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第35話 王都のお屋敷

王都は想像していたよりも広かった。


乗合馬車は外門を通って王都に入る。

人が多くなり、家が立ち並び、石畳の道が始まる。


しばらく進むと馬車は止まった。

内門の前で通行証の確認を受ける。

厳しくチェックされる訳じゃないけど、関所感がある。


リリアナからもらった小さな木札を見せると敬礼されてしまった。

この木札はお城のマークか何かなのかもしれない。


内門を入ると、いよいよ中心部。

お城もすぐ近くに聳え立っている。


すごい迫力。

本物の石造りのお城だ。


お城の周りの城下町も建物がひしめき合っていて、しかもみんな大きい。

外門の方はまだ小さい民家も多かったけど、こっちは三階建とかお屋敷みたいな立派な建物もある。


水路が整備されていて、道も立派な石畳。

ガス灯みたいなのが立ってるけど、きっとこれは夜道を照らすために高い位置に作った光魔法の入れ物だろう。都会だ。


お上りさん丸出しでキョロキョロしていた私に師匠が笑っていう。


「ここが王都の中心部だ。面白いか」


「はい!すごいですね。都会ですね」


「王都だからな。色々目につくだろうが、まずは家に向かうぞ」


「家?師匠の家、ですか」


「他に何がある」


「あ、いえ、家だけに。いえ~い」


口に出してから、ああなんと寒々しいダジャレかと穴を掘って入りたくなったが、意外に師匠にはウケたらしく、声を殺して笑っていた。


師匠、ダジャレに弱い。

初めて知った。


師匠の家は城の近くにあるらしく、歩くと少し時間がかかるのでまた馬車を使うことになった。

今度は乗合馬車ではなく、馬車乗り場で行き先を告げるタクシータイプだ。


さっきまでの馬車よりずっと乗り心地がいい。

椅子もふかふかだし、ちょっと貴族っぽい気がする。


ドキドキしながら窓の外を眺めていると色々な店が並ぶ大通りに出た。

街路樹が等間隔で植っていて、綺麗でおしゃれな店が並んでいる。


時々テーブルとパラソルのあるカフェのような場所もある。

前世の記憶で見たパリとかロンドンとか、そういうヨーロッパのおしゃれな街並みにすごく近い。

クレシアは田舎から出たことがなかったからこの光景は本当に衝撃だ。


だんだんお城が近づいてくる。

本当に大きい。


内門入ってすぐに見えたお城らしさ満点の高い塔のある部分はお城の一部分だったようだ。

長いお堀があってその上に塀がずっと続いていて、その中にいくつも大きな建物がある。


そういえば、魔法士たちの訓練場なんかも城の中にあったような気がする。

前世の記憶で漫画のシーンを頑張って思い出すが、お城の中の細部は結局よくわからなかった。


「ここだ」


馬車が止まって師匠が降りた。

私も続いて降りる。

馬車の後ろに積ませてもらっていた荷物も下ろす。


ここ?

これが家?


……お屋敷だ。

私の分類では紛う方なきお屋敷。


大きくておしゃれな鉄柵。

石畳のアプローチ、庭、車寄せ。

三階建てで、バルコニーに大きな窓ガラス。

青い屋根の上に煙突がいくつも。


これは、あれですよ、貴族のお屋敷というやつ。


重厚な木の玄関扉が開いて、中から人が出てきた。

ダンディなおじさま。

仕立ての良さそうな黒いスーツをきちっと着こなしている。

これはまさか、あの。


「今帰った」


「はい、おかえりなさいませ旦那様。この日を、首を長くしてお待ちしておりました」


やはり!……これは『執事』。

本物の『執事』登場である。


「おかえりなさいませ!」


今度は女性だ。


白髪まじりの茶色い髪を綺麗にお団子にまとめた品の良い女性。

こちらも黒っぽいシンプルなロングワンピース。メイド頭といったところだろうか。

ロッテンマイヤーさん風味。厳しくないといい、と一瞬思ってしまった。


「待たせたな。二人ともよく戻ってきてくれた」


「私たちだけではありません。リリアナ様が皆を集めてくださって、ほぼ以前と変わらずお仕えできるようになっております」


リリアナが。

手配しておくと確かにいっていたけど、こういうことまでやってくれるんだ。有能すぎる。


そして執事とメイド長の二人の視線が私に向いた。


「こちらの方が、お弟子様ですね」


お弟子に様がつくのは変な感じだ。

私は曖昧に微笑む。


「あの、クレシアと言います。よろしくお願いします!」


「当家執事のザインと申します」


「メイド長のエレーナです。クレシア様、よろしくお願いいたします」


様、って言われたー!

私はぺこぺこと頭を下げた。


「こいつの部屋は?」


「準備はできております。さあ、どうぞ中へ」


中は、まあとにかく、お屋敷だった。

準備していたというだけあって、長い間不在にしていたとは思えないほどピカピカに掃除されていて、思ったよりも多くの使用人が働いているようだった。


こんな生活してたのか、推し。

そりゃあ生活力ゼロでも全然困らないね。


案内された私の部屋というのがまた、貴族令嬢のお部屋ですか?って言いたくなるほど上等な作りで、天蓋こそないけど立派なベッドにソファ、クローゼットにテーブル、それから勉強用のデスクセットと本棚も用意されていた。


私は森の家から持ってきた荷物を解き、本棚に数冊の本とノートを並べ、クローゼットに少しの肌着を入れ、デスクの引き出しに魔道具を数個並べた。


それで終わりだった。


「似合わない……」


立派なクローゼットの隅っこにちょこんと着古した下着が畳んである。

でもそれしか置くものがなかった。


今着ている服以外に着替えはないし、ずっと着ていた古着の男物で使えそうなものを少し残して、あとは森の土に還してしまった。


「どうしよう」


困ったなあと思っていたその時、ドアがノックされた。

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