第40話 王宮魔法士試験・二日目
王宮魔法士試験二日目。
試験会場の入り口にペラっと一枚の紙が貼ってある。
昨日の受験者たちがその前に行って、項垂れたりそのまま会場に入って行ったり、涙を堪えていたり。
ああ、こういうの心臓に悪いよなあ。
覚悟を決めて歩いていく。
自分としてはちゃんとできたと思うんだけど。
ペラ紙の前に立つ。
番号……あった。
ほっと息を吐いて、試験場へ入って行った。
筆記試験合格者は昨日の半分ぐらい。
それぞれ、自分の番号の札が置かれた席に座る。
なんだかみんなすごそうに見えてしまう。
今日の試験は、結界と魔法陣。
受験者が揃ったところで試験官が入ってきた。
木箱を抱えて助手らしき若い魔法士がついてくる。
「それでは二日目の試験を始めます。まずは結界魔法の試験です」
それぞれの机の上に、手のひらサイズの紙の小箱が置かれた。
「その箱に結界を作ってください。方法は自由です。中に入っているものに傷をつけたら失格。結界が弱くても失格。目で見てわかる結界も失格。結界が完成したら挙手してください。確認に行きます。では開始」
大きい結界を張るのかと思っていたけど、封印型のやつか。
木箱で練習したけど紙の箱は初めてだ。
そっと手に取って中身を確認する。
小さな紙細工が入っていた。
なるほど、中身を壊さずに結界を作るってことだな。
弱くてもダメって言ってたから、強度はそれなりに必要。
周りでは魔法陣を描き始めていたり、風魔法を大きな塊からだんだん小さく圧縮していたり、色々な方法で結界を作り始めていた。
さてどうしよう。
いくつかやり方は思いつくけど、こういう時は基本に忠実なやつが無難か。
最初に習った方法で外圧と内圧を整え、薄い圧力の膜で紙箱を包み込む。
両方の圧を高めて光魔法で色を消した。
見た目には何もないように見える。
よし。
試験官に向かってスッと手を挙げた。
他にも何人か手を挙げている人がいる。
ヒゲの試験官は頷くと、一人目の机の前に立ち、小箱を眺めた。
そして徐に木槌を取り出して――殴りつけた。
ビィィン~と響く音がして……紙箱はへしゃげていた。
「失格」
受験者は呆然としたままフラフラと部屋を出ていった。
見ていた受験者たちが一斉に作業に戻る。
やばいかも。
あれ、普通の木槌じゃないかもしれない。
魔力込めてあったりしたら、普通に壊されるかも。
二番目の受験者はなんとか堪えたらしかった。
カーン、という音がしたが箱に変化はないようだ。
「結界を解いてください」
ヒゲの試験官が落ち着いた声でいう。
術式を詠唱して受験者が結界を解くと、試験官は箱の中身を確認した。
「失格」
その受験者もため息をついて、部屋を出て行った。
これ、マジで怖い。
心臓に悪すぎる。
その場で失格って、みんなの前で言われるとかキツイ。
普通にメンタルやられるよ?
そして私の前にヒゲの試験官が来た。
私は軽く礼をした。
ちょっと手加減とかしてくれないかなぁ?って思ったけど容赦なかった。
木槌が振り上げられコーン!と言う音が響いた。
衝撃でちょっと跳ねたが箱は無事。
見た目も大丈夫だと思う。
よかった、普通の木槌だったみたい。
「結界を解いてください」
よし。
第一関門クリア。
私は手をかざして内側と外側の両方の圧をバランスよく下げて空気に溶かした。
「解きました」
というとヒゲじいさんは小箱に手を伸ばす。
ゆっくり蓋を開けると、紙細工は横になっていたが、潰れてはいない。
よかった。
ゆっくり息を吐く。
ヒゲじいさんは蓋を開けたまま机の隅に箱を置くと、
「そのまま待っているように」
と言って、次の受験者のところへ向かった。
25人ほどいた受験者から10人ほどが「失格」と言われ、残ったのは十人ちょっと。
次はいよいよ『魔法陣』だ。
試験会場が変わり、一人ずつ大きめの机のある資料室のような場所に連れて行かれた。
机にはすでに魔法陣用の紙とインク、ペンが置かれている。
「それでは次の試験を始めます。今から見せる魔法と同じものを作って発動させるように」
ヒゲじいさんは受験生たちに背中を向けて、小さな声でゴニョゴニョ言ってる。
すると、中央の机の上で小さな赤い光がまっすぐに上がって、花火のように弾けた。
綺麗だ。
小さな室内花火。
でも全く同じにするのは難しいと思う。
だいたい似た感じでいいってことかな。
「もう一度同じものを見せます。よく見て再現してください」
前世での英語のリスニングテストを思い出すフレーズだ。
ありがたい。
二回やってくれるのね。
受験生たちに背を向けて、もう一度ヒゲじいさんが小さな声で詠唱している。
何を言ってるかは聞き取れない。
小さな花火がまた上がる。
でもよく見ると色が違う光が混ざっている。
緑と紫と赤、黄色。
さっきは気づかなかったけど。
どちらにしても術式としてはそれほど複雑じゃなさそうだ。
「では、術式を組んで魔法陣を書いてください。書き終わったら魔法陣を持って前へ出てきて順番に並ぶように」
基本は光魔法。
色を変えるのに火魔法を入れ込んで、速度と方角、持続時間などの術式を整える。
丸く囲って術式を閉じる。
できた。
顔を上げるとほとんどがまだ術式を悩んでいるようだった。
あれ?
そんなに難しかったかな?
出来上がった魔法陣を見直す。
……うん。
これでいけるはずだけど。
一人が紙を持ってヒゲじいさんのところへ進んで行ったのを見て、私も続いた。
全員が書き終わるまで待つようだ。
そりゃそうか。詠唱の声が聞こえたらヒントになっちゃうもんね。
最後の一人が頭を振りながら列に並ぶ。
だいぶ悩んでるっぽいな。苦手なのかな。
「では、これから詠唱して発動してもらいます。先頭のものから順に。前へ」
きた、詠唱。
先頭の受験者は教壇っぽい一段高い場所の真ん中へ進み、詠唱を始める。
朗々と滑らかな詠唱が響く。
上手い。羨ましい。
私もあんなふうに詠唱できたらよかったのに。
詠唱が終わって魔法陣が綺麗に光っている。
そして発動。
カチッと小さな音がして光の玉が登っていきパンと弾けて広がる。
綺麗。
だけどちょっとお手本とは違う感じだ。
全体的に赤い。
ヒゲじいさんは何やらメモをとっている。
チェックされるのってやっぱり緊張する。
と思ってたら自分の番だった。
やばい。
怖い。
だって詠唱できないから。
台の真ん中へ進み、見られないように丸めていた魔法陣の紙を開く。
その文字はすでに光っている。
……しょうがない。
これしかできないんだから。
スイッチになる光魔法を指先から紙に飛ばすとシュッと音がして光が頭上に上がった。
パンっと弾けて5色の小型花火が展開する。
(いち、に、)
三秒で消える。
術式通りに展開した。
魔法陣自体は問題ないはずだ。
しかし……ヒゲじいさんの視線を感じる。
いや、受験者たちからの視線もすご~く感じる。
やっぱまずいか、……無詠唱は。
俯いたまま台を降りた。
他の受験者の朗々と流れる詠唱を聴きながら、私は体を縮こまらせて
(すんません、すんません、見逃してください~~)
と願うばかりだった。
最後の受験者の花火が不発に終わり、二日目も終了した。




