第38話 お受験モード発動
師匠のお屋敷には、立派な書庫があった。
森の家でも本だらけにする師匠のことだから、きっとたくさんあるだろうと思っていたけれど、実にやばい量の蔵書だった。
魔法に関するものだけでなく、経済、政治、軍事、教育、薬学や植物学など多岐にわたる専門書。
それから意外にも小説などの娯楽系もあった。
私好みの恋愛小説は見つけられなかったけど、冒険物語や伝承説話集、古典文学らしいのも。
師匠、読書ジャンル広い。
気になる本もあったけど、とにかく今は受験モードだ。
魔法に関する専門書で読めそうなレベルのものをいくつか探し出して、大きな机に積み上げる。
「よっし!本気出していくよ~~」
声に出して自分に気合を入れる。
ノートやペンもおしゃれなものが用意されていて、いちいち都会を感じる。
試験は三日間あって、1日ごとに合格者が発表される生き残り戦スタイル。
競争率40倍前後だと考えれば合理的だけど、だんだん減っていく受験者を想像するとドキドキしてくる。
あれだ、前世で見た某歌劇学校の入学試験みたいな。
リリアナからの情報はありがたかったけど、逆に焦りと緊張感は爆上がりしてしまった。
とにかく、今できることをやろう。
まずは基礎の復習からだ。
基本属性の文字を丁寧に復習する。
どんな問題が出るかわからない。
1日目は筆記だとリリアナが教えてくれたから、とにかく文字の練習をする。速く正確に書けるように。
集中して勉強していると、エレーナさんが軽食を運んできてくれた。
「そろそろお腹が空いたのではありませんか?」
言葉遣いも丁寧で上品だ。
都会の洗練を感じる。
「ありがとうございます!」
ベーコンエッグと野菜のサンドイッチをいただく。
美味しい。
香辛料がおしゃれだ。
お茶も少し甘みのある優しい味。
「クレシア様は努力家いらっしゃるんですね」
「いえそんな、魔法士試験に落ちたら、師匠に申し訳ないですから」
「旦那様が見込まれた方ですもの、きっと大丈夫ですよ」
「あはは……そうだといいんですが」
「無表情な方ですけれど、クレシア様のことはとても気にかけていらっしゃいますよ」
エレーナさんの言葉に一瞬手が止まる。
「そう……だと嬉しいです。頑張りがいが出ます」
「王都に戻られたばかりで、毎日とてもお忙しくされていて。本来なら試験前のお弟子さんを放っておくなんてよくないことですけれど」
「いえ、森にいた頃から基本放置でしたから、だいじょうぶです。基礎はちゃんと教えていただきました」
「そうですか……。では私が代わりに応援させていただきますね。と言っても魔法のことはわかりませんから、お好みのお食事やお菓子をご用意するくらいですけれど」
「それ、すっごく嬉しいです!」
前のめり気味に言うと、エレーナさんは優雅に笑ってくれた。
しつこいけど都会の風を感じる。
私もこういうエレガンスを身に付けたいものだ。
それから一ヶ月、私は魔法陣や結界、庭でできる範囲の攻撃魔法など一通りの復習に励んだ。
上位属性魔法もやりたかったが、師匠がいない中で勝手に進めるのはちょっと怖くて手が出せなかった。
朝食の時間にたまに師匠に会えることがあったが、天気の話をする程度でまともに話はできないままだった。
王宮魔法士団長という職はとにかく多忙なようだ。
森ではずっと寛いで本を読んでいた。
あの姿からは想像できないほどの働きぶり。
でも充実しているみたいでよかったと思う。
これが本来の師匠の姿なんだから。
師匠から借りた古い辞書の文字をすっかり覚えた頃、ついに試験の日がやってきた。




