第41話 王宮魔法士試験・最終日
王宮魔法士試験、三日目。
いよいよ最終日だ。
師匠は朝から仕事に出かけ、私は一人で城へ向かう。
門番に受験札を見せて中へ入る。
奥の方にある魔法士棟の入り口に、またペラ紙が貼られていた。
近寄って確認する。数が少ない。
――あった。
無詠唱、セーフ!
よかった……。
二日目試験の通過者は八名。
昨日の魔法陣の時点で15人ぐらいだったから、あそこから半分になったんだな。
生き残れてよかった。
通過者の番号の下に、地図が書いてある。
教練場というところへ行くらしい。
三日目はいよいよ実際の仕事に近い実技だと聞いている。
建物の間を抜けて、教練場とやらに向かった。
教練場というのは、運動場みたいなところだった。
テニスコート二つ分ぐらいの広さだから運動場というには狭いけど。
今日もヒゲの試験官がいる。
それから手伝いの魔法士さんたちが昨日より多い。
色々準備や片付けがありそうだもんね。
今日は朝から夕方まで試験がある。
途中で休み時間も多く取られているので、食べるものを少し持ってきた。
お昼ご飯と、おやつも少し。
屋敷を出るときにエレーナさんが持たせてくれた。
きっと美味しいものが入っている。
楽しみだ。
受験者が八名揃った。
私の他にも女性が2人いる。
ちょっと嬉しい。
促されて一列に並ぶと、ヒゲじいさんが前に立った。
「今日は、実際に王宮魔法士になった場合に使う技能を見せてもらう。現時点でのそれぞれの最高の力量を見せてもらいたい」
実技でも実践的なやつ、か。
何をさせられるだろう……緊張が高まる。
「まずは、攻撃魔法から」
先ほどから、魔法士さんたちが教練場の向こう側に的を用意しているのが見えていた。
金属のスタンドの上に、四角い木の板が取り付けられている。
それがいくつも用意されていて、中央に3つ、等間隔で並べられている。
「あの標的を撃ち抜いてもらいたい。どんな魔法でも良い。その円の中に立って、あの三つの標的を得意な魔法で破壊する」
立ち位置の円から標的まで、距離はそう遠くない。
攻撃魔法、なんでもいいのか。
別に難しい課題じゃないけど、気になったのは
『最高の力量を見せてほしい』
という言葉。
ある程度自由課題だけど、得意なものをアピールするってことだろうな。
……みんなどんな魔法使うんだろう。
ちらっと横目で他の受験者を見ると、みんな難しそうな顔をしている。
一人ずつ順番みたいだけど、先の方が得なのか損なのか。
他の人のをみんなで見る感じになるから、ちょっと恥ずかしいかもしれない。
実際、攻撃魔法はすごかった。
空中魔法陣から飛び出した炎がドラゴンの形になって的を喰らうとか、水魔法を飛ばして途中で氷柱になって的を切り裂いたり、晴れた空から雷を手に導いて、それを三つの的に向かってバリバリ!って飛ばしたり。
詠唱の声が響いてドドドーンって派手な音がする。
これぞ攻撃魔法!って感じ。
漫画とかアニメでよく見てたやつ。
めちゃくちゃかっこいい。
つい夢中になって見てしまう。
魔法バトルってやっぱりこういうのよね!
感心していると、自分の番が来ていた。
……やばい。……派手なの何もできない。
水飛ばして氷にするやつならできるかもだけど、先にやった人がいるし、二番煎じはきっと良くない。
少し考えて、私は師匠に教わった最初のやり方を披露することにした。
指定された円の中に立つ。まっすぐ向こうの的を見る。
三つ。
よく見るとその背後には結界があるようだった。
なるほど、攻撃魔法が暴れて外へ被害が出ないように、セイフティネットを張ってあるんだな。
魔法士さん数が多いと思ったけど、そのためか。
深呼吸して手を前に出す。
三つの板の位置を意識する。
木の硬さ。
その周りの空気。
指をくっと曲げる。
その瞬間に板の周りの空気が刃になり、三つの板が同時に、同じ角度でスパッと切られて地面に落ちた。
教練場に沈黙が落ちる。
ヒゲじいさんがシュッと一瞬ペンを走らせた。
(静かだ……ああ……やっぱり地味過ぎたか)
得意な魔法ってわけでもないけど、これが一番確実だし安定してるからと思ったんだけど、でもやっぱり、もっと派手なやつにすればよかった。
視線を下げて、元の位置に戻る。
誰も何にも言わないけど、つまらない魔法だと思われたかな、やっぱり。
でも他にも地味系の人はいた。
午後の試験で挽回しよう。
全員の攻撃魔法が終わってお昼になった。
教練場から少し離れた中庭にちょうどいいベンチがあったのでそこに陣取って包みを広げた。
エレーナさんが持たせてくれたお弁当は美味しそうなサンドイッチで、燻製肉の薄切りやゆで卵のスライスが入って豪華だ。いただきます、っと思ったところに声をかけられた。
「ねえ、ここ隣、座ってもいい?」
見上げるとニコニコ笑顔の少年が立っていた。
同じ受験者だ。
攻撃魔法で地味目のやつを披露していた金髪で可愛い感じの男の子。
「あ、うんもちろん、どうぞ」
少年はサッと座ると自分の荷物からランチバッグを取り出した。
「試験、緊張するよね~」
とても気さくな感じで語りかけてくる。
話し方は同年代な感じだけど、ちょっと幼く見える。
「そうね、三日間もあるから疲れるね」
「三日目まで来られる人は少ないけどね」
少年は白い柔らかそうなパンを齧る。
「ねえ、君、ヴァレリウス大魔法士様の弟子だって、ホント?」
「ウヴっ?」
サンドイッチのパンが喉に詰まりそうになった。受験者にも知られているのか。
「え、なんで?」
「だって、昨日のさ、魔法陣。無詠唱で出したでしょ?無詠唱魔法陣っていえばヴァレリウス様だもん」
そうなのか。
師匠の代名詞みたいになってたとは知らなかった。
そういうやり方がある、って言われただけだったから。
難しいとは言ってたけど、私にしたら詠唱の方が難易度だいぶ高い。
「ねえ君名前なんていうの?僕はね、セシル」
「クレシア、よ」
「クレシア、よろしくね。君も僕もきっと合格するから、そうしたら同期だね」
「自信あるのね!すごいわ~。私もう心配で。何人合格とかも決まってないんでしょ」
「クレシアは大丈夫だよ。さっきの攻撃魔法も凄かったし」
「そう?」
「そうだよ~」
「地味だったでしょ」
「地味?そんなの関係ないよ。正確で無駄がなくて、揃ってた。すごいなって思ったよ!」
「え?そうなの?」
ちょっと嬉しい。
そういえばセシルの攻撃魔法も派手じゃなかった。
ミートボールぐらいの石を真っ直ぐに板に当てて割ってた。
板が割れた瞬間に石が砂になって落ちたから、無駄がない感じの……そうか。そういうことか。
「派手なことやってる人多かったけどさ、あれはちょっとね。周りを巻き込んだりするリスクもあるからさ。確かに魔力量の大きさアピールにはいいけど、午後はちょっと大変かもだよ、あのタイプは」
幼く見える外見に反して、なかなか辛辣だ。
そしてなんだか試験熟練者のような物言い。
「セシルは、試験何度目かなの?」
「いいや、初めてだよ。でもウチ、魔法士の家系でさ。ある程度内容わかってるっていうか」
魔法士の家系。
その口ぶりにはほのかにエリートの香り。
そういえば身なりもなんだか高級感がある。
「でさ、最初の質問に戻るけど、クレシアはヴァレリウス様の弟子なんだよね?」
「あ、うん。そう」
だから、ここで試験に落ちるわけにはいかないんだ。
師匠の顔に泥は塗れない。
「いいなあ~すごいな。でもなんかわかるよ、クレシア魔力すごいし、無詠唱できるし」
すごいと言われるとなんだか申し訳ない気持ちになる。だって。
「えっといやあの、無詠唱なのはですね、詠唱が壊滅的に下手くそでできなくて」
「えっ……?詠唱が、できない?」
「うん…………」
「声に出して読むだけだよ?読めるんだよね?」
「読めるけど、噛むの。途中で間違えたりして、綺麗に魔力が流せなくて。本当に下手で」
セシルがニンマリと笑う。何故か嬉しそうだ。
「クレシアって完璧な感じだったけど、詠唱できないって!そうなんだ~あはは、いやそれでも無詠唱はすごいんだけど、でも、詠唱で噛むとか面白いね!」
ああ笑われた。やっぱりなあ……。
でも完璧っていう感じがするのは意外だ。
全然そんなことはないのだけど。
私も他の受験者が完璧に見えるから、そういうことかもしれないな。
「ねえセシル、午後は何をするのか知ってる?」
「午後?うん、大体はね」
「え、教えて」
「大丈夫だよ、クレシアなら心配しなくても」
師匠とおんなじようなことをいう。
「あ、そろそろ時間が。早く食べよう」
セシルが揚げ肉を齧り始めた。
うっかり喋ることに夢中になっていて、私もサンドイッチがまだ半分も残っている。
私は急いで食べ切って、試験会場に戻った。
午後の試験は二つ。
一つは長机ほどの大きな石を指定の場所へ移動させるというものだった。
それは――まんま、モアイだった。
モアイより一回り大きかったけど、やることは同じ。
パズルのピースをはめるように地面に書かれた線に沿ってきっちりと移動させる。
それだけ。
それだけだが、ぐらついたり位置からずれたり、着地が安定しなかったりと受験者それぞれの個性が出ていた。
見ていて、なんだか懐かしくなった。
私もああやってグラグラしてた。
ドズン、と落としてはモアイが倒れた。
ああモアイ、今も森の片隅でじっとしているんだろうな。
最後の試験は屋内に戻って、3つの丸い色石を使った精密操作の試験だった。
これ……知ってる。
しかも5個でやってたやつ。
(師匠――初心者に無茶させてたな?)
空中に光魔法で道筋が描かれている。
淡い紫の光の道。
ジェットコースターのレーンが複雑になったようなやつだ。
このコースを三つの玉の間隔を保ったまま走らせる。
遅過ぎてもだめ。
コースアウトしてもダメ、と結構な難しさがある。
さすが最終科目。
でも5個の色石サーカスで鍛えた私の敵ではない。
練習時間が与えられたのち、私はすんなりと三つの球をコース通りに滑らせた。
セシルの様子を見ると、自信満々だっただけに、スムーズに球を操作してゴールさせていた。
きっと彼は合格する。そして私も。
昼のセシルの言葉のおかげで、気持ちはかなり楽になっていた。




