第32話 弟子の未来は?
師匠はリリアナを迎え入れた。
家の中に入ると、リリアナはゆっくりと室内を見回してちょっと驚いた顔をする。
「……なんだか、思ったよりしっかり生活されてますね」
「そうか。そいつが家のことをするからだな」
そいつって私のことですよね、師匠。
リリアナの視線がこちらに向く。
一瞬だけ、空気が張り詰めた気がした。
「こちらの方は? 普通ではない魔力量ですね。お弟子さんでしょうか?」
「そうだ。押しかけてきた」
「ふふっ。あなたが弟子をお取りになるとは意外でした」
柔らかく笑う。
赤い巻毛がふわりと揺れる。
やっぱり本編ヒロイン、笑い方まで美しい。
「それで、」
向き合って座った師匠が話し出すとリリアナは姿勢を正した。
「王宮はどうなっている」
師匠の声は静かだった。
「はい。黒幕がエンデ卿と判明して、禁術暴走の証拠も上がりました。ヴァレリウス様への冤罪は完全に晴れています。現在、王子があなたの復帰を求めておられます」
「……エリック王子か」
「はい」
エリック王子!
私の最推し!
名前出た!
やっぱり本編に合流する展開なのか……。
ということは。別れの時、か。
「戻ってくださいますよね」
「……戻りたいとは、思っていた」
少しの沈黙。
「だが」
「……何でしょう?」
「こいつを放り出していくわけにはいかない」
師匠!?
思わず顔が上がる。
驚きと期待が隠しきれない。
「そう、ですか。しかし王宮にはヴァレリウス様が必要です」
「わかっている。戻るなら、こいつを連れていきたい」
おおっ!!やったああー!!
さすが師匠!
はい!ついていきますどこまでも!
「では、魔法士に?」
「そうだ。試験を受けさせて、王宮魔法士として城勤めをさせたい」
え?
魔法士?
城勤め?
リリアナはにっこりと微笑んだ。
「戦力は多い方が望ましいです。ヴァレリウス様の推薦であれば問題ありません」
へ?
王宮魔法士?
そんな話、今まで一言も……。
リリアナがこちらを見る。
「お名前を伺っても?」
「え、あ、はい、えっと……ク、クレス、といいます」
「クレシア、と言う」
「師匠?」
さらっと訂正された。
リリアナは少しだけ目を丸くして、それから微笑んだ。
「クレシアさん、女性の方なのですね。王宮魔法士には私を含め女性も少なくありません。きっとお友達もできますよ」
「えっ、あ、はい」
頭が追いつかない。
「それでは、なるべく早く王都へお戻りください。屋敷の手配はしておきます。急ぎ王子に報告したいので、私は先に戻りますね」
外に出ると、リリアナは馬の手綱を取った。
少し歩いてから、振り返る。
「クレシアさん」
「はい?」
「ヴァレリウス様を守ってくれてありがとう。王都で楽しみに待っていますね」
そう言って微笑む。
……原作通り、優しくてエレガントで勇敢。
素敵なヒロインだ。
じゃなくて。
なんで私が王宮魔法士??
いつそんなこと決まったの——!?




