプなんだな。
都会はこういう社交性が重視されるんだろうか。
リリアナもかなり積極的なタイプだし。
「じゃあ早速宿舎に行こうか!」
「え?」
「書いてあったでしょ?合格者は宿舎の管理室に来るようにって」
ペラ紙を確認すると、確かに下の方にそう書いてあった。
なるほど、手続き書類みたいなのもらう感じだな。
合格したら魔法士になるんだもんね。
でも、その前に。
「まず、報告したい人がいるの。二人は先に行ってて、私も用が終わったらすぐ行くから」
二人はわかったと言って宿舎に向かった。
私は師匠を探す。
城の中にはいるはずだが、今どこにいるのか、会える状態なのかもわからないけれど、とりあえず探してみよう。
城の中心部の回廊まで行くと人影が見えた。
ちょっと聞いてみよう、と近づくと、なんとリリアナと師匠が他の魔法士と話しているところだった。
運がいい。
「師匠!」
大きな声で呼んで、走っていく。
「師匠!魔法士試験、合格しました!」
息を切らしてそばに行く。
リリアナがすぐ近くで微笑んでいる。
「そうか。ならば一旦屋敷に戻り、荷物を持って宿舎へ入れ。エレーナが用意してくれているはずだ」
「え……あ、はい」
「それから、師匠とはもう呼ぶな。お前は……今日から王宮魔法士だ」
「あ、えっと……はい」
「すぐに行け。今日から宿舎での生活だ。他の魔法士がお前のために準備している。待たせるな」
「あの」
「なんだ」
「……いえ。分かりました。すぐに荷物をとってきます」
踵を返して小走りに宿舎へ向かう。
……喜んでもらえると思ってた。
褒めてもらえるかなって。
でも、そうじゃない。
私は王宮魔法士になったんだ。
だから、もう、師匠と弟子じゃないんだ。
新人と、ずっと上の……例えば社長と新人平社員みたいな関係なんだ。職場で馴れ馴れしく声をかけたりできない。
そして住む場所も変わる。
……もう、お別れなんだ。
宿舎管理室で説明を聞いた後、屋敷に戻る。
師匠が言っていた通り、エレーナさんは必要なものを綺麗にひとまとめにして持っていけるように荷造りしてくれていた。
「一ヶ月間お世話になりました」
深々と頭を下げると、涙が出そうになった。
なんでだろう。
憧れの王宮魔法士になれたのに。
宿舎に入ることも知っていたのに。
……こんなにすぐだなんて思ってなかった。
おめでとうって言われてご馳走でお祝いして。
勝手にそんなイメージを持っていた。
高校の合格発表の時みたいに。
でも、これが現実。
これは就職試験なんだから。
即日部屋が与えれれるのも、遠方から受験に来ている人たちを思えばありがたい制度なんだろうし。
めげるな、泣くな。
これから新生活なんだから。




