第37話 王都で爆買いデート
辻馬車を降りると、大通りはたくさんの人が行き交い、賑わっていた。
クレシアとしてはこんなに人がたくさんいるのを見るのは初めてかもしれない。
リリアナはとっても可愛いワンピース姿で、さすがヒロインだと改めて顔の造形の美しさに感動する。
柔らかそうな髪を少し編み込んで、水色のリボンでまとめている。
これが都会のオシャレなんだな。
行き交う人々の姿もシュッとして小綺麗だ。
……自分の姿をなるべく思わないようにする。
「まずは、古着屋さんにいきましょう!すぐに着られるものがいくつか必要でしょ」
リリアナは迷いなく道を進み、綺麗なショーウィンドウのあるお店に入っていく。
飾られている服はキレイでおしゃれで、とても古着には見えない。
「こっちこっち!」
リリアナが呼ぶ方へ行くと、若い女性向けの華やかな色の服がたくさん並べられていた。
目がチカチカする。前世でもこういう服選びはちょっと苦手だった。
いっぱいあると何がいいかわからなくなってしまって、結局いつも同じようなものにしてしまう。
この店に慣れているのか、リリアナは「う~ん」と時折考えながらいくつかのブラウスやスカート、羽織ものを選んでいる。
「じゃあこれだけ、試着ね」
リリアナにどさっと渡された古着を言われるままに試着室に入る。
どれもとても状態が良くて古着には見えない。
値札を見ると確かに綺麗なだけはあるという立派なお値段だった。
「こんなの、買っちゃっていいんですか?」
「え?何が?」
「結構、お値段が……」
「そーんなこと!心配しなくていいのよ、クレシア。あなたの師匠からたんまりお金は預かってきてるから。それよりどう?着心地大丈夫?」
試着室から出て、姿見の前に立つ。
全身が映る鏡は初めてだ。
クレシア、こんな姿してたのか。
これは……美人だぞ、普通に。
いや、かなりの美人と言っていいんじゃなかろうか。
すっきりとした襟付きのワンピース、ややハイウエストの位置で切り替えになって膝がしっかり隠れる長さ。
爽やかな水色で、襟と袖カフスが白い。
キレイ目コーデという感じ。
思わず鏡の前でポージングしてしまう。
モデルかよ!って突っ込みたくなるほど綺麗。
クレシアのスラリとしたスタイルが映える。
「すごく似合ってるわ。どう?気に入った?」
「はい!いいと思います!」
「決まり!じゃあ次はこれね」
リリアナに言われるまま次々と試着して、3セットほど服を買った。
最初のワンピースをそのまま着て、続きの買い物をすることになった。
よかった。
村の服は母さんが縫ってくれた大切なものだけど、王都の大通りを歩くのは辛かったんだ。
いかにも田舎から出てきたお上りさん、って感じだったから。
買った荷物の中に村の服も畳んで入れて、次に向かったのは仕立て屋だった。
高級感あふれるサロンな店内にビビりまくりながら、奥の部屋で全身採寸され、生地を次々見せられ、デザインを聞かれる。
何もわからない、と言うとリリアナが全部決めてくれた。
仕上がりを考えると秋物と冬物の注文になるらしい。
金額は……怖くて聞けなかった。
そのサロンに荷物を一旦置かせてもらい、昼の食事に行くことになった。
都会ではランチを食べるのが主流だという。
嬉しい。
村では朝と晩の二食が普通だったから、ランチができるとは幸せだ。
おしゃれな、いわゆるカフェのような店に入って、シンプルなプレートメニューを注文した。
道に面したテーブルに二人で向かい合わせに座る。
「お疲れ様、クレシア。気分はどう?」
「楽しいです。都会ってすごいですね。お店もたくさんだし人も多くて」
「そうね、森では本当に、ヴァレリウス様と二人だけで過ごしてたんでしょう?」
「あ、はい。買い物に街へ行くことはありましたけど、そこもすごく小さな町だったし」
「森で、どんなふうに過ごしてたの?」
「えっと、修行して、食事のこととか洗濯とか家のことして、夜は文字の勉強とか」
「そうなんだ。あの人、ずっと付いて教えてくれてたの?」
「そうでもないです。これをやれ、ってお手本見せられて、できるようになるまでは放置されてました」
「あはは、なんだか想像できるわ~」
森での修行についてもリリアナは興味があったみたいで色々聞かれた。
楽しそうに聞いてくれるのでついついおしゃべりになってしまった。
食事の後は、小物を買うとのことで、バッグや帽子、財布や靴、下着のセットなんかも買った。
こんなに一気に買い物したことは前世でもなかったから、途中からだんだん怖くなってきてしまった。
アクセサリーをいくつか買ったところで私はついにギブアップした。
「も、もういいですよリリアナさん。これだけあれば十分です」
「そう?まだお金あるわよ?」
疲弊している私に気づいたのか、リリアナは今度はお茶休憩しようと甘味処に連れて行ってくれた。
ここでもメニューはリリアナ任せで、しばらく待っていたら甘い焼き菓子とあっさりした味のお茶が出てきた。
「今日はいっぱい買ったわね~!自分のじゃなくっても楽しいわ」
「ありがとうございました。助かりました」
「うん!また行きましょうね。王宮魔法士になったら、それなりにお給金がもらえるから」
そうだった。
王宮魔法士。
試験まで後一ヶ月だとか。
「リリアナさん、魔法士の試験って何するか知ってますよね?」
「あら、試験問題は教えられないわよ?」
「いえ、日程とか、どんな勉強しておけばいいとか、そういうことが知りたくて」
「え?ヴァレリウス様に教わってるんじゃないの?」
「それが……何を聞いても『やればわかる』『問題ない』って。何にも教えてくれなくて」
「…………そう」
真顔で一瞬考え込むリリアナを見て、なんだか不安になる。
まずいこと言ったか?
リリアナはパッと表情を切り替えて笑顔で言った。
「面倒くさがりなのね。わかったわ。じゃあまず日程からね。」
リリアナはそこで、基本的な試験の情報や、合格してからの流れなどを教えてくれた。
「ありがとうございます。イメージできてきました。これ、何人ぐらい受けるんですか?」
「その時によって全然違うんだけど……私の時は40人ぐらいだったわ」
「40人。それで、合格したのは?」
「私一人ね」
「…………」
「ゼロの時もあるわ」
「………………」
「ああ、多い時は4~5人ってこともあるのよ。決まってないの」
それは、……かなり厳しいってことじゃないですか?
競争率40倍って、恐ろしい。
もっといっぱい受かるんだと思ってた。
やばいですよ普通に。
これ落ちたら師匠の顔に泥を塗ることになるんですけど?
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ヴァレリウス様が問題ないって言ってるんでしょ?」
「そうは言っても、そんなに厳しい試験だとは」
私的には色々と問題がある気が致しますよ。
詠唱は全然できないし、火魔法だっていまだにちょっと怖いし。
ビビる私に『勉強するなら』とリリアナはいくつかのアドバイスをくれた。
夕方、私は大荷物と共に師匠の屋敷に戻った。
試験日まで、一ヶ月。
受験対策としては期間が短い気もするが、基礎からしっかり復習するつもりで頑張ろう。
前世の受験モードを発動させて、私は屋敷の書斎に籠った。




