第36話 ヒロインとお出かけの約束
メイド長のエレーナさんに呼ばれて部屋を出ると、リリアナが玄関ホールで師匠と話していた。
「リリアナさん!」
階段を駆け降りて、二人の前に行く。
「無事に到着されてよかったです」
にっこり笑うリリアナ様。
可愛い。美しい。
そしてスタイル良い。
今日は王宮魔法士の制服だ。
紺色のローブに銀糸の刺繍。
コミックスで見ていたあの姿。
実物はこんなに素敵なんだ。
「……?」
リリアナが私を見ている。
見ているというか頭から足先までチェックしているというか。
「ヴァレリウス様」
「なんだ」
「女性の姿に戻すなら、それなりの衣装を用意してあげなければかわいそうです」
「ああ、……服か」
「ここは森ではないんですから。魔法士試験まで一ヶ月ほどありますし、制服が支給されるのはさらにもっと後ですよ」
エレーナさんも参戦する。
「そうですね、クレシア様の身なりは師匠である旦那様が配慮なさるべきことですわ。お任せいただければ私の方で」
「そうか」
話が決まりかけたところでリリアナが入り込む。
「せっかくですから、私が王都を案内しがてら見立てます。クレシアさんといろいろお話ししたいと思っていたところなんです」
リリアナはにっこり笑って言った。
割と強引というか強い。
この強さがヒロインの魅力かもしれない。
しかし、ヒロイン自ら私の服選びに……
しかも話がしたいって……
何を?
いや、普通に女子会キャッキャのノリかもしれない。
田舎から出てきた野暮ったい娘を洗練された都会の装いに仕上げるのが楽しい、そんな感じではなかろうか。
鏡見て
(これが私……!)
ってなるやつ。
うん、それも一回やってみたかった。
「よろしいですか?クレシアさん」
「あ、はい。お願いします。……でも、私あの、お金を持ってなくて」
リリアナは愛しいものを見る目で私をみてきた。
「そんなのはね、気にしなくていいんですよ。あなたの『師匠』が出してくれるんですから。全部、ツケで、欲しいだけ買って大丈夫です」
「おい」
流石に師匠からツッコミが入る。
「無駄なものは買うなよ」
「クレシアさんは無駄なものを欲しがったりしないでしょう?」
わかってるくせに、と言った顔でリリアナは師匠を見る。
なんだか、二人の関係性が見えてきて、ちょっと羨ましい。
この二人が気心の知れた先輩後輩だったのは漫画で読んだから知ってるけど、二人とも大好きでそのやりとりを見るのは尊いと思っていたけど、なぜかちょっと今は複雑な感じがする。
「今日はお疲れでしょうから、明日。私非番なんですよ。だから一緒にお買い物しましょう!」
師匠の方を見る。軽く頷くのが見えた。
「はい!よろしくお願いします!」
ヒロインちゃんとデートだ。
しかもいっぱい服が買ってもらえる。
古着の男物じゃなくて、都会のおしゃれな最新ファッション。
私は蛹から蝶へ。
クレシアのスタイルの良さがついに明日花開くのかと思うと、ワクワクしてなかなか眠れなかった……と言いたいところだが、旅の疲れとふかふかの寝心地最高なベッドで、瞬殺されて爆睡した。




