第31話 上位属性とヒロイン登場
自分の結界が安定して張れるようになってから、修行のやり方が少し変わった。
師匠の張った森の結界の内側に、さらに私の結界を重ねる。
大きさは、だいたい学校の教室くらい。
最初は小さな箱みたいな結界しか作れなかったのに、ずいぶん広くできるようになった。
その中で、火や水の攻撃魔法の練習をする。
火球を一つ。
目標に当たって燃え上がる。
少し遅れて、水の弾を作る。
今度は燃え上がった炎を消すように飛ばす。
続けて燃えて脆くなった木の板を水鉄砲みたいな水流を飛ばして倒す。
「……よし」
水魔法の応用で氷の攻撃もできるようになった。
飛ばす水から熱を外へ出して温度を下げていくと氷になる。
氷の刃が板に突き刺さる。
その氷は勿体無いので、後で水に入れて冷たくして飲む。
これが最高に美味しい。
森の水ってホント美味しい。
結界の外では、いつも師匠が腕を組んで見守っている。
私の結界の外側にさらに師匠の結界があるから、万一暴発しても大丈夫だ。
こうして守られていると、火の攻撃魔法の練習も怖くない。
火と水の制御が安定してからは、修行はどんどん進んだ。
光の補助魔法。
土の防御魔法。
土壁を立ち上げる練習では、最初はただの盛り上がりだった地面が、少しずつ「壁」と呼べる形になっていった。
結界、攻撃、補助、防御。
一通りできるようになったと思う。
レベルは低いかもしれないけど。
「基礎は、ここまでで一段落、でいいだろう」
ある日、師匠がそう言った。
季節は夏になっていた。
森の緑は濃く、空気は少し湿っている。
私は結界を解きながら、師匠に尋ねた。
「次は何をやるんですか?」
師匠は少し考えてから答えた。
「上位属性だな。中で考えよう」
家の中に戻り、魔導書を開く。
厚くて重い本のページをめくりながら、三つの属性について話し合った。
「俺の雷の適性が強い。攻撃向きの魔法に適性があるんだ」
確かに、雷属性の術式図はパッと見るだけでも威力が高そうなものばかりだ。
「闇は光の反転になっている。お前は光が得意だから、たぶん理解しやすいだろう」
ページをめくると、闇魔法の章が出てくる。
光の魔法を逆から考える、という説明が妙にしっくりきた。
光は放出、闇は収束。
ブラックホールみたいなイメージ。
それだけじゃなさそうだけど。
「時間魔法は……適性があるかもしれん」
師匠はそう言って、私を見た。
「お前は魔力の流れを細かく見るのが得意だと思う。生活していて、時間の感覚が鋭いと感じることが多い。時間魔法はそこが重要になる」
時間魔法。
……時間の感覚。
これはもしかして、時計がある日常を暮らしていた記憶が影響しているのだろうか?
カップラーメンの3分間。タイマーセットし忘れてても大体わかる。
ネットの10秒CMの長さも感覚でわかる。
村の暮らしだと時間はもっと大雑把に流れてた。
日が上ったら起きて、お日様の位置で大体時間を見て、暗くなったら寝る準備して。
秒とかそんな感覚、元々のクレシアの生活にはなかった。
ということはこれも転生チートに入る能力なんだろうか。
秒感覚がわかる。
……地味チートが増えた。
魔導書の時間属性魔法の記述は他のよりずっと少なくて、難解だった。
でも、わからないという感じはしない。
むしろ、感覚にうまく当てはめれば届きそうな予感がある。
「じゃあ、次は時間魔法をやってみたいです」
そう決めた翌日のことだった。
いつものように外に出ると、空の上で小さな鳥がくるくると旋回していた。
家の真上だ。
何度も同じ場所を回っている。
「……?」
森では見かけない動き方だった。
何をしているんだろう。
私は見上げたまま首をかしげる。
師匠は黙って鳥を見ていた。
しばらくして、師匠がゆっくりと指を空へ向けた。
それから、前に下ろす。
森を包んでいた結界が、静かに解けた。
鳥が降りてくる。
屋根の上に止まり、小さく体を揺らした。
「ヒーヒョロロロヒー」
澄んだ声で鳴く。
この鳥の動きは……きっと使い魔というやつだ。
いや魔物じゃないから使い鳥、か。
師匠は何も言わず、森の道の方を見つめている。
私もつられてそちらを見る。
草をかき分ける音が近づいてくる。
少しして、馬の姿が見えた。
続いて、人影。
森の中を、白いズボンの女性が馬を引いて歩いてくる。
道が険しくなって、途中で馬を降りたんだろう。
近づくにつれて、顔が見える。若い女性――
あっ!と声をあげそうになるのを必死で飲み込む。
——本編ヒロインだ!
リリアナちゃんだ!
白いズボンのあちこちに草の汁がついて、緑に染まっているのに、それでも綺麗だった。
今の季節、雑草が元気だからどうしてもそうなるよね。
うん、わかる。
でも。
ヒロイン補正すごい。
全然美しい。燃えるような赤毛、深い緑の瞳、白磁の肌。
やばい。本物だ。
フルカラー3D。
顔に出ないように必死で無表情を保つ。
私は弟子。私は弟子。私は弟子。
落ち着け。
リリアナは家の前まで来ると、馬を止めた。
その視線が、師匠から私へと一瞬移る。
ほんの一瞬。
あ。
魔力を見られた気がした。
これ、多分大体の事情はバレたな。
師弟関係とか、修行してることとか、だいたい理解された気がする。
リリアナは小さく微笑んで、師匠に視線を戻すと、敬礼した。
「遅くなって申し訳ありません、ヴァレリウス様」
森の空気が、少しだけ変わった気がした。




