第39話 王宮魔法士試験・初日
よく晴れた朝だった。
今日から三日間にわたる王宮魔法士試験が始まる。
一日目は筆記試験。
前世の受験勉強を思い出す。
模試も過去問もない状態で挑むペーパーテストは、かなり心臓に悪い。
しかも結果は明日の朝に発表され、合格者だけが二日目に進めるという。
筆記が駄目でも実技で取り返す、ということはできない。
緊張する。
名前を書き忘れて落ちたりしないようにしないと。
城の中には学問所のような教室があった。
長机と椅子が整然と並び、前には教卓と大きな黒板がある。
こういう形はどこの世界でもあまり変わらないらしい。
ざっと見渡すと受験者は五十人ほどだろうか。
二つの部屋に分かれ、それぞれ三十人弱が集まっている。
男性も女性もいるし、年齢もばらばらだ。私より若く見える子もいれば、白髪混じりの年配の男性もいる。
年齢制限はないのかもしれない。
割り当てられた番号の席に座ると、インクとペンが配られた。
魔法具ではない、普通の筆記用具だ。
開始前に試験官が説明をする。
「この試験は魔法知識を問う筆記試験である。試験中の魔法使用は禁止する。感知された場合は失格とする。ふた時経過後、解答を終えた者は退室してよい。みつ時で試験を終了する」
説明のあと、解答用紙が配られる。
前世の入試会場の空気を思い出す。ああ、緊張してきた。
魔法士の制服を着た試験官が、問題冊子を一冊ずつ机に置いていく。
まだ触れてはいけない。
この時間に紙の透け具合から問題を推測しろ、と塾の先生がよく言っていたけれど、残念ながら全然透けていない。紙が分厚いのか、それとも何かの魔法がかかっているのか。
「それでは試験を開始する。始め!」
一斉に冊子を開く音がした。
ページをめくった瞬間、小さな光が走り、文字が浮かび上がる。
どうやら文字を一時的に隠す魔法がかかっていたらしい。
なかなか凝っている。
魔法士試験らしい演出に、少しだけ胸が高鳴る。
喜んでいる場合ではない。
第一問に取り掛かろうとして、塾の先生の言葉を思い出した。
(――最初は全部の問題を見ろ。時間配分を考えろ。一問目に飛びつくな)
そうだ。
まずは全体を確認しよう。
周囲ではすでにペンの走る音が聞こえている。
深呼吸をしてページをめくり、すべての問題を確認する。
後半には時間がかかりそうな論述問題がいくつかあった。
難しそうではないが、見直しの時間も考えると余裕はない。
すぐに解けそうな問題に当たりをつけ、私はペンを手に取った。
ふた時が経ったらしい。
「解答を終えた者は答案を提出して退室してよい。問題用紙は机に置いていくように」
せっかくの問題がお持ち帰りできない。
だから過去問対策ができないのか。
問題自体は難しくなかった。
師匠と勉強した内容の中でも基礎に近い部分が多い。
論述問題は少し自由度が高く、課題の状況設定の中でどんな魔法をどの順番で使うか、術式をどう組むかといった実践的な設問だった。
少し戸惑ったが、「私ならこうする」と思った通りに書いた。
見直しもした。
大丈夫だと思う。
数人が立ち上がり、答案を提出して部屋を出ていく。私もそれに倣った。
廊下に出た瞬間、肩の力が抜けた。
大きく息を吸い、伸びをする。
やっぱり、思っていたよりずっと緊張していたらしい。
「何人ぐらい、受かるのかなあ」
気にしながら家に戻る。
夕食時には珍しく師匠が一緒だった。
久しぶりに話ができる。
嬉しい。
「師匠、今日は筆記試験でした」
「ああ、そうだな」
「問題はそんなに難しくないと思いましたが、どれぐらい通るんですか?」
「知らん。その時々でバラバラだ。できていれば合格する」
相変わらず会話のキャッチボールが不器用すぎる。
「明日は魔法陣だそうですが」
「そうか」
「私、詠唱がアレですし」
「そうだな。無詠唱だな」
「無詠唱ってダメじゃないですか?落とされませんか?」
「発動しないよりはマシだろう」
「落ちるかもしれないってことですか?」
「知らん」
「師匠~!」
「無詠唱で魔法士試験を受けたやつなんかいない。だから知らん」
「…………」
私は会話を諦めて、さっさと食事を済ませた。
明日、合格していると信じて、魔法陣の練習を寝る前まで続けた。




